いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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312:炬燵

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「いらっしゃい!わたしの家ではないけれど!
テン、ロク、チャーも元気そうだ。お土産あるよ。」


テンたちをさっときれいにして、水とリンゴを出してやる。
毎日ブラッシングはしてもらっているようで、
ますます艶が出ている。

リンゴはおいしいと気に入ってくれた。
これも食べれるのかと聞いてくるので、
季節ものだからということは念を押しておく。


「姉さん、あれは何です?」
「今日の甘味だよ?あのままじゃないから安心してね。」

部屋に入ると、マティスとトックスさんが言い争いをしていた。

なんで?

「マティス?どうしたの?」
「奥さん!あんたの旦那は説明がへただ!」
「ん?そう?なんの説明?」
「愛しい人、あの私に捧げてくれた舞があるだろ?その説明だ。」
「ああ、動きの説明は難しいね。なんでその話になったの?」
「ドレスだよ。奥さんが着てるところを見れないから、
どんな感じになったかを聞いたら、舞を舞ったと。その説明が分からん。
絵に書いてくれっていったら、いまの自分の技術じゃ、描けないっていうし!
俺は自分の作ったものがどうなったかが知りたいんだ!」
「ああ、なるほど。出来上がったのは見てないの?」
「途中までだ。」
「そうなんだ。すごくきれいだったよ。」
「翠玉と金剛石を使った奴ですね?」
「そう。ありがとうね、セサミン。お安く譲ってくれたみたいで。」
「いえいえ。できれば完成品を見たいのですが?その姉さんが舞ったという舞も。」
「んー、あれはマティスに捧げたからね。マティスがいいっていうのなら。」
「ん?愛しい人?いいのか?私は皆に見せたいぐらいなんだぞ?」
「隠すところは隠れてるからね。そこはさすがトックスさんだよね。」
「えっ!いいのか?見たい!見たい!!旦那!いいだろ?」
「そうだな。いいだろう。しかし、それは後だ。先に飯にしよう。
もう一度温めてくればすぐだから。」
「やった!おっと、先に袋を作ってこよう。この大きさ?」
「うん。セサミン?樹石ってここもこれぐらいの大きさが一般的?」

イリアスでとってきた樹石を見せる。

「ああ、大きいですね。イリアス産ですね。
ルグ、持ってきたものを。
ここでとれる樹石はもう一廻り小さいです。」
「あ、ほんとだ。でも、ちょうどいいかな。トックスさん、この大きさで。」
「わかった。」
「なにを?」
「樹石の利用方法?あ、そこのテーブル。
下に座るタイプだけど、脚をその布団の中に入れて入ってみ。」
「?」
「あ、靴脱いでね。」

3人がまたゾロゾロ、炬燵の近くに行き、靴を脱いで、
恐る恐る、脚を入れ、座る。
だから、なんで、主に先に行動さすんだ?もう仕方がないのか?

「「「あったかい」」」
「いいでしょ?本格的に寒くなったら暖炉に火をいれるみたいだけど、
そこまで行かないときは、それぐらいがちょどいいでしょ?
その熱源が樹石なの。」
「え?燃えてるんですか?」
「ううん、暖かくってお願いしてるのよ。樹石は砂漠石で火が付くけど、
砂漠石にお願いするようにすれば、暖かくなってくれるの。」
「え?」
「ふふふふ。また、詳しく説明するよ。」

「さ、できたぞ。こっちに座れ。肉は焼き立てがいいし、
むにえるは席に着いてから仕上げをするから。」

コットワッツ3人衆はかなりぐずついた。仕方があるまい。
わたしも一緒に入ってしまっている。
しかし、おいしい匂いの方が勝ったのだった!!

「姉さん、恐ろしいものを作りましたね。」
「そうであろう?故郷では禁止令が出た。
おこたでの晩御飯は禁止。そこで食べると、そのまま動かないから。
しかし、いまは母さんがいないからね。
ぐふふふ。ここで、くっちゃねしてやる!!」
「それ、今もですよね?兄さんがすべてしてませんか?」
「!!マティス!あんたの弟がひどいこと言うよ!」
「いや、それは、真実だ。」
「!!なるほど、言われてみればそうだ。いつもごめんね、マティス。」
「なにをいう。私はそれがうれしいし、楽しいんだ。」
「うふふう。じゃ、いつもありがとう、だ。」
「ああ、愛しい人。私もありがとう。」
「おい!飯は!」
「ああ、そうだ。皆、座ってくれ。」


マティスがムニエルにソースをかけてくれる。
大蒜も使っているのか、わたしが作ったものよりおいしい匂いがする。
さすがだ。
仔ボットのステーキもある。これも大蒜を使っている。
歯ブラシの普及を急がねば。

「さ、召し上がれ。」


「!おいしい!!これは?肉ではないですね?」
「魚だよ。魚の切り身に小麦粉をまぶして、乳酪で焼いてるの。
で、乳酪と枸櫞のソースを掛けてるの。隠し味に大蒜だね。
さすが、マティスだ。すごくおいしい。」
「そうか?あなたが喜んでくれるのが一番うれしい。
次は肉だな。」
「あー、やっぱり、お肉だね。おいしい!!」
「うまい!」
「ね?ビルっていう木の実。葉のほうは炒めて食べるみたい。
トックスさん知ってる?」
「北の食べ物だな。あれはうまいが匂いがな。これも?」
「そう、臭いが残る。セサミン?歯ブラシの進み具合は?」
「ええ、使う草を砂漠に植えています。しかし、緑の石を使えば成長しますが、
使わなければ枯れます。それに乾季に入りました。それで研究も止まりました。
しかし、他領国から買って歯ブラシ自体の生産には入っています。」
「ちょっと割高になるけど、しかたがないね。
もしかしたら、例の湿地で育つかも。」
「!そうですね。」
「さ、次は大蒜を使ってるが、乳も使ってるので臭くはならない。
デイの名物料理だ、豚の煮込みだ。」
「やわらかい!うまい!」
「ねー、おいしいね。」

あとは昆布締め、なまこ酢、このわたと説明した。
酒のあてである。
トックスさんが大絶賛だ。
たぶん、ニックさんと飲み友達になると思う。

「魚がおいしい。この焼き魚も。サシミ?生ですよね?これもうまい。
魚を凍らせて運ぶ手筈は整ってきています。
しかし、その前に冷蔵庫、冷凍庫の普及です。
コットワッツが他領国に乗り込んで魚を買っていく道筋を作らないといけない。」
「そうだね。なにもかもコットワッツですることはないと思うよ。
鉛筆のように契約すればいい。ジットカーフでもイリアスでも。
漁港のある国と契約すればいい。冷凍馬車を買ってくれるようにね。」
「ええ。しかし、この魚の臭み抜きは?」
「これね、砂漠で半日干したのよ。
空気が冷たくて乾燥してるからできたのかもしれないんだけどね。
血抜きはきちんとしたよ?下処理だね。それだけでだいぶ違うと思う。
この時期の砂漠がいいのか、とりあえず、半日干せばいのかはわからんのよね。」
「それは研究しないといけませんね。」
「うん。捌いた状態、後は干すだけの魚があるから、
コットワッツの砂漠で実験してみる?」
「ええ、ぜひ。」
「じゃ、砂漠関連で報告が1つあるから、それはその時に渡すね。
明日は湿地関連?いつ時間取れる?」
「いつでも。」
「うふふ。急ぎじゃないからいつでもいいのよ?領主なんだから。
明日は湿地の話はよこで聞いてていいかな?
それで、それが終わったら、家を買いたいんだ。ね?マティス。」
「そうだ。ここら辺の家で空き家があるだろ?数軒買いたい。土台ごとだ。」
「?どうするんですか?」
「まずはサボテンの森跡に移す。拠点があればいつでも戻ってこれるからな。
あとは、気にいったところに置いておく。」
「なるほど。この区画は屋敷で働いていた者たちの家なのですが、
空き家が多くなりました。ゆくゆくは更地にして、鶏館を出したり、
トックスさんの工房を作る予定です。」
「そうか、では、この家の周りの数件を買い取ろう。」
「いえ、もらってください。
持って行ってもらえるのなら、解体費がかからないので。」
「セサミン、いいの?」
「ええ。」
「トックスさんの工房ができるのはいいね。面白い素材が手に入ったら
すぐに持ってこれるしね。
じゃ、甘味を食べながら、樹石の説明をしようかな。」


6人で炬燵に入ろうとするので、長方形の炬燵を作ることになった。
それを作りながら、樹石の説明。羽毛布団の説明。羽毛がはいった服の説明。
リンゴの器に入ったアイスとリンゴの甘煮を食べてる。
炬燵の中で食べるアイスは格別だ。

「では樹石は燃えるというか熱に特化した石ということですか?」
「そうだね。燃やすのは砂漠石が必要とするけどね。
お風呂の温度維持、炬燵、カイロは樹石単体でできる。
イリアスでは燃やして、それを水に入れてお湯に変えてお風呂に入っていた。
でも、燃やすよりも、温度を維持するほうが長持ちするよ。
お水を張って、樹石を入れて、お風呂にはいる用意をしている間に
いい温度になる。これは家庭用のお風呂だけどね。
館のお風呂や、公衆浴場は海峡石でお湯を出したほうが早い。
それを維持するのは樹石を使えばいい。
何かを炙ったりするのも樹石の方が便利だ。」

コリコリを炙って、マヨ醤油と出してやる。メイガの粉は好みで。
トックスさんもコリコリは初めて食べるようだ。
おいしそうに食べている。

「それ、メイガの脚です。その赤いのはメイガの複眼。
さっき出たスープはメイガの胴体の粉。」
「ぶ!!!」
「驚きだよね。メイガは素晴らしい素材だ。
ここの湿地にいないのが残念なぐらい。」
「ルグ、湿地の様子は?」
「はい、樹石はありますね。呼び寄せで簡単に取れましたから。
廻りに変わった様子もなく、何もありません。
植物、動物もいませんでした。もちろん虫も。」
「そうか。植物があって、虫が来て、
それを食べる大型の虫がこの場合メイガだけどね、
そうなれば、メイガもいい資産になる。
けどね、ここで安易にメイガをイリアスから
もってきて増やそうとすると、メイガが大量発生するかもしれない。
メイガがある程度の数で生存しているのはカエルがいるからだ。
その関係を壊しちゃまずいのよ。
ブラシの草をすこし栽培してみることから始めればいい。
それでも、主題は樹石だ。
ただこれも、砂漠石のようにいつの間にか増えてものでもない。
取りつくしてしまえば終わりだ。その研究もしないといけない。
燃えてしまった樹石は砕けば建材になる。
お皿状態にして、そのうえで樹石を温めれば、
燃え移ることもない。
そうそう、トックスさん、布がさ、しわくちゃになったら、
鉄ごてで伸ばしたりするでしょ?」
「ああ、砂漠石で温めてな。」
「それも樹石でできるんじゃないかな?持つところを作って、
好きな温度で使える。」
「ああ、なるほど。メイガの羽根を伸ばすのに使えるな。
かなり低温がいいんだ。」
「温度調節もできるよ。」

温度の維持。砂漠石でもできるが、
樹石の方が手軽だ。砂漠石の代わりに樹石を使ったとして、
今度は樹石が枯渇したらまた元に戻る。
砂漠石が戻る600年間、樹石が取れ続ければいい。
砂漠石が取れる200年間の間に樹石が生まれる。
そのサイクルができれば問題ない。
どこの世界でもエネルギー問題は最重要問題だ。

「樹石もいつかはなくなるという大前提なのですね。
これも研究しないと。」
「イリアスから買うっていう方法もあるけどね。バケツに20個ぐらいかな?
それが1銀貨。月に6、7杯買うって。それを台所で使って、
お風呂も入る。燃やすんじゃなくて、暖かくする方法だと
もっと少なくていいはず。」
「この方法はイリアスの方々は知らないと?」
「うん、泊まらせてもらった村の村長さん家でお風呂も頂いたの。
その時にね気付いたんだけど言わなかった。
そこは、水問題以外は完結していたから。
教えてあげれば、どうなってたかな?
まず、樹石の価値はぐんと上がるかな?そうすると、今日来たあの2人は
湿地を売ろうなんて言わないだろうね。
たとえ樹石を使うのは貧乏人だという考えがあったとしてもね。便利だもの。
卑怯かもしれないけど、この方法は、いまは黙っておいた方がいいかな?
樹石の研究をしてからの発表?そこらへんはセサミン、頑張って。」
「ええ、いい時期に発表しましょう。」
「じゃ、セサミンに報告第一弾は終了ということで。」
「奥さんの舞は?」
「あ、そうだ。んー、家が建ってから?」
「いつ?」
「マティス?今日帰りに持って帰ろうか?」
「そうだな。それからだな。
その時は、また飯を食おう。焼肉な、あれは大蒜で焼くとさらにうまい。」
「おお!」
「ドーガーと手合わせもしないとね。わたしに勝つと宣言したらしいね?」
「もちろん!追いつかれないうちに早めに手合わせいましょう!」
「あははは!うん、よろしくね。じゃ、そろそろ帰ろうか。
トックスさん、この炬燵は置いておくね。樹石も。ここで、寝ないようにね。
寝るなら、ドテラかぶって、樹石の温度下げて。
ああ、砂漠石先生に制御してもらっとくよ。」
「ありがとよ。」
「うん。」

トックスさんは素直にわたしのすることを受け入れてくれる。
それがうれしい。


なんとか炬燵から出て、トックス製の樹石懐炉袋をもらう。
薄めの毛布でできている。いいな。

この区画はやはりとトックスさんだけが住んでいるようなので、
今のうちに6軒ぶん収納した。鶏館が出せるスペースと
工房は十分作れる。
さ、夢のマイホームづくり第一弾だ。







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