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283:羽根
しおりを挟む月が昇り、廻りに生き物の気配はなくなっていく。
きちんと整備された街道は北へと延びる。
街道を少しそれると、湿地が拡がる。
この中に樹石が埋まっているそうだ。
村長さんに聞けば、別にだれがとってもいいとのこと。
ただ取るときは一カ所だけ集中して取るのではなく、
まんべんなく少しずつ取るのが約束事だと言われた。
「樹石も集めたいな。街道沿いだと
他の人が困るから、奥に行こうか?」
「奥に行けば、かなりの湿地になるぞ?体の半分は沈む。」
「そうなの?あ、虫いる?」
「羽虫がいる。」
「あ、それ、ダメ!ブーンって?」
「羽音?バタバタ?」
「大きい!!ダメ!」
「うまいぞ?」
「え?食べるの?虫?」
「虫だ。羽は取って、煮込む。
とろりとしたスープになる。体が温まるぞ?」
「え?ちょっと!なにそれ?ものすごく飲みたい!」
「だが、虫だ。どうする?」
「狩るね!うまいなら別のものだね!」
「はははは。そうか。では街道を逸れよう。
飛んでいけば、体が沈むことはないしな。」
「ちなみにその虫はどのようなお姿ですか?」
トンボでした。
長細い胴体に羽根が4枚付いています。
その胴体が1リングの大きさ、太さが。
羽根もでかい。目もあり、手足もある。
食べるところは胴体のみ。
あ、でも、やっぱりダメかも。
羽根は傷がなければ売れるらしい。
イリアスの名産となんとか言えるものだ。
しかし、なかなかきれいなままの羽根は手に入りにくいらしい。
「じゃ、その羽虫の食べ物はなに?それより小さな虫?」
「いや、泥を食べる。
半分まで体を泥に沈める。それで、泥を食べに来た羽虫を捕まえる。」
捕まえるときに、むんずと羽根を掴むから羽根に傷がいく。
なぜなら、体の半分は泥の中、真上に飛ぶトンボを捕まえるには
そうなってしまう。これもなかなかに素早いので、
軍遠征の鍛錬の一種だそうだ。
何十人が泥に埋まっている光景も嫌だ。
しかし、マティスが言う、”うまい”だ。
食べてみたい。
月明かりの中、湿地に進む。
ガマのような植物もちらちら見える。
そこに止まっては、地面に降り、また浮かび上がるもの、それがトンボ。
ここではメイガと呼ばれている。
よく見ると泥を食べてるわけではない。泥の表面にそれこそ
小さな虫がうごめいている。それを食べている。
あー、ダメダメ!!絶対、泥には触れない!
このメイガをカエルが食べる。なので虫よけは収納。
出した瞬間に向こうに飛んでいった。
とりあえず、せっかくいなくなったので樹石を回収。
『樹石!集まれ!あ、まんべんなくね!!』
もう厨ニ病とかの言葉はでない。
「そんなに集めてどうするんだ?」
「んー、布にくるんでカイロとか?お風呂のお湯って大きいからすぐ冷めるでしょ?
熱いお湯入れればいいけど、混ぜるの面倒だから、
これを入れておけば、適温が維持できる。
軽石になったら、蜘蛛の唾液と混ぜてものすごく頑丈な建築材が出来そう。」
「・・・。」
「ん?」
「あなたはすごいな。」
「え?なに急に?ああ、この組み合わせ?
いつか誰かが気付くよ。けど、蜘蛛の唾液は呼び寄せができないと手に入らないから。
んー、まずいかな?でも、ま、いいか。」
「ああ、もちろん。問題なぞない。」
「うふふふ。マティスがそういってくれるから大丈夫。
あ、でも、メイガが戻ってきた!!」
「落ち着け!素早く羽根を掴めばそれで、動かない!」
「え?それで死ぬの?」
「そうだ、それで、羽根を抜く。」
「おーーー。」
「見ておけ。」
マティスがムンズと羽根を掴み、そのまま胴と引き離す。
その間羽根を握ってるんだから、そりゃ、羽根はぐちゃぐちゃだ。
トンボみたいにゆっくり指をまわして、
首を傾けたら、チョキで羽根を掴めばいいんじゃないの?
この場合真剣白羽取りのように両手を使わないといけないけど。
羽根が大きいから。
「ちょっとやってみるね。」
正面に廻り、腕を回しながら、どんどん小さくしていく。
トンボは、なに?敵?餌?と考えながら、羽根をそろえ、こちらに向けてきた。
「シャー!!」
体を丸めて、Cの字になっておとなしくなる。
これで死んでしまっているようだ。
しかし、両手は羽根を挟んでいるのでどうにもできない。
「マティス!どうしよう!」
「やはり、すごいな。そのまま上下に振ってみろ。」
言われた通り、上下に降ると、体と羽根が外れる。
泥に落ちる前にマティスがキャッチしてくれる。
「え?なんて柔い構造なんだ?」
「後ろから引っ張れば簡単にはがれるんだ。
そうか、そうすれば傷がつかないのか。」
「でも、これ、2人1組じゃないと、身が泥に落ちるよ?」
「そうだな。しかし、仕方がない。この方法で行こう。
どうする?羽根を掴むか?身を回収するか?」
「羽根でお願いします。」
「ははは!わかった。」
54匹のメイガ。216枚の羽根。
1枚10リング。4枚セットで傷がなければ50リング。
2700リングの稼ぎです。
でも、もう嫌です。
身の処理はマティスに任せます。
使う部分だけを見れば、ただのちくわ。
その他不要なものは何かに使うかと言われたが、
え?虫の足?複眼?あー、いいです。処分してください、となった。
さっそくスープを作ってくれる。
砂漠で作ったウッドデッキを展開。
カエルの皮も四方に吊るす。
これで、安心。
わたしはその間、羽根の観察。
一般には装飾に使われる。玉虫色に輝く。
4枚セットで色味がいろいろある。
あまり用途は思いつかない。
あ、でも、リボンを作ったらかわいいテムローサの髪に似合いそう。
そうなると、これを丸めてレースの薔薇?あ、いいねー。
それでも、それぐらいしかないな。
あとは、トックスさんへのお土産だ。
スープはとろみのあるおいしいスープだった。
コンソメ?ポタージュ?
体もぽかぽかする。あの体が溶けているとおもってはいけない。
そう、粉末スープのもとだ。
実際、保存は乾燥させて粉末にする。
ええ、もちろん、そうしてください。
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