いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
上 下
267 / 863

267:ダメではない

しおりを挟む
魚なんかいない。
いるんだったら海にもいるだろう。

「愛しい人。生き物だ。なにかはしらない。見るか?」
「それを事前に聞くということは、G案件?」
「いや、念のため。」
「見ます!」

どん、と見せてもらったものは、石?

「?生きてるの?動く?」
「動いていた。こちらを見ればいい。」

腹の部分を見せてもらう。

「うー、あー、うん。生き物だ。見たことあるな?あ!ナマコの下処理前!」
「え?これが?」
「うん、それに似てる!海にいるんだけどね。ここでは川か!
いっぱいいた?」
「いる。その陰に。石かと思ったが、ほとんどがこいつだ。」
「おお!下処理の仕方は見たことあるんだ!
一度やってみたいと思ったの!」
「え?食べるの?これを?」
「え?わたしの好きなナマコかもしれない!
違うかもしれないけど、姿かたちは似ている。大きさは違うけど。」
「え?腹がすいてるのか?作り置きはたくさんある。
何か食べるか?」

「え?食べちゃダメなの?」
「これをわざわざ食べなくていいだろ?」
「え?ダメ?」
「ダメではない。そう、ダメではない。」

「んー、ナマコは好き嫌いがあるけど、んー、1匹だけ試してもいい?」
「試すのか?」
「うん。そこらへんはどん欲に。」
「お前は生き物を殺して食べないというのが一番ダメだと言っていなかったか?」
「言った!だから試す!それで食べられなかったら謝る!」
「謝るのか?その前に食べなければいい。」
「んー、でも、食べたらおいしいかもしれない。」
「やはり、食べるのか?」

「え?食べちゃダメなの?」
「これをわざわざ食べなくていいだろ?」
「え?ダメ?」
「ダメではない。そう、ダメではない。」


この問答がかなり続きました。


結局、1匹だけ。わたしが下処理をして、実食まで行く。
その間マティスは砂漠石の膜を作ることにチャレンジするとのこと。

うん、わかるよ、見たくないものはあるし、
食べたくないものはある。
これが虫だったら、同じだ。
おいしいと言われても食べない。
でも、これはナマコ、川ナマコと名付けよう。
おいしいものセンサーが立っているのだ。

唐辛子がないのが残念だが、
お酢もお醤油もある。
なまこ酢とだし巻き卵、これで日本酒。熱燗だ。


この日はそのまま、渓谷で夜を過ごすことになる。
カエルは寝たままなのか、カエルの皮が効いているのか
姿を見せなかった。よかった。


扉君を出して家に戻る。

川ナマコと一緒に小石、これは普通の石を数個拾っておいたものだ。
生臭くはない。ワタも食べられそうだが、
今回はやめとこう。
これでおいしかったら大量にとって塩漬けを作るべし。


うまくワタは外れた。
残りは大きいので切って取り除こう。
割りばしにさらしを撒いてする方法はちょっと抵抗がある。
塩をまき、石と一緒にざるを延々と振る。
運動場にいてるはずのマティスの視線を感じる。
ふふ、心配しなくていいのに。
しかし、石かナマコかわからん。

ぬめりをブラシでとる。
もうこのブラシはナマコ専用。
ピンセットも作った。下処理は丁寧に。

汚れたものはいつものように徹底的に処分。

大根おろしをつくる。紅葉おろしにしたいが仕方がない。
昆布醤油とお酢。

うすく切って、盛り付ける。
あ、ゆずがないからレモンの皮で。

どうだ!
ちょっと味見。おいしい!コリコリ!

これだけ食べるわけにもいかないから、
さらご飯と、魚を焼いて、だし巻き卵をつくる。
お澄ましもだ。
足らないかな?あとで、これをあてに晩酌をすればいいか。

うん、家の晩御飯だ。
旅館の朝食のようだけど、うちでは晩御飯。
豪華だ。



「マティス~!ご飯できたよ~。」

わたしがご飯の合図を送ることができるとは!
すばらしい成長だ!

「愛しい人!」

すぐに移動でやって来た。

「流れで晩御飯も作ったよ。」
「ああ、ありがとう。また、あなたの飯が食えるとは。
はは、やっぱりあれはあきらめたんだな?」
「ん?それだよ?」

食卓にあの姿のナマコがあったらわたしも嫌だ。

「え?これ?」
「そう。なまこ酢。酢のものね。あ、これは好き嫌いがあるからね。
食べられなくてもいいのよ?
お酒のあてでもいいけど、それでご飯を食べるのも好きなの。
お魚も焼いたよ?一夜干しって感じだね。生臭くないのがいいよ。
これはわたしの家の普段の晩御飯。豪華な部類。
さ、召し上がれ。」


「お魚、どうかな?大根おろしと、お醤油かポン酢で。」
「ああ、いいな。なるほどな。愛しい人が好きだというのがわかる。
ご飯がすすむな。それに生臭くない。」
「うん。干したのがいいみたい。これは画期的だよ?
照り焼きとかもできるね。煮るのはやっぱり生姜が欲しいな。
ネギでいいかな?作ってみるね。」
「ああ、楽しみだ。いいな。この晩御飯は。」
「そう?よかった。でもたまにだからだよ?やっぱりお肉食べたいもの。」
「ははは!そうだな。会わずの月の日の飯は肉をたべような。」
「うん。それで、マティス君?やっぱり、ナマコはダメですか?
さっきから視線は行くけどお箸はでないね。」
「いや、せっかく愛しい人が作ったんだ。食べたい、とは思う。」
「うふふふ。大丈夫。わたしが食べたいだけだから。
おいしいものを食べてこれを食べてもらいたいっておもうものでもないから。
置いといて。今日は少な目だから、あとでお酒を飲もう。
日本酒。熱燗にするから。あても、いろいろ作るよ。」

結局、手を付けずに晩御飯は終わった。
さっくり片付けをした後に晩酌だ。


熱燗、それと、なまこ酢、カニみそ、
カニ身とサボテンの酢の物。砂トカゲの干し肉、
ポテトサラダにオイル付けにした魚、シーチキンだね、それをあえたもの。
すこしずつ作っていく。
マティスは台所のテーブルで座ってもらっている。
なんか、いいな。


「さ、呑もう!」
「ああ、呑もう。」

少し大きめに作ったぐい飲みでまずは一杯。

「はー、おいしいね。
これはね、初めてお店で熱燗を頼んだ時に出してもらった奴。
名前は忘れたけどね。これがおすすめですよって。
うん、おいしい。ほんとおすすめだ。」

コリコリとなまこ酢を食べる。

マティスの飲みっぷりは男らしい。うん、また惚れてしまう。
砂漠石で作った徳利なので温度はキープ。
空いたら、バッカスの石で継ぎ足し温度を保ってもらう。
熱燗とぬる燗、交互に呑んでいく。
たまに冷酒。

「たべてみる」
かなり速いペースで呑んでいたのでもう酔いが回ったのか、
しゃべり方が幼い。
「ん?これ?食べるの?」

取っておいてよかった。

マティスが恐る恐る口に入れる。
問題は元の姿だけで味はポン酢だ。食感が面白いだけかもしれないけどね。


「・・・・うまい。」
「ふふふふ。そう?お酒と合うでしょ?」
お酒を注いでやる。

「うん。」
「よかった。これのね、腸の塩漬けも珍味なんだ。
今回は作らなかったけどね。」
「どうして?」
「ん?だって、1匹分じゃできないよ。これは大きいけどね。
でも腸なんて知れてるでしょ?もっとたくさん取らなきゃ。
それにちょっとはつけておかないと、すぐには食べれんのよ。」
「今から狩りに行こう!そうすれば会わずの月の日に食べられる!」
「え?そうかな?今から?月が昇ってるよ?光は差すかな?
ああ、夜の目があるか。マティスがいいなら行こうか?
明日は高台作らないといけないしね。
よし、行こう!」

月明かりのした川でなまこ狩り。


「そっちに行ったぁ!!」
「よっしゃぁ!!」

なまこたちは夜に活動するようで、ものすごく速い。
意思が強いようで移動も効かない。

網を作り、川上から追い込む。

最初の1匹目はすぐつかめた。それからが大変だった。
残りが一斉に散ったのだ。
そこからの追いかけっこ。速い!

仕方がなく網での追い込み漁となった。
これは酔いと夜のテンションだからできたのだと思う。

なまこにとっては恐怖だっただろう。
いままでこんな目にあったことないんだから。
笑いながらなまこを狩る夫婦。
あははははは!


大方狩ったあとは、このテンションのまま下地処理。
家でするには大量なので、川辺で台所を展開。
わたを取りる作業は黙々と。
後は大きな籠を作り、二人で石となまこを振り回した。
あははははは!

ブラシでこするのは大変なので、

『汚れ、不純物、なくなれ!』

素晴らしい。
これで、腸もきれいに。

半分はそのまま、半分は合わせ酢に。このわたも塩で丁寧に洗い、
水分を出し漬け込む。
時間停止しない収納袋をつくりそこに入れる。
良い感じになれば時間停止をかければいい。
素晴らしい!!


よごれをこのまま川に流すのは環境破壊になるほどの量なので、
お持ち帰り。
なまこがいなくなって環境破壊になるほどは狩っていないと思う。
うん。

砂漠に戻り、また2重にした膜の中、
今回はマティス作のなかに扉君を設置して、お風呂に入っておやすみだ。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...