いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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264:空気

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空が飛べるとしても、それで方向展開は、地上と同じ。
体をひねり、向きを変える。
地上では地面を蹴り、相手を蹴り、壁を蹴っても方向が変えられる。
しかも速さが増す。
しかし、空中では相手がいない。
踏ん張りは効く、そこから飛び上がるのができないのだ。
ただ自分の屈伸力のみ。
なのに、彼女はまるでそこに壁があり、尚且つ、とらんぽりんで
勢いを付けたかのように、速さが増す。
何を蹴っているんだ?

「せぃっ!」
「参った!」

彼女に10本中5本取られる。

「ぶははははは!どうだ!
はー、でもちょっと休憩しよう。
蜘蛛たちが来る前に、ご飯にしよう。
戻ってお魚の様子を見るべ。」
「待て!先にどうやって方向を変え、勢いをつけるんだ?」
「くふふふふ。教えてほしいかね?」
「はい!モウ師匠!」
「む、そう呼ばれてしまっては仕方がない。
いいかね?我が弟子マティス?
 ここには空気がある。見えないだけであるわけだ。
気体。それが膜のようになってると考える。
しかもバネみたいにぼよーんってなったらいいなーと考える。
空気の膜があるって考えて、そこを蹴る。
でもそんなことを考えると当然遅い。
だから、それができると考える。
走るときに右足出してとか考えないのと同じで、
それができるんだから、そうするでしょ?」


なんと!

「先帰るよ~。ちょっと練習してみ?
すぐコツを掴むよ。
ご飯はムニエル作っとくね。」


彼女が一人で戻っていく。

それができるからする、か。
なるほど。

空気、膜、バネ。
そこにある。蹴る。





マティスは一人で特訓だ。
やっぱり想像力が物を言う。それを屁理屈でできると考える。
すごいね。
でも、ここの人は元ネタがないから想像できないし、しない。
でも切っ掛けがあればできてしまう。
マティスもすぐにできるだろう。
その間にご飯を作ろう。

母さん、結構いろいろできるようになっています。我ながらえらいです。

あ、もし、あの棚にわしゃわしゃ何かがいたらどうしよう?
うー、一人で帰ってくるんじゃなかった。
でも、できた!といって世界一の嫁選手権の笑顔を迎えるためには、
頑張らねば!


一応気配は探る。うん、大丈夫。
用心に越したことはないからね。

お魚さんはどうですか?
あー。程よく乾燥しています。
ここは寒いし、空気が乾燥してるからかな?いい感じ。
匂いもしない。これは素晴らしい。
鰹節にはならないけど。
半分は収納しておこう。もう少し乾燥させたらうまみがもっと凝縮するかもしれない。
それをほぐせばシーチキンっぽくなるかな?

とりあえず、白身のところで料理しましょう。
洋食屋さんぽくね。
白ワインが合うような、そんな感じがいいね。

火加減がプロだから、下準備だけすれば大丈夫。
ありがとう、海峡石!ありがとう砂漠石!ありがとうこの世界!


「愛しい人!」

マティスが移動で私のところに戻ってきた。


「できた!見てくれ!!」

シャパン、シュパンと空中で方向を変える。
さすがだ。
その笑顔プライスレス!!


「すごいね。んー、これで、空中戦で
5本とるのは難しくなるな。でも、よかった。
いろんな応用が利くと思うよ?
ほら、地面だって、ちょっと浮けば、トランポリン状態で
勢いが付けれるよ?」
「おお!」
「ふふふ。さ、ご飯にしよう。まだ早いけど、
蜘蛛が出るからね。その前に、片付けまで終わっておかないと。
お魚、バターで焼いてみたよ。白ワインと。
さ、座って?」
「ああ、いい匂いだ。魚?干した奴か?
生臭さはないな?消したのか?」
「ううん。干しただけだよ。半分はこの状態で保存して、残りはもう少し干しておくね。
で、オイル付けにしてみようかな?鰹節は、無理なのであきらめました。」
「そうか。」
「さ、最後に上からソースかけるから、早く座って?」








椅子に座ると、焼いた魚の上に、
透明なものをかける。
チリチリと音を立て、ますます良い香りがあたりに広がった。

「はい、召し上がれ。」

彼女が嬉しそうにそう言ってくれる。



「むにえる?うまいな。肉ではないが、やわらかい。これが魚か。」
「うん、おいしいね。身がプリプリだ。んー半日干しただけでこうなるのかな?
ここの乾燥した冷たい空気がいいのか、どこでも半日干せばこうなるのか。
保存しようという考えはここにはあんまりないよね、あ、豆の保存食はあるか。
豆だって乾燥さえれば、いつでも食べれるのにね。それは塩に付けるってのが
わかんないね。野菜だって乾燥させるのに。」
「それは砂漠の民だけだ。タロスの家にあったのは、
ゼムから買ったものを日陰で干していただけだ。そうすれば日持ちがするから。
街の人間はしない。」
「そうか、なるほど。その日持ちがするって考えを
魚や、茸にするわけよ。そうしたらいつでも食べられる。
干し肉と一緒。」
「肉は保存するのにな。魚はしないな。」
「それだけいつでも取れるってことでしょ?
で、運べないなら現地で食べればいいと。それもいいけどね。
しかし、砂漠の民としてはあらゆるものがおいしく、いつでも食べたい。
必要は発明の母だ。」
「ああ、いい言葉だ。」
「食料関係で使っていいかどうかわかんないけどね。
しかし、我ながらよくできた。褒めて?」
「もちろんだ!私の妻は素晴らしい!皆に知らせたいほどに!
そしてその可憐で尚且つ美しいしぐさ!夜ともなれば「やめい!!」 え?」
「十分です。ありがとう。」
「そうか?またあとで聞いてもらうことにしよう。
そろそろ片付けるか?」
「うん。」


ああ、今日は、いや、今日も素晴らしい日だ。
日々に感謝なぞ、僧侶のたわごとだと思ったが、
まさにそれだ。神に感謝するわけではないが、日々に、
あらゆることに感謝したい。


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