237 / 863
237:卑怯者
しおりを挟む「コットワッツ ルグが棄権したことにより、本大会の優勝は、
ルカリア ライガー」
歓声が一転、ものすごいブーイングだ。
勝手に言ってろ!
それでも、そのまま進む。
進行?審判の人、強いな。中央院のひとなんだろうか?
「勝者、ライガー。褒美は何を望むか?
賞金1万リングか副隊長の座か望みのものとの対戦か?」
「望みのものと対戦しとうございます。」
おお!!わたしも声をあげてしまった。
どうするんだろう?銃での演武?射的?撃ち合い?
「誰を望むか?」
「はい、コットワッツ領国の方々にはことごとく棄権されましたので、
本選に惜しくも出場できなかったコットワッツ、赤い塊、モウ殿と。」
うわー、そう来たか。
「愛しい人、始末しようか?」
「もう!またそんなことを言う。これ、断っても5000リングもらえるんだよね?わたしは。」
「ええ。断られると、相手は1リングも手入りませんので、恨まれますよ?」
歓声はものすごいな。
「コットワッツ、モウ!中央へ!!」
「姉さん!出るのですか?」
「ん?呼ばれてるからねぇ。トックスさん、毛皮のコート!!本番用の耳飾り!!」
「え?奥さん、これで行くのか?」
「もちろん!見せびらかさないと。マティスは邪魔しちゃだめだよ?」
「残念。」
毛皮を着て、モデルよろしく、中央に行く。
おお!歓声がすごいね。
『優勝おめでとうございます。ライガー殿。
1万リング、副隊長を蹴ってのわたくしとの対戦を希望とのこと。
お心、よっく、わかります。』
「はは、さすが、コットワッツの赤い塊。わたしの気持ちが分かるというのか?」
『ええ。』
「では、さすがにその姿ではなにもできぬだろう。着替えてこられよ。」
「ふふ。で?指名された時点で5000リングはわたしくしのものなのですよね?
それはどこに?」
「ほう。金にがめついというのは報告通りだな。審判!先に5000リングを!」
え?がめついって、どこ情報?
「5000リング、ここへ!!」
審判もため息つきながら言わないで!!
(師匠?これって資産院から?)
(今回は軍部依頼で、5000、1万を2つ、きちんと箱詰めして用意しています)
(ここの一般客ってどれぐらい?)
(ああ、4000弱です)
(ありがとうございます)
では、では。
ばさりと、毛皮を脱ぐ。
どよめきが起る。
そのドレス姿で戦うのかと。
馬鹿か。
『皆のものよっく聞けい!
なぜ、ライガー殿は、このわたしくしを指名したかを!
わたくしは、試合なぞ致しませぬ!そう返事するとわかっていたからだ!
では、わたしくしには5000リング、ライガー殿には?
不名誉?否!名誉だ!戦い頂点に立つべきもの!
この5000リングも皆にお返しするべきだと思っておられる!
出口で返してもらえるだろう。
わたしくしはそのことをお伝えする役目をもらったことを誇りに思う!
そして、皆の者!ニバーセルが領国の戦士に、
ルカリアのライガー殿に!惜しみない拍手で称えておくれ!』
「な!!」
ライガーコールが湧く。
一大ショーをみて、その入場料が戻ってくるんだ。
誰も文句は言わない。
ルカリアのライガーは名誉を取ったのだと言われるだろう。
「さ、ライガーさん?応えないと。1リングも手に入らないんだ。
名誉ぐらいもらっときなよ。」
「貴様!」
「あんた、命拾いしたんだよ?にこやかに、手を振ってあげな?」
「命拾いしたのはお前だろう?卑怯者が!」
「卑怯で結構。そもそも、わたしをどうしろといわれたんだ?
コットワッツは生意気だから始末しろって?まずは護衛から?
銃の売り出しは成功したんだ。もういいだろ?
ほら、応えないと不審がる。
なにか一言いってやれ。はずかしいのか?かわりに言おうか?
こころから思っていなくてもいい。皆に感謝の言葉をいうんだ。」
ものすごい顔で睨まれた。
「皆!皆の惜しみない声援でここに立つことが出来た。
リングはささやかな礼だ。ありがとう!」
ライガーコールが鳴りやまない。
それをにこやかに受けるライガー。さっきの顔と全然違う。
『審判殿。すまぬが、ライガー殿の希望だ。この技場から出る
一般客に返してやってくれ。不正などはないよな?』
すこし言霊を使う。
「はい!」
『ありがとう。一般客は4000弱だと聞いた。
残りの1000リングは、手間代だ。みなで分けてくれればいいらしい。
さすが、ライガー殿だな。』
また、ライガーににらまれた。
『さ、審判殿、最後にうまくまとめておくれ。
最後の締めの言葉で、この大会の価値が決まる。
みなに感謝の言葉を忘れずにな。』
「皆の者!静かに!
此度、軍部主催の武の大会、優勝者はルカリアのライガー殿だ!
賞金も副隊長の座もいらぬと戦士の名誉を取った!今一度惜しみない拍手を!
主催者、軍部!御覧いただいた王族の皆さま、貴族の方々、院の方々、
急遽開催で奔走した、わが中央院のもの達、そして応援してくれた皆に!心からの感謝と拍手を!」
ライガーコールからニバーセルコールだ。
王族も文句は言えまい。
「以上もって閉会!」
返金の手続きがあるから、この人たちはまだまだいそがしいんだろうな。
頑張ってくれとしか言いようがない。
「愛しい人、戻ろう。」
「うん。」
いつの間にか、そばに現れたマティスが、コートを着せてくれた。
どこぞのマダムみたい。
「待て!」
「なに?」
「卑怯者共が!群衆を巻き込んで逃げるとはな!」
「ああ、それで?」
「恥ずかしくないのか!」
「恥ずかしい?何に対して?銃を持つものが、その威力を見せるために
群衆の前でなぶりものにするのは恥ずかしくはないのか?
そこまでの威力はない銃なのか?だとしたらルグを棄権させたのは早まったな。」
「!」
「売り出しに成功したんだろ?これから王族との会議があると聞く。
いつかは誰かが作り出すものだ。それをとやかく言うことはできないがな。
襲い来る暴漢を銃で撃退することができるかもしれない。
か弱き女子供でも使えるんだ。
狩りが格段にしやすくなる。いいことづくめか?
これからより強いものを、止まれば倒れる車輪のように
次々作っていかなければならないな。でないとすぐに追い越されるぞ?
だが、最初に作ったのはルカリアだ。
かわいそうに。」
「かわいそう?なにを戯言を!
コットワッツだって銃を使っているだろう!」
「そうだな、使っているのだろう。
より性能のいい銃をルカリアから買うことになるんだろうな。
だがな、お前たちは当事者だ。
お前たちは死ぬ前か、死んでからか、必ず後悔するだろう。
なんてものを作り出したんだとな。
それはいつだと思う?
愛する家族、子供、主君、同僚、お前たちの大切なものが銃で命が奪われたときだ。
だれだって死ぬ。これは真理だ。
だが、誰だってその原因を作り出したものには
なりたくないって話だ。それだけの話だ。
お前たちはこれから大量に死んでいく人たちの原因を作ったものになるんだ。
その重圧に耐えれるのか?」
なにを偉そうにいってるんだ?わたしは。
「愛しい人、行こう。セサミナが待っている。」
「うん。」
「ま、待って!!」
「まだあるのか?」
「糸は?糸だって同じだろう?」
「そうだな。糸も同じだ。」
「だったらなぜ、銃だけが責められるんだ?」
「責めてはいない。言っただろ?ルカリアが開発しなくても誰かがしている。
ただ、当事者にはなりたくないだけなんだ。そうだな。卑怯者だ。
我が主にも護身用に持たすことになるだろう。
各家庭でも普通に持つ時代になるな。隣の家が持ってるのに、
こっちが持っていないと不安だからな。
そしたらどうなる?子供があやまって友達を撃ってしまうかもしれない。
手入れの最中に子供を殺してしまうかもしれない。
強盗だと思って撃った相手が、驚かそうとしていた自分の恋人かもしれない。
そこまで想像したのか?それでも、価値があると売り出したんだろ?
ああ、先ほどの言葉は取り消そう。後悔するな。
お前たちはずっと憎悪の対象だ。怒りの対象が後悔していたら、
どうしていいかわからないからな。
糸だって同じ話だ。そう、なんだって同じ話だ。剣も槍もな。
銃だけが責められることではないな。
ふふふ。これは失礼した。
わたしの拳一つで、棒1本で人は死ぬ。その責任は負える。わたしはな。
ただな、お前は、ルカリアはどうなのだろうと思っただけだ。
銃を扱う人間が一番銃の怖さを知っておかなくてはいけない。
それを会議で伝えられたらいいな。」
たしかに、わたしは卑怯者だ。
2
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる