いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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225:記念

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どんどんお肉はなくなり、あらかじめ作っておいた割り下もなくなっていく。

わたしの横に座っていたマティスが立ち上がる。
ん?ガイライさんが復活したようだ。

「マティス、すまない。奥方と話をしてもいいだろうか?」
「ガイライ、先に言っておこう。私は今、コットワッツ領主セサミナの護衛だ。
セサミナ以外敬意を示さなくてもいい立場だ。礼を取ったのは昔の恩義だ。それも済んだ。
そして、妻、モウも同じ護衛の立場だ。
それと、そう見えないようにしているが、私は緑の目で対象はこのモウだ。
これは本当についでだが、彼女はワイプの弟子と言っても一番弟子だ。
ちなみに私も残念ながら弟子で末席だ。この意味がわかるか?ワイプも認めているということだ。
先程は突発的なものだと許したが2度目はない。」
「ああ、わかっている。話がしたいだけだ。」

そうか、この人は師匠のすごさを知っている人なんだ。

「さ、こちらに。
鍋を新しくしますから、食べながら話をしましょう。
わたしの故郷の料理です。いいことがあったら食べたりするんですよ?
わたしは出ませんが、マティスは当然として、ルグとドーガーも本選にでますしね。
あ、師匠は棄権ですって。さすがですね。さすが、師匠です。」
「奥方、モウ殿は本当にワイプの弟子なのですね。」
「ええ、拳術は故郷で覚えました。それから、棒術もかじっていたので、
夫マティスに基本と体力づくりを。それから師匠に本格的に棒術を師事しております。
棒術だけではなく、武の考え方も尊敬しております。」
「そうですか。南に遠征前に2人がわたしの部隊にいたことがあったのです。
うれしかった。
2人が手合わせをしているのをみてニバーセルは安泰だと思った。
なのに、マティスは除隊、ワイプも資産院の仕事に戻ってしまった。
遠征が終わってから、軍に引き戻せばいいと考えたのですが、
そこから耳が聞こえなくなりました。」
「いまは?違和感はないですか?」
「ええ、大丈夫です。」
「あ、お肉いいですよ?卵、生卵ですけど、いけます?
軽くといて、卵をくぐらせて食べてください。」
「卵?火を通さずにですか?それに、その棒は?」
「ああ、雑菌はないからおなかはこわしませんよ。これはお箸といいます。
2本ではさんで食べるんですが、
馴れですね。みなは慣れているんですよ。そのフォークでどうぞ?」
「ああ、では。・・・これはうまいですね。肉はサイ?うまい。」
「お口にあってよかった。あ、野菜も。馬の餌と言われてますが、おいしいですよ?
馬たちは食いしん坊ですからね。馬がうまいといったものはうまいのですよ。
ぶふ、うまがうまい・・あ、失礼。」
「モウ殿は異国の方か?今は、耳が聞こえるからか、口元の動きも知っている動きだ。」
「ええ、異国のものです。それは他言無用で。
さ、どんどん焼いて食べてくださいな。」
「それはもちろん。ええ、ありがとうございます。」
「お酒はそうですね、やっぱりビールかな?マティス?入れてきてあげて?」
「ああ。」
マティスが、師匠のとこにあるビールサーバーにお酒を取りに行った。
「マティスが緑の目というのは?」
「ええ、しっていますし、緑の目に変わる瞬間も見ていますよ?」
「そうですか。」
「ガイライ、ビールだ。エールのような甘くない冷たい酒だ。」
「?甘くなく冷たいならエールではないだろう?
・・なるほど、エールに近いようで別物だな。うまいな。」

やっと笑った。

「その、耳が聞こえなかったのは、なぜなんでしょうか?」
「ああ、耳垢が固まってしまたんですね。耳栓をしている状態だったんですよ。
砂漠風ではなければ、耳に水が入った状態でそのままにしませんでしたか?
で、違和感があるから指で耳をかいたり。それで、垢がどんどん奥に入って固まって。
それで聞こえなかたんですよ。
数十年級の耳垢はもはや石ですね。そこに転がってますよ?」
「え?耳垢?石?」
ガイライさんは立上り、指さした石を2つ拾い上げた。本人のものだからいいけど。
「これ?」
「あははは、そうです。その、ま、本人はいいですけど、
垢ですから、食卓で拡げないで?」
「あ、これは失礼した。」
そのまま懐にしまう。
「持って帰るのですか?」
「あ、ええ、記念に。」
「そうですか。」
「わたしは行き度となく、石を使った。
あの石は特別なものだったんでしょうか?」
「いいえ、普通の砂漠石ですよ?願い方が間違っていたんですよ。
治すではなく聞こえるようにと。
耳はおかしくないので、願う度に耳は健康になってると思いますよ?
遠くの小さな音も聞こえるようになってるかもしれませんね。
でも、耳垢のことは石は範疇外ですよね。」
「そんな、そんなことで、わたしは。」
「難しいですね、言葉は。」
「モウ殿は石使いですか?あの頭に聞こえる会話は?」
「ふふふ、石使いではないですよ。くわしくは内緒です。
そういうこともできるものだと、受け入れてください。」
「わかりました。」
「それで?お話とは?これだけではないでしょう?」
「え?ああ、そうです。その、名を呼んでもらいたい。」
「?」
「母の、母の声に似ていた。もう、耳が聞こえなくなるずっとまえに亡くした母の声に。
だから、その、もう一度呼んでもらいたい、ガイライと。」

(マティス?いい?)
(お前がよければ)

ガイライさんに向きなおし、少し足を開いて、太ももを叩いた。

「おいで?ガイライ。」
「あ、あ、母さん!」

腰に抱き付きわんわん泣いている。
頭を撫でながら、褒めてあげよう。

「ガイライ、頑張ったね。えらいね。
頑張って拳術も覚えたんだね。努力したね。
それで、ずっと1番なんだ。母さんの自慢だね。
ガイライ?ほら、泣いちゃだめだよ?ね?
なにも悲しいことなんかないだろ?
自慢していいくらいなんだよ?」
「母さん!母さん!」
「ふふふ、仕方がない子だね、ガイライ。
おなかはいっぱい?そ、じゃ、ちょっと寝なさい。
このままでいいから。
ほら、今日はいい日だった。
耳も聞こえて、おいしいものもいっぱい食べた。
明日もきっといい日だ。
ガイライ、眠っていいんだ。安心しておやすみ。
そう、いいこだ。
起きたら、またいい日になるように頑張ろう。
ガイライ、おやすみなさい。」

背中をトントンとたたいてやる。
ガイライさんは言われるままに
寝てしまった。
ま、泣き疲れだわな。


「マティス?」
「ああ、向こうのはんもっくでいいか?」
「そうだね。そこで。」

マティスが移動してくれる。
うわ、腰回りぐしゃぐしゃ。

「奥さん、俺泣いちゃうよ、男はいつまでたっても子供なんだよ。」

トックスさんが泣いている。
ああ、こういうのに弱いのね。

「姉さん!兄さんは、大丈夫なんでしょうか?」
セサミンはマティスが嫉妬でおかしくならないか心配している。
「大丈夫ですよ。彼が求めたのは母だ。女ならそもそもここには来れない。
耳が聞こえていなかたんですね。気づきませんでした。
長い間寝るのも不安だったでしょう。よくぞ、といったところですね。」
「そうか。よかった。」
「ああ、心配させたね。で、たべた?すき焼き?」
「おいしかったです!」
ドーガーが元気いっぱい答える。
この中でいまもかーちゃんと一緒にいるんだ、何とも思わないのだろう。
「よかった。じゃ、デザートにしょうか。今日はミルクレープだよ?」


食後でまったりしてるとガイライさんが起きてきた。
ま、飛び起きてハンモックから落ちるのはお約束だ。
「わたしは。」
「少し寝ていただけだ。眠気覚ましにコーヒーを入れようか。
モウ、入れてやってくれ。」
「はーい。」


コットワッツ組は先に下に降りている。
領の仕事があるからだ。
トックスさんも満足して、部屋に戻った。

今いるのはわたしとマティスと師匠だ。
ガイライさんに話があるようだ。


3人にコーヒーを淹れわたしは先に休ませてもらう。

「マティス、師匠、ガイライさん、おやすみなさい。」
「ああ、愛しい人おやすみ。あの鍋はそのまま?」
「うん、明日の朝ごはんはおじやにするから。布かけて置いといて。」
「ああ、わかった。」
「たのしみですね。」
「モウ殿、先ほどは・・」
「ふふ、おやすみなさい。先に失礼しますね。ごゆっくり。」
「・・・おやすみ。」


にっこりわらって挨拶すると、
1番隊副隊長の顔に戻って笑っていた。









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