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219:三日月
しおりを挟むドレスは赤か緑にしたかったが、みなに見せるのなら青でいい。
彼女の体はどれも美しいが、人に見せていいのは、筋肉がついた背中だけだ。
希望の絵を見せ、トックスの助言をもらう。
砂漠石の組み合わせで思うとおりのものができた。
セサミナとドーガーもそれに合う装飾を考えていく。
ドーガーは色遣いがうまい。
試合用の服も駅あがり、各自の体の大きさに合わせて作ったものを調整していく。
彼女も私たちと同じ衣装だ。
下に着こむ下着も彼女が砂漠石で作るという。
ワイプも揃いだ。出向という形にするという。その辺の抜け目のなさは年の功か。
ドレスの試着をしてもらわなければいけない。
声を駆けると、先に風呂に入ってくるという返事。
トックスにも風呂へ案内し、皆も一緒に入るようだ。
感心しきって、じゃぐじいを堪能していた。
ここは半分が外だが、上のじゃぐじいは完全な外なので気持ちよさが違う。
そういうと、そこも入りたいというので、セサミナたちに案内してもらうことにする。
ビールも飲めるが飲みすぎるなとだけ注意して、私は戻る。
準備をしていると彼女がローブ一枚でやって来た。
皆がいなくてよかった。ドレスのことがなければ、そのまま抱いていた。
下着を付けずにドレスを纏う。
装飾品もつける。
ちょっと化粧をするよと、髪を整え、紅をさし、目元に何かを付けている。
「どう?」
言葉が出ない。
あの青い布の下はないもつけていない、彼女の肌だ。
金剛石だけを身に付けさせ、抱いてみたい。
夜用の2人だけのときに。それまで我慢か。
「わかった。しかし、これはダメだ。」
「え?なんで?」
ワイプまでもが美しいという。
ますますだめだ。
ルグとドーガーが固まっている。
赤い塊の声で、ルグとドーガーに声を掛けた。
『ルグ、ドーガー?おかしいですか?』
「ああ、旦那。これはダメだ。」
「なるほど。ダメですね。」
「姉さん!姉さん!」
ほんとにダメだ。彼女が言うとこのまじで。
「愛しい人。皆がお前を見てしまう。目立ちすぎる。
その声がさらにダメだ。」
「なんですと?」
「ああ。声でここまで変わるか。奥さんすごいな。」
「モウ殿ですね。」
毛皮の羽織を作ることになった。
トックス渾身の意匠だ。素晴らしい。
何とかすべてのことが終わり夜の飯は焼肉となった。
オショーユがいい香り焦げていく。
海鮮にも肉にも合う。
赤根をすりおろしたものにオショーユを掛けて肉と一緒に食べると、
どんどん食べられてしまう。
乳酪との相性もいい。
料理の幅が拡がりそうだ。
月が沈むと、今日行われる大会の概要が届けられた。
ワイプを始末することが出来るが、剣技を彼女に見せることの方が優先だ。
2番副隊長を指名しよう。
彼女はどうするのだろうか?誰と対戦しても美しく舞うだろう。
月が昇るまで、各自するべきことをする。
ドーガーがトックスを街に案内し、
ルグは土木工事。
ワイプも本来の仕事をしに戻る。
私とセサミナは装飾づくりだ。
「なぜ?」
「兄さんは金と銀の加工もできるでしょ?石は姉さんが加工してくれていますから。
あとはわたしの考えた意匠でできるだけ数を作ってください。
慰労会で宣伝します!」
「じゃ、わたしはごそごそしてくるから。」
彼女は植物園の方に行ってしまった。
残念だ。
仕方がない、手伝うか。
「兄さん。」
「ん?なんだ。」
「わたしはコットワッツの領主でいいのでしょうか?」
「?」
「此度のことで、マティ兄さんの名は再びニバーセルに知れ渡ります。
知も、武も優れている兄さんが領主になるべきではないでしょうか」
「それをセサミナ、お前は望むのか?」
「わたしが望む、望まないではないのです。領民のことを考えれば。」
「あははは、ではますます私に領主をすることを勧めるべきではないな。
前にも愛しい人と話したことだが、私が領主で愛しい人と出会い、結婚したとして、
今回のような王都からの嫌がらせにな、彼女は夫の憂いを払うのは妻の務めだとして
王都を吹き飛ばすと。それで、解決だと。」
「姉さんらしい。」
「それでな、それをセサミナに対してしないのかと聞けば、それをするのは自分の役目ではないし、
第一にセサミナはそれを望んでいないと。それで、私には領主は向いていないと。
自分が彼女が優先になるからだ。セサミナがいてくれてよかったとおもったぞ。
兄として、弟、領民を第一に考える賢領主セサミナを応援させてくれ。」
「はい、はい。ありがとう、マティ兄さん。」
そのあとは、子供のころの話をしながら手だけを動かしていく。
ルグも戻り、ドーガーとトックスも戻り、円座になりもくもくと作っていく。
小さな石と金を組み合わせた飾りは配るそうだ。
後ろに小さな刻印も施す。彼女が言ったコットワッツ製だとわかるように。
金だけでも結構な量になる。先行投資だそうだ。
彼女が運動場に移動したので、あとは皆に任せて私もそこに向かった。
ああ、美しい。
あの剣捌きはどういえばいいのだろう。
わたしの見せた動きも入っている。見たものを吸収する力があるのだ。
この武の大会で彼女はますます強く美しくなるだろう。
手合わせをしたい。心から。
「じゃ、軽く剣を合わせてくれる?」
しまった、剣がない。
「あ、剣がないね。大会の時はどうしようか。砂漠石で作る?」
鍛錬の時に使っていたのは資産院のものだ。
「これも砂漠石だよ?マティスなら自分の思ってるの作れるよ?」
「なるほど。」
師匠ポルトフィーが使っていた剣を思い出す。
腹のあたりが大きく、そこから先にかけて細くなる。
「へー三日月なんだね。」
「ミカヅキ?」
「ああ、そうか。向こうでは月が満ち欠けするの。
ここはいつでも満月、真ん丸で、新月が、っこでいう会わずの月、月がない状態で
そこから、ちょっとずつ丸になっていく3日目の月。それが三日月。三日目の月。」
「いい名だな。ではこれは三日月と名付けよう。」
「剣に名前を付ける風習があるの。」
「余程の物以外はつけない。私は初めて付ける。」
「え?そんな安易につけていいの?」
「安易ではない。気に入ったのだ。」
「そう?ならいいけど。」
「それにはつかないのか?」
「これ?こういうのは名はきまってるの。
自分の意のままに大きくなったり小さくなるのは如意棒だよ。」
「ほう、そういうのが普通に存在するのだな。すごいな。」
「ああ、存在するというか、ま、そうだね。こう手のものはいろいろある。」
剣もでき、合わせていく。
最初に手合わせしたときのように、右、左と。
少し速く同じ動き。
「ちょとまった!!」
「え?」
2人だけでするのは少し不安だ。
流れに乗ってこちらが攻撃してしまうかもしれない。
「ワイプを立ち会わそう。」
「?師匠はいま、資産院に戻ってない?」
「いや、さっき、こっちに戻ってきた気配がした。
上に戻ろう。」
「おや、鍛錬してたんですか?」
「はい。ちょっと剣技を見よう見まねで。」
「ほうほう。」
「ワイプ。いまから、彼女と剣での手合わせをする。立ち会ってくれ。」
「ほうほう。あなたから望んだんですか?」
「そうだ。」
「さすが、我が弟子ですね。では、わたしの家の作ってもらった鍛練場に行きましょう。
ルグとドーガーに見せても?」
「ああ、かまわないが、自分の身は自分で守れとだけ。」
「兄さん、わたしは?」
「ワイプ大丈夫か?」
「ああ、大丈夫でしょう。」
「なんだ?なにかあるのか?」
「トックス殿は悪いがここで待っててもらえますか?あなたまで守れない。」
「?ああ。じゃ、俺の作業部屋にいってる。買った布を整理しておくよ。」
「ええ、そうしてください。」
彼女は首をかしげているが、
彼女が知らずに本気を出したら、私もそれにつられるだろう。
そのとき彼女と廻りがどうなることか。
ワイプがいれば何とかなるだろう。
ワイプの家の鍛練場は、地下の運動場より少し小さいぐらいだが、資産院の鍛練場より広い。
また、ワイプを甘やかしている。ジャワーまで付けている。
「じゃ、行くよ~。」
気の鍛錬をしたからか、重い。呼吸も一定だ。
これなら私も打って出ても大丈夫か?
最初は軽く。
彼女が目を瞠り、その後にこりと笑った。大丈夫だ。
その後、彼女の息が切れるまで。
ふーっ
「愛しい人、素晴らしい。剣技でこんなに充実したのは初めてだ。」
「そうなの?はーっ。息が上がる。今は重さはまとってないのにね。
いやー、ちょとお風呂入って、すっきりしてくるよ。
あ!師匠どうでした?」
「ええ、さすがの一言ですよ。さ、もうすぐ大技場に行きますから、
風呂に入るなりして準備しておきなさい。」
「はーい、じゃ、マティス、先に家に戻るね?」
「マティス君。」
「ああ、わかってる。いうな。」
「ならいいですが。セサミナ殿、大丈夫ですか?ルグ?、ドーガーは?」
「大丈夫です。ワイプ殿の気に入っていたので。わたしも最大限は出しました。」
「ええ、大丈夫です。害するものではなかったので。ただただ、すごいとしか。」
「おなじです。これほどの剣技、まじかで見れたことを感謝します。」
「あれに、じいの気がのれば、この大陸で敵う者などいませんよ。」
「心穏やかだから、あそこまでのものができたのだろう。
見ているものもお前たちだからだ。それ以外では無理だな。」
「そうですね。しかし、気を付けてください。あなたは緑の目。彼女はその対象。
それを受け入れている彼女もまた緑の目です。あなたに何かがあれば、彼女は彼女でなくなる。」
「わかっている。」
「さ、わたしたちも準備しましょう。」
迎えの馬車が来て、やはり私と彼女は徒歩でついていった。
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