いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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204:子供

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大酒のみ大会の後祭りと彼女が命名した祭りは、
かなりの盛況だった。
酒は基本発酵させて作る。様々なものを発酵させて酒と呼んでいる。
そうなるとやはり妖精の酒は酒ではないのだろう。
ブドウから始まり果実を発酵させたものが多かった。
彼女はリンゴ酒を気に入り、
飲めば、バッカスの石から出せるのに購入していた。
「味見させてもらって、
それを気に入ったのに買わないなんてうちの家訓では禁止なんだよ。」
母君の教育方針らしい。
あとは並んでものは買わないというものもあると言っていた。
そこにしかないもの、それがないと困るものというのは仕方がないが、
同じようなものをよそでも売っているのに並んで買うことはない、
ということらしい。
「お前が作ったものなら私は並んででも買いに行くぞ?」
「あははは、それはそのものに価値があるから並んでるんじゃないでしょ?
わたしが作ったことに対して並んでいるんだ。
わたしがつくったそのものに価値があるのなら
誰が作っても価値はあるでしょ?」
そういうことなのだろうか?
味見は次々していくが、気に入ったものだけを買っていく。
途中で荷車を用意したほどだ。
コットワッツの一行に酒を勧め、
気に入れば買ってくれるという話はあっという間に広まり
次々に酒を勧めていく。
他の物は味見だけをして購入まではしていないようだ。
ワイプも強めの酒を買っている。
私も一通り飲んでいく。
気に入ったものは彼女の母君にならって購入していった。

彼女の酒の許容量がそろそろ限界に来た時、彼女の鼻がひくひくと動いた。
ずんずんとその匂いのもとに進み、
大きな樽を前にまたひくひくと匂いを嗅いでいる。

「すいません!これはどんなお味なんですか?」
「味ね、しょっぱいかな?」
「なにを発酵させたものなんですか?」
「豆だよ。」
「売らないんですか?」
「はぁー、なんだよ?嫌味かよ?買うのかよ?」
「嫌味?珍しい匂いがしますね。
味がよければ買いますよ。値段にもよりますが?」
「ああ、ごめん、ごめん。からかっただけだ。
よっぽどの酒好きなんだね。けど、これは酒じゃないんだ。
発酵したものを持ってくれば売れると聞いて持ってきたんだけど、
酒じゃないっていわれたんだ。」
「じゃなんですか?これ?」
「余った豆を塩漬けにした失敗作。」
「豆を塩漬け?」
「ん?しらないか?」
「愛しい人、保存食の一種だ。北の方の食事によく出る。」
「お、兄さんよく知ってるね。マトグラーサ領の北の端の伝統食だ。
何でもいいから持って来いって言われたから持ってきたのに、
いつの間にやら茶色くなってるし、
そもそも酒じゃないしで、持って帰るのも馬鹿らしいから、
売ろうと思っても誰も買わない。
そりゃそうだ、ただしょっぱいだけなんだから。
俺でも買わないよ。はぁー。」
「味見してもいいですか?」
「へ?するの?しょっぱいだけだぜ?あとで文句言うなよ?」
「ええ。もちろん。」

男は樽の上まで上がり、上澄みをすくったのだろう、
コップに茶色い液体を入れてきた。

「マトグラーサではこんな風にはならないのですか?」
「ならないね。」
「いつもこの大きな樽で塩漬けするのですか?」
「いや、もっと小さいものだ。大きいほうがいいだろうと、
村で一番大きな樽に移したんだ。」
「この樽はもともとなにが入っていたんですか?」
「保存用の煎った小麦だ。ほら、舐めるだけにしとけよ?」

彼女はコップを傾け小指に付けると、
口布を少し持ち上げ、ちゅっとその指に吸い付いた。
色っぽい。
もちろん男には見えぬ角度でだ。

「ビンゴ!!!」

彼女がものすごく大きな雄たけびを上げた。
びんご?なんだそれ?

「失礼。ほんとにしょっぱいですね。で?
これ、持って帰るんですか?」
「まさか、捨てて帰るよ。
ここにいるのは物好きなもんがかわねーかと思ったが、
味見までして怒らなかったはあんただけだ。」
「そうですね。しょっぱいと言われていてもしょっぱいですもの。
でも、捨てるのはもったいないですね。
塩味として使えそうですよ?樽も立派なものですし。
樽ごとなら買いましょうか?」
「ほんとか?樽はそんなに立派なもんでもないぞ?
後で文句言うなよ?」
「立派ですよ?液体が入ってても漏れてないし。」
「ま、そうだけど。」
「いくらぐらいで?」
「買ってくれるのならいくらでもいい。」
「あー、それダメなんです。以前失敗したことがあって。そちらが決めて?」
「え?そうか?ここに来るのに4日かかってるんだ。帰りも同じだけかかる。
その間は仕事をしていない。
その分はこれ売ってしまえば稼げると単純に思ったんだ。
みんなが笑ってた意味がやっとわかったよ。甘かったよ。
樽付きの中身全部で5リング!どうだ?」
「ん?計算間違ってない?」
「あははは、やっぱり?冗談だよ!」
「あははは!もう!笑かさないで!」
「へへ。じゃ、2リングで!」
「ちょっとまてーい!!どういう計算?1日の日当×8日分と樽と中身でしょ?
移動の食費とかもいれて!
なんでそんなに安いの?掛け算できないの?日当いくらで計算したの!」
「モウ殿、合ってますよ。日当銅貨2。子供の日当では多いぐらいですよ?
それに本体をいれて2リングというのはそんなもんでしょう?」
「なに?子供?え?このお兄さんが?え?」
「少年はいくつですかね?」

横で聞いていたワイプが男に聞いた。
そうか、彼女は子供だとわからなかったのか。

「ん?10歳だ。」
「うそーん!親御さんは?どこ?」
「モウ殿、彼は成人前ですが独立してますよ。
だからここに来てるんです。そうだね?」
「うん、そうだよ?どうしたのこのねーちゃん?」

彼女はふるふると震えている。
「愛しい人?大丈夫か?」
「ま、マティスは子供だとわかった?」
「もちろん。わからなかったのか?子供だと気付いたから、
ゆっくり聞いていたんじゃないのか?」
「ラーゼムのときのようにならないように注意してただけ。
はー、2リング、2万円。そんなもんなんだろうけど。」
「買うのか?」
「うん。せめて5リング払ってもいい?」
「かまわないだろう。祭りには祝儀がつきものだ。
ラーゼムのようにはならない。」
「ありがとう。」


よっぱどラーゼムのことを気にいているのだろう。
亡ぼせばよかった。


「えっと、2リングね。それと祭りにはご祝儀が付き物だっていうから
5リングでどうですか?」
「え?いいの?売るよ!売る!売る!ありがとう!この荷車もつけるよ!」

5リングを渡し、樽を運んできた荷車ごと購入した。

「愛しい人?びんごとは?
それにこれは?塩なら売るほどあるんだぞ?」
「うん、いいの。ビンゴってのは当たり!とか正解!っていう意味。」
「おもしろいな。私も使ってみたい。」
「ふふふ。うまく使ってね。さ、この荷車、師匠のいれて4台か。
謁見の館まで運んで行こう。で、建物の陰に隠れて収納しよう。」
「ワイプの分まで?」
「あ、そうか。師匠どうしますか?いったん鶏館まで運びますか?」
「そうですね。ではすいませんが、いったん預かってもらえますか?」
「わかりました。じゃ、とにかく人目に付かないところに。」

ガラガラと4人、彼女とセサミナ以外が台車を曳きながら、
建物の裏手に回り
ちょうど、月が昇り始めたので、そのまま館に入っていった。
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