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143:極悪人
しおりを挟む月が沈むと同時に街道に出て、
背負子にも重さを与え、進んでいく。
街道に出る前に月無し石に問いかければ5つほど残るそうだ。
多いね?と彼女が聞くと、ここを拠点にラーゼムまでを含めるからだそうだ。
彼女は範囲が広いと人材補充か、ほわいとだねーと感心していた。
帝都への街道なので、人の行き来がある。が、皆、馬を使っている。
歩きで帝都を目指しているのは私たちだけだ。
「みんな見ていくね。コムの村でも思ったけど
服が特徴的なのかな?ちらちら見ていくね。」
タロスから譲り受けた服を着た彼女は一見、男に見える。
あの豊かな胸元も、ゆったりした服の下ではわからない。
この服以外だと、ちらちらどころではなく、
皆が馬車を下りて、眺めていくだろう。
「砂漠に近いコットワッツは通気性の良いものを
ゆったり着るが、ここら辺は寒い、体の体温が逃げないように
ピッタリなものを来て、毛皮を着る。
この時期には毛皮を着ないから、体に密着した服が多い。
私たちみたいにゆったりとした服を着ているのが珍しいのだろう。」
「へー、物知りだね。」
「騎士団の仮入団時代にいろいろ教え込まれた。
屋敷で教えてもらう座学よりもその土地で教えてもらったことのほうが
よく覚えている。」
「ほかにどこ行ったの?」
「北西のジットカーフ、北のイリアス、東のナル-ザ、南のルポイドだ。
砂漠を挟んだ向こうのドルガナは敵対関係だ。
砂漠は誰の領土でもない。周りが自国ならそうだが、
サボテンの森があった砂漠は5つの国に囲まれている。
デジナは山を挟んだ向こうだから4つか。
石の収穫量でもめてな。サボテンの森から向こうでは
石を取らないという取り決めになったんだ。
父の代でな。
会わずの月の前の日で往復できる距離だ。
それでよく承諾したと思ったが、
範囲が狭いのに収穫高はコットワッツが群を抜いていてな。
それから揉めたんだ。
最初にルポイドが、それからドルガナ。
ドルガナも自国内に砂漠があり、それなり砂漠石はとれていたから
広い砂漠に対して収穫が少ないことに不満があたんだろう。
今思えば。砂漠の中心、石の原石があるところが、サボテンの森近くだったんだな。
それに近いナルーザとは揉めていない。
そのナルーザを抜けて、南の海に面しているリリクだ。そこは南の未開の地に面しているので
対野獣盗伐があったんだ。」
「へー。んと、今は西に向かって?その上が北?」
「あははは、地図がないと理解はしにくいな。
帝都で売っているかもしれんな。かなり高額だと思うが、見つけたら買っておこう。」
「そうだよ!地図!それを買おう。あと図鑑みたいなのないの?
動物の絵とか、植物の絵が載っていて、解説がついてるような。」
「はははは、それは院扱いだな。だが、誰もが字を読めるようになれば
本も普及してそういうものも出回るだろう。今度セサミナに教えてやれ。」
「んー、でも、きっと誰かが気付くよ。わざわざ教えることでもないな。
そこまで、わたしはいい人でもないから。セサミンが悩んでいたら知ってることがあればね
答えるけどね。」
「セサミナが言っていた。
お前をを捕えてしまう。その英知を絞りと取ってしまう。
領民のためだという大義名分でな。
でも、お前は姉なのだからできないとな。」
「あははは、その答えで十分だよ。」
月が昇ると、街道の横に少し大きな広場で、馬に水をやり
ここで宿営するのだろう。火を起こしている。
その馬車が数台あった。
そこの居た男たちの視線が刺さる。
(お前は声を出すな)
(え?うん、わかった。
ここで、みんな泊まるんだね。砂漠がなくても夜は進まないか。)
(そうだな。ここで、水の補給と食事をしてから進もう。
走り込んこんでも誰も街道にはいまい。いたとしても盗賊だ。
どうなろうとかまわんだろう。)
(マティス!かっこいい!!)
井戸があり、そこから水を汲む。
彼女が言うにはコウスイだと。これはからだにいいが、味はいまいちだそうだ。
彼女の出す水になれたらそうなるだろうな。
合わさりの月に近いので夜と言えどとても明るい。
干し肉とパンを食べ、背負子を背負い込むと、
一人の男が声を掛けてきた。
(お前は声を出すなよ)
「おい!あんたたちは今から街道進むのか?」
「ああ、できるだけ早く帝都に行きたいのでな。合わさりの月の前だ、明るさは問題ないしな。」
「あわさり?ああ、重なり月のことだな。
国境近くでもそういうな。帝都に近いこの辺りでは重なり月というんだ。
その服装は見ないな。ということはニバーセルから来たのか?」
「そうだ、よくわかったな。ニバーセル、コットワッツの砂漠の民だ。ここでは重なり月というのか?」
「そうだ。砂漠の民か。それが帝都に行くのか?」
「海に出るつもりだ。夜に街道を進むことはジットカーフでは禁止なのか?」
「いや、そんなことはない。国によって月の呼び名が違うが、
どこでもそんなことは禁止なんぞしないさ。
それに、これも同じだろ?盗賊に襲われても自己責任ってことさ。本人の自由だ。」
「ああ、そうだ。なら、襲った盗賊をどうしようとこれも問題ないな?」
「あははは、それをわかっているのならいい。
夜の街道を抜けれるのはよっぽど腕に自信があるか、盗賊に合わない運のいい奴かどっちかだ。」
「運のいいことを祈るよ。」
「・・・警告はしたぞ。」
「では、失礼する。」
彼女を促し、広場から街道に戻る。
(警告って?)
「ああ、もういいぞ。さあな、親切心なのか、街道に出られると追わないと襲えないから
あの広場に止めたかったのか、わからんな。」
「あー、そっちもあるのか。なんせよあそこで泊まるのは無理だよ。」
「あははは、臭いだな?魚をはこぶ荷馬車だったな。
コムに行くのか、ほかの村に行くのか。
言われてみれば気になったな。」
「そうでしょ?あー、だめだ。」
「ますくといったか?あれをするか?」
「赤い塊と間違われない?」
「赤い服で、口元を覆っていたらそうなるが、大丈夫だろう。
砂漠風がひどいときは口元を覆うんだ、それにこの服を見て砂漠の民とは気づかなかったが、
砂漠の民は知っているようだ。砂漠の民の装束だと言えば問題ないだろう。」
「おお!いいねそれ。黒いの目立つから、
あ、肌触りのいい絹にしておこうか?そういえば、この絹は、どんな方法で作られてるの?」
「蚕だ。」
「あ、いっしょ。桑の葉?」
「そうだ、よく知っているな。絹糸はナルーザの名産品だ。他の国は糸を買い製品にする。
2番目の兄スチックの繊維工場では綿製品のほうが多い。
絹製品はコットワッツとおなじ領国でナルーガに近いフレシアのベースという街で作っているな。」
「その大きさは?蚕と桑の葉の。」
「桑の葉は手のひらぐらいかな?詳しくはないが、それぐらいだったと思う。
蚕は見たことはないな。蚕が桑の葉を食べて糸を産むとしか。」
「産む?吐き出すとかではなくて?」
「ああ、産むと聞いた。蚕はナルーザでは神扱いだ。謎が多い」
「ああ、お蚕様ね。」
「!よく知っているな。そう呼ばれている。
ニバーセルの妖精様、ナルーザのお蚕様、どちらも美しいという例えだ。」
「あー、あんまり見たくないな。うん。」
「コットワッツ、砂漠の民のモウ様が一番だがな。」
「もう!」
ここまで、小走りで進んでいる。
準備運動だ。ここから速度を上げ、少し落とす、上げる、これを続ける。
何も道具はいらない一番手軽な鍛錬だ。
負荷も当然かける、これも重くしたり軽くしたりだ。
「そろそろ、速度を上がるか?」
「はーい。」
「ああ、その前にお客さんだ。」
「え?・・・あ、蹄の音だ。ほんと耳いいね。」
「どうする?」
「どうとは?」
「3頭の馬だな。ああ、ひとも3人だ。
あの場にいたもの半分だな。お前が相手をするか?
複数人で、殺さずにだ。気を膨らませずに、体術だけで。」
「なるほど。やってみるね。じゃ、棒術でやってみる。
師匠、我が鍛錬の成果をご覧ください。」
「ああ。」
これは彼女の師の対戦相手の技で、こんなのもできると披露してもらった。
これはさすがに動きが甘かったが、そこからは鍛錬を重ねなかなかなものになったとおもう。
彼女にこれの師はマティスだねと言われたときはうれしかった。
馬が3頭並んでくればかなりの地響きだ。
コム産の馬なのだろう。どれもよい馬だ。
「やっと追いついた!砂漠の民ってのはこんなに足が速いのか?」
「いいじゃないか、追いついたんんだ。」
「おい!その重そうな荷と女を置いて行け。隠してもわかるんだよ!」
なんと、さすがに隠し切れないものがあったか。
やはり口元を隠さなければならないな。
「警告しただろ?あの場にいれば荷だけで済んだのにな。
離れるから、女が危険な目に合うんだ。」
「では、あの場にいればの荷だけで済んだのか?」
「まぁ、そうだな、荷を奪うのはだれも文句はねえが、女を襲うのは嫌がる奴らがいるからよ。」
「荷を奪うことは認めて、自分たちの居ないところでやれば文句は言わないだけだから同罪だな。」
「夜に街道を進むからだよ。運のないあんたたちが悪いのさ。」
「あの場に泊まっても荷はとられるのだろう?」
「死ぬよりましってことさ。」
3人が馬を下りて笑いながら近づく。
「ティス?もういい?」
「ああ、殺してもいい。向こうがそう来たんだ、かまわんさ。」
「うん、わかった。これが初だよ。」
「そうか、相手に非があるほうが、後が楽だ。」
「なるほど。では!」
「おいおい、女に、ぶげっ!!」
踏み込む彼女に顎を砕かれる。
その返してで、腹もつく。
残り2人は少しは腕に覚えがあるのか、素早く間合いが取るが、
彼女の跳躍を考えれば、近い。むしろ良い位置だ、彼女にとって。
ナイフでとびかかるが、上空はダメだ。ほら、下から払い上げられ、
そのまま、肩を砕かれる。
最後の一人は、槍術のようだ。彼女が受けるが、
鍛錬にもならない。4、5回合わせて、槍を上空に
そのまましりもちをついた男に先端を突き付けた。
気を失ったようだ。
「よくやったな。が、相手が弱すぎる。
それに、生かしておくのか?」
「うん、もうちょっと悪人じゃないと、だめかな?」
「そうか、次は極悪人がいいな。」
「ふはっ!どっちが極悪人なんだ!」
馬3頭にそれぞれ乗せてやり、戻るように促すと、かなり文句を言われたようだ。
彼女がなだめながら、話を聞いてやっていた。
戻るのは残した仲間だけで荷を引かすのが悪いからいいのだが、
こいつらを乗せるのは勘弁してもらいたいとか。
しかし、置いていって君たちだけで戻ったら、また、ここに戻って
様子を見に来るんじゃないか?とか。
そうなると荷の匂いがどんどんひどくなるから、仕方がないと納得したようだ。
馬もあの匂いが嫌なようだ。
氷も入れているが、ここにつく前に溶けてしまうらしい。
3頭を見送り、鍛錬を開始した。
走りながら彼女との手合わせはなかなかのもで、
彼女は地形をうまく利用して飛び込んでくる。
私ももっと鍛錬しなければいけないと感じた。
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