いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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101:殺気

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ゼムの店の前についた瞬間に2度目の衝撃が起こった。
最初と違い、立っていられない。
街の人々が1度目の時から外に出て、話をしていたのだろう、
悲鳴とともに騒然となった。
こちらは気配を消しているので、突進してくるものもいる。
屋根の上、上空に移動し、サボテンの森の方向を見る。

地面から離れているのに振動が体に伝わる。
土煙が上空に渦巻くように昇り、
空はその一点だけが重い雲がかかっている。
何もかも吸い上げるように、雲の中に消えていった。

砂もサボテンも、おそらく砂漠石も海峡石も何もかもだ。

揺れも納まり、皆が空を見あげる、その時に。

!!!!!!

音もなく上からの圧が来る。
こらえて上空に留まるが、下では街の人々が
地面に伏せていた。
先ほどとは違う地響きが伝わる。
あたり一面砂塵が舞い上がる。
ごうぐるをしていなかったら何も見えなかったであろう。
空から吸い上げた砂が降り注ぐ。雨のように。
いや、落ちてきている。

彼女は黙って降り注ぐ砂を、砂漠を見ていた。


砂塵が落ち着き、少し埃っぽいが街は無事なようだ。
ところどころ土壁がはがれているところもあるが、
家が崩れるといったことはないようだ。

砂漠に砂がなくなり、そして砂漠に戻った。
なにが起こったのかと聞かれれば、そう答えるのが正しいだろう。
砂以外何もない砂漠。

すぐになにか影響が出ることはない。
街の人々にすれば、砂漠の恩恵は砂漠石と海峡石のみ。
それも王都が管理するもの。
砂漠の民もいない。
行きかう人は、街が無事でよかったと、喜びあっている。
砂漠石がなくなったと気付いているものいないようだ。
気付いたとしても、王都が、領主が何とかすると思うのであろう。


(もう大丈夫のようだな?けがなどしていないな?)
(・・・・うん。ゼムさんのところに行く?)
(ああ、こんな状況だが、このまま街を離れることもできない。)
(そうだね。)

彼女は言葉少なげに私の手を握りしめる。
『こちらの許可なく思考は見えない。害することもできない。』
(一応ね)
なにか薄い膜が覆たような気がした。


気配を消したまま、ゼムの店の裏に降り立つと、
領主の馬車が止まっていた。
セサミナが来ているのか?

横で彼女がなぜか服を着替えている。
初めて会った時のあの赤い服だ。いや、色だけ?
新たに作ったのか?
フードを深く下し、口元は布で隠している。

(どうして?)
(うん、弟君が来てるみたい。
 口の動きと理解できる言葉と動きが違うのがばれるとややこしいでしょ?)
(ああ、服は?)
(弟君はわたしを赤い塊と認識している。だからそれ以外の情報はいらない。)
(会うのか?)
(バレてるよ、ここに来たのは。探りの気配が四方八方にのびてる。
 さえぎったから逆に気づかれた。)
(わかったのか?)
(うん、なんとなくだけどね。マティスも思考を読み取れないようにしてね。
 ダメだと強く思えばいい。
 わたしのなんでもありの思考と領主の力とどっちが強いかだ。)
(・・・このまま離れてもいいぞ?)
(ん?それはさすがに面白くないね。ほら、出てきた。探りが途切れたから見に来たんだ。
 わたしはまだ隠れているよ。
 聞けることは聞いて、たぶんなにが起こったか知ってるはず。)
(わかった。)


「お待ちください。また揺れるかもしれません。どうぞ、部屋の中に。
砂漠石を使っております。こちらのほうが安全です。」

セサミナが外に出てきた。
やはり来ていたようだ。後ろからゼムが追いかける。

「いや、もう揺れはない。 
・・・・
そうだな、もう一度部屋に戻ろう。
少し一人にしてくれるか?なにか、軽食を。いろいろありすぎた。
仮眠をとりたい。かまわないか?
ああ、お前たちも休んでおくれ。
月が沈むまで休もう。
そうだ、防音も石で使っておくれ。]
「承知しました。 ゼム、すぐに食事の用意をしろ。」
「わかりました、すぐにお持ちします。」

セサミナの傍付きがゼムに指示をだす。

これを軽い食事というのだろうか?様々な料理がのったトレーが運ばれ、
座り心地のよさそうな寝椅子も運ばれてきた。
扉が大きく開いたときに2人で部屋に入る。
「それでは、なにか、有りましたらお呼びくださいませ。」
「ああ、わかった。」


部屋にセサミナ一人。

袋から砂漠石を取り出し、力を使う。
『この部屋の音は一切外には出ない。外からはなにもわからない。』

「さ、マティ兄さん。もういいですよ?」

領主の力か?
姿を現し、セサミナの前に座った。彼女は部屋の隅に立ったままだ。

(マティス、もう2人弟君の両隣にいるよ?聞いてみな?)

「その2人は姿を現さないのか?」
「! さすがですね。紹介します。ルグとドーカーです。
 わたし、いえ、僕の護衛です。」

両脇から2人の男が姿を現した。一人には見覚えがある。
(ルグとやらは前に見たことがあるね。すごいね、何も見えないよ。)
(見えないとは?)
(気配とかそういうの。わたしには気付いてないみたい。話し続けて?)

「この2人は話を聞いてもいいのか?」
「ええ、この前もいましたし。あの時は気付かなかったんですね?
それで、今はわかると。なるほど。
 とにかく、兄さんが無事でよかった。砂漠を超えて隣国に行ったと思っていたんですが、
この変動はもっと後のはずだったんです。巻き込まれてなくてよかった。
どこにいたんですか?今、兄さんは行方不明となってますよ。」
「なぜ?」
「アルビンがあなたを始末したと報告したんですよ。
駱駝馬でゼムのところに戻ってくると
マティスにやられたが返り討ちにしたといったまま、
気を失ってしまったようでね。
それをゼムが運んできたんですよ。
手当をしてやると、そう皆の前で言ったんですよ。
その話を聞いて、笑いをこらえるのに苦労しました。
お前の腕で殺せるのなら
とっくに兄さんは死んでますよ。
ゼムは飛び出して探しに行ったようです。
だが、2人きりになると、なぜか、いろいろ話はじめましてね。
先に奥方を襲いに行ったこと、一方的にやられたこと、
僕と2人になったらなにもかも話すように言われたこと。
石の力ですか?こんなことに使うのはさすがにもったいなかったですよ。
ああ、彼は、あの考え方はまずい。辺境警備についてもらいました。
そこ指揮官は厳しい方でね。立派になって帰って来るはずです。」
「俺は死んだことになっているのか?」
「いえ、行方不明ですね。
ゼムも街の人もね。そう思っています。アルビンにやられたとはだれも思っていませんが、
ゼムが砂漠に探しに行って、馬車も死体もなくて、
駱駝馬がいない状態で馬車がないので、砂漠嵐にさらわれたんだろうと。
アルビンが逃げ延びた駱駝馬を奪ったんだと、みなそう思っています。
しかし、アルビンの話だと、砂漠嵐は起きてない。だが、馬車ごと消えている。
アルビンや我々を欺くためだとしても、また、ゼムと接触があると思っていたんですよ。
その話もね、聞きたかった。
だが、ゼムの落ち込みようはひどいもんだ。嫁を迎えに行くと言っていたのにと。
泣いてましたよ。
・・・・・
えっと、その、アルビンの話では嫁話はうそだと。
奥方は空想の嫁なのですか?
あの、これは、その弟として聞いているので、
その、世の中にはいろいろな人がいてですね、僕は、その、偏見は、、、」
「その話はいい。この変動は起こることは知っていたんだな?なんだったんだ?」
「ああ、そうですね、今はいいですね。
簡単に言えば、再生ですね。800年に一度起こるそうで、天文院からの話では
再来年に起こると。予測が外れたんですね。
800年に一度のことなので、誤差の範囲なんでしょうが、早すぎた。」
「再生?」
「そうです。砂漠、その中にある森が豊かになりすぎた。
皆が言う、サボテンの森や同規模の森が数箇所。
豊かになると、砂漠石の価値が下がる。だから、一度、ゼロに戻るんだそうで、
それまでに石は多く収穫しておくのです。民はないものを欲しがる。
便利なものを手放しはしない。
完全になくなれば、あきらめもつくが、王都が持っているのなら、ほしがるでしょ?
多少高くなっても。そうやって納めているんですよ。王都は。
だが、早すぎた。大体的に回収する前に海峡石はなくなり、砂漠石の収穫も減っている。
最初の振動があった時にこちらに来たんですよ。
石の在庫を確保しないといけなかったので。」

(あの現象を王都がおこしているのか?それとも、利用しているのか?)

「あの現象を王都がおこしているのか?それとも、利用しているのか?」
「王都にあれほどの現象を起こす力などないですよ。
800年に一度起こるということが分かっているだけで
どうしてそうなるかはわかっていない。ただ、砂漠の資源が一度に無くなるとだけ。
元に戻るのは600年かかると言われています。
ああ、これは領主の力を引き継いだものの一つですよ、他言無用で。
これからの600年は王都が完全に辺境を抑え込む。
今までの200年は平和そのものだったんですよ!
僕の代でそれを跳ね返すつもりだったのに!!早すぎた!」

(面白いね。そういうサイクルにうまく便乗しているってところが。)
(面白いか?これから石のために王都にすべてを抑え込まれるんだぞ?)
(石に頼るからだよ。)
(そうだが、、、)

「ああ、それでも、兄さん。ゼムに預けていた海峡石はありがたくいただきました。
あれだけあれば、すぐに王都に従うこともない。ありがとう。
兄さん、兄さん。本当に、無事でよかった。
あれから街に隠れていたんですか?」

(面白くなってきたね。ドーガーとやらの気配が動いたよ?聞きたいことみたいだ。)
(こいつは偵察か?王都の?)
(さぁ?どうしようか?これ以上かかわりたくはないけどね。)
(セサミナと話がしたい。)
(そうだね、出て行ってもらおうか?)

「兄さん?」
「この2人は出て行ってもらえないか?」
「なにを!先ほどから無礼にもほどがある。兄上といえど、
いまは民の一人にすぎない。控えろ!」

(ふふ、若いね。ドーガー君は先に退場願おう)
(え?)

彼女が気配を消したまま、足を振り下げた。
音もなくドーガーは崩れ落ちた。

ルグは素早くセサミナを背にかばう。

『お初にお目にかかる。田舎者故、無調法は許されよ。』

彼女が姿を現したが、声が男の、しかも年配者の声だ。

「貴殿が赤い塊か?」
『そう呼ばれているな、この若造にもな。』

(その物言いはなんだ?若造って私のことか?)
(いいからいいから)

『領主殿、少し話がしたい。その御仁には出て行ってもらえぬか?』
「彼はわたしの護衛です。離れることはない。」
『なんの護衛だ?この若いのが崩れるのを黙ってみていただけだぞ?』

セサミナがルグを見上げ、返答を促す。

「殺気が有りませんでしたので。」
『笑止!殺気の有無で判断するとは!人を殺めるのに気なぞ練らんぞ?
 それに殺気があれば領主殿を守れるというのか?
ならば守って見せよ?王都の者よ?」

彼女からまがまがしい気があふれる。
まさしく殺気だ。立っていられない。この私がだ。
セサミナは膝を付いている。

ルグはセサミナを守ることも出来ずに気を失った。

彼女は2人の護衛を部屋の隅に引きずり運びなにかを耳元でささやいている。

彼女はなにを考えている?
この圧がまだ解けない。

(もういい、解いてくれ)
(まだだよ?)
(?)

『邪魔者はいなくなった。ああ、マティス殿。いままでありがとう。
こうして領主殿と対面できた。なかなか、この護衛は手強くてね。
この距離まで接近することはできなかった。』
「なにをいってる?」
「兄さん?」
『我の話を信じていたのか?若造よ?我はこの2人とは別口の王都の者だと言えばわかるか?』
「?」
『わからぬか、情けない。なぜ、疑わぬのだ?まあよいわ。
 さて、若き領主殿よ、そなたはわかるか?』
「この2人は王都のものだというのはわかってる。探り探られの関係だ。
貴殿は兄の味方ではないのか?わたしに近づくために兄を利用したのか?」
『さすが、領主殿。あなたは王都に逆らいすぎる。この変動が起こっても王都に屈しないだろう?
それはさすがに目障りということだ。兄上に殺されたということでよろしいか?
なに、兄上もすぐに追いつく。ああ、あの男と同じ考えだな。我もなかなかに親切だ。』
「なにを言ってる!?」
セサミナが動かぬ体で私の前に出てくる。
「兄さん、こいつはなに?
とにかく逃げて!わたしは領主の力もってるからすぐには死なない!早く!!」

セサミナが必死に私の前にでる。
圧を跳ね返すように私を守っているが、彼女のほうが強い。
彼女の思考はずっとこうだ。

ちゃーちゃーちゃー、ずちゃ、ずちゃ、ちゃちゃらちゃらちゃちゃら・・・

なにをやってるんだか。

「セサミナ、こいつは何と問うたな?」
「兄さん!いいから逃げて!」

セサミナが泣きそうだ。よくこの圧に耐えているな、えらいぞ。

「こいつは私の嫁だ。」
「え?」

圧が消え、セサミナも気を失った。


















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