いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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71:表層と深層

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この国、このグラシオル大陸の人間はみな問答の経験はある。
子供のいたずらの叱責に親が使うものから、大審判で使われるものまで。
大審判級ではごまかしは通用しないが、
抜け道はある。ゼムが何もない祝いと称したように、
セサミナがわたしというのを昔のように僕と言ったり。

”祝い何もないことを祝ったもの”
”わたしは何もしていない”

心の中の表層と深層。
その表層も2段階だ。一番表のものは人に聞かす独り言のようなもの。
消して自分の真意ではない。

あなたはそれを読んだの?

男なら考えると思う。権力を手にして
女を侍らす、とっかえひっかえ手を出す。
あなたの力をもの扱いしたのに対して吐き気を覚えたのではなく、
そんな酒場での下世話な話の類を
私の真意だと思ったの?

あなたの心の中は、普通なら声を出して言ってることを
黙っているから読めただけだ。
深層なんて自分でもわからない。

でも、あなたを愛してるのはわかる。
固執してるといってもいい。なんでもいい、あなたが欲しいんだ。
先はわからないとあなたはいった。
それなのにそれにあなたは囚われている。
先のことはわからない。それでも、あなたといっしょにいたい。

ねぇ?私の心の中は聞こえる?
もっと奥まで。


彼女を抱え家に戻り、
台所の寝具に2人包まって、
ゆらゆらゆらゆら、幼子を寝かしつけるように。

目を閉じ小さく丸まっている。

彼女の名前はわからない。
名前がないからここにいるのなら名前なぞいらない。
愛しい人で十分だ。

でも、私の名を呼んで?

名で私を縛り付けて、離さないで。



ゆっくり目を開ける。

「早合点したの?」
「そうだね。」
「ものすごくウハウハだった。わたしはいなかった。
 だから、もういらないんだって思った。邪魔になるって、それで捨てられるって。」
「もっと奥まで見れたなら、愛しい人だけだったよ。
 そのウハウハの相手はすべてあなたで人には言えない、
 問答でも答えられないようなことをいっぱいしていたと思うよ。」

「ぎゃ!!」

彼女は顔を真っ赤にして、わたしから離れようとする。
心の中が見えたのだろう。離すわけがない。

『心の中は見えない!!感じない!!』
彼女がいう。
『心の中は見えない、感じない、相手と本人が了承しない限り』
私が言う。

「なんで!!」
「上書きできるんだろう?私はあなたに見てもらいたい。
 でもそれは、あなたが見てもいいと思った時だけだ。
 ね?それでいいでしょ?また早合点しそうになったらいって?
 いつでも見てせるから。表面ではなく、奥の奥。ね?」
「・・・スマホはいつでも見ていいよ、
 浮気なんかしてないからっていう、チャラい男みたいなセリフをいうな。
  そういうのに限って完璧に痕跡を消してるか、
 別手段をもってんだよ!!」

「んー、なんとなくわかるけど、伝わらない言葉があるね。
 それと、言葉遣いがさっきから、あの啖呵といい、その、柄が悪いよ?
 惚れなおしたけど。」
「うるさい、うるさい!!」

頭をぐりぐりと首元に押し付けてくる。
かわいいな、こっそりにおいを嗅いでくるところも。

同じように彼女の匂いをかぐ。
少しの間離れていただけなのに、私と同じ匂いは薄らいでいる。
彼女だけの匂いだ。甘い匂いと汗のにおい。
もっと嗅ぎたい、舐めたい。すべて。

・・・風呂に入らずそのまま抱きたい。


「腹は減ってないか?あれだけでは足りなかっただろう?
 簡単なものをすぐ作るよ。私も腹がへった。いっしょに食べよう?
 バッカスの石はやってしまったから酒も少しだが買ってきてるんだ。」
 「あたらしい紫の海峡石あるよ。
 まだ試してないけど、バッカスの石にしてくれる?わたしももうすこし食べたい。
 ・・・できれば肉で。」
「また紫色が手に入ったのか?」
「うん、ほかにも。砂漠石もほんとにゴロゴロしてる。
 ここから流れて辺境に行くんじゃないのかな?小さくなりながら。」
「そうなのか?ここ数年海峡石は出回らず、高騰しているそうだ。
 売るためによけていた小さな石は必要なものを買った分以外は
 ゼムに預けた。領主のために使ってほしいと、勝手だったか?」
「ううん、そんなことないよ、それでいいと思うよ。」
「ありがとう、さ、飯にしよう。すぐに作るから。
 この寝具だけ部屋に置いてきたら手伝って?」
「うん。」

待っているように言うと一人で風呂に入るかもしれない。
ああ、心の中が見えなくてよかった。

布団を浮かせて運ぶ彼女が振り返り
やっと笑った。

「おかえり、マティス。」


ああ、俺の嫁は世界一だ。



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