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44:タロスの木
しおりを挟む家、元家のあったところまで、戻り、彼女が声を上げる。
「ただいまー。あ、そうだ、タロスさんにお礼がいいたい。」
そういうと、木に向かって歩き出した。
ここまでは火も廻らなかったのか、積み上げた石もそのままだった。
井戸は巻きこまれたか、崩れていた。
「タロスさん、はじめまして。
マティスを嫁にもらいました。必ず幸せにします。すでにわたしは幸せです。
あ、服ももらいました。とても素敵です。ありがとうございます。
しばらくしたら、違う砂漠に行きます。」
「・・・嫁の話はいい。
タロス、すまない、家を失ってしまった。だが、大体のものはそのまま使わしてもらっている。
それで、契の相手が見つかった。彼女だ。弟のこともあって、この砂漠を出る。
しかし、生きる場所は砂漠だ。」
「この石と木も持っていく?」
「石はこのままでいいが、この木は持って行きたい。あの扉もこの木を床板にしたものだ。
生き物はダメだといったが、植物もだめなんだろうか?」
「んー、それは要実験ですね。空気と水分も一緒に入れて、別空間って感じにすればいいかな?
ちょっと、ここに生えてる草を持って帰って実験してみようか?」
「では、そこの薬草を少し持っていこう。料理にも使える。」
「おお!俺の嫁は世界一。」
「その言葉は呪文なのか?」
「ははは、そうとも言える。これをつぶやくだけでさらに元気が出るよ?」
「・・・そうか。」
火からのがれた薬草数種を土ごと外套に包み、
木の裏手に積み上げていた加工用の木材を小袋にいれた。
「様子を見に来たりしないかな?弟君たち。
薬草や積み上げていた木材が無かったら怪しまれない?」
「そうだとしても、まさか、地下にいるとは思わないだろう?
どこかで生きてるとおもって見当違いなところを探せばいいさ。
次の混合いはじめにはあきらめているだろう?」
「うん、そうだね。あ、変装しよう。マティスを絶世の美女にしてあげるよ?」
「・・・ああ、その話もあとだ。帰ろう。」
「うん、帰ろう。んじゃ、タロスさんと、またね。それと、」
そういい、タロスの木に抱きついた。
『タロスの木よ。何かあったら教えて?扉に伝えて?』
「そんな言葉でいいのか?」
「うん、植物は言葉が分かるからね。大丈夫。」
「さて、扉はどこ?扉くーんお待たせ。戻りました。」
音もなく扉が押しあがる。
「・・・すごいな。」
「うん、扉君はかしこいね。」
階段を下りる。
振り返り、扉を閉めた。
「あ、お願いしとかないと。」
彼女が言いうが、今度は私が言葉を掛ける。
『タロスの木の扉よ。ありがとう。なにかあったら伝えてくれ。
また外に出るときまで、ここを誰にも知らせないでくれ。』
「うん。基本はお礼だよね。言霊は。」
「そうだな。さぁ、薬草と木材をおいて来よう。
お前の作業部屋でいいか?トカゲとサボテンは台所に持っていく。
少し薬草はもらうぞ。」
「うん、こっち。さ、どうぞ。」
その部屋は彼女の部屋よりさらに簡単なものだった。
机、椅子、壁に棚。
ただ、部屋の真ん中に階段があった。
「なぜ?」
「うん、なんでだろうね?」
「わからんのか?」
「いや、作れるものなら作りたいと思う商品なんだよ、螺旋階段は!」
「そうなのか?上にいけ、はしないのか?のめり込んでいるが?」
「んー、この上って位置的にどこ?」
「そうだな・・・タロスの木の近くかな?」
「え?まずかったかな?タロスさんとこのお墓壊してないかな?根っことか?」
「いや、ここはそれなりに深いだろう?墓といっても石を積んでるだけだ。」
「そうなの?その遺体とか、遺灰とかをあの石の下に埋めてるんだと思った。」
「遺灰、同じだな?砂漠で荼毘に伏して遺灰はそのまま砂漠にまく。
あの石はタロスが死んだことを示すものだ。あのまま、ここで朽ちて行く。動かしはしない。」
「そうか。あの木はもっていくんだよね。」
「あれは俺が植えたんだ。タロスの石に木陰ができるように。
タロスの死んだ証は置いていくが、タロスの木は生きているからな。持っていく。」
「わかった。この薬草たちでちょっと実験してみるね。
2株ぐらい置いて行って。木材はいつでも使えるように、どっか隅に。
あ、そこはトイレだから、そっちね?」
「といれ?便所をつくったのか?どうして?」
「いや、あすこって広いでしょ?落ち着かないのよ。」
「そうなのか?ちょっと見てもいいか?」
「ん?どーぞ?設備的にはおんなじだよ?」
扉を開くといきなり座るところがあった。
扉を閉め座ってみる。いままでの便所より、少し広いぐらいか?うむ、落ち着く。
この便所がいいな。
少ししてから外に出ると、植木鉢を作ったのか、
持ってきた薬草はきれいに植え替えられており、土で汚れたであろう外套もきれいになっていた。
彼女も外套を脱ぎ、靴も柔らかいものに変えている。
「すまない、手間を掛けさせた。」
「ん、ありがとうってゆってくれればそれでいいよ?」
「ああ、ありがとう。」
軽く口づけを落とす。
「・・・キス」
彼女はまた、腰を強く自分で抱きしめている。
「?先ほどの問答の時もそうしてたな?まさか、体になにか影響していたのか?
無理はするな!」
「・・・ちがう。影響というか、力の言葉は抵抗できるけど、マティスのは受け入れたいの!本能的に。
だから、こう、なんだ?キスして抱きしめてほしいなんて、あんな力強くお願いしてくるから、
こう・・・」
自分で自分を抱きしめている。
「?・・・!・・・もっと?きす?」
「あ、あ、マティスぅ・・その声でいわないで」
深い深い口づけをする。
腰を強く抱きしめれば、頭を押し付けてくる。
「んー、マティスの匂い。ちょっと汗臭いけどいい匂い・・・」
なんとも恥ずかしいことをつぶやいている。
お前の匂いのほうがいい匂いだ。
髪に、首筋に、口づけを落とす。
「あの?軽くシャワー浴びてきていい?
さっき”きれい”にしたけど、ちょっと・・・」
「・・・きれいにしたいのか?」
「うん。あっ、違う!」
抱きかかえ彼女の部屋に向かう。
夜の砂漠にいるよりも、
素直な彼女はかわいらしかった。
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