いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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24:無意識

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砕けた砂漠石のコップを元に戻し、
穴の開いたテーブルは、なぜかそのままにしておくといった。

「なるほど、そのタンサンスイを作るのに空気の弾が出る銃を作ってしまって、
 自分の足に撃ち込んだと。」
「いや、そうなんだけど、ちょっと違うような?」
「・・・完全に治したのか?」
「ん?穴が開いたからね。
体は動き出してるから、血を止めるだけじゃだめだと思って塞いだつもり。」
「動きがぎこちないのは?」
「いや、床にこけたときの打ち身ぐらい甘受しとこうかなって。
母さんにあんたはすぐ痛みを忘れるって言われてたから。
ここでこれまで治しちゃうとまたおんなじことしそうで。」
「打ち身?痛いのか?」
「いや、あおたんが出来てる感じじゃない?」
「見せてみろ?」
「え?なんで? 驚かしたのは悪いかったけど、見せるほどでもないし、
大丈夫だよ?」

『・・・見せろ』

「えーっと、マティス君?さっきから言霊っていうか力使ってんだけど、
気づいてる?」

抵抗できるが、素直に受け入れたい欲求のほうが大きい。
怖いなこれ。
シャツをたくし上げ、ズボンを絞めているひもを緩めて下に下した。
なんの罰ゲームだ。

貫通した形跡は残ってないが
腰骨あたりを強打したのかかなりの面積で内出血していた。
おパンツも上に引っ張る。範囲が広い。
あらら、これは痛いな。

マティスが顔をしかめる。
あんた、槍で刺した時でもそんな顔しなかったのに。


要約すれば自分の足を造った銃で撃ちました、と、言うことだ。
話の中で彼女の母君も出てきたが、苦労がしのばれる。
話しぶりでは母君はもう存命していないようだ。
結果を想像するというのは子供のころから常日頃行っていたようだ。
結果が違うだけと主張しているが、この世界ではその想像した結果が現れているのか?
血も何もか戻す力はすごい。
しかし、椅子に腰かける動作がぎこちない。
まだどこか怪我しているのか?
見せろといったが、嫌がった。もう一度力強く言うと、先ほどから力を使っているという。
そうなのか?
そういいつつも、シャツを上げズボンを下す。
白く肉付きのいい足が現れその下着の下に青紫の内出血の後を見た。
彼女も驚きながら下着を上まで上げる。手のひらより大きい。

痕になるのではないか?いやだ。
そう思うと彼女の前に跪き、腰を抱き寄せその箇所に口づけをした。
治って。
彼女が息をのむのが聞こえた。

マティスが跪き打ち身の個所にキスを落とした。
見る間に痛みと青紫に変色した肌が消えていく。
ああ、力を無意識に使っている。

「マティス、マティス。
だめよ、これはたぶんだめだ。無意識すぎる。
わたしも力を使うけど、意識している。声色を変えている。
そうしないと際限がなくなる。それは怖いことよ。
ね?石を使わなくてもどこかでブレーキをかけないと。
ああ、だから統治者は石を使うようにしてるんだ。
そう思い込ませている。たぶん昔から。
ね?わたしも気を付ける。だからマティスも気を付けて。意識して。ね?」

マティスは青ざめ泣きそうになった。
ことの重大さに気付いたのだろう。わたしもだ。
おもうままになってしまったら、それはある意味地獄だ。
なにも希望も持てない。

「あ、あとが残ると思った。いやだった。きれいな体に傷が残るのは嫌だったんだ」
「うん、うん、ありがとう。わたしのためにしてくれたんだね。
 治してくれるのはうれしいよ。でもこれからは意識して。言葉に出して。
 それだけできっと大丈夫。ね?」

泣きながら頷いた。
震えるマティスを抱きしめたが、冷たい。風呂上りなのに?
そんなに時間はたっていないだろう?

「からだ冷たいよ?どうして?ぬるいまま入ってたの?」
「水を浴びた。」
「え?なんで?熱かった?」
「いや、違う。・・・あんたと一緒にいたいと思った。
 いろんなものを知らないものを作ってくれるからじゃない。
 でも、それがないとは言い切れない。
 でも、そんなことより抱きたいと思った。ずっと思っていた。それが恥ずかしくて、水を浴びたんだ。」
「・・・おお、そう。正直ね。そういうのゆっちゃうんだね。」
「?言葉にしろといった!!」
「ふふ、そうね。無意識力を使われたら困るもの。たぶん、いやだと思わないから抵抗できないよ。」
「嫌じゃないのか?同意してくれるのか?」
「はは、うん、そうね。うん、抱いてほしいな。
 あ、でも、お風呂に先に入りたい。マティスも一緒にはいろうか?どうだった?お風呂?よかった?」
「いっしょに入るのか?え?それはお前の世界では普通なのか?え?」
「普通というか、家族風呂とかあるし、そこまで珍しいことでもないよ?」
「契を交わした夫婦でも一緒に湯あみはしない。手伝うことは有るが。」
「うーん、お風呂が一般的じゃないからじゃないの?んじゃ、やめとく?」
「いや、入る。」
「即答だね。あ、石鹸貸してね。」
「・・・また、そんなこと。夫婦でも同じ香りはまとわない。」
「いや、そうなの?でも、わたしもってないし、
 その香り?違うのある?石鹸の原理を中途半端にしってるから逆に作れない。」

そうなのだ。漠然としたものは想像通りになるが、
へたな知識があるとこれは違うって思ってしまう。なので作れない。

「・・・この香りだが嫌ではないか?」

そういうとわたしの方を抱き寄せ自分の首元に押し付けた。
あ、ベットの香りだな。いい香りだ。
というか、抱き寄せるのがなんか、スムーズだな。

「うん、好きな匂い。マティスのベットの匂いだね。」
「なっ!!そういうことは言ってはいけない!!」
「・・・基準が分からんよ。とにかく入ろう。けどさ、大体もう寝てる時間じゃないの?」
カレンダーをみれば日付が変わって3時である。
「ああ、月の光を見ないから間隔がつかめないがあと少しで月が沈む。」
 マティスは暦を見てそういった。暦の光具合はわたしにはわからない。
「眠くないの?」
「眠くない。風呂にこう、一緒に。」
「はいはい、風呂に行こう。着替え取ってくるよ。」

部屋に戻り作った寝間着とおパンツを出す。
寝るときにはくおパンツはゆったりサイズ。
ちいさく切った布も。タオルってないのね。

部屋を出るときに姿見に映ったわたしは、知らずに微笑んでいた。


当分一緒に住むのだからそうなるかもしれないとはおもったけどね。
うん、わたしも彼を求めている。



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