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Chapter.02
大切にする意味(1)
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※すみませんが、作者である私の都合で、無し首族との戦いを端折りました。後々割込み挿入させます。
※アルデバランの娘との契約を終えたあとの話です。
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残すは最大の難関、死の海域。
エリカのトラウマになっている海竜を三人で倒し、舟で向こう側へ渡るだけと思えばあっさりしてる。
(此処からが正念場だ)
オリキスは二つの問題に神経を尖らせる。
一つは、バーカーウェンからの脱出。エリカを本土へ連れ出そうと死の海域の境付近まで舟を進めたら、数年前に水鳥の巫女が放った海竜が出現し、行く手を阻む。これは予想の範囲内だ。
オリキスが問題視しているのは、カコドリ遺跡で教わった『勝つための条件』。海竜と対峙したときに、エリカがアルデバランの娘として強さを示すことが必須だと言われた。
本人は自発的に火の妖精の元へ通い、睨み合ったり戦ってみて不安を減らす努力はしているが、本物を目の前にして恐怖心が蘇り、何もできない可能性はある。
(海竜と戦って負けが濃厚になったらバーカーウェンに引き返し、作戦を練り直せばいい。逃走できるなら)
欲を言えば一度で勝ちたい。再挑戦を続けると、精神の消耗戦になるからだ。何度も退却して無駄に日が経過するようであれば、エリカは努力を辞めるかもしれないし、オリキスは自分の機嫌を保てる自信がない。バルーガも匙を投げ、三人とも精神を追い詰められてしまうだろう。
では、エリカを無理やりバーカーウェンから連れ出すのはどうか?
オリキスは島を訪れて間もないときに、その方法を探すという考えを除外した。
翼竜の書物には【近隣から遠方の国まで自由に直接飛んでいける転移魔法を使っても、滞在しているあいだは無効化される】と書いてあったからだ。
一度入った鳥籠は、安易に出られない。
力づくで押し通すことは不可能。
もう一つの問題が、死の海域の越え方。
アーディンはオリキスに、出発する日に何をすべきか教えた。
「空が夕焼けで染まる頃、エリカの家の隣りに集まってくれ。俺が地面に紋を書く。そこに翼竜の書物を乗せてすべて焼き払ったら、夜のうちに出発してくれ」
オリキスは尋ねる。
「なぜ、夜ですか?」
アーディンは説明した。
「日中じゃ駄目なんだ」
「?」
「水鳥の巫女と同じ髪色に変化した所を、多くの人目に晒させるには、まだ時期が早い」
聞こえは良く、言ってる意味をオリキスは理解できるが、困ったことに夜の海では人を襲う水霊が現れる。撃退方法は光術か、光術の上位にあたる輝術の使用。
エリカが仕事で外出する頃合いを狙い、アーディンは昼過ぎにオリキスを連れて翼竜の部屋へ入り、右手の人差し指で紋を描いた。
「その紋は?」
「ギーヴル独自に編み出したやつさ。東国のお姫様から教わった魔法が基礎になってる」
なぞった部分は薄緑色の光が浮かび、壁から一冊の書物が押し出されるようにゆっくり出てきた。厚さは親指の半分。
「これに、光芒の札の作り方が載っている」
翳すだけで水霊を退ける強力な道具。
「あなたが作ってくれるのですか?」
オリキスの質問にアーディンは、
「怖いこと言わないでくれよ」
と、苦笑いを浮かべて書物を差し出した。
「…………」
受け取りに一瞬迷う黒い瞳。
有難いなんて素直に喜べない、オリキスにもバルーガにも、手に余りすぎる危険な代物。
光術は札であっても、使用のときも、作るときも、必ずダメージを受ける。最小限のダメージで抑えるには、先に聖痕の手袋を作って嵌めておかなければならない。ないまま作ることはできても寿命が縮み、最悪、足、手、頭、どれかを失う。
光芒の札となれば、運が良ければ体の三分の二残ればいいほうだ。
光術と輝術はイエローエルフの秘伝。人間では体への負担が大きく、強力な術を放つときは『錆化』と呼ばれる蝕みに遭い、詠唱が終わるまでに体が消滅する。
しかも、自身へのダメージを軽減させるためのアンチ防具やアンチアクセサリーはエルフと翼竜にしか作れない。外に出回っている物は一度しか効力を発揮せず、高額で耐久性は不十分。
錆化を完全に回避できる者はエルフを除き、光のチカラを持つ十二糸か、突然変異の人間のみ。
あるいは光輝、陰隠、この特殊な属性を得意とするアルデバランの娘。
(二つの問題を解決するには、エリカ殿の協力が絶対不可欠。自分の意思で外へ出たいという強さが)
オリキスはその気持ちを、砕かないであげたいと思った。
※アルデバランの娘との契約を終えたあとの話です。
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残すは最大の難関、死の海域。
エリカのトラウマになっている海竜を三人で倒し、舟で向こう側へ渡るだけと思えばあっさりしてる。
(此処からが正念場だ)
オリキスは二つの問題に神経を尖らせる。
一つは、バーカーウェンからの脱出。エリカを本土へ連れ出そうと死の海域の境付近まで舟を進めたら、数年前に水鳥の巫女が放った海竜が出現し、行く手を阻む。これは予想の範囲内だ。
オリキスが問題視しているのは、カコドリ遺跡で教わった『勝つための条件』。海竜と対峙したときに、エリカがアルデバランの娘として強さを示すことが必須だと言われた。
本人は自発的に火の妖精の元へ通い、睨み合ったり戦ってみて不安を減らす努力はしているが、本物を目の前にして恐怖心が蘇り、何もできない可能性はある。
(海竜と戦って負けが濃厚になったらバーカーウェンに引き返し、作戦を練り直せばいい。逃走できるなら)
欲を言えば一度で勝ちたい。再挑戦を続けると、精神の消耗戦になるからだ。何度も退却して無駄に日が経過するようであれば、エリカは努力を辞めるかもしれないし、オリキスは自分の機嫌を保てる自信がない。バルーガも匙を投げ、三人とも精神を追い詰められてしまうだろう。
では、エリカを無理やりバーカーウェンから連れ出すのはどうか?
オリキスは島を訪れて間もないときに、その方法を探すという考えを除外した。
翼竜の書物には【近隣から遠方の国まで自由に直接飛んでいける転移魔法を使っても、滞在しているあいだは無効化される】と書いてあったからだ。
一度入った鳥籠は、安易に出られない。
力づくで押し通すことは不可能。
もう一つの問題が、死の海域の越え方。
アーディンはオリキスに、出発する日に何をすべきか教えた。
「空が夕焼けで染まる頃、エリカの家の隣りに集まってくれ。俺が地面に紋を書く。そこに翼竜の書物を乗せてすべて焼き払ったら、夜のうちに出発してくれ」
オリキスは尋ねる。
「なぜ、夜ですか?」
アーディンは説明した。
「日中じゃ駄目なんだ」
「?」
「水鳥の巫女と同じ髪色に変化した所を、多くの人目に晒させるには、まだ時期が早い」
聞こえは良く、言ってる意味をオリキスは理解できるが、困ったことに夜の海では人を襲う水霊が現れる。撃退方法は光術か、光術の上位にあたる輝術の使用。
エリカが仕事で外出する頃合いを狙い、アーディンは昼過ぎにオリキスを連れて翼竜の部屋へ入り、右手の人差し指で紋を描いた。
「その紋は?」
「ギーヴル独自に編み出したやつさ。東国のお姫様から教わった魔法が基礎になってる」
なぞった部分は薄緑色の光が浮かび、壁から一冊の書物が押し出されるようにゆっくり出てきた。厚さは親指の半分。
「これに、光芒の札の作り方が載っている」
翳すだけで水霊を退ける強力な道具。
「あなたが作ってくれるのですか?」
オリキスの質問にアーディンは、
「怖いこと言わないでくれよ」
と、苦笑いを浮かべて書物を差し出した。
「…………」
受け取りに一瞬迷う黒い瞳。
有難いなんて素直に喜べない、オリキスにもバルーガにも、手に余りすぎる危険な代物。
光術は札であっても、使用のときも、作るときも、必ずダメージを受ける。最小限のダメージで抑えるには、先に聖痕の手袋を作って嵌めておかなければならない。ないまま作ることはできても寿命が縮み、最悪、足、手、頭、どれかを失う。
光芒の札となれば、運が良ければ体の三分の二残ればいいほうだ。
光術と輝術はイエローエルフの秘伝。人間では体への負担が大きく、強力な術を放つときは『錆化』と呼ばれる蝕みに遭い、詠唱が終わるまでに体が消滅する。
しかも、自身へのダメージを軽減させるためのアンチ防具やアンチアクセサリーはエルフと翼竜にしか作れない。外に出回っている物は一度しか効力を発揮せず、高額で耐久性は不十分。
錆化を完全に回避できる者はエルフを除き、光のチカラを持つ十二糸か、突然変異の人間のみ。
あるいは光輝、陰隠、この特殊な属性を得意とするアルデバランの娘。
(二つの問題を解決するには、エリカ殿の協力が絶対不可欠。自分の意思で外へ出たいという強さが)
オリキスはその気持ちを、砕かないであげたいと思った。
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