マグナムブレイカー

サカキマンZET

文字の大きさ
上 下
128 / 169
第3章 東と西 黒の追憶編。

第128話 現状把握する時間。

しおりを挟む
「……」

 ワゴン車の後部座席で爆睡する忍を運転手以外の全員は興味深く見ていた。

「スゲェな。マネージャー兼プロデューサーまでやりきってるから、過労死してもおかしくねぇのに……」

「まあな。俺がボディーガード以外何もできねぇから、負担はデカイ。感謝しかねぇぜ、神崎忍には……」

 助手席に座る品川がポツリと呟き、それを吹雪が反応し返答する。

「貴様が、少しでも会計できたなら負担は減る」

「へいへい。アンタも相変わらず俺に対する悪態が止まりませんな」

「ほうそうか。そんなに罵詈雑言が欲しければくれてやろう……ろくでなし、サボり魔、遅刻魔、無能、頭悪い、ボンクラ……」

 尽きることのない雅の暴言を三人は聞き流していた。

「この半年間なにしてた?」

「結構、色々させられてた。給料はええけど、スゲェしんどい」

「原因がコレだと思うと大変だよな……」

 まだ言い続けてる雅を見て、品川は吹雪に同乗する。

「お前の方も大変だったらしいな」

「あぁ、いきなり弟子はできる。いきなり師匠は来る。刑事さんに目を付けられたり、『アトラス財団』には勧誘されて、ボコボコにされたり……疲れるぜ」

「……お前がボコボコにされた? 完全に手ぇ抜いたやろ。色んな奴と戦ってきて、それに悪魔にも勝ってんねんで? 手加減してるしか考えられへん」

「バレてたか……まあ、弟子の為による最終試験みたいな物だ。ちゃんと、基礎さえやってさえいれば喧嘩程度は何とかなる」

「基礎ね……俺は我流でしかやってこなかったからな。ちゃんとした人が教えてくれた訳じゃねぇから、羨ましいくらいだぜ」

「羨ましいか? 失敗すると殴られるし、怒鳴られるし、一回だけ十円ハゲできそうなぐらいストレス溜まることあったし……あんまり良い物じゃねぇぞ?」

「あの性格だと、あながち嘘ではなさそうだ」

 すると雅の罵詈雑言を隣で聞き流しながら、暇になった南雲が会話に入る。

「マジかよ」

「あぁ、ジャーマンで俺は倒された。アレで元覇気使いでも、体力だけは鍛えてきたんだろうな」

「あの見た目で、もう五十らしいぜ。あの格好はコロンボに憧れて真似してるらしい。たまに聖職者になるのは、癖で祈る時に着るらしい」

「そういえば神崎達が信仰してる神様って、どんな御利益があるんだ?」

 純粋な疑問を修二は持ち、未だに言い続けてるいる雅へ尋ねる。

「……実は知らない。私はそこまで関与していない」

「え? メイド長なのに?」

「いや、信仰するしないかは個人の自由だから無理強いはしないって、輝様、忍様、洋様、柏木さんから全員に……」

「まあ、信仰と仕事は別だもんな」

 修二は歯切れの悪い雅をフォローする。

「でも、日常生活でも宗教的な話ぐらいはあるやろ?」

「……よく分からないんだ。どんな神様なのか、どんな祈り方なのかも話は出ないし……」

「神様っていうぐらいだから閻魔光の可能性が高くないか?」

「なんだろうな? 見た感じだと、閻魔さんとの関係はそんな感じゃなかった。お互いに協力関係みたいな感じだったな」

「神嫌いの忍、神と魔神のハーフである閻魔さん……この二人、まさか俺達でも想像つかない事をしでかすんじゃないのか?」

「あり得そうやな。けど、今は伊波が何をやらかすのか心配やわ」

「伊波?」

「魔界連合閻魔組若頭補佐、伊波一翔。お前よりイカれた人間だ。あまり近づかない方が身のためだ」

 そこへ寝起きで重たい身体を起こしながら、四人の話を聞いていたのか、淡々と紹介をする。

「……強いのか?」

「……一般的にはな? ある格闘技の世界チャンピオンを半身不随なるまで殴り、噂では債務者が気に食わない奴なら、臓器と腕を海外に売り飛ばし、更に骨を金に変えてマニアックな連中に販売してる……もはや人間の道徳を完全に欠落させた化物だ」

「あだ名はクレイジードレッド。俺と初めて出会う前に、道端でヤクザを病院送りにしてたわ。東京では厄介者、警察からは法が適応されない鼻摘まみ者や」

「……警察ね」

 ここに出会う前から警察とは、一波乱があったとは言えなくなり、品川は苦笑いするしかなかった。

「まだ目的地ちゃうで?」

 目的地まで時間があると吹雪は親切心で、寝ていて良いと伝えた。

「いや、もう大丈夫だ。数分でも仮眠とれただけでも十分だ。それに時間は早いほうが良い」

 すると今まで吹雪が運転していた車は、瞬時に取引先の会社へとワープしていた。

「やっぱ、闇の覇気は便利でチート性能だな」

 利便性のある闇の覇気は羨ましいと思った品川だった。

「たまに寝惚けて使ったら、土の中で目覚めることがある。利便性はあるが少し不便でもある」

「アンタが土の中から、這い出てくるのを想像すると笑えてくるな」

「お前からしたら笑えるかもしれんが、俺からすれば服は汚れるし、周りから何事かと心配されて面倒だ」

「そんだけ大切にされてる事だろ? なんか苦労人みたいなイメージあったんだけど、意外と親しみやすいんだな?」

「初めてだな。誰かから親しみやすいなんて言われたのは……いつもなら恐れられたり、ご機嫌取りされたり、意味もなく称賛されたりする。俺にとっては、それが気持ち悪くて仕方なかった……お前はそのままでいてくれよ?」

「あ? 誰に向かって言ってんだ。俺は俺のままだぜ?」

「……いつか衝突するぞ。お前が望んでいなくても、その時は残酷に……」

 忍は品川の方には見ず、窓ガラス越しから見える夜空へ向けて発言した。

「それって……」

「吹雪、南雲、留守番は頼んだぞ」

 これ以上話していると、待ち合わせ時間に遅れる為、すぐさま切り上げて、二人へ指示を出した。

「俺は吹雪みたいに、部下になった覚えはないんだが?」

「俺も好きでなった訳じゃねぇよ」

 南雲が文句垂れ出し、吹雪も機嫌が悪くなる寸前だったので……

「天才である南雲と有能な吹雪の海道コンビに任せてるんだ。お前等がチンピラごときに負ける訳ないと思っているから、信頼してから頼むんだ」

「「……そう言われたら仕方ねぇよな! よし、この海道コンビに任せろ!」」

 息の合った返事で忍の命令を了承した。

(こうもよく簡単に嘘つけるよな?)

 忍からしたら、二人は天才でも有能から程遠いぐらい力不足なのに、士気向上の為に淡々と嘘をつくのが、品川にしたら残酷だなと思った。

「それじゃあ頼むぞ」

 忍は雅と品川を連れて、ビルの中へ侵入したのだ。

「お前、あの嘘は残酷じゃねぇのか?」

「嘘つかないとアイツ等は命令聞かないだろ? それに全て嘘というわけじゃない。半分ぐらいは真実を言っている」

「それは一般人基準だろ、お前基準だったら……」

「お前は偏見で物を見るタイプなんだな……この五年で強くなったのは、お前だけじゃない。吹雪は頭を使うようになった。南雲は技術開発で戦術を上げた。全て……お前に追い付くためだ」

「はあ?」

「お前が俺を目指すように、アイツ等もお前に追い付きたいと、思ったから強くなる。強者っていうのは、そういう目標になる。お前もうかうかしてられないな?」

 忍は優しく品川の右肩を触れ、自分なりの励ましを与えた。

「……」

 そして品川は焦る。このままでは忍に近づけない上、周囲から追い抜かれる心の余裕が少しずつ削られていった。

(品川には酷なことをしたな。焦る心が出てくるが、ここは経験してもらおう……お前以上に強い奴はゴロゴロと出てくる。その右腕だけで勝てる程、世界は広く甘くない……強くなれ品川)

 そして三人はエレベーターへ乗車し、取引先の相手へと出会うのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

凪の始まり

Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。 俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。 先生は、今年で定年になる。 教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。 当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。 でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。 16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。 こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。 今にして思えば…… さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか? 長編、1年間連載。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...