マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第2章 魔導使い襲来。

第69話 第四戦、鬼神対吸血鬼。

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「こ、こいつ…あんだけ氷で串刺してんのに…ピンピンとしてやがる。」

 吹雪は激しく肩で息を繰り返しながら、目前の敵に手間取っていた。

「俺も黒焦げするまで電気流してるが…効いてる様子なんてねぇよな?」

 南雲も吹雪と同様に疲労を見せていた。

「『覇気使い』と聞いて、楽しみにしていたんだが…少しガッカリだ。」

 金髪の短髪、人より耳が長く、『魔導使い』みたいに肌は真っ白、貴族っぽい服とマントを着服し、姿勢をすっと立ち尽くす男がいた。

「うるせぇな!」

「アイツの挑発に乗るな! 怒りで判断が鈍るぞ。いずれ何処かに隙は生まれる。」

 怒りで我を忘れている吹雪へ、南雲は冷静な判断にさせる為、隣で落ち着かせていた。

「君は人間として十分な素質があるな。どうだね? 私の秘書となりビジネスをやってみないか?」

「…一応、聞いてやるぜ。」

 貴族の男は南雲の天才的な素質を見抜き、手厚くスカウトしていた。
 そんな怪しい誘いを受けた南雲は、警戒しながらも男へと尋ねた。

「君、コレを知っているかね?」

 男が取り出したのは、小さな袋の中に白い粉が入った物を、二人へ目立つように見せていた。

「…おい、まさか覚醒剤とか言うんじゃねぇよな? 俺に犯罪の片棒を担がせるつもりか?」

 南雲の考えられる範囲で答えた結果、男は何かが可笑しかったのか、大きく笑っていた。

「違うさ、コレは魔界で自然に生産された麦を擂り潰した物だ。我々はコレを売り、利益を得ている。賢い君が気に入ったから、誘っているのだ。どうだい? もし、君が良ければ利益の四割は支払おう。」

 怪しさ全開の勧誘や利益になるかさえ怪しい話で、南雲も可笑しかったのか大きく笑っていたのだ。
 そして男へ右中指を立て、欧米風に侮辱していたのだ。

「このfuckyouクソ野郎! ぶち殺すぞ!」

 普段の南雲から出てきそうにない言葉が突然と出てきたのだ。それもコメカミから青筋が浮かぶ程の怒った顔でだ。
 そんな南雲を隣で見ていた吹雪は、突然の事で呆然とするしかなかった。

「何、考え方が三流みたいな事で勧誘してんだ? 俺みたいな一流天才弁護士に喧嘩売る前に、先ずはテメェの貧しい考え方を改めとくんだな!」

「…スゲェ、ボロクソに言うよな? まあ、確かに怪しげな粉で、ボロ儲けしようとする奴の誘いなんてーー身を滅ぼす真似なんて絶対にしねぇよな? お前は…。」

 気を取り直して、吹雪は南雲の行動で勇気を貰った。そして何時も通りの調子と冷静な判断を取り戻したのだ。

「…そうか。残念だよ、君みたいな人間を利用できないとなるとーー死んでもらうしかないな。」

 男は上空へと浮遊し、マントを大きく広げたのだ。

「君達に見せよう、『覇気』だけが特別ではないと…『血潮の雨ブラッドレイン』」

 マントから針のような赤い物が出現していた。それは鋭く、不気味で、真っ赤な血が凝固した物だった。

(おいおい、多くねぇか!? コレを全部防ぎ切れるのか? ボヤいても仕方ねぇからやるしかねぇけどよ!)

 吹雪の脳内では氷盾ひょうたてで防ごうと考えていた。けれど、あの無数の数に対して防げれるのか心配していた。

「無謀は勇敢は履き違えてねぇよな? 俺は強敵を前にしたら“何をする”?」

 吹雪の耳から声が響き聞こえた。そして何か思い出して、フッと自然に鼻で笑ってしまっていた。

「南雲、溶けた氷に電気を流して蒸発させろ!」

「あいよ!」

 吹雪の指示に対し、南雲は少し考えた。が、成る程という理解した表情で笑い、両手を地面へ着けて、通電させたのだ。
 すると水は電気熱で蒸発し、水蒸気となり周りを覆っていた。

「…目眩ましではないですね。それに今の声で確信しました…本部長が、ここに来てる事がね。」

「あぁ、お前に会長からの退職金ケジメを渡しに来たぜ。クロード元部長・・。」

 水蒸気が徐々に晴れ鬼塚の姿は現となる。
 それは格好いい物ではなく、目を回して気持ち悪がっている修二を扱う、剣幕な表情の鬼塚だった。

「…き…気持ち…悪い…。」

 今にでも修二は鬼塚の背中で、遠慮なく嘔吐しそうになっていた。この気持ち悪い感覚は飛行機で帰って来た以上の不快感だった。

「おっと、忘れてた。…おい! 俺の馬鹿弟子二人組! 親友を助けてやれ。」

 せっせと急いで、吹雪と南雲は鬼塚から修二を受け取ったのだ。

「…お前…また無茶しやがったな。」

 吹雪は修二の右腕を見て、やはりかという怒りと安堵の様子だった。

「悪いが、俺はお前等を守りながら戦うほど器用じゃない。さっさと次の部屋へ向かえ、神崎!」

「俺に掴まって歩け。」

 ぬるりと無表情の忍が間から出現し、二人へ指示した。
 忍の指示に従うのは癪だが、鬼塚に邪魔者扱いされている以上は手段がないので、何も言わず従う。

「させませんよ! 『血潮の雨ブラッドレイン』!」

 そしてクロードは再び四人へ向かって、赤い針を放った。
 吹雪と南雲は助けもしない鬼塚を見て、刺さる恐怖で臆し瞳を閉じていた。が、一向に痛みがないので、確認するため目を開け驚愕していた。

「…俺等…今…攻撃されたよな?」

 吹雪は目前の出来事に理解できず困惑していた。

「あ、あぁ…これは…仰天な驚きだ。」

 南雲も不可思議な出来事に困惑し、頭を抱えていた。
 それは針が四人を“透過”し、地面と壁に突き刺さっていたからだ。

「『闇の覇気』か。『闇』の力で“透過”したな!」

「…ふっ、今気づいたのか? このマヌケ、俺の能力ぐらいは組でも噂になってるだろ?」

 忍はクロードへ対し得意気に嘲笑っていた。
 クロードは思い返してみれば、確かに組合では強敵として噂されていた。今更思い出した事に自分を殴りたいと思っていた。
 忍の『闇の覇気』は自分を“透過”できれば、触れるだけで他者を“透過”させる能力でもあった。

「インチキ過ぎねぇか、『闇の覇気』ってよ。」

「ラスボスには都合がいい能力だな。」

「お前等も極めれば身体を破壊されても、空気中の水分を凍結させて復活できる。雷で全ての攻撃を“透過”し攻撃も可能だな。」

「…それって何年ぐらい?」

「十年ぐらいだ。」

「その前にテメェが生きてるか、怪しい年数じゃねぇかよ!」

 とてつもない年数を聞いて吹雪は、その時まで忍が戦って生きているか怪しいので、突っ込まずにはいられなかった。

「馬鹿三組、日常漫才してる暇があるなら早く行けよ。」

 早くクロードにケジメたい鬼塚は、漫才する馬鹿三人組を急かしていた。

「おい、鬼塚。その三人組には俺を含んで言っているのか?」

 そこで面倒くさくも忍が馬鹿という言葉に反応し、真顔で鬼塚へ尋ねたのだ。

「…マジで早くしてくんねぇか?」

 流石に時間も猶予がない状況なので、鬼塚は ガチトーンで怒りそうになっていた。

「おい、馬鹿天才。早く行くぞ。」

「あぁ、早くしろ戦闘だけは天才で頭はクルクルパー。」

 吹雪と南雲は、もはや意味不明な悪口で忍を煽り誘導する。

「…よし、次の部屋まで俺と鬼ごっこで生き残れたらーー半殺しですませてやる。」

 その死刑宣告にも等しく、理不尽すぎる未来を回避すべく、疲れ気味な吹雪と南雲は脱兎の如く逃げ出した。
 その際、担いでいた修二を落としてしまい、二人は手段も選んでおられず、吹雪が右足首を掴み、南雲が左足首を掴み、引きずるように走り出したのだ。
 そして鬼ごっこ死刑が始まると忍も満身創痍な身体で力強く走る。

「そっちは任せた鬼塚本部長!」

「多分、生きて帰ってくると思うから後で来てください!」

 吹雪と南雲は必死に忍から逃走しもって、鬼塚へ応援していた。そして四人は部屋から急いで退室したのだ。

「…不思議か? 俺たち悪魔が人間の味方で友達感覚なのは?」

「えぇ、私には理解できません。家畜である人間が私達と同等の扱いなのが。」

「そうだな。人間は嘘つきで偏屈で身勝手でゴミみたいな存在だ。けどな、会長は言ってたぜ。その一部の汚い人間は理解するまでボロボロにし、綺麗で素直な奴は面倒を見るってな。」

「会長の間違いはそこです。会長は素晴らしい力と経済力、そして知力は正しく無敵なのに…。」

「お前の裏切りには最初から気づいてた。けれど、お前が潔く組から脱退するつもりなら放っておいた。だが、他の組と結託し、薬物を売った時点で絶縁が決定された。そして今、俺がここにいる事は、お前に絶縁状を渡しに来た事だ。」

 鬼塚は左懐から『絶縁』と書かれた手紙をクロードへ見せ、投げ渡した。受け取ったクロードは、中身を開けて広げ、読んだのだ。

「…ここまで尽くした私をーー絶縁扱いですか? 今まで『魔界連合』で部長まで登り詰めて、売り上げも貢献してきたはずだ!」

「確かにだな。だが、これは会長決定だ。誰にも覆すことができない。例え、それが神だろうが魔神だろうがな。」

「…だったら私が『魔界連合』の長になり、そんなルールを壊してやる!」

「…残念だぜ、このままエンコ詰めせず終わらせてやりたかった。けど、反逆されては俺も黙っちゃいられねぇ…兄貴が来るまで、ここで潰れてもらう。」

 鬼塚は本気となり、ジャケットだけ掴み日っ張り脱ぐ。そして背中からは暴れ狂う鬼神の刺青が、姿を現した。

「ふざけるな! 『血塗られた串刺しの槍ブラッディランス』!」

 激怒で我を忘れているクロードは血で巨大な槍を形成し、構えていない鬼塚へ勢いよく投擲した。

「図体だけはデカイ、槍だな。」

 鬼塚は避ける事はせず、呆れては無表情となり、右肩を大きく引いた。そして槍が間近まで近づくと鬼塚は見開き、右拳を前へと力強く突き出した。
 右拳と槍が激しく余波を撒きながら接触する。と、槍が粉々に粉砕されて虚空へと消滅した。

「…やっぱ部長止まりだな。この程度の魔力で本部長クラスに挑んだ時点で、お前の負けは確定してる。」

 組へ謀反をしたわりに実力が、依然として変わっていなく、鬼塚はクロードに対して失望していた。

「安心してください。私も魔王と契約した事により…私も『魔導』を使える事になりましたからね! 『増幅の魔導』!」

 そうクロードが大きく声で告げる。と、鬼塚の身体は震え、そして所々から赤く鋭い槍が突き出てたのだ。

「これが『魔導』の力だ! 閻魔光でも叶わない無敵の力だ!」

 鬼塚がクロードの赤い槍を拳で破壊した事で、毛穴から血の粉末が侵入し、形を成して攻撃されたのだ。
 本来、細菌レベルの攻撃は動きを拘束する為に使われる。が、クロードの攻撃は形を成し、更に殺傷していた。
 この“現象”だけは有り得ない事に、鬼塚は驚愕しながら負傷したのだ。

「ふっ、所詮は飼い犬。後は次に来る閻魔光だけだ…な、なんだと!」

 クロードは有り得ない光景を目の当たりにし、汗だくとなり驚愕していた。

「ちゃんとやればできるじゃねぇか。少しは見直したぜ、クロード部長。」

 それは平然とした態度で、身体から突き出ている槍を握り潰していく鬼塚の姿だった。

「う、嘘だ! 有り得ない! ちゃんと急所を狙い、ダメ押しに心臓と頭に狙った! 何故、生きている!?」

 クロードは今の現状を受け入れられず、鬼塚へ質問責めをする。

「…筋肉で槍を粉砕し、急所を避けただけだ。別におかしくはねぇだろ?」

 クロードの反応が、おかしいと思い。鬼塚はキョトンとした表情で言ったのだ。

「ち、違う! それは前もって知っていなければ避けられない事だ! お前には力だけで、未来予知なんていう物はないはずだ!」

「じゃあ、聞くがーー“戦場に出かけるのに前もって準備しねぇ奴はいねぇだろうが”? 例え、裏切り者をケジメるだけでも、細菌攻撃まで疑って初めて戦闘になんだろうが?」

 無茶苦茶な理屈で鬼塚は気味の悪い笑みで、クロードへ説明していた。

「ふ、ふざけるな!」

 鬼塚の説明にならない事で、逆上したクロードは上空で、先程よりも巨大な槍を形成していた。

「さっきより『魔力』を『増幅』させ、更に力も『増幅』させた! もう、この槍は魔神ですら超越した! この巨体では避ける事も粉砕する事もできんぞ!」

「さっさとやれよ。」

 鬼塚の余裕な発言と表情が、気に入らないクロードは槍を投擲した。

「これで終わりだ! 本部長!」

 投げられた巨大な槍は鬼塚の顔間近まで接近する。と、一瞬にして粉々に粉砕されて消滅していた。
 その現象にクロードは間抜けにも呆然とするしかなかった。その一瞬の油断した隙で全ては起こった。
 鬼塚は一歩も動いていないにも関わらず、クロードの顔は奥まで窪み、破裂し地面へと倒れた。

「…悪いが、俺も先に急がねぇとならねぇから早く終わらせるぜ?」

 鬼塚は死体のクロードへ近づき、マウント体制となり、吸血鬼特有の再生能力で、顔が再生されるまで待っていた。
 そして顔が完全再生されると、鬼塚は力一杯に殴り、再び破裂させた。頭を破裂させた事により返り血が、鬼塚に顔へと付着する。

「お前の命のストックが完全になくなるまで俺は殴るぜ? 容赦はしない、今まで散々好きにさせたんだ。その償いは、ちゃんとしとかねぇとな!」

 鬼塚は狂喜な笑いを上げて、再生される度にクロードの顔を殴っては殺し、殴っては殺すの繰り返しだった。
 マトモに反撃する事もできず、クロードは無抵抗に何度も殺され続けていた。

「…ここまでだな。」

 数分後に、クロードが今まで蓄えていた命のストックは既に尽き、意識を失っていた。
 そして事を終えても、鬼塚は黙々と次の行動を起こした。クロードの手足に鎖を巻き、厳重な状態で拘束していた。

「じゃあな、クロード部長。」

 鬼塚はその言葉だけを残し、部屋から走り去って行った。
 数分後、クロードは意識を取り戻し、ゆっくりと重い瞼を開く…

「鬼塚にこっぴどく殺られたな? まあ、そうしないと俺が手加減できず、お前を完璧に殺していただろう。」

 クロードは目覚めた直後、絶望に顔を染めていた。その先には、玉座でふんぞり反って座る閻魔がいたからだ。

「…閻魔…会長。」

「絶縁した奴から、会長なんて呼ばれる筋合いはないぜ? 今の俺からすれば、お前はただの無抵抗な…裏切り者なんだからな。」
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