マグナムブレイカー

サカキマンZET

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第1章 覇気使い戦争。

第4話 戦争開幕。

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 五月八日、月曜日の昼休みに…
 美鈴は次の授業の為に食堂から校舎への通路を少し急ぎ足で歩いていた。そして何かを察知したのか、真剣な表情になりゆっくりと歩みを止める。

「海道高校にいるとは意外だった。お前、そんなに頭悪かったか?」

 通路の柱から声が聞こえた。それは、美鈴が過去に良く知っている人物の声だった。

「何しに来たの? 海道学園に入学したんじゃないの? ここは他校の生徒は立ち入り禁止の筈――南雲くん?」

 声の主は病院から退院したばかりの南雲暖人だった。
 学ランのボタンを全開に黄色のシャツに黄色のスニーカーを身につけていた。南雲は腕を組み、口角が上がった顔で、柱の影に隠れながら美鈴と話していた。

「少し受験に失敗して、ここ海道高校に来たんだ。それより全てにおいてNo.1の俺と一緒に天下を取らないか? 前みたいに…。」

「ふざけないで! 私は、あの時には戻りたくない! 私を変えてくれたのは雅人よ!」

 美鈴の怒気を込めた言葉に南雲は笑うのを止めて、額に青筋を浮かべ、目に殺意を込めた怒りの表情になっていた。 

「そうか、なら…。」

 南雲が右手を構え稲妻を覆い、柱の影から出た瞬間に背後に誰かと衝突した。
 その衝突した衝撃で稲妻は消えた。倒れはしなかったが、背後を見ていなかった南雲は振り向いて見ると、ぶつかった人物は修二だった。

「お! 悪い」

(普通に歩いていたら、急に出てきてビックリしたぜ。幸い怪我はなさそうだから、謝って教室行くか。)

 修二はすぐに謝罪をしたが、不機嫌だった南雲から見た修二は…

(このクソ三流が! 全てにおいてNo.1である、この俺に激突しといて悪いだけだと! ぶち殺してやる!)

 器の小さい事に、南雲は構えていた右手を出し、修二に敵意を感じられたのか片手で右手を捕まれる。
 そして修二と南雲は睨み合いになる。

 美鈴は二人の喧嘩を止めようと間に入ろうとしたが、美鈴の目の前の何か見えない壁に阻まれて動けなかった。
 それは二人の尋常ではない威圧が、美鈴の人間としての本能的直感が、その二人の間に入ってはいけないという危険信号を送っていた。

(南雲くんの威圧は前から感じて馴れてると思っていたけど、品川くんのは何? なんだろう? そこに猛獣がいるみたいに凄い威圧感―――こっちが押し潰されそう…)

 美鈴は不安な顔をしてたじろぐ事しか出来なかった。

「この三流野郎、誰の手を触ってるんだ?」

「お前、自分がなんでも一番だと思ってるのか?」

「そう言う、テメェは俺より“賢い”のか?」

「それなら、テメェは俺より“強い”のか?」

「俺に“口”で勝ったつもりか?」

「俺に“力”で勝ったつもりか?」

 売り言葉に買い言葉の嵐だった。そして二人を対立させ、史上最悪の事件を起こす、決め手ワードが放たれた!

「このクソリーゼント!」

「このキモロンゲ!」

 同時に放った言葉は、二人の額に血管が浮かび上がらせた。そして、永遠のように感じられた二人の睨み合いが限界に達したのか、二人が『覇気』を解放しようとした瞬間に…。

「南雲、何をしている?」

 そこに内藤が現れた。南雲は内藤が現れたことで不機嫌になり舌打ちをして、捕まれていた腕を振りほどき、修二から離れる。

「すまない、彼も中間テストの勉強疲れで、気が立っているだけだ。許してやってくれとは、言わないが―――これで勘弁してくれないか?」

 内藤がポケットから何かを取り出し、そっと修二に握り渡した。修二は何を渡されたのか呆然と手を開いて確認したら―――風俗の半額チケットだった。

「なんだこれ!」

 修二が興味津々にチケットを空に掲げて、無邪気な子供の様に興奮する。(性的な意味はなく。)

「男のロマンの世界の入口さ。これさえあれば、どんな子を選んでも、半額になるさ。それに、私の名前を伝えれば、更に半額!」

「お前、最低だな。俺って、そんなに安い男だったのか。」

「これで、買収できて事が収まるなら、君の力で周りに被害が及ぶのを防げる訳だ。これが、取引だよ。それに彼、そのチケットの意味を知らないようだし…。」

「美鈴ちゃん、なんかスゲェ、カラフルなチケットを貰ったぜ!」

 修二は笑顔で、そのチケットを見せびらかせた。地雷行為セクハラに気づかずに。
 美鈴は鳩が豆鉄砲をくらったようにキョトンとしながら呆然としていた。

「え? えっと…品川くん、最低!」

 美鈴は修二の行動に驚愕していたが、すぐに怒りと羞恥で顔を紅潮させ、大きく足音を立てながら教室へ駆けて行った。

「……。」

 修二は悲しむ顔をして、思考停止の状態だった。
 修二は何も知らなかったかもしれないが、これは完全なる地雷行為セクハラで自業自得なのだ。

「―――ちょっと悪ふざけが過ぎたな。南雲、後は何とかしたまえ。」

「俺任せかよ!」

「俺に何ができるんだ? もうネタも尽きたぞ?」

 内藤は、演技なのか迷惑をかけたいのか、疲れた顔で南雲に責任転嫁させる。

「ふざけんな! 元はと言えば、二流のお前が……!」

「仕方ない。そこのリーゼントくん、これをやるから元気を出しなさい。」

 更に、内藤がポケットから修二に物を渡す。修二にはどうでも良かったが、渡された物を見ると……コンドームだった。

「テメェ、いい加減にしろ! もっと、ややこしくなるだろうが!」

 見限った南雲が怒りの表情で内藤の背後からドロップキックを繰り出しツッコミを入れる。
 内藤は、立ち上がり南雲に指差しをして血走った目と真剣な表情で……

「誰でも夢を見ていい、権利はあるだろ!」

「事態の収拾がつかねぇ事をすんじゃねぇ! 常識を知れ! 常識を!」

「非常識な我々に言われてもな~」

「ムカつく、コイツはムカつく! まあ、それよりテメェの名前を覚えておいてやるから名乗れ。」

 さっきの怒りを忘れたのか、修二に上から物を言う態度になった。

「しれっと上から目線で話すな~。」

 内藤のおちょくりで、南雲が蹴りを入れるが、簡単に避けられていた。
 南雲は内藤を睨んだが、すぐに修二の方に顔の向きを変える。
 修二は名前を聞かれたので、悲しみくれていたが、南雲に振り向き真剣な表情で自己紹介する。

「品川修二。」

「覚えた。そして、次に会った時は、そのクソみたいなリーゼントを刈り上げてやるからな。」

「お前は、誰なんだよ?」

「『雷の覇気使い』、No.1の南雲暖人だ。お前の頭で覚えられたか?」

「覚えたぜ、『雷』の南雲暖人……。」

 南雲は鼻で笑い、修二から離れ内藤と共に教室へ向かう。修二は南雲たちとは反対方向に歩き出す。
 修二は思った―――どうやって、美鈴ちゃんに謝ろうかと。


 理科室で修二は机でうなだれていた。そこに淡白な表情の吹雪が来る。

「どうしたんだよ?」

「吹雪か。実はよ、美鈴ちゃんに最低って言われてよ。」

(おいおい、アイツに何したんだよ? 美鈴ちゃんが怒る事って……人前でスカートめくりしたとかだろうな。)

「……スカートめくりとかしたのか?」

「そうじゃねぇよ、この紙を見せたら怒ってよ。」

 そのチケットを吹雪に見せると、吹雪は目を光らせ、瞬時にチケットを修二から指が吹き飛ぶぐらいのスピードでかすめ取る、その余波で修二のリーゼントが上下に揺れた。そして、すかさずポケットに入れる。

「欲しかったら、欲しいって言えよ!」

 怒りを露にしながらも、修二はリーゼントが崩れていないかと心配して懐からくしを出し使い整える。

「品川くん、美鈴ちゃんとの仲を元に戻してあげよう。その代わり、このチケットは仲介料として頂いてもいいかな?」

 吹雪は何時もの口調では無く、交渉するみたいな口調で話しを進めていた。修二には吹雪の変わり身の速さに少しドン引きした。

「まあ、別にいいけどよ? そんなにスゲェ物なのか?」

「男の夢と希望を詰め込んだ、豪華客船のチケットなんだよ?」

「なんだよ。夢と希望て…。」

「それより、なんとか仲を取り持ってやるから。上手く行けば、美鈴ちゃんから話があるからよ、そこからはなんとかしてくれ。」

 吹雪は席につき次の授業の準備をしていた。修二は吹雪の不審な行動に不安になりながらも、吹雪を信じ、美鈴からの返事を待つ事にした。


 放課後の廊下で吹雪と美鈴は話していた。昼休み、修二がセクハラした件について誤解を払拭しようと試みていた。
 修二は相川が買い物に付き合ってほしいという事で先に帰っていた。

「つーわけ、品川に性的な感情なんか一切ねぇからよ。まあ、アイツは男だけどよ。多分、その場に美鈴がいたから、自慢したかっただけだと思うぜ。そのチケットの意味も分かってなかったぐらいだからよ。」

「そのチケットは?」

 美鈴の冷たい目付きと声で、チケットの危機を感じた吹雪は真顔になり……。

「―――処分しました。」

 美鈴は吹雪の一瞬の真顔に納得していない様子だったが、修二が美鈴をからかってやった訳じゃないのは納得したようだ。

「そう。じゃあ、品川くんを許してあげないと。」

「そうか、良かった。じゃあ後は二人で解決してくれ……。」

 吹雪が美鈴から反対の方に向き、家に帰ろうとしたが、美鈴は不安そうな顔をして吹雪に言いたい事を必死で自分なりに伝えた。

「……南雲くんが、この学校にいたよ。」

 吹雪は南雲の名前を聞くと、ピクリと歩みを止めて美鈴には見えないように暗い顔になる。
 そして吹雪も言葉を詰まらせたが、なんとか会話を続けようとしていた。

「……元気だったか?」

 二人には時が止まった様に感じた。そんな空気を壊そうと吹雪は必死でなんとか問いかける。

「うん……。」

 美鈴の低い声に吹雪は察してしまった。南雲が次に何をするのかが予想が出来てしまう自分が少し嫌いになった。

アイツカンザキシノブに復讐する気か?」

「多分、そう……。」

(知りたくなかった! 退院したなら、海道から離れて穏やかに日々を過ごしてほしかった。できるなら、俺等の事を忘れてほしかった! けど、なっちまった物は仕方ねぇ……アイツ南雲をなんとしてでも止めねぇと。)

 吹雪は拳を強く握りしめ、悲劇を再び起こしてほしくないと祈るばかりだった。
 そして後悔の念を抑え、決意を固めると美鈴に振り向き……

「南雲とは腐れ縁だからな―――なんとかする。去年みたいにアイツを、あんな目にはもうさせねぇからよ。」

「うん、分かった。」

(悪いな、南雲。もう約束しちまったぜ。もう『カンザキシノブ』には近づけさせねぇ!)


 美鈴が修二を呼び出して、放課後の教室は二人きりの状態だった。

「美鈴ちゃん、ごめん! 俺、知らなくてよ。」

 見事に綺麗な九十度のお辞儀と、すまなかったという意思表示の手を合わせる行為。

「もういいよ。品川くんも悪気があってやった訳じゃないし……。」

「でも、怒らせたのは俺だからよ、埋め合わせさせてくれよ。」

 お辞儀を止めて、顔を上げる。そして修二は自分がやった事のケジメはつけるため美鈴の願いを聞こうとしていた。

「それなら週末に梅田駅で待ち合わせしよ。荷物運びになるけど?」

「オッケー、梅田駅だな!」

 修二は笑顔でグッドサインをする。

「お昼頃には来てね。」

 美鈴は、修二が「何でもするから」というので気持ちを切り替え、買い物の荷物持ちをお願いした。そして二人は、一緒に下校した。
 道すがら買い物の段取りを話し合うためであり、二人に他意はなかった。


 五月十五日、日曜日

 梅田は、大阪で一番の繁華街である。オシャレの街と呼ばれるほど、若者に人気の場所だ。毎日の様に梅田は大勢の人々で賑わっていた。

 美鈴はミニショルダーバッグを肩に掛け、ブランド物のワンピース専門店のショーウィンドウの前で立っていた。周りからすれば、モデルみたいな女の子が、ショーウィンドウの前で立っているだけで絵になる光景だ。

 春物の紺色のフリルブラウス、純白のロングスカート、黒のスニーカー、それと外国人かと疑いたくなる程の銀髪。
 それだけで見るものの目を引く美しさだった。

(ちょっと早くきちゃったかな? お昼頃って言ったけど、正確な時間を言ってなかったから……。)

 美鈴は修二が来るまで暇だった。ちゃんと正確な時間を言って、待ち合わせすれば良かったと反省をしていた。

「ねえ、お姉さんモデルの人?」

「少し、これからお茶しない?」

 美鈴の前に現れたのは、美鈴をナンパしに来たチャラい二人の男だ。二人の男は逃げられないように囲む。

「あの、待ち合わせしてるんで。」

「いいじゃん、俺たちが友達の方に言っておくからさ。」

「でも…。」

「おい! その人、嫌がってるじゃないか。早く離すッスよ!」

 二人の男の背後から声が聞こえた。三人は声の主の方に目線を向けた。頭は丸坊主で、革ジャンと下に白いタンクトップに黒いレザーパンツと黒いブーツで身を固めた。ワイルドな男が乱入した。

「お前には関係ないだろ!?」

 ツッコミ所が多く、チャラい男の一人が驚愕しながらも丸坊主の男に言った。

「関係はなくても、その人は彼氏を待ち合わせしてる最中ッスよ! 男女の恋仲を裂く奴等は許さないッスよ!」

「別に、その人は彼氏とかじゃなくて…。」

 丸坊主の男の発言に、美鈴は冷静な様子で否定するが運が悪く……。

「美鈴ちゃん、待った?」

 そんな争っている中に、黒のスカジャンに青のジーンズとサンダルで呑気に馬鹿《修二》が三人の背後から来たのだ。
 カオスな展開だった、チャラい二人の男、バイカースタイルの真面目そうな丸坊主の男、そしてリーゼントにヤンキースタイルが集まったからだ。
 美鈴は人目が集まったのが恥ずかしくなり、修二の手を掴み……

「―――品川くん、行こうか。」

「あ、あぁ……。」

 笑顔で美鈴は修二の手を引っ張り、修二は笑顔の美鈴に少し恐怖を感じた。
 二人に置き去りにされ呆然とする三人。
 だが、ナンパに失敗したのを乱入してきた男に鬱憤うっぷんを晴らそうと丸坊主の男に殴りかかる。


 二人は服の店にいた。鏡の目の前で美鈴はどの服にするか悩み、修二は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡していた。

「スゲェ、カラフルな服がいっぱいだな。」

「品川くんは何時も一緒の服装だね? 他には興味ないの?」

「いつも父ちゃんが買いに行ってくれるから、自分で決めた事ないんだよな。」

「そうなんだ。」

「美鈴ちゃんって銀髪だよな? どっかの外国人の血が流れてるのか?」

「そうだよ、祖母がロシア人で母がイギリス人だから、いわゆるワンサード。」

「ワンサイド?」

「それはゲームだよ。半分は日本人で、半分に外国と更に半分の外国の血が入ってるって事だよ?」

 美鈴は修二の間違いにも笑顔で優しく答えを教えてあげる。修二はそれでも理解できなかったがスゴイ物とは感覚で理解できた。

「スゲェ家系だな。」

「品川くんも赤い髪だから、クォーターかハーフじゃないの?」

「分かんねぇや。俺、母ちゃんも婆ちゃんもいねぇからよ。」

「え?」

 表情を変えず、平気な様子の修二の言葉に驚愕を隠せなかった。美鈴は修二の事情を知らずに申し訳ない気持ちになっていた。

「父ちゃんと二人暮らしなんだ、母ちゃんは俺が幼い頃に家を出ていったんだ……こんな話しは無しにして、買い物続けようぜ?」

「ご、ごめん……。お腹空いてない?」

 美鈴は何とか話題を変えようして、考えた結果がこれしか思い付かなかった。

「そうだな、昼は何も食ってなかったからな。」

「近くにサイゼリヤがあるから、そこで食べない?」

「あぁ……。サイゼリヤって何?」

 美鈴には修二の発言が驚愕で仕方なかったが、笑顔でサイゼリヤについて簡単に優しく教えた。


 一方その頃、吹雪はグレーのパーカーに青いデニムパンツに白いスニーカーを身につけ、海道公園に来ていた。

「待ってたよ、ギターを弾き語りながら。」

 オレンジのハイネックに黒いデニムパンツに青いスニーカーを身に付けた内藤は、公園でベンチに座り、弾けないクラシックギターを適当に弾きながら、こちらに来た吹雪に向かって言った。
 その吹雪の対応は怒った様子で内藤の顔を目掛けて、蹴りを放つが内藤はギターでガードしたのだ。

「お前なぁ! 期限切れの高級風俗のチケットを渡すなや!」

 口調が関西弁に戻り、怒りを露にした。そのまま足に力を入れ続ける。ギターはミシミシという音を立てていた。

「どうせ、十八歳未満は入られへんねんから、諦めろや。」

 内藤も関西弁になり、吹雪とは違って冷静に対応していた。

「けっ! ガキの時からムカつく性格やな。」

 蹴りを出した足を下げて、不機嫌のまま勢いよく内藤の隣に座る。

 内藤は吹雪に蹴られた箇所をポケットからハンカチを取り出し磨く。
 そして吹雪に蹴られミシミシという怪しい音が出たので、弁償を要求した。

「ギター壊れたわ、弁償してな?」

「そんなんで壊れへん、もう一回、適当に弾いてみぃや。」

 吹雪は大丈夫だと言い聞かせ、内藤は言われた通りに適当に弾いてみるが、ギターに詳しくない二人には、壊れているのかが分からないのだ。

「この一年間、何やってたん?」

 ギターの件は忘れて、吹雪は親友と語るように世間話を始めた。内藤は少し微笑み、吹雪の問に答える。

「検事になるため、他の大学を見学したり塾を通いながら海道高校に転校したぐらいやな。」

 身の上話を終えた所で、吹雪は真剣な表情になり用件を伝える。

「南雲の件は知ってんな?」

「医者から極秘にレントゲン写真を見せてもらったわ。ほんで悪いところ教えてもらった。アレをやった奴は相当、化け物やで?」

 内藤は去年の南雲が重症になったレントゲン写真を思い出しただけでドン引きしていた。

「『カンザキシノブ』の力の変貌を感じた。去年の方が、優しかったかもしれんな。」

「せやけど、アイツに勝てるんか?」

「実のところな、アイツの『覇気』の正体が分からんねん。」

「見た目が“黒い靄”で人形やからな。人間なのは間違いないんやろ?」

「ボイスチェンジャー使ってたかもしれんけど、確かに人語を話してたわ。」

 吹雪と内藤の推理は難航していた。情報が無いに等しいからだ。
 吹雪は頭を抱えていたが、内藤だけは得意げな顔をしていた。
 その顔を見た吹雪は少しムスっとした顔で、内藤を睨んでいた。

「まあ、そんな睨むなや。後味悪くして帰られへんから『カンザキシノブ』に近づける情報教えたるからな?」

(こいつ、人をおちょくるのを止められへんのか? アカン、見てるだけでシバきたなってきた。)

 吹雪は怒りの感情を抑えながらも、何故、内藤が得意げな顔で吹雪を見ているのかを聞かなければならないと思い、拳を引っ込める。

 内藤は吹雪の行動を理解して、服の下から自慢気に書類らしき封筒を取り出し見せびらかした。

「内藤くん、それくれない?」

 吹雪の額から青筋の血管がむき出しで、ぶちギレ寸前に眉をピクピク震えさせながら、気持ち悪い笑顔で物を頼んでみたが……。

「気持ち悪いから嫌や。」

「じゃあ凍死しろ。」

 淡白な顔で淡白な拒否をされて、手のひらから『氷の覇気』の冷気を出す。
 内藤はポケットからライターを取り出し、笑顔で封筒を燃やすぞと脅しをかける。
 吹雪は何とかこらえて、『覇気』と行き場の無い怒りを抑える。
 内藤は優越感に浸ったところで、ライターをポケットに仕舞い、封筒を渡す。

「『カンザキシノブ』の所に近づくには、この三人を捕まえて聞き出せばええ。」

 吹雪は渡された封筒から書類を出し見る。二人の男の写真と経歴、もう一枚は写真はなく経歴だけの書類。
 吹雪はまじまじと書類に目を通していく、吹雪は驚きを隠せない表情で内藤に問う。

「この書類は何処からや?」

「知り合いの検事と弁護士と探偵に頑張ってもらったわ。俺に借りがあるから無償でやってくれたわ。やっぱ友情は大切やな!」

 吹雪は内藤の最後の言葉を無視しながら、一枚の経歴しか書いていない書類について、気になっていた。

「この写真の無い、木元雅きもとみやびは?」

「性別は不明、年齢も不明、写真も無し、分かってんのは『カンザキシノブ』の側近で、『カンザキシノブ』の弱点を知ってる奴や。」

 それを聞いた吹雪は、その書類を封筒に戻し二枚の書類を見る。目的は決まったという顔をして、吹雪はベンチから立ち上がる。

「せやったら、この仲村一之なかむらかずゆき竹島権田たけしまごんたに接触するか……。ありがとうな。それとな南雲のこと頼んでもええか?」

「南雲は任せとけや……。それとな、その三人は『カンザキシノブ』から三銃士って呼ばれる程の実力やからなって聞いてへんやん……。」

 吹雪は内藤の話しを最後まで聞かずに、海道公園から『カンザキシノブ』に対する進展があったので喜びを隠さない顔をしながら走り去った。

「……で、これで良かったんですか、輝さん?」

 走り去った吹雪を確認して、内藤は座ったまま、関西弁を止め近くの木に声を掛けた。その言動で木の裏から人影が姿を現した。忍の弟、神崎輝が冷静な顔で現れた。

「あぁ、この辺を走り回って情報を集めて辿り着いても時間がかかって効率が悪すぎる。かと言って彼等に探偵等を雇う人脈と資金は皆無に等しいからね。だったら、僕が彼等をより近くまで導けば良いだけの話だね。」

 輝は語りながら、吹雪が座っていた所に優雅に綺麗に座る。内藤は惹き付けられる輝の行動に釘付けだった。

「僕の顔に何か付いてるかな?」

 あまりにも内藤が輝の顔をじっと見ていたために輝は自分の顔に何か付いてるのかと聞いた。内藤は沈黙のまま、首を横に振る。

「いえ、それより良かったんですか? 弟が兄の邪魔をする形になって?」

 内藤は不思議で仕方なかった。弟が兄の足を引っ張る事に疑問を持っていた。普通ならば嫌々でも協力するのが妥当だと考えるが……

「邪魔をしなければ、誰が兄さんを止めるの?」

 内藤は察してしまった。そう、神崎忍が全ての『覇気使い』を倒してしまっては、誰が止める人物がいない。ならば、体力が落ちた状態なら輝が止める事に内藤は気づいた。
 
「そうでしたね……。」

「それに彼等が兄さんを倒してくれたら、僕と戦って島を一つ消さなくても済むから、助かるんだけどね。」

「あっさりと怖い事を言いますね。」

「それだけ僕等が貰った力はヤバイって事だよ。さてと、僕たちも準備しようか。」

「はい。」

 輝と内藤は同時に立ち上がる。誰も見てない事を確認し、内藤の肩に触れて一瞬にして二人の姿を消した。二人がいた所に砂ぼこりが舞い上がっていた。


 周りは、すっかりと夕暮れになり太陽が沈んでいた。駅を降りて、修二は美鈴が買った荷物を持ち、美鈴と他愛のない雑談をしながら、美鈴を家まで送っていた。
 美鈴の家の前まで到着し、修二は荷物を全て美鈴に渡した。

「今日はありがとうね。」

「いや、俺も楽しかった。また明日、学校でな。」

「うん。」

 修二は美鈴に手を振り、笑顔で別れの挨拶をした。
 美鈴が家に入った事を確認した修二は、真剣な表情で家とは違う方向を目指していた。
 修二が目指していた場所は、海道で新しく建設された島だった。そこには住宅は無く触られていない所、つまり無人の状態だ。
 修二は中心まで進み、立ち止まり振り返る。

「出てこいよ、ここなら誰もいねぇし、思いっきり暴れられるぜ?」

 修二が大声で、誰かに呼び掛ける。
 それに答える様に、一人の人影が姿を現した。

「また、会いましたッスね。」

 それは昼頃に美鈴の目の前でチャラい男二人と揉めてたバイカーの丸坊主の男だった。

「あん時の兄ちゃんか? 世間って狭いんだな。」

「そうッスね――彼女さんはどうしたんですか?」

「帰らせた。こっから先は、彼女にはどうしても見せられねぇからな。」

 やれやれと言う表情で、頭をかきポケットに手を突っ込みながら話す。

「懸命な判断ッス、俺も一般人は巻き込めねぇッスから……。」

「自己紹介しようぜ、俺は品川修二。海道高校、一年だ。」

「俺は仲村一之ッス。海道学園、一年ッスよ。アンタ達が追ってる『カンザキシノブ』兄貴の舎弟ッスよ。」

「手間が省けるっていうのは、こう言う事で使うんだよな?」

「それは俺に勝てたらの――話しッスよ!」

 自己紹介を終えた二人は、足に力を込めて、お互いに全力疾走でバトルが始まった。
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