37 / 55
第37話 エアコン一台分の憂慮
しおりを挟む
――――最初のフロアより一段階、深部へと通ずる階段。照明のようなものも無く、暗闇の中を中腰で慎重に降りるリッチマンとネイキッドフレイム。
硬い靴音が鳴り響く中、辿り着いた空間は――――
「――うおっ!? 何だここ――――めっちゃ蒸し暑いぜ!?」
「熱気を感じるな……」
――まるで蒸し風呂。サウナ室を思わせる強い熱気と湿気を感じる暑苦しい空間だった。
「――状況は?」
マユの声にオペレーターたちが即座に分析し、答える。
「――第二階層は極めて高温多湿な空間と判明。」
「――き、気温70℃、湿度75%! 人体ならば耐えられない環境下ですが――――」
「う~む……日ノ本の夏より遙かにひでえなこりゃあ。どうやらヒーローに変身状態のリッチマンとネイキッドフレイムならそれでも長時間活動するのに耐えられる状況っす。」
「うわあ……行きたくないなあ、ここ。空調の利いた部屋で働くオペレーターで良かったあ。と、特に……元々炎の属性を持つネイキッドフレイムには楽な環境、です。はい……」
――これまでオペレーションはウーノとサーノが喋ることが多かったが、状況の変化に男性オペレーターであるカナザワとフジムラも対応する。
「そうでありんすか…………リッチマン、ネイキッドフレイム。体感的にはどうでありんす? 耐えられる?」
マユの呼びかけに、リッチマンは落ち着かない様子で応える。
「むうう…………確かに、ヒーローの力の影響か、そんな滅茶苦茶な温度でも耐えられるっちゃ耐えられるけど……やっぱ真夏並みには暑苦しく感じるぜ……」
「炎の力のせいか……俺は全然平気だ。猛暑日の突貫工事も経験あるが、精々春先程度には楽に感じるぞ。」
「おめえ、そんなに涼しく感じるのかよ!? いいなあ…………俺も課金の力で熱耐性とか得られねえかなあ?」
――元々炎の力を司るネイキッドフレイムの熱耐性に、思わずリッチマンが喚く。だが、そのやり取りを見てマユも気になった。
「――ふむ……リッチマンの課金の力は応用次第であらゆる状況に対応出来る。試してみる価値はありんす。リッチマン。ジャスティス・ストレージにいくらで熱耐性が得られるか訊いてみて。」
「――おお、その手があったな! ……どうだストレージ? この蒸し暑い環境を快適に適応出来るのに何円かかる?」
すぐさまジャスティス・ストレージを取り出し、尋ねてみる。
いつも通り、機械的な音声が返ってきた。
「――――ビビビビ…………過酷な環境下への適応……このフロアの場合――――ビビビ。150000円。150000円で実現可能。」
その返答に、リッチマンは唸る。
「――ぬうう……150000円かあ……ちょうど安物のエアコンぐらいすっかなあ…………この場で使い切りかあ…………。」
モニター越しにマユは呆れたように額に手を当てて告げる。
「……何を出し渋っているんでありんすか。人体に過酷な環境下では消耗も激しくなるし、何が起こるかわかりんせん。さっさと課金しなんし。」
「貧乏暮らしが身に染みてるからよオ!! エアコン一台程度の恩恵でも躊躇して来たんだよ俺ァッ!!」
「また我儘じみたことを……やれやれ。出発前に渡した課金用のお金はまだまだ充分ある。使わなければこちに返すだけ……ぬしにとっては無理した分損になるだけ。はようせい! それとも、さっきの拾得所持金のこと、まだ気にしているんであるんすか?」
「むぐぐぐぐ……わかったよぉ。」
――――結局、探索の前に二の足を踏むわけにもいかず、リッチマンは150000円を課金した。ヒーロースーツ全体から冷たい靄のようなものが発生し、たちまちリッチマンは暑苦しさから解放された。
「――ひゃああ~っ!! 涼しくなったぜ~っ!! 快適、快適~♪」
「全くもう。そこからは未知のエリアでありんす。気を引き締め直して探索を続けて。ネイキッドフレイムも念の為こまめにスポーツドリンクや食料の補給を……」
>>
そうして、サウナのような熱気の立ち込める中、探索を再開した。
ここでもやはり化け物たちがこちらを見付けるなり襲い掛かってきた。
豚顔面からバリエーションも増え、羆を思わせるような巨大な猛獣や機敏な動きをする狼、空中から鋭く飛び掛かってくる鳥などのような化け物と戦うこととなった。
さすがに当初の豚顔面よりは格上で、一撃では倒せなかったり、こちらの攻撃を外して反撃を喰らうなど、やや消耗する展開となっていった。
つい今しがたも、獣に喰らい付かれたところを何とか滅したリッチマンだった。
「――――いててて…………やっぱこのフロアに入ってから敵、強くなってんな~…………バイタルチャアアアジッ!! ……ふうっ。」
「大丈夫か? 傷薬も使え。……確かに、動きの良い敵には俺の大振りな斧が当たらなくなってきたな……」
「ありがとよ! …………よしっ……これで何とか回復――――ふはははは!! 敵も強くなった分なのか、金もめっちゃ手に入るぜえ~!!」
――より生命の危険を意識させられる異空間だが、その分金銭的な収穫も莫大なものがあった。既に数百万円近くは拾えたであろうか。
「――目的は飽くまでも悪を叩いていくことでありんす。そのお金も全部はリッチマンのものにはなりんせんからね? 無事戻ってきたら改めて交渉しんしょう。」
「……わーかってるっつーの。ったく。ほんの一時だけでも浸らせてくれよォ…………。」
「――幸せはお金である程度買える、少なくともあらゆることが安心だ、って言っている奴は今の世の中結構いるからな……リッチマンの気持ちを俺は否定はしない――――ところで……次の階層が見えて来たぞ。」
――ネイキッドフレイムが気付くと、奥にさらに下層へと降りる階段が見付かった。
リッチマンは先程と同じく、マーキングユニットを設置し、準備を調え直してから再び階段を降りて行った――――
硬い靴音が鳴り響く中、辿り着いた空間は――――
「――うおっ!? 何だここ――――めっちゃ蒸し暑いぜ!?」
「熱気を感じるな……」
――まるで蒸し風呂。サウナ室を思わせる強い熱気と湿気を感じる暑苦しい空間だった。
「――状況は?」
マユの声にオペレーターたちが即座に分析し、答える。
「――第二階層は極めて高温多湿な空間と判明。」
「――き、気温70℃、湿度75%! 人体ならば耐えられない環境下ですが――――」
「う~む……日ノ本の夏より遙かにひでえなこりゃあ。どうやらヒーローに変身状態のリッチマンとネイキッドフレイムならそれでも長時間活動するのに耐えられる状況っす。」
「うわあ……行きたくないなあ、ここ。空調の利いた部屋で働くオペレーターで良かったあ。と、特に……元々炎の属性を持つネイキッドフレイムには楽な環境、です。はい……」
――これまでオペレーションはウーノとサーノが喋ることが多かったが、状況の変化に男性オペレーターであるカナザワとフジムラも対応する。
「そうでありんすか…………リッチマン、ネイキッドフレイム。体感的にはどうでありんす? 耐えられる?」
マユの呼びかけに、リッチマンは落ち着かない様子で応える。
「むうう…………確かに、ヒーローの力の影響か、そんな滅茶苦茶な温度でも耐えられるっちゃ耐えられるけど……やっぱ真夏並みには暑苦しく感じるぜ……」
「炎の力のせいか……俺は全然平気だ。猛暑日の突貫工事も経験あるが、精々春先程度には楽に感じるぞ。」
「おめえ、そんなに涼しく感じるのかよ!? いいなあ…………俺も課金の力で熱耐性とか得られねえかなあ?」
――元々炎の力を司るネイキッドフレイムの熱耐性に、思わずリッチマンが喚く。だが、そのやり取りを見てマユも気になった。
「――ふむ……リッチマンの課金の力は応用次第であらゆる状況に対応出来る。試してみる価値はありんす。リッチマン。ジャスティス・ストレージにいくらで熱耐性が得られるか訊いてみて。」
「――おお、その手があったな! ……どうだストレージ? この蒸し暑い環境を快適に適応出来るのに何円かかる?」
すぐさまジャスティス・ストレージを取り出し、尋ねてみる。
いつも通り、機械的な音声が返ってきた。
「――――ビビビビ…………過酷な環境下への適応……このフロアの場合――――ビビビ。150000円。150000円で実現可能。」
その返答に、リッチマンは唸る。
「――ぬうう……150000円かあ……ちょうど安物のエアコンぐらいすっかなあ…………この場で使い切りかあ…………。」
モニター越しにマユは呆れたように額に手を当てて告げる。
「……何を出し渋っているんでありんすか。人体に過酷な環境下では消耗も激しくなるし、何が起こるかわかりんせん。さっさと課金しなんし。」
「貧乏暮らしが身に染みてるからよオ!! エアコン一台程度の恩恵でも躊躇して来たんだよ俺ァッ!!」
「また我儘じみたことを……やれやれ。出発前に渡した課金用のお金はまだまだ充分ある。使わなければこちに返すだけ……ぬしにとっては無理した分損になるだけ。はようせい! それとも、さっきの拾得所持金のこと、まだ気にしているんであるんすか?」
「むぐぐぐぐ……わかったよぉ。」
――――結局、探索の前に二の足を踏むわけにもいかず、リッチマンは150000円を課金した。ヒーロースーツ全体から冷たい靄のようなものが発生し、たちまちリッチマンは暑苦しさから解放された。
「――ひゃああ~っ!! 涼しくなったぜ~っ!! 快適、快適~♪」
「全くもう。そこからは未知のエリアでありんす。気を引き締め直して探索を続けて。ネイキッドフレイムも念の為こまめにスポーツドリンクや食料の補給を……」
>>
そうして、サウナのような熱気の立ち込める中、探索を再開した。
ここでもやはり化け物たちがこちらを見付けるなり襲い掛かってきた。
豚顔面からバリエーションも増え、羆を思わせるような巨大な猛獣や機敏な動きをする狼、空中から鋭く飛び掛かってくる鳥などのような化け物と戦うこととなった。
さすがに当初の豚顔面よりは格上で、一撃では倒せなかったり、こちらの攻撃を外して反撃を喰らうなど、やや消耗する展開となっていった。
つい今しがたも、獣に喰らい付かれたところを何とか滅したリッチマンだった。
「――――いててて…………やっぱこのフロアに入ってから敵、強くなってんな~…………バイタルチャアアアジッ!! ……ふうっ。」
「大丈夫か? 傷薬も使え。……確かに、動きの良い敵には俺の大振りな斧が当たらなくなってきたな……」
「ありがとよ! …………よしっ……これで何とか回復――――ふはははは!! 敵も強くなった分なのか、金もめっちゃ手に入るぜえ~!!」
――より生命の危険を意識させられる異空間だが、その分金銭的な収穫も莫大なものがあった。既に数百万円近くは拾えたであろうか。
「――目的は飽くまでも悪を叩いていくことでありんす。そのお金も全部はリッチマンのものにはなりんせんからね? 無事戻ってきたら改めて交渉しんしょう。」
「……わーかってるっつーの。ったく。ほんの一時だけでも浸らせてくれよォ…………。」
「――幸せはお金である程度買える、少なくともあらゆることが安心だ、って言っている奴は今の世の中結構いるからな……リッチマンの気持ちを俺は否定はしない――――ところで……次の階層が見えて来たぞ。」
――ネイキッドフレイムが気付くと、奥にさらに下層へと降りる階段が見付かった。
リッチマンは先程と同じく、マーキングユニットを設置し、準備を調え直してから再び階段を降りて行った――――
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?
青夜
キャラ文芸
東大医学部卒。今は港区の大病院に外科医として勤める主人公。
親友夫婦が突然の事故で亡くなった。主人公は遺された四人の子どもたちを引き取り、一緒に暮らすことになった。
資産は十分にある。
子どもたちは、主人公に懐いてくれる。
しかし、何の因果か、驚天動地の事件ばかりが起きる。
幼く美しい巨大財閥令嬢 ⇒ 主人公にベタベタです。
暗殺拳の美しい跡取り ⇒ 昔から主人公にベタ惚れです。
元レディースの超美しいナース ⇒ 主人公にいろんな意味でベタベタです。
大精霊 ⇒ お花を咲かせる類人猿です。
主人公の美しい長女 ⇒ もちろん主人公にベタベタですが、最強です。
主人公の長男 ⇒ 主人公を神の如く尊敬します。
主人公の双子の娘 ⇒ 主人公が大好きですが、大事件ばかり起こします。
その他美しい女たちと美しいゲイの青年 ⇒ みんなベタベタです。
伝説のヤクザ ⇒ 主人公の舎弟になります。
大妖怪 ⇒ 舎弟になります。
守り神ヘビ ⇒ 主人公が大好きです。
おおきな猫 ⇒ 主人公が超好きです。
女子会 ⇒ 無事に終わったことはありません。
理解不能な方は、是非本編へ。
決して後悔させません!
捧腹絶倒、涙流しまくりの世界へようこそ。
ちょっと過激な暴力描写もあります。
苦手な方は読み飛ばして下さい。
性描写は控えめなつもりです。
どんなに読んでもゼロカロリーです。
私が異世界物を書く理由
京衛武百十
キャラ文芸
女流ラノベ作家<蒼井霧雨>は、非常に好き嫌いの分かれる作品を書くことで『知る人ぞ知る』作家だった。
そんな彼女の作品は、基本的には年上の女性と少年のラブロマンス物が多かったものの、時流に乗っていわゆる<異世界物>も多く生み出してきた。
これは、彼女、蒼井霧雨が異世界物を書く理由である。
筆者より
「ショタパパ ミハエルくん」が当初想定していた内容からそれまくった挙句、いろいろとっ散らかって収拾つかなくなってしまったので、あちらはあちらでこのまま好き放題するとして、こちらは改めて少しテーマを絞って書こうと思います。
基本的には<創作者の本音>をメインにしていく予定です。
もっとも、また暴走する可能性が高いですが。
なろうとカクヨムでも同時連載します。
【全33話/10万文字】絶対完璧ヒロインと巻き込まれヒーロー
春待ち木陰
キャラ文芸
全33話。10万文字。自分の意志とは無関係かつ突発的に「数分から数時間、下手をすれば数日単位で世界が巻き戻る」という怪奇現象を幼い頃から繰り返し経験しているせいで「何をしたってどうせまた巻き戻る」と無気力な性格に育ってしまった真田大輔は高校二年生となって、周囲の人間からの評判がすこぶる良い長崎知世と同じクラスになる。ひょんな事からこの長崎知世が「リセット」と称して世界を巻き戻していた張本人だと知った大輔は、知世にそれをやめるよう詰め寄るがそのとき、また別の大事件が発生してしまう。大輔と知世は協力してその大事件を解決しようと奔走する。
国一番の美女を決めるミスコン(語弊)にエントリーしたら優勝しそうな件…………本当は男だし、なんなら皇帝の実弟なんだが、どうしよう?
黒木 鳴
キャラ文芸
とある時代、華胥の国にて麗しく、才媛たる美女たちが熱い戦いを繰り広げていた。国一番の美女を決めるそのミスコン(語弊)に傾国という言葉が相応しい美貌を誇る陵王はエントリーした。そして優勝しそうになっている。胡蝶という偽名で絶世の美女を演じる陵王は、実は女装が趣味なナルシスト気味な男性であり、しかも皇帝の実弟というどえらい立場。優勝する気はなかった。悪戯半分での参加で途中フェードアウトするつもりだったのに何故か優勝しそうだ。そもそも女じゃないし、正体がバレるわけにもいかない。そんな大ピンチな陵王とその兄の皇帝、幼馴染の側近によるミスコン(語弊)の舞台裏。その後、を更新中。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―
吉野屋
キャラ文芸
14歳の夏休みに、母が父と別れて田舎の実家に帰ると言ったのでついて帰った。見えなくてもいいものが見える主人公、麻美が体験する様々なお話。
完結しました。長い間読んで頂き、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる