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第37話 エアコン一台分の憂慮

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 ――――最初のフロアより一段階、深部へと通ずる階段。照明のようなものも無く、暗闇の中を中腰で慎重に降りるリッチマンとネイキッドフレイム。




 硬い靴音が鳴り響く中、辿り着いた空間は――――




「――うおっ!? 何だここ――――めっちゃ蒸し暑いぜ!?」


「熱気を感じるな……」




 ――まるで蒸し風呂。サウナ室を思わせる強い熱気と湿気を感じる暑苦しい空間だった。




「――状況は?」




 マユの声にオペレーターたちが即座に分析し、答える。



「――第二階層は極めて高温多湿な空間と判明。」

「――き、気温70℃、湿度75%! 人体ならば耐えられない環境下ですが――――」


「う~む……日ノ本の夏より遙かにひでえなこりゃあ。どうやらヒーローに変身状態のリッチマンとネイキッドフレイムならそれでも長時間活動するのに耐えられる状況っす。」



「うわあ……行きたくないなあ、ここ。空調の利いた部屋で働くオペレーターで良かったあ。と、特に……元々炎の属性を持つネイキッドフレイムには楽な環境、です。はい……」




 ――これまでオペレーションはウーノとサーノが喋ることが多かったが、状況の変化に男性オペレーターであるカナザワとフジムラも対応する。




「そうでありんすか…………リッチマン、ネイキッドフレイム。体感的にはどうでありんす? 耐えられる?」




 マユの呼びかけに、リッチマンは落ち着かない様子で応える。




「むうう…………確かに、ヒーローの力の影響か、そんな滅茶苦茶な温度でも耐えられるっちゃ耐えられるけど……やっぱ真夏並みには暑苦しく感じるぜ……」




「炎の力のせいか……俺は全然平気だ。猛暑日の突貫工事も経験あるが、精々春先程度には楽に感じるぞ。」




「おめえ、そんなに涼しく感じるのかよ!? いいなあ…………俺も課金の力で熱耐性とか得られねえかなあ?」





 ――元々炎の力を司るネイキッドフレイムの熱耐性に、思わずリッチマンが喚く。だが、そのやり取りを見てマユも気になった。




「――ふむ……リッチマンの課金の力は応用次第であらゆる状況に対応出来る。試してみる価値はありんす。リッチマン。ジャスティス・ストレージにいくらで熱耐性が得られるか訊いてみて。」




「――おお、その手があったな! ……どうだストレージ? この蒸し暑い環境を快適に適応出来るのに何円かかる?」




 すぐさまジャスティス・ストレージを取り出し、尋ねてみる。





 いつも通り、機械的な音声が返ってきた。




「――――ビビビビ…………過酷な環境下への適応……このフロアの場合――――ビビビ。150000円。150000円で実現可能。」





 その返答に、リッチマンは唸る。





「――ぬうう……150000円かあ……ちょうど安物のエアコンぐらいすっかなあ…………この場で使い切りかあ…………。」





 モニター越しにマユは呆れたように額に手を当てて告げる。





「……何を出し渋っているんでありんすか。人体に過酷な環境下では消耗も激しくなるし、何が起こるかわかりんせん。さっさと課金しなんし。」




「貧乏暮らしが身に染みてるからよオ!! エアコン一台程度の恩恵でも躊躇して来たんだよ俺ァッ!!」




「また我儘じみたことを……やれやれ。出発前に渡した課金用のお金はまだまだ充分ある。使わなければこちに返すだけ……ぬしにとっては無理した分損になるだけ。はようせい! それとも、さっきの拾得所持金のこと、まだ気にしているんであるんすか?」




「むぐぐぐぐ……わかったよぉ。」





 ――――結局、探索の前に二の足を踏むわけにもいかず、リッチマンは150000円を課金した。ヒーロースーツ全体から冷たい靄のようなものが発生し、たちまちリッチマンは暑苦しさから解放された。





「――ひゃああ~っ!! 涼しくなったぜ~っ!! 快適、快適~♪」




「全くもう。そこからは未知のエリアでありんす。気を引き締め直して探索を続けて。ネイキッドフレイムも念の為こまめにスポーツドリンクや食料の補給を……」




 >>





 そうして、サウナのような熱気の立ち込める中、探索を再開した。





 ここでもやはり化け物たちがこちらを見付けるなり襲い掛かってきた。





 豚顔面からバリエーションも増え、羆を思わせるような巨大な猛獣や機敏な動きをする狼、空中から鋭く飛び掛かってくる鳥などのような化け物と戦うこととなった。




 さすがに当初の豚顔面よりは格上で、一撃では倒せなかったり、こちらの攻撃を外して反撃を喰らうなど、やや消耗する展開となっていった。




 つい今しがたも、獣に喰らい付かれたところを何とか滅したリッチマンだった。




「――――いててて…………やっぱこのフロアに入ってから敵、強くなってんな~…………バイタルチャアアアジッ!! ……ふうっ。」





「大丈夫か? 傷薬も使え。……確かに、動きの良い敵には俺の大振りな斧が当たらなくなってきたな……」




「ありがとよ! …………よしっ……これで何とか回復――――ふはははは!! 敵も強くなった分なのか、金もめっちゃ手に入るぜえ~!!」




 ――より生命の危険を意識させられる異空間だが、その分金銭的な収穫も莫大なものがあった。既に数百万円近くは拾えたであろうか。




「――目的は飽くまでも悪を叩いていくことでありんす。そのお金も全部はリッチマンのものにはなりんせんからね? 無事戻ってきたら改めて交渉しんしょう。」





「……わーかってるっつーの。ったく。ほんの一時だけでも浸らせてくれよォ…………。」





「――幸せはお金である程度買える、少なくともあらゆることが安心だ、って言っている奴は今の世の中結構いるからな……リッチマンの気持ちを俺は否定はしない――――ところで……次の階層が見えて来たぞ。」





 ――ネイキッドフレイムが気付くと、奥にさらに下層へと降りる階段が見付かった。





 リッチマンは先程と同じく、マーキングユニットを設置し、準備を調え直してから再び階段を降りて行った――――
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