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第30話 『成果』に応える誠意

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「――――さて、と…………だいぶ休憩にはなったし、そろそろ研究所に戻るわぇ……マスター。御馳走様でありんした。また来るわぇ。お勘定はここに……。」



 マユは、自分の携帯端末の時計が15:00を回ったあたりで、ゆっくりと席を立った。




「……俺たちはまだ何かすることはあるか?」




 アリノがマユに尋ねる。




「そうでありんすね……一先ずアリノにも検査の為にもう一度研究所に来てもらいんす。時間ありんすかぇ?」





「わざわざ時間は作ってあそこへ行ったんだ。今日1日は大丈夫だ。」




「なら、そのつもりで……ヨウヘイは…………一先ず今日はもう終わりでござりんす。給料も渡したし。」




「帰んのか? み、見送りくらいさせてくれよ!」




 ――ヨウヘイはエプロンを着たまま、足早に去ろうとするマユを追った。




 店の玄関の扉の鈴が鳴り、外へ出る。




「何だぇ?どうせ車だし、わざわざ見送らなくても……」




 ヨウヘイは一度は財布に収めた給料とボーナスを見ながら、マユに訊く。




「――その……本当に良いのか? 1日でこんなに大金貰っちまって…………確かにあの場所は危険だけどよお…………。」




 マユは、目を細めてヨウヘイのどこか不安げな顔を見る。




「……充分でありんす。自分の信念や仕事の一環だからって、そんな簡単に命を懸けられる人間、そうは多くいないでありんす。その高いハードルを初っ端からクリアしているだけでも上出来でありんすよ。それに…………。」




「……それに、何だよ?」




 マユは徐にヨウヘイに近付いて、幾分か落とした低いトーンで呟く。




「――――ぬしは、自分で言った通り『成果』を出してくれんした。それは対悪性怪物殲滅班スレイヤーズギルドのみんなもちゃんと見ていんす。約束通り……もう少しくらいは自分たちを労わり、大事にすべきと思わせてくれんした。その誠意には応えたい。その+50000円はそれを気付かせてくれた御礼のようなもんでありんす。」





「……そんな、畏まらなくっても――」




 マユからの、やや唐突とも言えそうな御礼の仕方に、ヨウヘイは動揺しかける。




「――いいでありんす。その給料で身なりを整え直して欲しいもんでありんす。何だったら、対悪性怪物殲滅班の購買部の中にも服飾雑貨はありんすよ? 貴方はちゃんと自分で出来る大きな仕事をやっているのでありんす。だからそのお金は貴方の物。負い目を感じるならせめて……」




「……せめて?」




 ――今度は、マユの目が真剣なものになった。司令官として対悪性怪物殲滅班のリーダーとして務めている時に近い目つきだ。




「――――『悪』を滅するという、最後の『成果』を。その最後へと連なっているであろう無数の『成果』を、出し続けてくれれば、何ならもっと待遇を良くしてもいいぐらいでありんす。わっちらも遠慮しているつもりはないし、ぬしも遠慮はいらんわぇ。」





「――お? おう…………任せとけよ。」





 ――信頼はされているが、同時に大きく、重いほどの期待を掛けられている。最初に研究所に来てくれ、と懇願して来た時のマユに近い迫力に、ヨウヘイも少々気圧されてしまった。





 そこからは表情筋も圧も緩めて、マユは車へと乗り込んだ。





「――また協力して欲しい時は連絡しんす。幸運なことに、戦力は2人になりんしたし。」





「……おう。俺はまだあの研究所のことも、ほとんどよく知らん状態なんだが……ヒーローとして悪と戦うなら、協力は惜しまない。」





「――案外、この調子でもっと戦力が増えたりするかもしれないでありんす。対悪性怪物殲滅班でも装備や設備は開発していくつもりでありんす。さっさと戻って、アリノの検査とあの潜入でのデータ解析を急がないと…………。」




 マユが運転席に乗った後、後部座席にアリノが乗った。重量のあるアリノが乗って車体が揺れ、「おおっと……」と少々驚いた声を出しながらも、マユはエンジンキーを回した。




「――それでは、またぇ……。」




 そうして、マユとアリノは再び研究所へと去っていった。





 またすぐに会えるだろうが、ヨウヘイは去り行くマユの背中を窓越しに見て、なんだか名残惜しいものを感じつつ、店に戻った。




 時刻は、まだ夕方にもなっていない。




「――――さあて……店の仕事もペコのイタ飯の勉強も――――いっちょやるか!!」





 ――ヨウヘイは頬をはたいて、気を引き締め直して……改めて本来の自分の仕事の修行の場へと戻っていった――――
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