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5.最果て
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貝の国の人々はデリヒクを温かく迎えてくれた。魔神の魔力が消えて、貝の国からの優しい気配は深海からでも分かるようになり、デリヒクは無事に帰る事が出来たのだった。
深海の一番深い場所が分かってきたのは、それから更に50年近く後の事だった。
深海からの魔魚人らとの壮絶な死闘や近隣諸国との冷戦の開始など、決して一筋縄ではいかなかった。
長く過酷な、厳しい時代をくぐり抜け、平和の尊さを皆が噛み締めて訪れた、文明的で平和な時代からの発見だ。
そして、理不尽で訳の分からないバイブルは否定されてオカルトとなり、過激な行き過ぎた科学もまた見直された、そんな時代が訪れてやっと認められた功績だ。
深海の底にあたる、世界の中心。そこには何もなかった。完全な無である事が証明されたのだ。
デリヒクがその場所を訪れたのは、それから更に3年後だ。今度は頼れる戦士たちと共に深海に向かっていった。深海の底に魔力も生命の気配もない事を、デリヒクは世界盟合の代表として確認した。
その頃にはデリヒクは王となっており、二人の息子と五人の孫がいた。
何か懐かしい気配もある気がしたが、一瞬の事のように思われた。デリヒクはその長い生涯の中であと7回、中心を訪れた。
そして、やはり何もない事をその度に確かめた。
幻想城の魔神のような深く記憶に刻まれる悲しい戦いも幾つか乗り越えた。ただ、今度は仲間がいた。デリヒクは皆の力を借りながら、今でも少しずつ強くなっている。そう実感する事が出来たのだ。
何もかもが思い通りになった訳ではない。人間とて万能ではないし、誤解や衝突も何度もあった。人を信じるに足る賢者が理不尽に命を落とした事もあった。
水世界はあたかもファンタジーだが、そこで起こる出来事は現実なのだ。
その度に人は悲しみと向き合う事を強いられた。ある者は全てに無関心になり、ある者は腐敗し、またある者は全てを敵にした。
ある者は忍耐を強いられ、ある者は孤独を選び、またある者は平穏を勝ち取った。
デリヒクは最期の瞬間まで勇敢で聡明だった。人は彼を何度も見直したし、何度も助けられた。
それら全ての物語をここに記すには、余りにも時間が足りず残念に思う。
けれども、人はどんな世界でも何かを成す事を目指すのだろう。そうした無限の物語はウォーター・ダウンにおいても、永遠に紡がれていくのだ。
さて、ここに一人の魔神がいる。デリヒクと瓜二つのその魔神はいずれ王に成り代わり、世界を混乱に陥れるのだが、それはまたいずれ話そう。
深海の一番深い場所が分かってきたのは、それから更に50年近く後の事だった。
深海からの魔魚人らとの壮絶な死闘や近隣諸国との冷戦の開始など、決して一筋縄ではいかなかった。
長く過酷な、厳しい時代をくぐり抜け、平和の尊さを皆が噛み締めて訪れた、文明的で平和な時代からの発見だ。
そして、理不尽で訳の分からないバイブルは否定されてオカルトとなり、過激な行き過ぎた科学もまた見直された、そんな時代が訪れてやっと認められた功績だ。
深海の底にあたる、世界の中心。そこには何もなかった。完全な無である事が証明されたのだ。
デリヒクがその場所を訪れたのは、それから更に3年後だ。今度は頼れる戦士たちと共に深海に向かっていった。深海の底に魔力も生命の気配もない事を、デリヒクは世界盟合の代表として確認した。
その頃にはデリヒクは王となっており、二人の息子と五人の孫がいた。
何か懐かしい気配もある気がしたが、一瞬の事のように思われた。デリヒクはその長い生涯の中であと7回、中心を訪れた。
そして、やはり何もない事をその度に確かめた。
幻想城の魔神のような深く記憶に刻まれる悲しい戦いも幾つか乗り越えた。ただ、今度は仲間がいた。デリヒクは皆の力を借りながら、今でも少しずつ強くなっている。そう実感する事が出来たのだ。
何もかもが思い通りになった訳ではない。人間とて万能ではないし、誤解や衝突も何度もあった。人を信じるに足る賢者が理不尽に命を落とした事もあった。
水世界はあたかもファンタジーだが、そこで起こる出来事は現実なのだ。
その度に人は悲しみと向き合う事を強いられた。ある者は全てに無関心になり、ある者は腐敗し、またある者は全てを敵にした。
ある者は忍耐を強いられ、ある者は孤独を選び、またある者は平穏を勝ち取った。
デリヒクは最期の瞬間まで勇敢で聡明だった。人は彼を何度も見直したし、何度も助けられた。
それら全ての物語をここに記すには、余りにも時間が足りず残念に思う。
けれども、人はどんな世界でも何かを成す事を目指すのだろう。そうした無限の物語はウォーター・ダウンにおいても、永遠に紡がれていくのだ。
さて、ここに一人の魔神がいる。デリヒクと瓜二つのその魔神はいずれ王に成り代わり、世界を混乱に陥れるのだが、それはまたいずれ話そう。
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