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魔法の剣
キジュア再び
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テックの冒険者見習い生活は、そこそこ軌道に乗ってきた。
いまいち友人がいなかったショーンやアナと共に歩んできた学生生活だ。テックは友人作りには自信があったので、逆にテックが主体となって二人を引っ張っている。
ガーンダムは、次回以降の模擬戦で戦う事になるかもしれない、良きライバルだ。頼めば、稽古を付けてすらくれそうである。テックは真空弾を使いこなしたいので、そうなれば渡りに舟だ。
疾風飛びは依頼での魔物討伐でも練習出来るので、テックにとって次第に必須の基本動作となって来ていた。
戦いに関しては、野性児並みの潜在能力を持つテックは、急激な速度で成長を遂げつつあったのだ。
それはもしかしたら、テックの本当の親に秘密があるのかもしれない。
ガディアは、あくまでテックの育ての父。テックは本当の両親の、名前も顔も知らないのであった。
しかし、ガディアが人として出来た人格者なのが功を奏し、テックは明るく元気な若者に成長したのである。
テックは、キジュアの事を思い出していた。
剣の返却。それに関して保留になっていたはずだからだ。
「キジュア・・・あの男の強さはどれほどだろう。剣を返す前に、俺の力がヤツを抜いてしまうぞ」
テックのその言葉は、あながち強がりでもない。あれから様々な技を身に付け、第四剣の習得も見えてきた。
テックが現在使えるのは、第一剣、第二剣、第三剣だ。
これに第四剣である輪廻が加われば、テックの戦いに更なる幅が生まれるのである。
「呼んだか、少年」
キジュアは、テックの目の前に現れた。
「げ、もう返却期限ですか」
「厳密には、小生は帰って良いとは言わなかった」
「いや覚えてないですし。もう、意外と細かい所があるんすね」
実際、遥か昔の些細な責任論を持ち出されると大体がこのような反応だ。至って普通と言えよう。
「貴様、侮辱するか。良い度胸だな」
だが、世の中には言ってはいけない真実がある。つまり、テックはキジュアを怒らせたのだ。
キジュアは、居合いの構えを取った。そしてまた黒界が展開された。
「ええっ。くそ、涅槃」
テックは長剣同士は分が悪いと踏んで、敢えて蒼短剣を選択した。それに、集中を研ぎ澄まし、炎剣を出すためには絶好の強敵だ。
「ふん、私が誰かを忘れたな」
キジュアはテックが繰り出す攻撃を、ことごとく避けていく。
そう、キジュアはテック以上の魔法剣の使い手だった男なのだ。
「この長剣を見よ。これは魔剣を失ってから鍛冶屋に特注で作らせた、戒律のレプリカだ」
目を凝らすと、キジュアが左手に構えている長剣は、テックのとは多少、見た目が違うが確かに白銀の十字剣だ。
「そして、本物を模した機構もある。私が見せてくれよう」
キジュアは「本物をなァ」 と続けながら、テックに向かって居合いの姿勢から縱斬りを繰り出した。
「っ!こ、凍ってる」
テックの時よりは穏やかだが、攻撃した空間がビシッ、ビシと音を立て凍っていたのだ。
「ここまでするのは、コツがいるんだ。教えてやらんがな」
「じゃあ、俺も魔法剣は返さねえ」
「魔法剣、ふふ。弱そうな名だ」
そう言い捨てキジュアが剣を空振りさせると、その軌道に沿って氷柱が出来た。
「コイツは、こうするのさ」
キジュアは渾身のスイングで、十字剣をバットにして氷柱を飛ばして来たのだ。
「そんなのナシだろっ」
避けきれず、左膝がざくりと切れた。
(稽古とかじゃない。こいつ、キジュア。本当にキレて俺を殺す気だ)
冷や汗が、テックの顔をぽろぽろと流れていく。
「おい、キジュア。あんた、魔法剣をどこまで使える?俺は輪廻すら出来るぜ」
ハッタリだ。実際には、まだテックでは第三剣までしか使えない。キジュアが第一剣を好んでいるなら、まだ第二剣以降を使えていない可能性は低くはないのだ。
だが、キジュアはニヤリと笑った。
「全部だ」
全部。それが真実なら、第七剣までを全て使えた事になる。
「冗談はよそうぜ、キジュアさん。いや、キジュア」
「粋がるなよ貴様ァ」
「ちょっと待て」
フレイアだ。そして、気付けばいつしかテックたちは、神託の庭にワープしていたのだ。
「フレイア様。女神様と言えど、魔剣の勇者を選び間違えてはオーディン様がお怒りになりますぞ」
「あーあー。途中から見てたから、大体は知ってるんだぜ」
「ババア、俺は剣を返さない」
「知ってるって言ったんだぜ。で、オーディン様の返事がコレだ」
フレイアは両手を高く掲げ、呪文を唱えた。すると、テックたちの目の前には魔法剣の原形、第零剣があった。
「女神様」
「ババア、これって」
「つまり、キジュアにも剣をくれてやれって話だぜ」
思いもよらぬ話に、テックは期待と不安が込み上げてくるのを止められなかったのだった。
いまいち友人がいなかったショーンやアナと共に歩んできた学生生活だ。テックは友人作りには自信があったので、逆にテックが主体となって二人を引っ張っている。
ガーンダムは、次回以降の模擬戦で戦う事になるかもしれない、良きライバルだ。頼めば、稽古を付けてすらくれそうである。テックは真空弾を使いこなしたいので、そうなれば渡りに舟だ。
疾風飛びは依頼での魔物討伐でも練習出来るので、テックにとって次第に必須の基本動作となって来ていた。
戦いに関しては、野性児並みの潜在能力を持つテックは、急激な速度で成長を遂げつつあったのだ。
それはもしかしたら、テックの本当の親に秘密があるのかもしれない。
ガディアは、あくまでテックの育ての父。テックは本当の両親の、名前も顔も知らないのであった。
しかし、ガディアが人として出来た人格者なのが功を奏し、テックは明るく元気な若者に成長したのである。
テックは、キジュアの事を思い出していた。
剣の返却。それに関して保留になっていたはずだからだ。
「キジュア・・・あの男の強さはどれほどだろう。剣を返す前に、俺の力がヤツを抜いてしまうぞ」
テックのその言葉は、あながち強がりでもない。あれから様々な技を身に付け、第四剣の習得も見えてきた。
テックが現在使えるのは、第一剣、第二剣、第三剣だ。
これに第四剣である輪廻が加われば、テックの戦いに更なる幅が生まれるのである。
「呼んだか、少年」
キジュアは、テックの目の前に現れた。
「げ、もう返却期限ですか」
「厳密には、小生は帰って良いとは言わなかった」
「いや覚えてないですし。もう、意外と細かい所があるんすね」
実際、遥か昔の些細な責任論を持ち出されると大体がこのような反応だ。至って普通と言えよう。
「貴様、侮辱するか。良い度胸だな」
だが、世の中には言ってはいけない真実がある。つまり、テックはキジュアを怒らせたのだ。
キジュアは、居合いの構えを取った。そしてまた黒界が展開された。
「ええっ。くそ、涅槃」
テックは長剣同士は分が悪いと踏んで、敢えて蒼短剣を選択した。それに、集中を研ぎ澄まし、炎剣を出すためには絶好の強敵だ。
「ふん、私が誰かを忘れたな」
キジュアはテックが繰り出す攻撃を、ことごとく避けていく。
そう、キジュアはテック以上の魔法剣の使い手だった男なのだ。
「この長剣を見よ。これは魔剣を失ってから鍛冶屋に特注で作らせた、戒律のレプリカだ」
目を凝らすと、キジュアが左手に構えている長剣は、テックのとは多少、見た目が違うが確かに白銀の十字剣だ。
「そして、本物を模した機構もある。私が見せてくれよう」
キジュアは「本物をなァ」 と続けながら、テックに向かって居合いの姿勢から縱斬りを繰り出した。
「っ!こ、凍ってる」
テックの時よりは穏やかだが、攻撃した空間がビシッ、ビシと音を立て凍っていたのだ。
「ここまでするのは、コツがいるんだ。教えてやらんがな」
「じゃあ、俺も魔法剣は返さねえ」
「魔法剣、ふふ。弱そうな名だ」
そう言い捨てキジュアが剣を空振りさせると、その軌道に沿って氷柱が出来た。
「コイツは、こうするのさ」
キジュアは渾身のスイングで、十字剣をバットにして氷柱を飛ばして来たのだ。
「そんなのナシだろっ」
避けきれず、左膝がざくりと切れた。
(稽古とかじゃない。こいつ、キジュア。本当にキレて俺を殺す気だ)
冷や汗が、テックの顔をぽろぽろと流れていく。
「おい、キジュア。あんた、魔法剣をどこまで使える?俺は輪廻すら出来るぜ」
ハッタリだ。実際には、まだテックでは第三剣までしか使えない。キジュアが第一剣を好んでいるなら、まだ第二剣以降を使えていない可能性は低くはないのだ。
だが、キジュアはニヤリと笑った。
「全部だ」
全部。それが真実なら、第七剣までを全て使えた事になる。
「冗談はよそうぜ、キジュアさん。いや、キジュア」
「粋がるなよ貴様ァ」
「ちょっと待て」
フレイアだ。そして、気付けばいつしかテックたちは、神託の庭にワープしていたのだ。
「フレイア様。女神様と言えど、魔剣の勇者を選び間違えてはオーディン様がお怒りになりますぞ」
「あーあー。途中から見てたから、大体は知ってるんだぜ」
「ババア、俺は剣を返さない」
「知ってるって言ったんだぜ。で、オーディン様の返事がコレだ」
フレイアは両手を高く掲げ、呪文を唱えた。すると、テックたちの目の前には魔法剣の原形、第零剣があった。
「女神様」
「ババア、これって」
「つまり、キジュアにも剣をくれてやれって話だぜ」
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