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そうだ、街へ行こう!
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休日ということで、街へと息抜きにやってきた。
モラハ様に聞いたところ、息抜きとして馬車に乗るそうだが、馬車からほとんど降りないらしい。比較的安全な場所を一周したら公爵家に戻るという。何のために馬車に乗るんだよ。あ、息抜きか。前世で言うところの目的もなくドライブを楽しむような感覚だな。
外出ついでに、俺はアンになにか買ってやりたいなと思っていたから、お高めな高級菓子を見繕うことにした。ついでにあの頭のおかしいメイドのシキを懐柔できないかとひそかに企んでいる。好みがなんなのかわからないけど、女の子なら甘いものなら喜んでもらえると思う。しかし、相手はシキだ。念には念を入れてモラハ様に聞いてみることにした。
「モラハ様、シキさんの好きなものってなんですか?」
「物好きなやつだな。シキが好きなのか? やめておいた方が身のためだぞ」
あんな危ないメイドを好きになるやつの気が知れない。
「仲良くなれたらいいなと思っただけですよ」
毎日顔を合わせているわけだし、そろそろ威嚇なのかわからんが、俺に攻撃をしかけてくるのをやめてもらいたい。お小遣いの範囲内での出費なら多少貢いでもいいと思っている。死にたくないし。
「仲良く? 無理だろ。あの化け物級の戦闘狂が友だち枠に収まると思うか?」
「あ、ははは……」
悪役令息にまで化け物扱いされているんだな。女の子なのにちょっと不憫。
「それに以前、部屋から出ないように言われていたのに出た時は、こっぴどく叱られたんだ。それからだ。人形のようなやつらがふらりとくるようになってさ。怖いだろ。話を聞いてんだか聞いてないんだかわからないやつが、俺のあとを追ってくるんだぜ。殴っても痛みを感じてないみたいでぼーっとついてくるんだ」
自業自得じゃねぇかよ。大人しく部屋にいろよ。命を狙われているんだからさ。
操られている方も大変だよな。あとから殴られた痛みに悶えることになるはずだ。
「今はそういう人きませんよね」
「お前がいるからな。危ないやつがこなくなって良かったよ」
「お役に立てているようならなによりです」
「ちょうど子分が欲しいと思っていたところだったからな。いいタイミングだった」
子分じゃねぇーよ。側近候補だよ。なんでも使い走りにできると思うなよ?
あれ? 側近って使い走りだっけ?
お菓子が売っている高級店についたらしく、俺は馬車からささっと降りる。
モラハ様はお菓子は外で買うなと言われていたから、初めてお店にはいるそうだ。
公爵家のコックが作ったもの以外は食べないらしい。そうだよな。どこで毒が混入しているかもわからないしな。公爵家のメイド部隊はたぶん毒を食べても死なないと思うけど。
「いらっしゃいませ」
いろとりどりのケースにならんだお菓子に目を見張る。この世界でもお菓子が陳列されているとは思わなかった。透明なガラスの鍋がお菓子にかぶさっているのだが、ちゃんとどういったお菓子なのかが見える。
「おすすめはこちらのいちごのマカロンです」
本の中の世界で魔法が使える世界だからインフラも整っているし、生活レベルも高いってことなのかな。街の中は驚きがあふれている。伯爵家でも引きこもり気味だったようだし、これは公爵家に引きこもっている場合じゃないな。
「じゃぁ、それとそれとこれをください。こっちのはプレゼント用にお願いします」
アンのお菓子にはピンクのリボンを結んでもらった。
モラハ様は見ているだけで買おうとはしなかった。
馬車へと乗り込む前にちょっと寄り道してから、俺はモラハ様に言う。
「帰ったら、走り込みはしておきましょうか」
「え? 嫌だよ。なんで休日まで走らないといけないんだよ」
「クウくんが明日くるじゃないですか。その姉君も一緒に遊びにいらっしゃるそうですよ」
「だからなんだ? 明日来るなら明日頑張ればいいだろ」
「1日さぼると昨日頑張って減らした脂肪が戻ってきますよ」
「なんだとっ?! それは困るな」
嘘だが彼は信じたようだ。なんで俺の言葉を信じたんだろう。あ、あれか。先日取得したスキル『デュアルコントロール』。どれどれ説明はなんて書いてあるんだ?
デュアルコントロール:敵または味方に対して、「飴(強化:認識の変容)」と「鞭(弱体:思考の停滞)」を同時に与える。
ようするに洗脳? え、まじで? これでモラハ様の死を回避するのが楽になるのか?! いや、そんな簡単にいくものなのかな。モラハ様が、ただの傀儡になるのはちょっと違うしな。オンオフできるし、様子を見るしかないな。
「クウくんの姉君は小動物のように可愛いそうですよ。彼女の前で鍛錬していたら、きっとモラハ様の格好良さにくぎ付けになってしまうことでしょう」
いいところを見せましょうと追い打ちをかけるようにモラハ様に提案した。
「なるほど。俺の素晴らしさを理解した女性たちからモテるってことだな」
そんなこと一言も言ってない。デュアルコントールは効いているのか?
それに、相手の趣味じゃなければ、惚れられるわけはない。だが、そんなこと言ってしまってはやる気をなくしかねないので、頷くに留める。おそらく、クウくんの姉君の前ではいつもつけている縄は必要ないはずだ。いいところを見せたいと思うはずだから、俺が引っ張る必要はないってことだ。
クウくんに姉君を連れてきてほしいと伝えておいてよかった。ストーリーが始まったらクウくんも三下モブとして巻き込まれるわけだし。
アンのために伯爵家へお菓子を届けてもらい、公爵家のメイドたちにもお菓子を配った。
ガゼボでシキに直接マカロンを渡そうとしたら、近づくなと言わんばかりにマカロンだけを消し炭にされた。魔法使えるんだ……っていうか、高級菓子……。
甘い物はダメだったのか。ダイエットでもしているのかもしれない。
じゃあと、とっておきに購入しておいたブローチを贈ってみた。なぜか、シキはものすごくいい笑顔で、俺からだと言付けしモラハ様へとブローチを渡した。高級ブローチはシキ経由でモラハ様行きとなった。想定外のプレゼントにモラハ様は不審そうな眼をしてこちらを見ている。
お前に贈ったんじゃないから。そんな嫌そうな顔すんな。
後日、シキには回復薬と美容液を送ったら喜んでくれたらしい。やっぱり戦闘狂には回復薬だよな。あと、夜遅くまで起きているようだし、お肌も気になっていたんだと思う。もらってくれてよかった。
ちなみに、頭のおかしいメイドの名前はシキ・リタガリと言う。
死期(しき)繋がりじゃなかったよ。
モラハ様に聞いたところ、息抜きとして馬車に乗るそうだが、馬車からほとんど降りないらしい。比較的安全な場所を一周したら公爵家に戻るという。何のために馬車に乗るんだよ。あ、息抜きか。前世で言うところの目的もなくドライブを楽しむような感覚だな。
外出ついでに、俺はアンになにか買ってやりたいなと思っていたから、お高めな高級菓子を見繕うことにした。ついでにあの頭のおかしいメイドのシキを懐柔できないかとひそかに企んでいる。好みがなんなのかわからないけど、女の子なら甘いものなら喜んでもらえると思う。しかし、相手はシキだ。念には念を入れてモラハ様に聞いてみることにした。
「モラハ様、シキさんの好きなものってなんですか?」
「物好きなやつだな。シキが好きなのか? やめておいた方が身のためだぞ」
あんな危ないメイドを好きになるやつの気が知れない。
「仲良くなれたらいいなと思っただけですよ」
毎日顔を合わせているわけだし、そろそろ威嚇なのかわからんが、俺に攻撃をしかけてくるのをやめてもらいたい。お小遣いの範囲内での出費なら多少貢いでもいいと思っている。死にたくないし。
「仲良く? 無理だろ。あの化け物級の戦闘狂が友だち枠に収まると思うか?」
「あ、ははは……」
悪役令息にまで化け物扱いされているんだな。女の子なのにちょっと不憫。
「それに以前、部屋から出ないように言われていたのに出た時は、こっぴどく叱られたんだ。それからだ。人形のようなやつらがふらりとくるようになってさ。怖いだろ。話を聞いてんだか聞いてないんだかわからないやつが、俺のあとを追ってくるんだぜ。殴っても痛みを感じてないみたいでぼーっとついてくるんだ」
自業自得じゃねぇかよ。大人しく部屋にいろよ。命を狙われているんだからさ。
操られている方も大変だよな。あとから殴られた痛みに悶えることになるはずだ。
「今はそういう人きませんよね」
「お前がいるからな。危ないやつがこなくなって良かったよ」
「お役に立てているようならなによりです」
「ちょうど子分が欲しいと思っていたところだったからな。いいタイミングだった」
子分じゃねぇーよ。側近候補だよ。なんでも使い走りにできると思うなよ?
あれ? 側近って使い走りだっけ?
お菓子が売っている高級店についたらしく、俺は馬車からささっと降りる。
モラハ様はお菓子は外で買うなと言われていたから、初めてお店にはいるそうだ。
公爵家のコックが作ったもの以外は食べないらしい。そうだよな。どこで毒が混入しているかもわからないしな。公爵家のメイド部隊はたぶん毒を食べても死なないと思うけど。
「いらっしゃいませ」
いろとりどりのケースにならんだお菓子に目を見張る。この世界でもお菓子が陳列されているとは思わなかった。透明なガラスの鍋がお菓子にかぶさっているのだが、ちゃんとどういったお菓子なのかが見える。
「おすすめはこちらのいちごのマカロンです」
本の中の世界で魔法が使える世界だからインフラも整っているし、生活レベルも高いってことなのかな。街の中は驚きがあふれている。伯爵家でも引きこもり気味だったようだし、これは公爵家に引きこもっている場合じゃないな。
「じゃぁ、それとそれとこれをください。こっちのはプレゼント用にお願いします」
アンのお菓子にはピンクのリボンを結んでもらった。
モラハ様は見ているだけで買おうとはしなかった。
馬車へと乗り込む前にちょっと寄り道してから、俺はモラハ様に言う。
「帰ったら、走り込みはしておきましょうか」
「え? 嫌だよ。なんで休日まで走らないといけないんだよ」
「クウくんが明日くるじゃないですか。その姉君も一緒に遊びにいらっしゃるそうですよ」
「だからなんだ? 明日来るなら明日頑張ればいいだろ」
「1日さぼると昨日頑張って減らした脂肪が戻ってきますよ」
「なんだとっ?! それは困るな」
嘘だが彼は信じたようだ。なんで俺の言葉を信じたんだろう。あ、あれか。先日取得したスキル『デュアルコントロール』。どれどれ説明はなんて書いてあるんだ?
デュアルコントロール:敵または味方に対して、「飴(強化:認識の変容)」と「鞭(弱体:思考の停滞)」を同時に与える。
ようするに洗脳? え、まじで? これでモラハ様の死を回避するのが楽になるのか?! いや、そんな簡単にいくものなのかな。モラハ様が、ただの傀儡になるのはちょっと違うしな。オンオフできるし、様子を見るしかないな。
「クウくんの姉君は小動物のように可愛いそうですよ。彼女の前で鍛錬していたら、きっとモラハ様の格好良さにくぎ付けになってしまうことでしょう」
いいところを見せましょうと追い打ちをかけるようにモラハ様に提案した。
「なるほど。俺の素晴らしさを理解した女性たちからモテるってことだな」
そんなこと一言も言ってない。デュアルコントールは効いているのか?
それに、相手の趣味じゃなければ、惚れられるわけはない。だが、そんなこと言ってしまってはやる気をなくしかねないので、頷くに留める。おそらく、クウくんの姉君の前ではいつもつけている縄は必要ないはずだ。いいところを見せたいと思うはずだから、俺が引っ張る必要はないってことだ。
クウくんに姉君を連れてきてほしいと伝えておいてよかった。ストーリーが始まったらクウくんも三下モブとして巻き込まれるわけだし。
アンのために伯爵家へお菓子を届けてもらい、公爵家のメイドたちにもお菓子を配った。
ガゼボでシキに直接マカロンを渡そうとしたら、近づくなと言わんばかりにマカロンだけを消し炭にされた。魔法使えるんだ……っていうか、高級菓子……。
甘い物はダメだったのか。ダイエットでもしているのかもしれない。
じゃあと、とっておきに購入しておいたブローチを贈ってみた。なぜか、シキはものすごくいい笑顔で、俺からだと言付けしモラハ様へとブローチを渡した。高級ブローチはシキ経由でモラハ様行きとなった。想定外のプレゼントにモラハ様は不審そうな眼をしてこちらを見ている。
お前に贈ったんじゃないから。そんな嫌そうな顔すんな。
後日、シキには回復薬と美容液を送ったら喜んでくれたらしい。やっぱり戦闘狂には回復薬だよな。あと、夜遅くまで起きているようだし、お肌も気になっていたんだと思う。もらってくれてよかった。
ちなみに、頭のおかしいメイドの名前はシキ・リタガリと言う。
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