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階級社会って厳しい

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 記憶が戻ってから俺が最初に見た人物はモラハ・ラスゴイである。

 一心同体。

 一蓮托生。

 命が繋がっている相手。

「夢だと思いたい……」

 近くに立っているメイドさんを実は最初に見てたりしないかな……。

 メイドさんをちらりと見てみたが、鼻血を拭いている俺をゴミムシのような冷たい目で見ていた。

 あ、怖い。

 まぁ、ばっちりモラハ・ラスゴイを最初に認識した気がするけどさ。

 ほら、間違っている可能性も何パーセントかあるかもしれないだろ。

 もうさ、現実を直視するのが怖くてさ。

 俺は深いため息をつきたくなった。

 なぜなら、この世界は前世で知ったくそ小説「貴族学園らぶみーどぅー」という学園を舞台にした剣と魔法の世界であるからだ。

 しかも、このモラハ・ラスゴイはそのストーリーの悪役的存在のひとりだ。

 彼が成長し学園に入学した暁には、もれなく主人公へ行った悪事がばれて死ぬ運命にある。

 モラハ様が死ぬということは、彼と命が繋がっている俺も当然死ぬということだ。

 それが女神様の言っていた祝福『命が繋がるオプション』とやらが効果を発動している状態なのかは定かじゃない。

 まぁ、彼女のお言葉などあってないようなものだろう。うん、忘れよう。

「も、モラハ様! ドコニ君が、死んじゃいますよ!?」

 おびえながらも声をあげた少年は、俺と同じモラハの側近を狙っている相手でクウ・キニナレだ。彼はキニナレ男爵の次男で髪は短髪の茶色、目は丸く頬はそばかすだらけといういかにもモブらしい顔をしている。

 もれなく、俺と同じ悪役の腹心となる運命のキャラクターである。

「クウ君。大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」

 鼻血をぬぐいながら俺はよろよろと起き上がり、心配してくれたクウ君にお礼を言う。

 庭園に集まっている子供たちの親は、本邸でモラハ・ラスゴイの親と談笑中でこの場にはいないし、そばに控えているメイドは静観しており、モラハ様の暴挙を止める者はクウ君以外に誰もいなかった。

 俺のこの世界の親がいたとしても、メイドと同じように静観しているだろう。

 なんせ、『貴族とはそういうものだ。耐えろ』と事あるごとに俺に言い聞かせているわけで、ラスゴイ公爵家に反論できるほどの家格でもない。

 そういうものって、どいういうものだよって突っ込みを入れたくなるけど、モラハ様よりも固いげんこつが頭上から降ってくるだけなので、言葉通り耐えるしかない。

 モブにとっては殴られても何もなかったように振る舞うのが正解というわけだ。だって、モブだし。なんというか、世知辛い世の中だよな。

「ふん、俺の手を煩わせやがって、今度またたて突くならただじゃおかないからな」

 そう捨て台詞を吐いてモラハ様は、ここから目と鼻の先にある中庭に設置されたガゼボ内の椅子にふんぞり返って座った。

 周囲で見守っていた子供は目を付けられまいと俯いて、丸いテーブルを囲むように置かれた椅子におとなしく座っている。こう見ているとクウ君がモブの割にはかなり度胸のいる発言をモラハ様にしたことがわかる。ありがとうクウ・キニナレ。

 俺はガゼボに戻り、何もなかったようにモラハ様の隣の椅子に座った。クウ君も俺とは反対側のモラハ様の隣の椅子に腰を掛ける。

 すると、隣に座っているモラハ様の様子がおかしいことに気づいた。

 そちらに視線を向けるとモラハ様が顔を押さえてうめき声をあげているではないか。

 押さえた指の間からは真っ赤な血が垂れている。

 うめき声に気づいたメイドが慌てだし、急きょ側近選別パーティーは中止となった。

 この不思議現象は、女神様が言っていた祝福『命が繋がるオプション』の効果だろう。時間差はありそうだが、言葉の通り一心同体ということが判明した。

 俺が傷つけばモラハ様も傷がつくし、モラハ様が傷つけば俺も傷つくということだ。

 俺の人生を女神様によって狂わされたが、モラハ様の人生は俺が狂わせたということにならないだろうか。……まぁ、今さらだな。

 ちなみに、俺が殴られた理由はモラハ様が整えられた花壇の花を踏みまくるので、「花を育てた庭師が悲しむのでは?」と一言伝えたら、モラハ様の肉まんのような手が飛んできたというわけだ。

 どの世界でも階級社会って厳しい世界だよな。
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