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EP01「出会いと再会」

SCENE-018(Side S) >> 銀猫危機一髪

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 ――御主人、ミザリィを助けてほしいの。

 お互いの距離に関係なくやり取りできてしまう念話の思念は、いつだって突然、頭の中に飛び込んでくる。
(なに、どうしたの? 私、今ちょっと身動きが取れないんだけど――)
 念話でのやり取りに雑音が混ざることはないと頭ではわかっているのに、ついシャワーを止めてしまうのは何故なのか。

 ――御主人のにゃんこに捕まったの。
 ――御主人のにゃんこ、ミザリィが食べてもいいの?

(いいわけあるか)
 が誰のことを指しているか、理解が及んだ瞬間、私は大判のタオル一枚引っ掴んで浴室から飛び出していた。


                                    
「ジーナ?」
 びしょ濡れのまま姿を見せた私に目を丸くしたレナードは、分厚い壁をくり抜いて出窓のようになった寝室の窓辺に腰かけていて。
「レナード、何か捕まえなかった?」
「あぁ。やっぱりこれ、ジーナの使い魔か何か?」
 さり気なく体で隠されていた方の手には、御主人さまのところへ戻ってくる途中でまんまと捕まった、間抜けな使い魔が摘ままれていた。

「ジーナの魔力と同じ気配だったから、そうじゃないかとは思ったんだけどね。風呂に入り込もうとしてたから、つい捕まえちゃった」
「ミザリィ」
 完全に胴体を押さえられてどうにもならない状態なのに、往生際悪く八本もある脚をわきわきとさせていた乳白色の蜘蛛が大人しくなると、レナードは何かに納得したよう一つ頷いて、窓の縁から下りると私の前までやってくる。
「まさかオスじゃないよね? これ」
「どちらかといえばメス寄りの無性だけど……使い魔にも嫉妬するの?」
「うん」
 臆面も無く頷いて見せたレナード。
 その手からようやく解放されたミザリィは、私の腕をささっと上ってきて、首元に辿り着くなりその輪郭をどろっ、と崩し、蜘蛛が巣を張ったようなデザインの首飾りに姿を変えた。
「えー? そこに落ち着くの? それがデフォ? 羨ましいなぁ」
 そう言いながら、レナードは私の肩にそっと手を添えて、浴室へ戻るよう促してくる。

「ねぇジーナ、やっぱり俺も一緒に入っていい? そいつが一緒なのに俺だけ除け者にされるのは、なんていうか……すごく、むかつく」
 私に否とは言わせず浴室に入ってきたレナードが、後ろ足でバタンと閉めた扉の前でシャツを脱ぎ捨てる。
 かまととぶってきゃっ、と目を背けるなりした方がいいのか。私が悩んでいるうちに、男らしい思い切りの良さで素っ裸になったレナードは、ぶるりと体を震わせ獣化した。
「にゃーん」
「ああああ……それはずるい。私がもふに弱いと知っていて……なんてことを……」
 何故か、私を乗せた時よりもだいぶ小さくなっている銀猫に甘えた声で擦り寄られては、是非もない。

 私は謹んで、お強請り上手な銀猫をシャンプーさせて頂いた。
                                    
                              ◇ ◇ ◇
                                    
 さすがに獣化した銀猫姿では、水も滴るいい男というわけにはいかない。

 比較的短毛だからたいして変わらないのでは……という私の予想を良い意味で裏切って、お湯をかけた端から見事にボリュームダウンしていった銀猫は、真面目な顔を保っていられなくなった私がくすくす笑いはじめると、それはそれは不服そうな顔で頭突きをしてきた。
 それなのにごろごろと喉を鳴らす音は止まらないから、私の笑いもなかなか止まってくれない。

「店の商品でよければ獣人向けのシャンプーもあるけど、どうする? 灰猫屋うちにくる獣人のお客さんの中には、番と同じものなら人用の香料が入ったものでも不思議と平気って人もちらほらいるけど」
 笑い止もうとして変に脇腹を痛くしながら、シャンプーの入ったボトルを差し出して匂いを嗅いでもらうと。獣人用の、綺麗に洗い上がるだけでまったく匂いの残らないタイプで首を傾げた銀猫が、私が自分用に調合して使っているシャンプーに鼻を近付けた途端、ごろごろと喉を鳴らす音を大きくしたものだから、もう……。
(首環は目と同じ金色でも似合うだろうけど、銀に映える赤とか黒も捨てがたくない? いっそ全部作る?)

 ――御主人、ベスティアは代わりが利かないの。本性出すのはまだ早いの。


                                    
 ミザリィがちょくちょく茶々を入れてくれなければ、色々と危なかったかもしれない。
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