58 / 92
第三節「杯の魔女、あるいは神敵【魔王】の帰還」
SCENE-057 一時間弱の程良い運動
しおりを挟む軽量快速仕様の〔イチイバル〕に二人乗りというのはどう足掻いても過積載だが、そこは機体を浮かせている〔浮遊〕をはじめとする機動周りの術式に魔力を多く回せば案外なんとかなるもので。
今の伊月にはドラクレアという、ワルキューレの魔力炉よりも余程優れた魔力供給源があるので。奈月を乗せていてもなんの問題もないどころか、機動力が向上したうえ各種兵装にも魔力を潤沢に回すことができるという、総合的には圧倒的にプラスもいいところだった。
「魔力炉の吸気をカットしてるのに計器の針が振り切れたまま戻ってこない……主機を人造王樹炉に換装でもしたかな……?」
〔イチイバル〕の反応速度は変わらないので出力が上がった分、操作感は変わってしまうが。伊月も〔イチイバル〕に乗るのは久しぶりなので細かいことは気にならない。
索敵用の観測術式では見つけられない小竜を捕捉するため、機体に鱗のよう張りつかせてあった浮遊装甲を観測用プローブのように使い、機体の周囲を絶えず飛び回らせながら。伊月はかつてないほど気持ち良く飛んでくれる機体を操り、〔エヴナ〕が設定したコースに沿って現れる砲撃用の標的を次々と撃ち抜いていった。
「魔力の残量を気にしながら飛ばなくていいって最高……!」
ワルキューレの演算容量――術式処理能力――では足りない分を自前の魔術演算領域で補い、若干ハイになった伊月がきゃっきゃっとはしゃいでいる様子。
強固に結ばれた術理パスから伝わってくる伊月の楽しげな感情を、褒美とばかりに味わいながら。タンデムシートもないような機体に乗せられ遠慮なく魔力を吸い上げられている奈月は奈月で、〝牙〟を捧げた伴侶に対する奉仕欲求を満たされ、すっかり気分を良くしていた。
(かわいい……)
黒姫奈がキリエの腕の中で死んでから、十四年あまり。
その間、ドラクレアが手元に置いていた遺骸はドラクレアの魔力によく馴染み、ドラクレアの霊魂を収めても問題がないどころか、伊月への感情が募るにつれ牙が疼いてくる始末。
振り落とさせないよう抱きしめた体の柔さと、腕の中で弾む呼吸の感触。
風よりも近くをどくどくと流れる血潮の音。
育ちきっていない子供の体で二人分の重量を乗せたワルキューレを操り、うっすらと汗をかいた肌の匂い。
高揚する気持ちを反映して、舌の上でパチパチと弾けるような魔力の味わい。
その何もかもにうっとりとしてしまう。奈月は伊月に気付かれないようそっと、渇きを覚えた喉を鳴らした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる