吸血竜の青い薔薇

第三節「杯の魔女、あるいは神敵【魔王】の帰還」

SCENE-046 偏見、杞憂、悪足掻き

　黒姫奈が信じきれずにいた、ドラクレアの愛。
　吸血鬼が見初めた、ただ一人の相手へと抱く執着の形。

　その理性と忍耐。
　一途な努力と献身を、伊月はもう、少しも疑ってはいなかった。



　伊月の霊魂にはドラクレアの〝牙〟――ドラクレアが黒姫奈へと捧げた霊魂の一部――が埋め込まれている。

　それは伊月の霊魂へ混ざり込むことも、異物として弾き出されることもなく、ただそこにあり続けて。伊月とドラクレアを繋いできた。



　人外と徒人。
　長命種と短命種の婚姻でしばしば見られる霊魂の交わり。

　そうして分かち難く結ばれた長命種と短命種に起きた悲劇や我が身に降りかかった不幸を嘆く徒人を、黒姫奈はうんざりするほど目にしてきた。

　討滅士とは、倭国で徒人ひとに害を及ぼした妖魔ひとでなしを討滅することを生業とするものだから。



　黒姫奈はいつか、ドラクレアに目をつけられた自分もそうなることを恐れていた。