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 第二節「血を吸う鬼の最愛」

SCENE-030 マーキング

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「そういうことなら、私も早めに動いた方がいいな」
 ベッドの外で話を聞いていたヴラドが、読みかけていた本を片付けて立ち上がる。

 一人分の気配が寝室から出て行ったことに、伊月は気付きもしなかった。



「少しだけ、深く触れてもいい?」
 そう囁いてきたキリエにくるりと体勢をひっくり返されて。寝乱れたベッドの上へと仰向けに転がされた伊月の上へ、今度はキリエが乗り上げてくる。

 身動きが取れなくなる程度に体重をかけられながら。キリエが向けてくるとろりとした眼差しに、いったい何が琴線に触れたのだろうかと、伊月は目を瞬かせた。

「私が子供・・なの、ちゃんとわかってる?」
「たぶん、そのことについてはお前よりも私の方がよくわかっているかな」

 そんなわけがないだろうと鼻白んだ伊月に向かって、キリエは徒人を誘惑して糧を得る吸血鬼もかくやという、思わず目が離せなくなるような、魔性そのものの笑みを浮かべてみせる。

「最後まではしないから……もう少しだけ、お前を感じさせて?」
 お願いだからと、恥ずかしげもなく媚びた態度と声で強請られて。
 その本性が何千年と生きているメトセラだとわかっていても、つい体を預けてしまうのだから、伊月もドラクレアの趣味の悪さを笑えなかった。



 はじめは遠慮がちに、伊月の反応をうかがうよう、口端をそっとかすめる程度にしか触れてこなかった唇は、伊月が拒む素振りも見せず、されるがままになっていると、触れている時間を次第に長くしていって。そのうち、このままくっついて離れてなくなってしまうのではないかというほど長く、伊月の呼吸を奪いはじめる。

「んんっ……」
 決して強引ではなく、やんわりと促すよう歯列をなぞる感触に顎を開かされ。僅かな隙間から口腔へと忍び込んできた舌は、粘膜同士をこすり合わせ、他人同士の魔力を混ぜ合わせる快楽を伊月に思い出させた。

(これ、すき……)
 舌が痺れるほど甘く感じる魔力をこくりと飲めば、アルコールでも煽ったように体がカッと熱くなる。

 ドラクレアに心を許していなかった頃でさえ拒めずにいた誘惑を、今の伊月がはねつけられる道理もなかった。


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