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 第一節「レナトゥスの目覚め」

SCENE-018 到着

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 これを使えとばかり、描き出された移動用の魔導円。
 二枚一組で運用される〔ゲート〕の出口側が、そもそも行政島ティル・タルンギレの上空へ置かれていたこともあり。そこからまっすぐ、キリエは本来飛行が禁止されているエリアを我が物顔で横切ると、そのままイシュナフ宮――ティル・タルンギレの小高い丘の上に建つ小王宮――へと降り立った。



 ろくな装具もつけていない裸竜の背に乗っていた伊月が、なんの不安も覚えないほど。不慣れを感じさせず、安定していて、完璧な初飛行を終えたキリエは行儀良く翼を畳み、前脚を地面へ下ろすと、体勢低く伏せた竜の背中から双子が降りるまで身じろぎもしないで大人しくしている。

「(ねぇ――)」
 その佇まいは、まるで飼い慣らされたワイバーンのようだと。真性竜種――それもユグドラシル・ユガに生まれ、真王ヘルとともにラグナロクを生き延びた竜公ニドヘグの後継――に対しては侮辱にしかならない感想を、伊月は自分の片割れ・・・にだけ囁いた。



「(本人に言いなよ)」
 くすくすと笑い混じりの念話に、何がそんなにおかしいのかと、鏡夜は目を眇めて伊月を見遣る。

 伊月がキリエの矜持や尊厳に配慮して声をひそめたとは、鏡夜も端から考えていない。

 伊月が何を言ったところでキリエが腹を立てることなどありはしないのだから、面と向かって言ってやればいいだろう、と。
 明確な〝言葉〟として意味を結んだ内容以上に、鏡夜の思念は雄弁だった。

 もっとも、鏡夜から鬱陶しがられたくらいで行動を改めるほど素直な性格をしていれば、黒姫奈の生まれ変わりが〝八坂伊月〟としてここにいることもなかっただろうから。念話越しに伝わった鏡夜の含み・・をさらりと流して。鏡夜と目を合わせた伊月は「(だって)」と、見かけ通りの子供のような口振りで益体もない話を続けた。

「(キリエは喜ぶでしょ。私がメトセラらしいメトセラは嫌いなの、知ってるから)」
「(……勝手に喜ばせておけば?)」
「(あんまり嬉しそうにされると意地悪したくなっちゃうから)」

 伊月に構ってもらえるのならそれこそ本望だろうとは、思っていても言わずにおいた。
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