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第5話

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信じられないけど、あのミハイ殿下から謝罪したいと申し出があった。
お父様にも謝罪したいと言ったので、私のほうで話を通しておいた。

そして…ミハイ殿下が当家までやって来た。

「今回はつまらない冗談でイリアナ嬢に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした!」

本当に信じられないけど、あのミハイ殿下が私とお父様に向けて頭を下げている。
でもミハイ殿下の言葉を信用できないから、ここは本気なのかを見極めることにする。
事前にお父様とは打ち合わせ済みなので、視線だけで意図が通じた。

「謝罪だけで許されると思ったのか?イリアナはもっと傷ついているんだぞ」
「それは…本当に申し訳なく!申し訳なく思います!」

必死に謝る姿には違和感を覚えるだけだった。
ミハイ殿下らしくない必死さ。
その必死さが私たちの知らない事情があるのだと自白しているようなものだった。

「謝罪の言葉や頭を下げるだけで許せるものか。謝罪の意があるなら他にも何かすべきではないか?」
「他に、ですか?」
「そうだとも。何をしてくれるのかで本気なのかを判断しよう。もちろん口先だけだったなら国王陛下に抗議する」
「………わかりました」
「で、どうしてくれるのかな?」

ミハイ殿下の顔色は悪く、お父様の詰めが効果を発揮していることがわかる。
ミハイ殿下からは何をするとも言い出さないので、ここは私が誘導してあげたほうがいいのかもしれない。

「ミハイ殿下。私の命令には絶対服従するというのはどうですか?」

あえて無理難題を吹っ掛けてみた。
さすがに絶対服従というのは無理があるので、命令にはできる限り従うというものが落としどころだろうか。

「わかった。これからはイリアナ嬢の命令に従うと約束する」
「随分と偉そうな口ぶりですね。まずは私を敬いなさい。そして相応の言葉で私に接しなさい」
「……」
「文句があるの?」
「ありません。イリアナ…様の命令に従います」

呆れた。
本当に私の言い分を受け入れるなんて。
でもそれがミハイ殿下の選択ならば尊重してあげないと。

「ふむ、それがミハイ殿下なりの誠意ということか。ならば異論はない。だが、もし言葉に偽りがあるようなら…わかっているよな?」
「…はい」

お父様が脅すように言ったけど、ミハイ殿下の反応は悪くない。
いきなり約束を反故にするようなことがなかったから、今回ばかりはミハイ殿下も必死なのだろう。

「学園でも同様に振る舞うのですよね?」
「……もちろんです」
「わかったわ」

学園という場でも私が命令しミハイ殿下が従うようでは私が不敬罪に問われてしまう。
そこは上手くやるけど、学園生活が楽しみになってきた。

どうせミハイ殿下のことだから、そう長くは持たずに音を上げるだろう。
それまで楽しめれば良しとする。

ミハイ殿下がどれだけ謝ろうが人間の本質的な部分は簡単には変わらない。
だから私はミハイ殿下を信じない。
本気で信じられるようになるには数年は必要だろう。
ミハイ殿下が好ましいほうへと変化するのであれば、それは奇跡だ。
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