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第1話
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「いつもありがとう。フロイデンが来てくれて嬉しいわ。こんな私でごめんね」
「ヴァローナは悪くないんだ。本当なら毎日でも見舞いに来たいが、そうもいかなくてな。謝りたいのは俺のほうだ」
「ふふふ…フロイデンは優しいのね」
儚げに微笑んだ幼馴染のヴァローナは病弱で、見舞いに来た今もベッドに横たわっている。
健康であれば自由に振る舞い、日々楽しく生きていられただろうし、何よりも俺と婚約できていたかもしれない。
俺にはルミーネ・フィルドという婚約者がいる。
だが間違っても俺が望んだ相手ではなく、ただ相手がフィルド伯爵家の令嬢という政略結婚の相手として悪くない条件だったから婚約することになっただけの相手だ。
当然愛しているはずもないし愛する必要もないのだが、俺はロスコーラー子爵家の嫡男であり、わがままが許される立場ではない。
ロスコーラー子爵家の将来は俺にかかっているのだから、望まない婚約であっても俺は我慢してきた。
「本当はヴァローナと婚約したかったんだがな…」
「あの女…ルミーネとは上手くいってないの?」
「上手く?ははは、そんなはずないだろう?ヴァローナは冗談が上手いな。あんな女とは仕方なく婚約したんだ」
「…愛していないの?」
「愛するはずがないさ。だって俺はヴァローナのことがずっと好きだったんだから。今だってその気持ちに偽りはないし、変わらない愛を誓うよ」
「そう……」
俺の気持ちを知ったはずなのに、ヴァローナの表情が暗くなった。
だがここで早とちりしてしまう訳にはいかず、俺はヴァローナからの反応を待つ。
愛しているから、信じているからヴァローナを待てる。
「こんなこと…できれば秘密にしておきたかったけど……」
ヴァローナはすごく言い辛そうだ。
「実はね、ルミーネに嫌がらせされているの」
「何だと!!」
聞いた瞬間、怒りが爆発しかけた。
ルミーネは嫉妬したに違いない。
俺がヴァローナのことを大切に想うことが気に入らず、よりにもよって病弱なヴァローナをターゲットにし嫌がらせするような卑劣な行為に及ぶなんて…。
いくら婚約者だからといって嫉妬で幼馴染に嫌がらせするなんて許されるはずがない。
相手がフィルド伯爵家だろうが俺は引く気はない。
非があるのは恥ずべきことをしたルミーネにあるのだから。
「落ち着いて、フロイデン。相手はあのフィルド伯爵家の令嬢なのよ?」
「それがどうした。俺はヴァローナのためなら全てを捨てる覚悟がある。ルミーネは許せない。婚約破棄してやる!」
望まない婚約だっただけではなくヴァローナに嫌がらせするような最悪な女だと知った今、婚約破棄するしかない。
最初から俺たちは婚約すべきではなかったんだ。
家のためと言われても他に手段はあったはずだし、親の意向に従ってしまった俺にも責任はある。
だがルミーネのしたことは許されるはずがない。
「言い辛いことを言わせてしまってすまない。これからは俺が守ってやる。だから安心してくれ」
「ありがとう、フロイデン…。私、そんなふうに言ってもらえて幸せだわ……」
ヴァローナは幸せなはずの笑みなのに、弱々しく儚い笑みだと思った。
俺を安心させるための精いっぱいの笑みなのだろう。
ヴァローナは無理してでも俺のために笑顔でいてくれる。
ルミーネにはこんな殊勝な心がけなんてないし、思い返せば気に入らないことばかりだった。
やはりもっと早く婚約破棄すべきだった。
そうすればヴァローナも被害に遭わなかっただろうし、俺と婚約していたはずだ。
もう決めた。
フィルド伯爵家を敵にしようがルミーネに婚約破棄する。
ヴァローナの笑顔を守るために。
「ヴァローナは悪くないんだ。本当なら毎日でも見舞いに来たいが、そうもいかなくてな。謝りたいのは俺のほうだ」
「ふふふ…フロイデンは優しいのね」
儚げに微笑んだ幼馴染のヴァローナは病弱で、見舞いに来た今もベッドに横たわっている。
健康であれば自由に振る舞い、日々楽しく生きていられただろうし、何よりも俺と婚約できていたかもしれない。
俺にはルミーネ・フィルドという婚約者がいる。
だが間違っても俺が望んだ相手ではなく、ただ相手がフィルド伯爵家の令嬢という政略結婚の相手として悪くない条件だったから婚約することになっただけの相手だ。
当然愛しているはずもないし愛する必要もないのだが、俺はロスコーラー子爵家の嫡男であり、わがままが許される立場ではない。
ロスコーラー子爵家の将来は俺にかかっているのだから、望まない婚約であっても俺は我慢してきた。
「本当はヴァローナと婚約したかったんだがな…」
「あの女…ルミーネとは上手くいってないの?」
「上手く?ははは、そんなはずないだろう?ヴァローナは冗談が上手いな。あんな女とは仕方なく婚約したんだ」
「…愛していないの?」
「愛するはずがないさ。だって俺はヴァローナのことがずっと好きだったんだから。今だってその気持ちに偽りはないし、変わらない愛を誓うよ」
「そう……」
俺の気持ちを知ったはずなのに、ヴァローナの表情が暗くなった。
だがここで早とちりしてしまう訳にはいかず、俺はヴァローナからの反応を待つ。
愛しているから、信じているからヴァローナを待てる。
「こんなこと…できれば秘密にしておきたかったけど……」
ヴァローナはすごく言い辛そうだ。
「実はね、ルミーネに嫌がらせされているの」
「何だと!!」
聞いた瞬間、怒りが爆発しかけた。
ルミーネは嫉妬したに違いない。
俺がヴァローナのことを大切に想うことが気に入らず、よりにもよって病弱なヴァローナをターゲットにし嫌がらせするような卑劣な行為に及ぶなんて…。
いくら婚約者だからといって嫉妬で幼馴染に嫌がらせするなんて許されるはずがない。
相手がフィルド伯爵家だろうが俺は引く気はない。
非があるのは恥ずべきことをしたルミーネにあるのだから。
「落ち着いて、フロイデン。相手はあのフィルド伯爵家の令嬢なのよ?」
「それがどうした。俺はヴァローナのためなら全てを捨てる覚悟がある。ルミーネは許せない。婚約破棄してやる!」
望まない婚約だっただけではなくヴァローナに嫌がらせするような最悪な女だと知った今、婚約破棄するしかない。
最初から俺たちは婚約すべきではなかったんだ。
家のためと言われても他に手段はあったはずだし、親の意向に従ってしまった俺にも責任はある。
だがルミーネのしたことは許されるはずがない。
「言い辛いことを言わせてしまってすまない。これからは俺が守ってやる。だから安心してくれ」
「ありがとう、フロイデン…。私、そんなふうに言ってもらえて幸せだわ……」
ヴァローナは幸せなはずの笑みなのに、弱々しく儚い笑みだと思った。
俺を安心させるための精いっぱいの笑みなのだろう。
ヴァローナは無理してでも俺のために笑顔でいてくれる。
ルミーネにはこんな殊勝な心がけなんてないし、思い返せば気に入らないことばかりだった。
やはりもっと早く婚約破棄すべきだった。
そうすればヴァローナも被害に遭わなかっただろうし、俺と婚約していたはずだ。
もう決めた。
フィルド伯爵家を敵にしようがルミーネに婚約破棄する。
ヴァローナの笑顔を守るために。
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