上 下
10 / 10

第10話

しおりを挟む
「あれほどの愛があるなんて、ピート様はすごいのね」
「メーベル様が羨ましいわ」
「すごいな、よく婚約なんてできたよな。俺、ピートのこと尊敬するぜ」
「メーベル様に愛されるなんて、きっとピート様も立派な方なのでしょうね」
「メーベル様に誘われたことがあったけど断って良かったと思う。本当に」

ピート様とメーベル様の婚約は大々的に発表され、二人の関係は学園内でも知らない者がいないほどになった。
でも表面的な祝福以外には、よくあのメーベル様と婚約したものだという侮蔑のような陰口が多かった。
だって…メーベル様といえば性に奔放なことで有名だし、好きになった相手には異様に執着するし、何をするかわからない恐ろしさがあるもの。
きっと令息の皆様はメーベル様のターゲットにならなくて済むと安堵したに違いない。

それよりも一番驚いたのはメーベル様が令嬢たちに牽制するためなのか、ピート様が浮気したらピート様を刺すと公言したことだ。
実際に浮気しようとしたピート様を刺したとも言っていたので、みんな引いていた。
そのような行為をしたメーベル様に関わりたいと思う令嬢はいないだろうし、そこまでのリスクを負ってピート様と浮気するような人はいない。
メーベル様の過激な言動は、きっと周囲から距離を取られることで二人だけの世界を邪魔されないようにするためなのだと思う。
私だって関わりたくないし。

「もう私とは関係ないし、二人で幸せになってくれることを願うばかりだわ」

そう私が考えていてもメーベル様は違っていた。
私に感謝の手紙を寄越したのだ。
要約すると「浮気未遂を教えてくれてありがとう」という内容だった。

私が書いたのは復縁を申し込まれて断ったという事実。
そのようなピート様の振る舞いに困っているという意思表明。
ピート様がどう釈明したのかは知らないし、メーベル様がその釈明で納得できたのかも知らないけど、私は嘘なんて書いていない。

私が意図したのは嫉妬心を煽って二人が強く結ばれる切っ掛けを与えること。
メーベル様の気持ちに火をつけ、ピート様がメーベル様の身を焦がすような愛を一身に受けてもらうため。
私の気遣いが功を奏したのだからメーベル様が感謝の手紙を送ってくれたのだろう。
大成功に終わり私も嬉しい。

それと嬉しい誤算は、モーゲット子爵家が渋っていた慰謝料をピンクルー伯爵家が代わりに支払ってくれたことだ。
メーベル様の強い意向があってのことだったけど、きっとピート様とはもう関わらないように、というメッセージを込めてのことだと思う。
安心してください、もうピート様とは関わりたくありませんから。
それと慰謝料の肩代わり、ありがとうございます。
本人に直接伝える勇気はないから、心の中だけでメーベル様には感謝しておく。

* * * * * * * * * *

婚約関係になった二人の距離は近い。
どこへ行くにも二人は一緒。
楽しそうに話しかけるメーベル様と、魂が抜けたようなピート様の姿は異様なものでしかなかった。
でもそれが二人の愛の在り方なのだろう。

「まあ、見て、あの二人の熱愛ぶり」
「本当、愛し愛されているのね」

下手なことを言うとメーベル様が何をするかわからないので、みんな心にもないことを口にする。
万が一本人に聞かれても問題ないように。
言葉の裏を読めないようでは貴族として失格だ。

「ピート様も本当の愛を手にできたようで良かったわ。私ではピート様には相応しくなかったもの。メーベル様とピート様は結ばれる運命だったのよ」

私も心にもない言葉を口にする。
でも二人が結ばれて本当に良かったと思う気持ちに嘘偽りはない。

あんなにも歪な関係、全然羨ましくないわ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗
恋愛
 伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。  三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。  久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

婚約破棄ですか? 私の婚約者はちゃんと別にいて、あなたではないのです。

三月べに
恋愛
学園のパーティーの最中に、侯爵令息が叫ぶ。婚約破棄だと。 突き付けれたのは、大きな眼鏡で顔がよく見えない侯爵令嬢・オリン。 侯爵令息と親しくしている子爵令嬢に陰湿な嫌がらせをしたと断罪すると声高々に告げた。 「失礼ながら、私の婚約者はちゃんと別にいて、あなたではないです」 オリンは、冷静にそう否定からした。 辛辣な反論に、カッとなった侯爵令息が手を上げたことで、眼鏡が落ちた。そこで現れたのは、騎士科の美貌の公爵令息・リュート。侯爵令息を突き飛ばして、眼鏡を拾い渡すと、「痛いところはない?」ととびっきり甘く優しく尋ねた。彼こそ、婚約者。 パーティー会場は騒然とした。何故なら、彼には謎の美女である恋人がいると噂だったのだから。 婚約破棄だけど、婚約関係ではない。地味眼鏡だけど、実は美女。穏やかな美貌の公爵令息だと評判だけど……?

あなたの事は記憶に御座いません

cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。 ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。 婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。 そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。 グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。 のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。 目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。 そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね?? 記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分 ★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?) ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

婚約者が親友と浮気してました。婚約破棄だけで済むと思うなよ?

リオール
恋愛
公爵令嬢ミーシャは、良い関係を築けてると思っていた婚約者カルシスの裏切りを知る。 それは同時に、浮気相手でもある、親友リメリアの裏切りでもあった。 婚約破棄?当然するに決まってるでしょ。 でもね。 それだけで済むと思わないでよ? ※R15は保険です ※1話が短いです ※これまでの作品と傾向違います。ギャグ無いです(多分)。 ※全27話

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...