歌のふる里

月夜野 すみれ

文字の大きさ
上 下
62 / 144
魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-

第二章 第四話

しおりを挟む
「清美、今日はかなり機嫌がいいね」
 涼花が、深雪と話している清美を見ながら言った。
「そうだね」
 彼が出来たら真っ先に報告してくるはずだがそれは聞いてない。
 きっと他に何かいことでもあったのだろう。

 もしかして香奈の親戚の家に行っていいってお許しが出たのかな。

「小夜、行ってもいいか聞いてくれた?」
 香奈が訊ねてきた。
「ごめん、まだ」
「清美は? 行けそうって言ってた?」
「聞いてないけど」
「これ見せれば絶対食いつくと思ったのになぁ」
 香奈がスマホを見た。

 小夜がその画面に目を向けたとき、クレーイスからムーシカが途切れ途切れに伝わってきた。
 歌詞はよく聴き取れないが演奏は弦楽器のようだ。
 既存のムーシカではないがムーシケーのムーシカでもない。
 はっきりとは分からないが伝わってくる感情からしてムーシコスの誰かが創ったムーシカだろう。

 でも、ムーシコスが創ったムーシカならどうして魂に刻まれてないんだろう。

「ね、それ、よく見せて」
 小夜が頼むと香奈がスマホを渡してくれた。
 写真を見てみたがクレーイスが何に反応しているのか分からない。
「ちょっと、小夜。柊矢さんがいるのになんで香奈の従兄の写真、そんな食い入るように見てんのよ」
 いつの間にかそばに来ていた清美が言った。
「従兄の人を見てるわけじゃないよ」

 清美は香奈のスマホを小夜から受け取ると、
「香奈、他の写真ないの?」
 と言って画面をフリックした。

 違う画像が表示された途端ムーシカが止まった。
 今、表示されている画面にはスカイツリーが写っている。

「香奈、今の写真、親戚の家の近く?」
 小夜が訊ねた。
「学校って言ってたよ」
「他に学校かその近所が写ってる写真、無い?」
「風景だけの写真なんか無いよ。特に景色がいわけじゃないし」
 小夜はちょっと考えてから高校の学費を調べたときのことを思い出した。
 ホームページに載っている校舎の写真に背景が写っていた。
「その従兄の通ってる高校の名前、教えて」

 香奈は学校名は覚えてなかったが、県立だというので親戚の住所と通学手段や時間を聞いて高校を探してみた。
 おそらくここだろうと当たりを付けた高校のホームページに掲載されている写真の背景はほとんどが空だった。
 クレーイスは特に反応しない。
 しかし香奈の従兄やその友達に反応したような感じではなかった。

 多分、背景の何かだと思うんだけど……。

 小夜が考え込んでいると、
「学校の周りの景色が見たいの?」
 と清美が訊ねてきたので首肯しゅこうした。

「なら、その学校のFacebook見たら? 学校が載せてなくても在校生や卒業生が学校周辺の写真載せてるんじゃない? あとインスタとか」
「そっか。ありがと、清美」
 小夜は高校やその在校生、卒業生のFacebookやInstagramを見てみたが、やはりクレーイスがどこに反応したのか分からなかった。
 香奈の従兄やその友達のページも見たがクレーイスは反応しなかったから、やはり背景の何かのようだがそれがなんなのか分からない。

 さっきのムーシカ、この前、楸矢さんの本を見たときのムーシカに似てたような……。
 ムーシケーのムーシカじゃないけどクレーイスから聴こえてきたんだからムーシケーが伝えてきたのは間違いないはず……。

「ん?」
 楸矢は顔を上げた。

 小夜と椿矢のデュエットが聴こえる。
 二人で一緒に歌っているなら中央公園だろう。

 最近は四六時中柊矢と歌っているのに椿矢とまで歌うなんて、ホントにムーシコスってムーシカが好きなんだな、と痛感させられる。
 そして柊矢と小夜ほどムーシコスらしいムーシコスはいないという椿矢の言葉にも。
 これだけ好きならムーシケーのムーシカも平気で聴いていられただろう。
 楸矢はげんなりした。

「どうしたんですか?」
 清美が不思議そうな顔で訊ねた。
 楸矢と清美は新宿駅近くの喫茶店にいた。
 楸矢が清美を、小夜のことで話があると言って呼び出したのだ。
「なんでもない」
「柊矢さんと小夜、そんなにしょっちゅうイチャイチャしてるんですか?」
 どうやら楸矢が、家での柊矢と小夜を思い出してうんざりした顔をしたのかと思ったようだ。
「まぁね。あ、でも、遺産のことは確認しておいたよ。ちゃんとあるって」
 柊矢から聞いた話をまんで話した。

「ありがとうございます」
「手続きしたの俺じゃないよ」
 楸矢が笑って手を振った。
「でも、あたしが柊矢さんに質問するわけにはいきませんから。楸矢さんに聞いてもらえて助かりました」
 確かに赤の他人が遺産のことを訊ねるわけにはいかないだろう。
「お金の心配がないなら、後はデートですね」
「そ。俺に見えないところでベタベタする分には全然構わないし。大学の寮、断られちゃったし、そうなると……」
 楸矢が入り口を見て顔を引きらせた。
 清美が振り返ると、楸矢の彼女の聖子が店に入ってくるところだった。

「ま、待ち合わせだったんですか?」
「まさか」
 聖子は真っ直ぐ二人の方へ向かってきた。
「楸矢」
「ちょ、ちょっと待って。清美ちゃん、ごめんね」
 楸矢は、自分と清美の勘定書きを掴むと聖子の腕をとって慌ててレジに向かった。

 楸矢が会計をすませて店の外に出た途端、聖子との口論が始まった。
 声は全く聞こえないから何を言い争っているのかは分からなかった。
 やがて楸矢は聖子の腕を掴むとどこかへ歩いていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

colorful〜rainbow stories〜

宮来らいと
恋愛
とある事情で6つの高校が合併した「六郭星学園」に入学した真瀬姉弟。 そんな姉弟たちと出会うクラスメイトたちに立ちはだかる壁を乗り越えていくゲーム風に読む、オムニバス物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指すい桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...