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第一章 桜と出会いと

第五話

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「こんなに作ったって食べきれないでしょ」
 と母に言われたがそこをおがみ倒した。
 明日の分の弁当の下拵したごしらえをすると自室に戻った。

 六花がベッドに飛び乗るとスプリングと一緒にシマが弾んだ。
 六花はシマをかかえ上げる。
 シマが嫌そうな顔で六花を見た。

「シマ! ね、聞いて! 明日から季武君にお弁当作ってあげる事になったの! あ、季武君って言うのは――」
 六花はシマに季武とのやり取りを話し始めた。
「美味しくなかったら作ってきていなんて言わないよね。美味しいって思ってくれたんだよね。ね、そう思うでしょ?」
 六花はシマの背に頬ずりした。
「シマ~。嬉しいよ~」
 シマは我関せずと言った表情で欠伸あくびをした。

 お料理を教えてくれたお母さん、ありがとう~!

 六花は心の中で母に礼を言った。
 迷惑顔のシマを抱きめて幸せにひたっていた。

 季武は貞光と街中を歩いていた。
 討伐員の日課は昼間は人間社会で情報収集、夜は管轄区域の見回りだ。

「ミケが?」
 貞光が怪訝けげんそうに聞き返した。
 六花の事は貞光にも話してあった。
「見鬼が化猫に気付かねぇわきゃねぇだろ」
「だが猫を飼い始めた途端、鬼が出なくなるなんて普通じゃないだろ。近い内に家に行って確かめてくる」
 季武の言葉に貞光が意味深な笑みを浮かべた。

 翌日、季武は六花がテスト用紙を前に頭をかかえてるのを横目で見ていた。
 チャイムが鳴り解答用紙の回収が宣言されると六花は机に突っ伏した。
 しかし一番後ろは最初に解答用紙を回さなければならない。
 いつまでも伏せてる訳にもいかず、渋々と言った様子で解答用紙を前の席の子に渡した。
 六花はすぐに教科書を開くと出来なかった問題に印を付け始めた。

「数学、苦手なのか?」
 季武が声を掛けた。

 季武君が話かけてくれた!

 六花の心拍しんぱくが一気にね上がった。
 しかしテストの出来を考えるとあまり喜べるような状況ではない。

「その……、あんまり……」
 まさか壊滅的にダメだとは答えられず言葉をにごした。
 必死で頑張ってはいるのだが数学だけはどうしても良く分からなかった。
「分からないとこ、教えてやろうか?」
「ホント!?」
 六花が季武の顔を見た。
 社交辞令ではなさそうだ。

「弁当の礼」
 そう言う事なら遠慮しない方が季武も弁当を受け取りやすいだろう。
「じゃあ、これと、これと……」
 六花が教科書にチェックした所はかなりあった。

 ほぼ全滅か。
 まぁ昔話が好きって時点で文系って事だしな……。

「これだけ有ると休み時間じゃ無理だな。放課後、家に行っていか?」
 家に行けば猫を見られる。
「え!」
「教室じゃ帰りが遅くなるだろ」
 と家の方がい理由を付け足した。

 季武君がうちに来る!? 来てくれる!?
 嘘みたい!

 季武の機嫌を損ねたくない六花にいやと言う選択肢は無い。

 部屋、散らかってなかったよね。
 ジュースあったっけ?
 お菓子は?

 六花の頭がフル回転した。

 季武の方は六花の驚いた表情を見て「しまった! 唐突とうとつ過ぎたか」とほぞんだ。

「い、いよ! あの、散らかってるけど、それでも良ければ」
 六花の答えに季武は胸を撫で下ろした。
「じゃあ、今日行くよ」
「うん、ありがと。あ、猫アレルギーじゃないよね?」
「ああ」
「良かった」
 六花が嬉しそうに微笑んだ。

 昼休み、六花と季武は連れだって屋上へ向かった。
 それを石川を始めとした女子達が不愉快そうに見ているのには二人とも気付かなかった。
 友達がほとんない六花も、人成ひとならぬ身の季武も、人間の感情の機微きびにはうとかった。

「はい、これ」
 屋上の階段室の脇に座ると六花は弁当箱を差し出した。
「サンキュ」
 六花が渡した弁当箱は彼女の倍以上の大きさだったが季武はぺろりと平らげてしまった。

「足りた?」
 六花が弁当箱を受け取りながら訊ねた。
「ああ。ご馳走様ちそうさま
 季武は弁当箱を返すと階段室の壁にもたれた。
「良かった」

 季武君、一人になりたいかな?
 邪魔したら悪いよね。

「じゃ、私は教室に戻るね」
「そうか」
 季武はそう言うと立ち上がって六花にいてきた。

 え! 一緒に戻ってくれるの!?
 嬉しいけど、嬉しいけど、嬉しいけど……。
 どうしよう!?
 こう言う時、気のいた台詞の一つも言えたらいのに。

 何も話せない自分が歯痒はがゆかった。
 並んで歩いている二人を他の生徒達が信じられないという顔で見ていた。
 片や美少年でモテてる男子、片や気味悪がれている女子。
 さぞ奇妙な取り合わせに見えるだろう。

 なんか女子の視線が痛い気がする。

 六花はうつむきながらそっと左右を見ると、やはり女子達が睨んでいた。

 そうだよね、季武君、格好良かっこいいもん。
 私となんかじゃ釣り合わないよね。
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