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第4話
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翌日、楸矢は椿矢を家に呼んだ。
小夜と柊矢もいる。
楸矢は美大で見た絵の話をした。
「グラフェー!?」
椿矢が驚いたように声を上げた。
小夜も目を丸くしている。
柊矢はどうでも良さそうな表情をしていた。
「ムーシケーを地上から見上げてる絵だし、ドラマも見えてるって事はグラフェーから見たって事でしょ。地面に草一本も生えてないし」
「それで? グラフェーからも来てるのは知ってるだろ」
柊矢が無愛想に言った。
小夜と歌っているところを呼び出されたので不機嫌なのだ。
小夜ちゃんと歌……。
柊兄、ブレないな……。
「よく分からないけど、ただムーシケーを描いただけじゃないみたいなんだ。俺達はグラフェーの人間じゃないから普通ならただの絵に見えるはずでしょ」
「ムーシケーに関係あるかもしれないって事?」
椿矢が訊ねた。
「うん」
「そうなるとクレーイス・エコーの役割になるから僕は関係ないと思うけど」
クレーイス・エコーとはムーシケーの巫女のようなものでムーシケーの意志を実行する――ムーシケーの伝えてきた歌を歌う――者を指す。
ただ、ここは地球だ。
ムーシケーは地球や地球人には干渉しない。
だからムーシケーが意志を伝えてくることは滅多にない。
ムーシケーやムーシコスに絡むことが起きた時だけムーシカを伝えてくるだけだ。
「自分を地球人だと思ってる人にグラフェーの説明、俺達に出来ると思う?」
確かに……。
柊矢は賢いが小夜以外の人間には素っ気ない。
小夜も頭は良いが内気な上に男性が苦手だから初対面の相手とは上手く話せない。
楸矢は賢明ではあるが説明の類は苦手だ。
何よりこの四人の中で一番ムーシケーに関する知識があるのは一族の言い伝えを訊いていてムーシケーやムーシカの研究もしている椿矢だ。
「分かった、一緒に行くよ」
椿矢は頷いた。
翌週の日曜日、裕也の家に楸矢、柊矢、小夜、椿矢の四人が来ていた。
楸矢は裕也に四人を紹介した。
裕也は今まで描いた絵を見せた。
絵を見た瞬間、小夜と柊矢が目を見開いた。
「どう思う?」
楸矢が三人に訊ねた。
「ごめん、僕にはムーシケーって事しか分からない」
椿矢が謝った。
「てことは、分かるのはクレーイス・エコーだけなんだな」
柊矢が言った。
「どういう事だ? ムーシケー? クレー……何?」
裕也が訊ねると椿矢が白い星を指した。
「これはムーシケーって惑星。この絵はグラフェーって惑星の地上からムーシケーを見上げたもの。こっちの小さいのはムーシケーとグラフェーの衛星のドラマ」
「なんでそんな事が分かるんだ!? アニメか何かに出てきたものなのか?」
「四千年前、君の先祖はグラフェーから、僕達四人の先祖はムーシケーから来たから」
「ここに居る全員が宇宙人だって言うのか!?」
裕也は正気かというように椿矢を見た。
「大昔の先祖がね」
「ここに人が住めるのか?」
椿矢は数千年前、ムーシケーとグラフェーの外側を回ってる惑星が別の天体とぶつかって砕け、その破片の中でも大きなものがグラフェーに落ちて壊滅したと説明した。
破片が落ちてくるのに気付いたグラフェーとムーシケーは自分達の惑星の人間達を地球に送った。
「送ったってどうやって」
「空間が偶に地球と繋がるんだよね。それでムーシコス――あ、ムーシケーの人間の事ね――は地球との間を往き来出来るんだ」
「今も往き来してるのか?」
「基本的には無理。ムーシケーが拒んでるから。例外的に許された人が短時間だけなら行けるだけ」
「さっきから気付いたとか、拒んでるとか意志があるみたいな言い方してるが……」
「ムーシケーは意識があるから」
「ムーシケーは?」
「グラフェーは衝突の時の衝撃で意識を失ったみたい」
「みたいってはっきりとは分からないのか?」
「惑星の意志とか普通は分からないでしょ」
それはそうだ。
「そもそも意志があるなんて最近まで誰も知らなかったくらいだよ」
「なんで分かったんだ?」
「クレーイス・エコーって巫子みたいな役割を与えられた人の中に稀に分かる人がいるの。彼女がそう」
椿矢が小夜に視線を向けた。
「彼女ほどじゃないけど彼らも分かる。だから君の絵に込められてる想いに気付いた」
椿矢が柊矢と楸矢に目を向けた。
「あんたは分からないのか?」
「うん。ムーシケーの意志も分からないし、君の絵も普通の絵に見える」
裕也は文化祭で楸矢が「絵に想いが込められている」と言っていたのを思い出した。
つまりクレーイス・エコーと呼ばれる人達にだけ感じ取れる何かがあるのだ。
「その話をする為にわざわざ見に来たんじゃないんだろ」
「この絵、想いを伝えたくて描いてるんだろ」
柊矢が言った。
裕也は黙って頷く。
小夜と柊矢もいる。
楸矢は美大で見た絵の話をした。
「グラフェー!?」
椿矢が驚いたように声を上げた。
小夜も目を丸くしている。
柊矢はどうでも良さそうな表情をしていた。
「ムーシケーを地上から見上げてる絵だし、ドラマも見えてるって事はグラフェーから見たって事でしょ。地面に草一本も生えてないし」
「それで? グラフェーからも来てるのは知ってるだろ」
柊矢が無愛想に言った。
小夜と歌っているところを呼び出されたので不機嫌なのだ。
小夜ちゃんと歌……。
柊兄、ブレないな……。
「よく分からないけど、ただムーシケーを描いただけじゃないみたいなんだ。俺達はグラフェーの人間じゃないから普通ならただの絵に見えるはずでしょ」
「ムーシケーに関係あるかもしれないって事?」
椿矢が訊ねた。
「うん」
「そうなるとクレーイス・エコーの役割になるから僕は関係ないと思うけど」
クレーイス・エコーとはムーシケーの巫女のようなものでムーシケーの意志を実行する――ムーシケーの伝えてきた歌を歌う――者を指す。
ただ、ここは地球だ。
ムーシケーは地球や地球人には干渉しない。
だからムーシケーが意志を伝えてくることは滅多にない。
ムーシケーやムーシコスに絡むことが起きた時だけムーシカを伝えてくるだけだ。
「自分を地球人だと思ってる人にグラフェーの説明、俺達に出来ると思う?」
確かに……。
柊矢は賢いが小夜以外の人間には素っ気ない。
小夜も頭は良いが内気な上に男性が苦手だから初対面の相手とは上手く話せない。
楸矢は賢明ではあるが説明の類は苦手だ。
何よりこの四人の中で一番ムーシケーに関する知識があるのは一族の言い伝えを訊いていてムーシケーやムーシカの研究もしている椿矢だ。
「分かった、一緒に行くよ」
椿矢は頷いた。
翌週の日曜日、裕也の家に楸矢、柊矢、小夜、椿矢の四人が来ていた。
楸矢は裕也に四人を紹介した。
裕也は今まで描いた絵を見せた。
絵を見た瞬間、小夜と柊矢が目を見開いた。
「どう思う?」
楸矢が三人に訊ねた。
「ごめん、僕にはムーシケーって事しか分からない」
椿矢が謝った。
「てことは、分かるのはクレーイス・エコーだけなんだな」
柊矢が言った。
「どういう事だ? ムーシケー? クレー……何?」
裕也が訊ねると椿矢が白い星を指した。
「これはムーシケーって惑星。この絵はグラフェーって惑星の地上からムーシケーを見上げたもの。こっちの小さいのはムーシケーとグラフェーの衛星のドラマ」
「なんでそんな事が分かるんだ!? アニメか何かに出てきたものなのか?」
「四千年前、君の先祖はグラフェーから、僕達四人の先祖はムーシケーから来たから」
「ここに居る全員が宇宙人だって言うのか!?」
裕也は正気かというように椿矢を見た。
「大昔の先祖がね」
「ここに人が住めるのか?」
椿矢は数千年前、ムーシケーとグラフェーの外側を回ってる惑星が別の天体とぶつかって砕け、その破片の中でも大きなものがグラフェーに落ちて壊滅したと説明した。
破片が落ちてくるのに気付いたグラフェーとムーシケーは自分達の惑星の人間達を地球に送った。
「送ったってどうやって」
「空間が偶に地球と繋がるんだよね。それでムーシコス――あ、ムーシケーの人間の事ね――は地球との間を往き来出来るんだ」
「今も往き来してるのか?」
「基本的には無理。ムーシケーが拒んでるから。例外的に許された人が短時間だけなら行けるだけ」
「さっきから気付いたとか、拒んでるとか意志があるみたいな言い方してるが……」
「ムーシケーは意識があるから」
「ムーシケーは?」
「グラフェーは衝突の時の衝撃で意識を失ったみたい」
「みたいってはっきりとは分からないのか?」
「惑星の意志とか普通は分からないでしょ」
それはそうだ。
「そもそも意志があるなんて最近まで誰も知らなかったくらいだよ」
「なんで分かったんだ?」
「クレーイス・エコーって巫子みたいな役割を与えられた人の中に稀に分かる人がいるの。彼女がそう」
椿矢が小夜に視線を向けた。
「彼女ほどじゃないけど彼らも分かる。だから君の絵に込められてる想いに気付いた」
椿矢が柊矢と楸矢に目を向けた。
「あんたは分からないのか?」
「うん。ムーシケーの意志も分からないし、君の絵も普通の絵に見える」
裕也は文化祭で楸矢が「絵に想いが込められている」と言っていたのを思い出した。
つまりクレーイス・エコーと呼ばれる人達にだけ感じ取れる何かがあるのだ。
「その話をする為にわざわざ見に来たんじゃないんだろ」
「この絵、想いを伝えたくて描いてるんだろ」
柊矢が言った。
裕也は黙って頷く。
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