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第1話
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清美が自分の部屋で英語の予習をしているとスマホの着信音が鳴った。
画面に「霧生楸矢」と表示されている。
楸矢さんからだ!
清美はこの春、念願だった彼氏が出来た。
高校に入って以来、友人達に次々と彼氏が出来ていき、内気で男性が苦手な親友の霞乃小夜にまで先を越されてしまった。
だが!
小夜の彼氏、霧生柊矢には弟がいた。
神様は、あたしを見捨てなかった!
小夜が柊矢の弟、楸矢を紹介してくれてようやく清美にも彼氏が出来た。
楸矢とは明後日デートの約束をしている。
もしかして都合が悪くなったとか……。
楸矢は大学に入ってから忙しくなり頻繁な遣り取りは出来なくなっていた。
二日後に会う約束をしているのに連絡をしてくるなら緊急の要件のはずだ。
清美は不安を感じながら画面を開いた。
『十二月二十四日、予定空いてる?』
デートの誘い!?
楸矢のメッセージに速攻で、
『はい』
と、いつもは大量に付ける絵文字を入力する暇すら惜しんで返信した。
!マークすら付け忘れた。
『行きたい場所ある?』
『今のところは特に』
そう答えたものの実はある。
東京は各地でイルミネーションをやっていて、新宿でも何カ所かやっているところがある。
土曜に中央公園に行く約束をしたのもイルミネーションの電飾を見ながら「きっと夜は綺麗ですよね」と水を向けるつもりでいた。
しかし、
『うちでパーティでもいい?』
と言う返信がきた。
清美はすぐに、
『はい! パーティ大好きです!』
と返した。
去年はクリぼっち(両親がいたけど)だったが今年こそは! と、思っていた。
だからクリスマスはデートしたい。
したいが……。
パーティで良いと答えたのは楸矢がそれを望んでいるのは間違いないからだ。
楸矢を紹介してくれた小夜は一年前まで祖父と二人きりで暮らしていた。
それが去年の秋、その祖父も亡くなり遠縁の親戚である霧生柊矢に引き取られた。
柊矢自身まだ二十代なのだが成人しているので小夜の未成年後見人になれたらしい。
その後、柊矢と小夜は付き合い始めた。
霧生兄弟も楸矢が生まれた直後に両親を失い祖父に育てられた。
その祖父も楸矢が小学生の時に亡くなってしまい、成人直後の柊矢が楸矢の未成年後見人になり、去年小夜を引き取るまで兄弟二人だけで暮らしていた。
だから霧生兄弟も小夜と同じく普通の家庭を知らない。
今年の三月、小夜は清美に普通の家庭では卒業祝いでどういう事をするものなのか聞いてきた。
清美の話を聞いた小夜は楸矢の卒業祝いにパーティを開き、清美も誘ってくれた。
その時、柊矢にプレゼントは持ってこないようにと言われてしまった。
柊矢はまだ二十代とは言っても楸矢と小夜の未成年後見人(楸矢はもう成人したが)をしているせいか子供(というか未成年者)が余計な金を使うのに良い顔をしない。
そこでパーティ用の飾りを持っていって飾り付けたら楸矢は凄く喜んでくれた。
柊矢も物珍しそうな顔で眺めていたし、小夜も家でもこう言う飾り付けをするのかという表情をしていた。
つまり三人とも家でお祝いをした事が無かったのだ。
となると当然家族でのクリスマスパーティも経験も無いと言う事になる。
小夜から楸矢は料理が出来る女性が好みと聞いた時、楸矢は家事は女性がするものという考えなのかと少し意外だった。
楸矢は小夜や清美の荷物をさり気なく持ってくれるし、ドアも必ず開けてくれて先に通してくれる。
欧米でもここまでレディファーストの男性はいないだろうというくらい紳士的だから女性に家事を押し付けたいと思っているようには見えなかったからだ。
しかし清美が弁当を差し出しながら、
「小夜ほど上手くないんですけど……」
と言った時、
「気にしないで。前はお母さんに作ってもらったお弁当に憧れてたけどさ、小夜ちゃんがそう言うの作ってくれて念願叶ったから、もう拘りとか無いよ」
と言う言葉が返ってきた。
それを聞いて楸矢は家事を女性に任せたいのではないと悟った。
家庭に対する憧れからくるものだったのだと。
真似事で良いから家庭的な事を経験してみたかったのだ。
おそらく家庭に対する憧憬の念がかなり強いのだろう。
小夜も口には出さないが普通の家庭への憧れの強さは楸矢に劣らないようだ。
それで何かと〝普通の家〟ではどういう事をするのか聞いてくるのだ。
霧生家に引き取られる前は聞いてこなかったのは祖父に遠慮していたからだろう。
柊矢に対しても自分の希望が言えないのは同じなのだが家族行事は柊矢や楸矢のためでもあるから頼めるようだ。
楸矢が土曜を待たずに連絡してきたのは家族でパーティをしたいからだ。
楸矢は清美の前に付き合っていた女性がいるからクリスマスのデートは経験があるだろう。
大学卒業後には就職して家を出るつもりらしいが、一人暮らしを始めたら家族と祝うクリスマスは結婚するまで出来なくなる。
何より楸矢は柊矢と小夜に両親を投影しているようだが結婚後の家族は自分が親になるから子供としての立場は経験出来ない。
あと四回しかないチャンスを逃したらその後はいつ家族で祝えるかわからないし、柊矢の溺愛っぷりを考えると小夜が高校を卒業したらすぐに結婚してしまうかもしれない。
結婚して子供が出来たら一番年下――小夜も楸矢より年下だが――ではなくなるから残り四回あるかも怪しい。
デートは家を出た後でも出来る。
それを考えたらデートなどより家族でパーティをしたいに違いない。
それでも先に清美の希望を聞いてくれたのだ。
ま、クリスマスは来年もあるし……。
しかしインスタのストーリーには彼氏がいる子のデートの報告が流れてくるだろう。
見なければいいだけなのだが……。
来年は清美が大学受験だからクリスマスにデート出来るか分からない。
清美は溜息を吐いた。
画面に「霧生楸矢」と表示されている。
楸矢さんからだ!
清美はこの春、念願だった彼氏が出来た。
高校に入って以来、友人達に次々と彼氏が出来ていき、内気で男性が苦手な親友の霞乃小夜にまで先を越されてしまった。
だが!
小夜の彼氏、霧生柊矢には弟がいた。
神様は、あたしを見捨てなかった!
小夜が柊矢の弟、楸矢を紹介してくれてようやく清美にも彼氏が出来た。
楸矢とは明後日デートの約束をしている。
もしかして都合が悪くなったとか……。
楸矢は大学に入ってから忙しくなり頻繁な遣り取りは出来なくなっていた。
二日後に会う約束をしているのに連絡をしてくるなら緊急の要件のはずだ。
清美は不安を感じながら画面を開いた。
『十二月二十四日、予定空いてる?』
デートの誘い!?
楸矢のメッセージに速攻で、
『はい』
と、いつもは大量に付ける絵文字を入力する暇すら惜しんで返信した。
!マークすら付け忘れた。
『行きたい場所ある?』
『今のところは特に』
そう答えたものの実はある。
東京は各地でイルミネーションをやっていて、新宿でも何カ所かやっているところがある。
土曜に中央公園に行く約束をしたのもイルミネーションの電飾を見ながら「きっと夜は綺麗ですよね」と水を向けるつもりでいた。
しかし、
『うちでパーティでもいい?』
と言う返信がきた。
清美はすぐに、
『はい! パーティ大好きです!』
と返した。
去年はクリぼっち(両親がいたけど)だったが今年こそは! と、思っていた。
だからクリスマスはデートしたい。
したいが……。
パーティで良いと答えたのは楸矢がそれを望んでいるのは間違いないからだ。
楸矢を紹介してくれた小夜は一年前まで祖父と二人きりで暮らしていた。
それが去年の秋、その祖父も亡くなり遠縁の親戚である霧生柊矢に引き取られた。
柊矢自身まだ二十代なのだが成人しているので小夜の未成年後見人になれたらしい。
その後、柊矢と小夜は付き合い始めた。
霧生兄弟も楸矢が生まれた直後に両親を失い祖父に育てられた。
その祖父も楸矢が小学生の時に亡くなってしまい、成人直後の柊矢が楸矢の未成年後見人になり、去年小夜を引き取るまで兄弟二人だけで暮らしていた。
だから霧生兄弟も小夜と同じく普通の家庭を知らない。
今年の三月、小夜は清美に普通の家庭では卒業祝いでどういう事をするものなのか聞いてきた。
清美の話を聞いた小夜は楸矢の卒業祝いにパーティを開き、清美も誘ってくれた。
その時、柊矢にプレゼントは持ってこないようにと言われてしまった。
柊矢はまだ二十代とは言っても楸矢と小夜の未成年後見人(楸矢はもう成人したが)をしているせいか子供(というか未成年者)が余計な金を使うのに良い顔をしない。
そこでパーティ用の飾りを持っていって飾り付けたら楸矢は凄く喜んでくれた。
柊矢も物珍しそうな顔で眺めていたし、小夜も家でもこう言う飾り付けをするのかという表情をしていた。
つまり三人とも家でお祝いをした事が無かったのだ。
となると当然家族でのクリスマスパーティも経験も無いと言う事になる。
小夜から楸矢は料理が出来る女性が好みと聞いた時、楸矢は家事は女性がするものという考えなのかと少し意外だった。
楸矢は小夜や清美の荷物をさり気なく持ってくれるし、ドアも必ず開けてくれて先に通してくれる。
欧米でもここまでレディファーストの男性はいないだろうというくらい紳士的だから女性に家事を押し付けたいと思っているようには見えなかったからだ。
しかし清美が弁当を差し出しながら、
「小夜ほど上手くないんですけど……」
と言った時、
「気にしないで。前はお母さんに作ってもらったお弁当に憧れてたけどさ、小夜ちゃんがそう言うの作ってくれて念願叶ったから、もう拘りとか無いよ」
と言う言葉が返ってきた。
それを聞いて楸矢は家事を女性に任せたいのではないと悟った。
家庭に対する憧れからくるものだったのだと。
真似事で良いから家庭的な事を経験してみたかったのだ。
おそらく家庭に対する憧憬の念がかなり強いのだろう。
小夜も口には出さないが普通の家庭への憧れの強さは楸矢に劣らないようだ。
それで何かと〝普通の家〟ではどういう事をするのか聞いてくるのだ。
霧生家に引き取られる前は聞いてこなかったのは祖父に遠慮していたからだろう。
柊矢に対しても自分の希望が言えないのは同じなのだが家族行事は柊矢や楸矢のためでもあるから頼めるようだ。
楸矢が土曜を待たずに連絡してきたのは家族でパーティをしたいからだ。
楸矢は清美の前に付き合っていた女性がいるからクリスマスのデートは経験があるだろう。
大学卒業後には就職して家を出るつもりらしいが、一人暮らしを始めたら家族と祝うクリスマスは結婚するまで出来なくなる。
何より楸矢は柊矢と小夜に両親を投影しているようだが結婚後の家族は自分が親になるから子供としての立場は経験出来ない。
あと四回しかないチャンスを逃したらその後はいつ家族で祝えるかわからないし、柊矢の溺愛っぷりを考えると小夜が高校を卒業したらすぐに結婚してしまうかもしれない。
結婚して子供が出来たら一番年下――小夜も楸矢より年下だが――ではなくなるから残り四回あるかも怪しい。
デートは家を出た後でも出来る。
それを考えたらデートなどより家族でパーティをしたいに違いない。
それでも先に清美の希望を聞いてくれたのだ。
ま、クリスマスは来年もあるし……。
しかしインスタのストーリーには彼氏がいる子のデートの報告が流れてくるだろう。
見なければいいだけなのだが……。
来年は清美が大学受験だからクリスマスにデート出来るか分からない。
清美は溜息を吐いた。
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