上 下
4 / 10

第4話 暖かすぎる暖房

しおりを挟む
話し合いの末俺がベッド、甘倉がソファから持ってきたクッションを敷き詰めてベッドの横で寝るということになった。

「ほんとに床でいいのか?」

「床と言っても柔らかいクッションがありますし、私が勝手に押し入ったので」

「まぁ、人のベッドで寝るのも嫌だよな」

「い、いえ…そこまでではないですよ…」

別にラブコメのように一緒で寝るということを期待していた訳でもない。

これなら何とかなりそうだな、と。


………
……


「あ、藍原くん…起きていますか?」

ベッドについて1時間ほどたった時、甘倉の声が聞こえた。

「起きているが。どうした?急に苗字で呼び始めて」

実は俺も全く寝られていなかったのだ。
まぁ、こんな美少女がすぐそばにいて眠れるわけないのたが。

「副会長、だとどうも私が距離を取っているように聞こえて不自然でしたので。それに藍原くんが甘倉、と苗字で読んでくれているので」

「そうか。まぁ学校では言えないがな」

「そうですね。藍原くんが殺されそうですね」

本気でありそうな冗談はやめてほしい……

「それで何か要件でも?」

「はい…ただ、暖かいな、と」

「そこまで暖房温度上げたつもりはなかったんだけど」

俺はエアコンのリモコンを取りに立ち上がった。

「いえ、温度の問題ではなく、この空間の雰囲気が柔らかくて…今日。楽しかったです」

リモコンを取ろうとした俺の手は、甘倉の柔らかい手に止められた。

「す、すみません…触ってしまって」

「い、いや…大丈夫…」  

大丈夫な訳がない。
女性経験の無い藍原にとって手が触れるだけでも捕まらないか不安になるほどだ。

(心臓の音…聞こえてないかな…)

「確かに…暖かいな…」

その夜は俺はあまり眠れなかった。

~~奏side~~

(どうしよう……ドキドキして眠れない…)


………
……


~~藍原side~~

「おはようございます」

目を開けると甘倉の綺麗で整った顔が目に写った。

「お…おはよう?」

脳が状況を理解するのに数秒掛かった。
しかしこの感じ……

「ご飯は作ってあります。朝ごはん、久しぶりなんじゃないですか?」

「あ、あぁ…ありがとう」

「受け答えがぎこちないですよ?」

「悪い。まだ眠いのかもしれない」

眠いのは言い訳だ。
朝起きて可愛い同級生に世話してもらうこのシチュエーションに理解が追いつかず、心臓がうるさいだけだ。

「はい、鮭のみりん醤油焼きとお味噌汁です。お魚、嫌いじゃないですか?まぁ嫌いでも無理やり食べさせるのですが」

魚は嫌いではない。
むしろ好きだ。
しかしここまで美味しそうな朝ごはんは始めて見た。

「美味しい。最高の朝ごはんだよ」

「そのように美味しそうに食べてくれると作り甲斐があるものです。因みに隠し味はごま油ですよ」

隠し味かぁ。いかにも料理上手な感じでかっこいい。

…なんか語彙力下がってないか?
思い浮かぶ理由は1つしかないのだが。

「そう言えば食材はどうしたんだ?」 

「工事終わってる旨の手紙が私の部屋のポストに入っていたので。原因はそもそも私の部屋のエアコン全部の供給元が壊れていたみたいで。話がそれましたが私の部屋から持ってきました」

少し申し訳ないが、言っても私が勝手にしたことなので、とか言って会話終了しそうなので、ここは素直に感謝を述べることにした。

「わざわざありがとう。美味しかった」

食べ終わった後に食器を台所まで持っていったが、洗い方が分からず結局甘倉に洗い方を教えてもらった。

一緒に台所に立っているのが新婚夫婦みたいでドキドキしたのはお互いの秘密だ。

「そう言えば治ってるならご飯作らずに部屋帰れば良かったのでは?」

ずっと思っていた疑問だ。

「朝ごはん迷惑でしたか?」

「いえ、大変ありがたいです…」

「素直に受け取ってくれればいいのですよ」

甘倉も気を利かせてくれたのだろう。
本当にありがたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Kingの寵愛~一夜のお仕事だったのに…捕獲されたの?~ 【完結】

まぁ
恋愛
高校卒業後、アルバイト生活を続ける 大島才花 すでに22歳の彼女はプロダンサーの実力がありながら プロ契約はせずに、いつも少しのところで手が届かない世界大会優勝を目指している そして、今年も日本代表には選ばれたものの 今年の世界大会開催地イギリスまでの渡航費がどうしても足りない そこで一夜の仕事を選んだ才花だったが… その夜出会った冷たそうな男が 周りから‘King’と呼ばれる男だと知るのは 世界大会断念の失意の中でだった 絶望の中で見るのは光か闇か… ※完全なるフィクションであり、登場する固有名詞の全て、また設定は架空のものです※ ※ダークな男も登場しますが、本作は違法行為を奨励するものではありません※

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 (次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...