上 下
48 / 72
第二章 

第48話「隣の不穏」

しおりを挟む
 猫たちの訓練をしながら、のんきにまったり過ごしていた時のことだった。

 馬車が家の前に来たと思ったら、アルフレッドが出てきた。
 うしろには執事のじいを連れている。
 今日はクレアは来ていないようだ。

 伯爵様がじきじきに来たわけだけど、何かあったのだろうか……、ただ遊びに来ただけならいいんだけど。





 我が家のリビングで、アルフレッドは一息ついている。
 向かい合うように、リルが座っていて、ミーナとライミーはリルの隣に座っている。
 俺はリルの膝上だ。

「それにしても相変わらずお前たちには驚かされるな……」

 アルフレッドがつい先ほどの光景を思い出すかのようにつぶやいた。
 門からここに来るまでの間に、グリフォンたちがくつろいだり、猫と訓練をしているそばを通ってきたのだ。
 終始緊張していたアルフレッドのことは責められない。
 下手なサファリパークよりもスリルがあったことだろう。

「グリフォンたちのこと? 彼女たちは普通にしてれば安全だよ」

 リルが伯爵のつぶやきに答えを返す。
 グーリたちには余程の敵意を向けられないかぎり、人間には手を上げないように伝えてある。
 グーリたちが彼女・・たちということは、今やリルも知るところだ。

「リルがそう言うならそうなんだろうけど、グリフォンはAランクの魔物だからなあ……。彼女?たちの戦力は、うちの騎士団をはるかにしのぐだろうからな」

 アルフレッドの様子は驚きを通り越して、もはやあきれているようにも見える。
 グリフ・ワルキューレの戦力的な評価は高い。
 最近は猫たちも頑張ってるんだよ……。

「グリフォンたちの一番の戦力はあのモフモフだよ。気持ちいいんだからっ!」

 グーリたちの羽毛のモフモフは、リルも絶賛している。
 リルの料理はグリフォンたちにも大好評で、すでにリルのことを第二のあるじと仰いでいる。

 料理を与え、モフらせてもらう。
 それはギブアンドテイクであってwinwinウィンウィンの関係だ。
 今後はグーリたちも狩りを手伝ってくれるし、とても幸せな関係ともいえる。

「そ、そうか……」

 アルフレッドの顔が引きつっている。
 グリフォンは俺と違い、見た目からして強者のたたずまいだからね。

 ライオンがモフらせてくれると言われても、なかなかモフる勇気がある人は少ないだろう。
 グーリたち、ライオンよりも強いしね。
 見慣れると、グリフォンは愛嬌があって可愛いんだけどね。

「そういえばアルフレッドさん、今日は何か用事があったの? 言ってくれれば、リルたちが行ったのに」

 アルフレッドには、この街で快適な暮らしをさせてもらってるから感謝している。
 領地によっては、獣人や冒険者に厳しかったりするらしいからね。
 アルフレッドの領地が快適すぎて、そのことを忘れそうになるくらいだ。

 それにうちみたいにグリフォンを連れてると、その戦力を恐れて排除しようとする領主もいるかもしれない。

「そうだ。実はちょっとした報告があってな……。一応それを伝えにきたんだ」

「報告?」

「ああ、ここの隣の領地の新しい領主が決まってな。以前、俺たちが誘拐されて連れて行かれた領地のことだ」

 おお……、あそこか。
 アルフレッドとその娘のクレア、そしてリルが、傭兵団に誘拐されて一時的に連れて行かれたところだ。
 俺が奪還するために襲撃したのが、アルフレッドたちがあの街に連れ込まれてすぐのタイミングだった。

 傭兵団もその場にいた領主である侯爵も皆殺しにしてしまったんだった。
 たしかその後、侯爵家断絶のため中央から新たな領主がやってくるだろうということだった。
 
 この話ってミーナやライミーがいるところでしてもいいのかな。
 アルフレッドが俺たちを信頼してくれているか、適当な性格をしているか判断が難しいところだ。
 ほら、じいの顔が少し引きつっているよ。

「新しい領主が何か問題あるの?」

 リルは、誘拐されたことはまるで気にしていない様子だ。
 アルフレッドが報告しにきたくらいだから、何かあるのだろうか。
 俺がやったことが一応のきっかけだから、一応報告してくれただけかもしれないけど。

「俺も新しい領主のことはよく知らないのだが、どうも中央の教会関係者らしくてな。金やコネで侯爵位を手に入れた人物とも噂されている。それに、どうもうちは教会からにらまれてるからな……。」

 教会関係者か……。
 あまり良い印象が無いやつらだ。

 権力と結びついて、自分たちの都合の良いようにふるまうと聞いている。
 獣人や他の神を信じる者たちを異端扱いするとも聞いている。

 王都から距離があって自由な気風のこの伯爵領は、教会にとっては気に入らない部分もあるのだろう。
 気に入らないと思われてるだけなら全然かまわない。
 けど、こっちにちょっかいを出してくるのは勘弁してもらいたいものだ。 

 リルはあごに指をあてて何かを考えている様子だ。

「今度、狩りに行くついでに少し様子を見に行ってみようか?」

 リルの問いかけは俺に対してのものだろう。

 隣の領地の街や村を見て回るだけでも、何か変わったこととか分かるかもしれない。
 新領主が実は案外良い奴で、杞憂きゆうに終わればそれにこしたことはないしね。

「クルニャーン!(そうだね。見に行ってみよう!)」

 今のマッタリモフモフ生活をおびやかすことが起こらないことを切に願ったのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...