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おわりの章

第七十五話:王都奪還2

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 王都アガーシャを占拠する魔族軍部隊と、それを奪還せんとするクレアデス解放軍に聖女部隊。
 正門前に陣を敷いていた魔族軍部隊を緒戦で壊滅させた呼葉は、突入するに当たって宝珠の魔弓による範囲攻撃を行う。

「――降らせ!」

 防壁の向こう側に集結している魔族軍の頭上に、大量の魔法の矢を降らせての牽制攻撃。
 通常なら数十発から、多くても数百発の矢が降り注ぐ事で正門周辺の敵勢力を遠ざけて突入を支援する牽制になるのだが、呼葉の放つ魔法の矢の範囲攻撃は数千発にまで増える。

「牽制で敵が壊滅するな、こりゃ」

 正門前の空を覆い尽くさんばかりに広がった、光の粒と化した魔法の矢を仰ぎ見るパークスが、苦笑気味に呟いた。

 魔族軍側は、突入して来るクレアデス解放軍を迎撃するべく正門周辺の通りや路地で待ち構えていたのだが、豪雨の如く降り注ぐ魔法の矢雨に、この一帯からの退避を余儀なくされた。

 王都の重厚な正門は呼葉の特大火炎弾であっけなく吹き飛ばされ、クレアデス解放軍は迎撃や待ち伏せに遭う事も無く、悠々と王都への突入を果たす。

 聖女の祝福効果による雑兵無双な状態は市街戦になっても変わらず、寧ろ少数同士の遊撃戦になれば、祝福効果を持つクレアデス解放軍側がかなり有利であった。

 正門周辺での迎撃を諦めた魔族軍部隊は、街の中心部へと退いていく。クレアデス解放軍は、部隊分けをして街の制圧に乗り出した。
 その間、聖女部隊はロイエン達解放軍の本陣と共に、正門を潜って直ぐの場所にある中央通りの広場で待機していた。

「これが、王都アガーシャの街並みかぁ……」

 呼葉は重厚な石造りの建物群を見上げて、ホウと溜め息を吐く。聖都の白っぽい街並みとはまた違う、異国情緒あふれる魅力があった。

 ちらりとクレイウッド参謀を見やると、油断なく周囲に視線を配りつつも、どこか感慨深げな雰囲気を醸し出している。
 王国騎士団を率いて王族を護りながらパルマムまで落ち延びていた彼にとって、ようやく故郷に戻って来られた想いもあるのだろう。

(そういえば、グラドフ将軍もここの元宮廷騎士団長だっけ)

 王族警護専門の近衛騎士とはまた別系統の王宮騎士だったと聞いている。そのグラドフ将軍はといえば、クレアデス解放軍の本陣にて、総指揮ロイエンの隣で元気に指揮をとっていた。

 各部隊からの伝令が引っ切り無しにやって来ては、指示を受けて駆けて行く。戦いの喧噪は遠く散発的で、街の彼方此方から響いて来るそれらも徐々に遠ざかっている。
 当初予想していた激しい総力戦にも至らず、既に掃討戦のような様相を呈していた。


「魔族軍、撤退を開始しました!」

 このまま王城まで押し込んで籠城戦になるかと思いきや、魔族軍は早々に全面撤退を選んだらしい。
 王都内に配備されていた各魔族軍部隊は、緒戦で大打撃を受けて退いた第五・第二混成部隊の支援を受けながら、中央街道の北側――ルーシェント国方面へと退却を始めたようだ。

「追撃しますか?」
「うーん、その必要はないかな」

 クレアデス解放軍の本陣に呼ばれた呼葉は、この後の方針をざっくり話し合う中で、王都の掌握を優先するよう提案する。
 ロイエン総指揮とグラドフ将軍も、呼葉の提案に賛同した。

「なんか思ったより楽に終わったね」
「いやいや、これは聖女殿の御力あっての戦果ですぞ」

 構えていた程ではなかったと肩透かしな気分になっている呼葉に、グラドフ将軍はこんな一方的な決戦は初めてだったと苦笑を返す。

 これから魔族軍の動きを警戒しつつ王都全域を調べて回り、罠や伏兵が残されていないか確かめてから防衛体制に移行する。
 街の人々は大半が家に閉じこもって戦いの様子を窺っていたらしく、クレアデス解放軍の兵達が王都の掌握を始める頃には、皆が恐る恐る顔を出し始めた。


 王城を確認しに行った部隊が帰還し、現在の状態を報告する。

「建物等に破損個所は少なく、城内も特に荒らされた様子はありませんでした」

 ゴミや瓦礫が散乱しているような事も無く、清掃も行き届いており、きちんと管理されていたようだ。普通に腰を落ち着けて駐留する、拠点の城施設として使われていたらしい。
 残念ながら重要そうな書類などは粗方持ち出されたか、焼却処分された跡があったそうな。

「まあ、城ごと燃やさなかった辺りは良心的かもね」
「ですな。これだけ鮮やかな退き様を見るに、初めから撤退の準備をしていたか」

 呼葉の感想に、グラドフ将軍は魔族軍側の思惑を推察した。
 早い段階で『聖女』との交戦を避けるよう指示があった事からして、何かしら対策を練って挑み、駄目なら即撤退という方針を取っていたと考えられる。

(思ったより慎重に行動してるわよね)

 どこまでが魔王ヴァイルガリンの指示によるものかは分からないが、魔族側は古より伝わる人類の最終兵器、『伝説に謳われる聖女』を正しく脅威と認識している事が覗えた。
 その割に毎回大損害を被っているようだが、それは呼葉の祝福効果がそれだけ出鱈目な性能であったという事だ。

 残されていた備蓄や、街中の井戸に毒など投げ込まれていないか調査されている中、優先的に確認を済ませた王城に呼葉達聖女部隊が入る。
 クレアデス解放軍の本陣を城内に移す為、ロイエン総指揮とグラドフ将軍達も一緒だ。

「次はルーシェント国ね。ここからが本番だわ」
「まずは休息ですよ、コノハ殿」
「アルスバルト王子達もお呼びして、クレアデス国の解放を宣言しませんとね」

 半日と掛からず決着がついて疲労も少なかったせいか、もう次の進軍先の事を考えている呼葉に、アレクトール達が自重を促す。

 ともあれ、クレアデス解放軍と聖女部隊はアガーシャに駐留していた魔族軍を撃退し、王都の奪還を成功させたのだった。


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