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17 考えてる
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葵のことは、ずっと考えていた。告白された後から、というより、たぶん観覧車でキスをされた時から。ただ、観覧車の時は深く考えないようにして、意識的に意識の外へ出していた。
だから真面目に考えていたのは、たかだかこの十日程度の期間だ。
好意を寄せられるのは、相手が誰であれ嬉しいと思う。恋愛感情は、今まで女の子にしか貰わなかったものだから不思議な気分だ。
葵の目には、自分はどう見えているのだろう。それが一番気になるかもしれない。
嫌悪感は、想いにもキスにも抱かなかった。もっとも、キスは驚きが強かったせいもあるかもしれない。それでも後から考えても、嫌悪感はなかったのだ。
キスが嫌ではなかったからといって、告白を受けるか――その先、お付き合いもするのかと問われると悩んでしまう。そう、今の状態だ。
尻込みをしているのは、何に対してなのか。
葵に対してなのか、男と付き合うことに対してなのか。
未知のことを恐れるという意味では、『男と付き合う』ことに対してへの恐れだ。葵のことは、半年ほどの付き合いだが見てきた。だから彼のことを恐れているわけではない。
不器用で真面目で、不意打ちはしても卑怯なことはしない。かわいい弟、のように思っていたところはある。それが葵の認識とは違っていただけ。
単純に好きか嫌いかで言えば、好きだと思う。
キスされた後に説明がなくても家庭教師を続けられたのだし、葵が倒れていれば心底心配したし、世話も焼いた。嫌だったら家庭教師も辞めていたはずだし、いま目の前で鍋の具を頬張る葵を見守ることもしなかっただろう。
だからね、と葵に告げたのは、鍋の日から二日後のことだった。この時は通話だった。
「だから、葵くんが合格してたら、付き合おうかと思って」
「……入試終わってから言うの、ズルくないですか?」
恨めしげな葵の言葉は、それはそうだろうと思う。自分でもそう思うからだ。
「試験に手応えはあったんだろう?」
「ありました。真柄さんが作ってくれた宿題とほぼ同じ問題が出てたのを見た時は、絶対勝ったと思いました」
「じゃあ、いいじゃないか。合格発表、余裕の気持ちで待っていればいい」
「……釈然としないんですが……」
一週間も先の話だし、試験の結果次第でもあるし、そう思われても仕方がない。
「何もその間、会えないわけじゃないし……」
「余計に生殺しじゃないですか」
嘆きつつ、最終的に折れてくれた。そのあたりも可愛らしい。
「葵が不合格とは思わないよ。頑張ってたのも、実力も、知ってるから。あと、入試が終わったお祝い、まだしてなかっただろう? 咲子さんが顔を見たがってたから、予定がなければ今日おいで」
たしか今は自由登校だとか言っていたな、と思い出しながら誘うと、素直に「はい」と返ってくる。じゃあ後でね、と通話を切ると、深く息を吐き出す。
緊張した。
葵が合格しているのはほぼ確実だと思う。全国一の難関校でも、そう言い切れる。なのに合格を条件にしたのは、素直に応じることに照れが入ってしまったからだ。
今まで誰とも真面目に付き合ったことはない。体だけの関係が多かったし、誰のものにもならないようにしていた。
それなのに、年下の男に捕まるなんて。
「……店に戻るかな」
最近真面目に喫茶店の手伝いをしている。朝から起きて、一時間半だけ二度寝して仕込みや店の掃除を手伝い、ランチをそのまま迎える。十五時までのランチ以降も手伝うことはあった。
最近客が少し増えた感じがするから、ちょうどいい。もう少し手が欲しいくらいだ。昼の忙しさを過ぎた今は、デザートタイムの支度をする。
今は気分転換にも一役買ってくれそうだ。深く深呼吸すると、店の裏口から戻った。
だから真面目に考えていたのは、たかだかこの十日程度の期間だ。
好意を寄せられるのは、相手が誰であれ嬉しいと思う。恋愛感情は、今まで女の子にしか貰わなかったものだから不思議な気分だ。
葵の目には、自分はどう見えているのだろう。それが一番気になるかもしれない。
嫌悪感は、想いにもキスにも抱かなかった。もっとも、キスは驚きが強かったせいもあるかもしれない。それでも後から考えても、嫌悪感はなかったのだ。
キスが嫌ではなかったからといって、告白を受けるか――その先、お付き合いもするのかと問われると悩んでしまう。そう、今の状態だ。
尻込みをしているのは、何に対してなのか。
葵に対してなのか、男と付き合うことに対してなのか。
未知のことを恐れるという意味では、『男と付き合う』ことに対してへの恐れだ。葵のことは、半年ほどの付き合いだが見てきた。だから彼のことを恐れているわけではない。
不器用で真面目で、不意打ちはしても卑怯なことはしない。かわいい弟、のように思っていたところはある。それが葵の認識とは違っていただけ。
単純に好きか嫌いかで言えば、好きだと思う。
キスされた後に説明がなくても家庭教師を続けられたのだし、葵が倒れていれば心底心配したし、世話も焼いた。嫌だったら家庭教師も辞めていたはずだし、いま目の前で鍋の具を頬張る葵を見守ることもしなかっただろう。
だからね、と葵に告げたのは、鍋の日から二日後のことだった。この時は通話だった。
「だから、葵くんが合格してたら、付き合おうかと思って」
「……入試終わってから言うの、ズルくないですか?」
恨めしげな葵の言葉は、それはそうだろうと思う。自分でもそう思うからだ。
「試験に手応えはあったんだろう?」
「ありました。真柄さんが作ってくれた宿題とほぼ同じ問題が出てたのを見た時は、絶対勝ったと思いました」
「じゃあ、いいじゃないか。合格発表、余裕の気持ちで待っていればいい」
「……釈然としないんですが……」
一週間も先の話だし、試験の結果次第でもあるし、そう思われても仕方がない。
「何もその間、会えないわけじゃないし……」
「余計に生殺しじゃないですか」
嘆きつつ、最終的に折れてくれた。そのあたりも可愛らしい。
「葵が不合格とは思わないよ。頑張ってたのも、実力も、知ってるから。あと、入試が終わったお祝い、まだしてなかっただろう? 咲子さんが顔を見たがってたから、予定がなければ今日おいで」
たしか今は自由登校だとか言っていたな、と思い出しながら誘うと、素直に「はい」と返ってくる。じゃあ後でね、と通話を切ると、深く息を吐き出す。
緊張した。
葵が合格しているのはほぼ確実だと思う。全国一の難関校でも、そう言い切れる。なのに合格を条件にしたのは、素直に応じることに照れが入ってしまったからだ。
今まで誰とも真面目に付き合ったことはない。体だけの関係が多かったし、誰のものにもならないようにしていた。
それなのに、年下の男に捕まるなんて。
「……店に戻るかな」
最近真面目に喫茶店の手伝いをしている。朝から起きて、一時間半だけ二度寝して仕込みや店の掃除を手伝い、ランチをそのまま迎える。十五時までのランチ以降も手伝うことはあった。
最近客が少し増えた感じがするから、ちょうどいい。もう少し手が欲しいくらいだ。昼の忙しさを過ぎた今は、デザートタイムの支度をする。
今は気分転換にも一役買ってくれそうだ。深く深呼吸すると、店の裏口から戻った。
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