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第九幕 砂の楼閣
砂の海
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『お前ら砂漠を知らんから笑うてられるんやで……』
あの時のナラさんの言葉が頭の中に響く。
目の前は砂。
その先も砂。
見渡す限り砂。
右を見ても、左を見ても、前を見ても、後を見ても、下を見ても砂。
唯一、砂がないのは頭上だが、そこにはジリジリと照りつけてくる太陽がある。
ここは砂と灼熱が支配する世界だ。
時おり風が吹くと砂塵が舞い上がる。そしてそれが目にも鼻にも口にも、服の中だって、下着の中だって、容赦なく侵入してくる。
特に辛いのが目だ。ジャリジャリして痛いし、目尻に砂が溜ってくる。鼻や口は布で隠すこともできるが、目は防ぎようがない。
それでも俺以外のみんなはまだいい。ニコも、アミも、ハルさんも、ナラさんまで、みんな睫毛が長くてフサフサだ。これで多少は防御になる。貧弱睫毛の俺だけ、目にどんどん砂が入ってくる。
休憩中、俺が目をこすっていると
「そやから言うたやろ? キツイで、いうて」
そう言いながらナラさんが身体をぶるぶるっと震わせる。身体にまとわりついた砂塵がぱあっと舞う。
「でも正直ここまで砂、砂、砂の世界だとは思わなかったわ」
ハルさんもうんざりした様子だ。
また歩き出す。
すると突然、先頭を歩いていた俺の目の前が、ガボッとすり鉢状に陥没した。見る間に穴は大きくなり、俺の足元も崩れ落ちる。
穴の底に顔を出したのは、人間ほどもあるアリジゴクだ。その大きな顎で獲物に噛みつき、ちゅーっと体液を吸う。獲物はあっという間にミイラになってしまう。
俺はすり鉢をズルズル滑り落ちながらも、慌てずに狙いを定め、震歌を放った。
『ばぎゃっ!』
そんな音がしてアリジゴクの頭が砕け散った。
「ふう」
すり鉢の底まで滑り落ちた俺は、ため息をつきながらアリジゴクの残骸を拾い集め、袋に入れる。これはこれで貴重な食料になる。
「おっけー!」
俺の身体にはツタがくくりつけられている。合図するとみんなが俺を引っ張り上げてくれる。ハルさんにアリジゴクの残骸を渡す。
「はい、今日はこれで7匹目ね。お疲れ様」
そうだ。俺はアリジゴクを釣るためをやってる。
「やっぱりソウタがエサになるのが一番安全で効率良いわね!」
アミが嬉しそうに笑う。
「もうアリジゴクの肉も食い飽きたけどな」
「そんなこと言わないの。調理法はまたアミが工夫してくれるから」
砂だらけの俺のことはみなスルーだ。
「ソウタ、大丈夫? 怪我なかった?」
やっぱりかまってくれるのはニコぐらいだな。
道なき砂の海を、太陽の方角だけを頼りにまたとぼとぼ歩き出す。
釣りエサの俺だけ、みんなより30メートルぐらい先を歩いてるので、時々ふっと、俺一人なんじゃないか、という不安に襲われて後を振り返る。
小さい丘を越え、向こう側が見えた途端、日陰に何かいるのに気付いた。
「砂サソリだ! 耳を塞いで!」
みんなに声をかけ、自分も耳栓をしようとしたが、その時に足元がまたガボッと陥没し始めた。
マズい! 手前にアリジゴクの巣があったんだ。
あっという間に足をすくわれ、すり鉢の中に吸い込まれていく。
あっ、耳栓が……耳栓がどっか行ってしまった。両手で耳を塞いでしまうと震歌を撃てない。仕方なく片耳だけ押さえて震歌を歌う。
しかし、低い唸り声のような、お経のような声が耳に入って来てしまった。その途端、暗い、陰鬱な気分に襲われる。無気力感に支配され、何もかも投げ出したくなる。
もういいか……俺みたいなクズ人間、周りに迷惑かけながら生きていくより、アリジゴクに吸われてしまった方がいいな……
そんな気がして震歌を歌うのを止めてしまう。すり鉢の底でアリジゴクが大きな顎を開けて俺を待ってる。
よろしくお願いします……あんまり痛くないようにだけお願いします……目を閉じ、砂の流れに身を委ねる。もうすぐだ。もうすぐでこの苦痛な人生は終わる……
しかしその時、『ぼんっ!』という音と共に爆風が顔に吹きつけた。目を開けるとアリジゴクはばらばらになっていた。なんだ、助けが入ってしまったのか。
「ソウタぁ!」
金切り声をあげて砂の斜面を走り下りてきたのはニコだ。
「大丈夫っ!?」
「あ、ああ……」
頭の中が粘りついたような感じで何も考えられない。向こうの方を見るとアミが人間よりも大きい砂サソリを曲刀で真っ二つにしていた。
「どうして? どうして震歌を撃たなかったの? アリジゴクにやられちゃうじゃない」
「あ、ああ……もういいんだ」
「何がいいの? 死んじゃうじゃない!」
何故かニコは必死だ。
「みんな……俺のせいで、こんな苦労をさせてしまって、申し訳ない……俺なんか、死んだ方が良かったんだ……」
「何言ってんの! 私はソウタのおかげで普通に暮らせるようになったのよ! ソウタが死んだら私も死ぬから!」
そう言って彼女は泣き出してしまった。
「あらあら、これは砂サソリの鬱歌をもろに聴いちゃったのね」
みんなすり鉢の底まで下りてきた。
このバリン砂漠に生息する生物はヤバいのが多いが、とりわけ危険なのがこの砂サソリだ。鬱歌という情の歌術を使い、強力なウツで抵抗できなくなった獲物をさらに毒で麻痺させ、生きたままムシャムシャかじるという。
「しかしアリジゴクと砂サソリが一緒におるのんは初めて見たな」
「たまたまかしら。それとも2匹でコラボしてたのかしら」
「さあなあ。そこまで賢うないと思うけどなあ。たまたまちゃうか」
「それにしても、アリジゴクには鬱歌は効かないのかしら」
「情の歌術は哺乳類にしか効かんらしいな」
ハルさんとナラさんは、俺たちを放置していろいろ議論してる。そこにアミも戻ってきた。俺をジロッと睨みながらニコを慰める。
「ニコ、泣かなくてもいいわよ。30分もしたら元に戻るらしいから」
「うん……」
それでもニコは俺の横から離れない。
「ちょうど日陰になっとるし、ソウタが治るまで一休みしよか」
「そうね」
座り込んだまま立ち上がれない俺の周りにみんな腰を下ろした。
「ちょっとあんた、しっかりしなさいよ! ニコを泣かせてどうすんのよ」
アミは、俺の病んでる姿が気に食わないらしい。しかし、しっかりしろと言われてもどうしたらいいのか分からない。ニコにもアミにも申し訳なくって、俺も涙が出そうになる。
「ちょい、ちょい、アミ。ウツになっとる奴を叱咤激励してもアカンで。よけ落ち込みよる」
「え? そうなの?」
「時々『どうや?』いうて声かけるぐらいにして、後はそーっとしといたった方がええ」
「ふーん」
ふくれっ面になってしまった。しかしナラさんの言う通り、黙って放置しといてくれるのが一番ありがたい。
30分経った。
元気になった。
さっきのあれは何だったのか、というぐらい普通に戻った。もう全然大丈夫だ。
「良かった……ソウタが落ち込んでると私まで落ち込んじゃう」
ニコもホッとした表情だ。
「そうかな? 私はイライラしてくるけどなあ」
ニコとアミの会話を聞いてハルさんが解説してくれる。
「2人の性格の違いが出てて面白いわね。ソウタの落ち込んでる姿を見ると、ニコは不安になって自分も病んじゃう、アミは不安なのを認めたくないから怒り出しちゃう、要はヤンデレとツンデレね」
アミのツンデレは確かだが、ニコのヤンデレはちょっと違う気がするな。まあいいか。
「すいません。もう大丈夫です。油断したわけじゃないんですが、まさか砂サソリとアリジゴクの両方に来られるとは思ってませんでした」
「砂漠っちゅうのは、ホンマ、何が起るか分らんからな。気ぃつけて行こ。ほい、スペアの耳栓や」
「ありがとうございます」
「またこんなことがあったらいけないし、ソウタは最初から耳栓しとく? 用がある時にはツタを引っ張って合図するわ」
「あ、はい……」
何だかますます釣りエサになった気分だ。まあジャンケンに負けたから仕方ないんだが。
次のオアシスにはまだ、たどり着かない。今日は岩場の陰で野営だ。
砂漠の夜は寒い。昼との温度差は想像を絶する。みんな早々にテントの中にもぐり込んでしまい、見張り当番の俺だけが焚き火の前に残っていた。
『チリン』
小さく鈴の音が鳴った。キャンプに近づく敵を察知するため仕掛けた鈴だ。風はない。何者かが触れたということだ。
「敵襲!」
叫んで立ち上がった俺の視界に不気味な光景が飛び込んできた。
月明かりで白く拡がる砂の海に、黒く細長い物体がいくつも浮かんでいる。いや、よく見るとそいつには小さい足がびっしり生えている。長さ10メートル、太さは人間の胴体ほどもある巨大なムカデだ。どうもこのキャンプをめがけて群がってきてるようだ。
全身にぞわっと寒気が走る。こういう細長くてもじゃもじゃしてる生き物は苦手だ。しかし既にニコとアミが眠るテントのすぐ近くまで1匹近寄っている。まずい!
『キイッ!』
慌てて震刃でなぎ払うと、超音波っぽい声を発して真っ二つになった。
「何や、ムカデか! やっぱり来よったな!」
ナラさんが駆け寄って来てくれた。
「来たれよ光 来たれよ光 走り走りて貫き通せ~♪」
角の辺りから電光が飛び、ムカデが1匹、痙攣しながら焼け焦げた。
そこにハルさんも起きてきた。
「何よこの気持ち悪いの!」
そう言いながら、ツタの種を投げつける。
「芽を出し芽を出し、伸びて伸びて、たくましくなって、引張れ引張れ~♪」
にょきにょき伸びたツタがムカデに巻き付き、ぶちっと引きちぎってしまった。
女子2人もテントから出てきてそれぞれ歌術を歌っている。あっという間にムカデの群れは片付いた。
「このまま放っといたら、すぐに屍肉を漁る別の生きモンが寄って来よるで。焼き払っといた方がええわ」
ナラさんの言葉に従い、俺とニコで奏鳴剣を使ってキレイに焼き払う。とりあえずこれでホッと一息だ。
ハルさんと見張りを交代してテントに潜り込むが、さっきのムカデのもじゃもじゃした様子が頭に浮かんできて寝つけない。
はあ……ホントにここは地獄だ。砂地獄だ。
あの時のナラさんの言葉が頭の中に響く。
目の前は砂。
その先も砂。
見渡す限り砂。
右を見ても、左を見ても、前を見ても、後を見ても、下を見ても砂。
唯一、砂がないのは頭上だが、そこにはジリジリと照りつけてくる太陽がある。
ここは砂と灼熱が支配する世界だ。
時おり風が吹くと砂塵が舞い上がる。そしてそれが目にも鼻にも口にも、服の中だって、下着の中だって、容赦なく侵入してくる。
特に辛いのが目だ。ジャリジャリして痛いし、目尻に砂が溜ってくる。鼻や口は布で隠すこともできるが、目は防ぎようがない。
それでも俺以外のみんなはまだいい。ニコも、アミも、ハルさんも、ナラさんまで、みんな睫毛が長くてフサフサだ。これで多少は防御になる。貧弱睫毛の俺だけ、目にどんどん砂が入ってくる。
休憩中、俺が目をこすっていると
「そやから言うたやろ? キツイで、いうて」
そう言いながらナラさんが身体をぶるぶるっと震わせる。身体にまとわりついた砂塵がぱあっと舞う。
「でも正直ここまで砂、砂、砂の世界だとは思わなかったわ」
ハルさんもうんざりした様子だ。
また歩き出す。
すると突然、先頭を歩いていた俺の目の前が、ガボッとすり鉢状に陥没した。見る間に穴は大きくなり、俺の足元も崩れ落ちる。
穴の底に顔を出したのは、人間ほどもあるアリジゴクだ。その大きな顎で獲物に噛みつき、ちゅーっと体液を吸う。獲物はあっという間にミイラになってしまう。
俺はすり鉢をズルズル滑り落ちながらも、慌てずに狙いを定め、震歌を放った。
『ばぎゃっ!』
そんな音がしてアリジゴクの頭が砕け散った。
「ふう」
すり鉢の底まで滑り落ちた俺は、ため息をつきながらアリジゴクの残骸を拾い集め、袋に入れる。これはこれで貴重な食料になる。
「おっけー!」
俺の身体にはツタがくくりつけられている。合図するとみんなが俺を引っ張り上げてくれる。ハルさんにアリジゴクの残骸を渡す。
「はい、今日はこれで7匹目ね。お疲れ様」
そうだ。俺はアリジゴクを釣るためをやってる。
「やっぱりソウタがエサになるのが一番安全で効率良いわね!」
アミが嬉しそうに笑う。
「もうアリジゴクの肉も食い飽きたけどな」
「そんなこと言わないの。調理法はまたアミが工夫してくれるから」
砂だらけの俺のことはみなスルーだ。
「ソウタ、大丈夫? 怪我なかった?」
やっぱりかまってくれるのはニコぐらいだな。
道なき砂の海を、太陽の方角だけを頼りにまたとぼとぼ歩き出す。
釣りエサの俺だけ、みんなより30メートルぐらい先を歩いてるので、時々ふっと、俺一人なんじゃないか、という不安に襲われて後を振り返る。
小さい丘を越え、向こう側が見えた途端、日陰に何かいるのに気付いた。
「砂サソリだ! 耳を塞いで!」
みんなに声をかけ、自分も耳栓をしようとしたが、その時に足元がまたガボッと陥没し始めた。
マズい! 手前にアリジゴクの巣があったんだ。
あっという間に足をすくわれ、すり鉢の中に吸い込まれていく。
あっ、耳栓が……耳栓がどっか行ってしまった。両手で耳を塞いでしまうと震歌を撃てない。仕方なく片耳だけ押さえて震歌を歌う。
しかし、低い唸り声のような、お経のような声が耳に入って来てしまった。その途端、暗い、陰鬱な気分に襲われる。無気力感に支配され、何もかも投げ出したくなる。
もういいか……俺みたいなクズ人間、周りに迷惑かけながら生きていくより、アリジゴクに吸われてしまった方がいいな……
そんな気がして震歌を歌うのを止めてしまう。すり鉢の底でアリジゴクが大きな顎を開けて俺を待ってる。
よろしくお願いします……あんまり痛くないようにだけお願いします……目を閉じ、砂の流れに身を委ねる。もうすぐだ。もうすぐでこの苦痛な人生は終わる……
しかしその時、『ぼんっ!』という音と共に爆風が顔に吹きつけた。目を開けるとアリジゴクはばらばらになっていた。なんだ、助けが入ってしまったのか。
「ソウタぁ!」
金切り声をあげて砂の斜面を走り下りてきたのはニコだ。
「大丈夫っ!?」
「あ、ああ……」
頭の中が粘りついたような感じで何も考えられない。向こうの方を見るとアミが人間よりも大きい砂サソリを曲刀で真っ二つにしていた。
「どうして? どうして震歌を撃たなかったの? アリジゴクにやられちゃうじゃない」
「あ、ああ……もういいんだ」
「何がいいの? 死んじゃうじゃない!」
何故かニコは必死だ。
「みんな……俺のせいで、こんな苦労をさせてしまって、申し訳ない……俺なんか、死んだ方が良かったんだ……」
「何言ってんの! 私はソウタのおかげで普通に暮らせるようになったのよ! ソウタが死んだら私も死ぬから!」
そう言って彼女は泣き出してしまった。
「あらあら、これは砂サソリの鬱歌をもろに聴いちゃったのね」
みんなすり鉢の底まで下りてきた。
このバリン砂漠に生息する生物はヤバいのが多いが、とりわけ危険なのがこの砂サソリだ。鬱歌という情の歌術を使い、強力なウツで抵抗できなくなった獲物をさらに毒で麻痺させ、生きたままムシャムシャかじるという。
「しかしアリジゴクと砂サソリが一緒におるのんは初めて見たな」
「たまたまかしら。それとも2匹でコラボしてたのかしら」
「さあなあ。そこまで賢うないと思うけどなあ。たまたまちゃうか」
「それにしても、アリジゴクには鬱歌は効かないのかしら」
「情の歌術は哺乳類にしか効かんらしいな」
ハルさんとナラさんは、俺たちを放置していろいろ議論してる。そこにアミも戻ってきた。俺をジロッと睨みながらニコを慰める。
「ニコ、泣かなくてもいいわよ。30分もしたら元に戻るらしいから」
「うん……」
それでもニコは俺の横から離れない。
「ちょうど日陰になっとるし、ソウタが治るまで一休みしよか」
「そうね」
座り込んだまま立ち上がれない俺の周りにみんな腰を下ろした。
「ちょっとあんた、しっかりしなさいよ! ニコを泣かせてどうすんのよ」
アミは、俺の病んでる姿が気に食わないらしい。しかし、しっかりしろと言われてもどうしたらいいのか分からない。ニコにもアミにも申し訳なくって、俺も涙が出そうになる。
「ちょい、ちょい、アミ。ウツになっとる奴を叱咤激励してもアカンで。よけ落ち込みよる」
「え? そうなの?」
「時々『どうや?』いうて声かけるぐらいにして、後はそーっとしといたった方がええ」
「ふーん」
ふくれっ面になってしまった。しかしナラさんの言う通り、黙って放置しといてくれるのが一番ありがたい。
30分経った。
元気になった。
さっきのあれは何だったのか、というぐらい普通に戻った。もう全然大丈夫だ。
「良かった……ソウタが落ち込んでると私まで落ち込んじゃう」
ニコもホッとした表情だ。
「そうかな? 私はイライラしてくるけどなあ」
ニコとアミの会話を聞いてハルさんが解説してくれる。
「2人の性格の違いが出てて面白いわね。ソウタの落ち込んでる姿を見ると、ニコは不安になって自分も病んじゃう、アミは不安なのを認めたくないから怒り出しちゃう、要はヤンデレとツンデレね」
アミのツンデレは確かだが、ニコのヤンデレはちょっと違う気がするな。まあいいか。
「すいません。もう大丈夫です。油断したわけじゃないんですが、まさか砂サソリとアリジゴクの両方に来られるとは思ってませんでした」
「砂漠っちゅうのは、ホンマ、何が起るか分らんからな。気ぃつけて行こ。ほい、スペアの耳栓や」
「ありがとうございます」
「またこんなことがあったらいけないし、ソウタは最初から耳栓しとく? 用がある時にはツタを引っ張って合図するわ」
「あ、はい……」
何だかますます釣りエサになった気分だ。まあジャンケンに負けたから仕方ないんだが。
次のオアシスにはまだ、たどり着かない。今日は岩場の陰で野営だ。
砂漠の夜は寒い。昼との温度差は想像を絶する。みんな早々にテントの中にもぐり込んでしまい、見張り当番の俺だけが焚き火の前に残っていた。
『チリン』
小さく鈴の音が鳴った。キャンプに近づく敵を察知するため仕掛けた鈴だ。風はない。何者かが触れたということだ。
「敵襲!」
叫んで立ち上がった俺の視界に不気味な光景が飛び込んできた。
月明かりで白く拡がる砂の海に、黒く細長い物体がいくつも浮かんでいる。いや、よく見るとそいつには小さい足がびっしり生えている。長さ10メートル、太さは人間の胴体ほどもある巨大なムカデだ。どうもこのキャンプをめがけて群がってきてるようだ。
全身にぞわっと寒気が走る。こういう細長くてもじゃもじゃしてる生き物は苦手だ。しかし既にニコとアミが眠るテントのすぐ近くまで1匹近寄っている。まずい!
『キイッ!』
慌てて震刃でなぎ払うと、超音波っぽい声を発して真っ二つになった。
「何や、ムカデか! やっぱり来よったな!」
ナラさんが駆け寄って来てくれた。
「来たれよ光 来たれよ光 走り走りて貫き通せ~♪」
角の辺りから電光が飛び、ムカデが1匹、痙攣しながら焼け焦げた。
そこにハルさんも起きてきた。
「何よこの気持ち悪いの!」
そう言いながら、ツタの種を投げつける。
「芽を出し芽を出し、伸びて伸びて、たくましくなって、引張れ引張れ~♪」
にょきにょき伸びたツタがムカデに巻き付き、ぶちっと引きちぎってしまった。
女子2人もテントから出てきてそれぞれ歌術を歌っている。あっという間にムカデの群れは片付いた。
「このまま放っといたら、すぐに屍肉を漁る別の生きモンが寄って来よるで。焼き払っといた方がええわ」
ナラさんの言葉に従い、俺とニコで奏鳴剣を使ってキレイに焼き払う。とりあえずこれでホッと一息だ。
ハルさんと見張りを交代してテントに潜り込むが、さっきのムカデのもじゃもじゃした様子が頭に浮かんできて寝つけない。
はあ……ホントにここは地獄だ。砂地獄だ。
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