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第九幕 砂の楼閣

 第九幕への前奏曲 ~ジゴさんからの手紙~

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 ソウタ! 生きてたんだな! 良かった、良かったよ。

 半年ほど前、お前たちが大海峡に落ちて消息不明という報せが入って来て、そりゃもう、どんだけ心配したか、どんだけ気をもんだか。

 生きてる、きっと生きてる、そう信じてはいたが、時間が経つにつれてだんだん自信がなくなってきて、ナギなんか食事がのどを通らなくなってげっそり痩せちまった。

 それがお前たちが元気だと分かって、今は俺の横でむしゃむしゃ肉を食ってる。って書いたところで頭を1発はたかれたよ(笑)。いや、もう、良かった。本当に良かった。

 しかも、心強い仲間が増えたそうだな。そうだ。歌い手には一緒に旅をするメンバーが必要だからな。

 ナラさんっていうのは鹿なのか。先代の歌い手はレジスタンスとの接触が少なくって、その旅も戦いも謎だらけなんだ。まさか魔物やゴブリンや鹿と一緒に旅をしてたとはな。驚いたよ。

 ただ俺としてはぜひそのアミちゃんという美少女にお目にかかりたいな。あのエメの娘さんならさぞかし美人だろう。って書いたところでまたナギに頭をはたかれたよ(笑)。

 それにしても、先代の歌い手のメンバーに癒術師の踊り子なんて、強力な助っ人が来てくれたもんだな。ソウタ、それもお前の人望だぞ。お前のその人柄がみなを惹きつけるんだ。そりゃニコも惚れるはずだ。



 そうそう、ニコのことだ。

 ソウタが嫁にもらってくれるなら、俺もナギも大賛成だ。というか、元々俺たちの方では勝手にそのつもりになってたんだ。

 あの子は空気読めないし、時々爆弾発言するし、村では適応できなくって引きこもってたんだ。それが、ソウタが来てくれた途端にすっかり元気になっちまった。髪まで黒くなったなんて、まるで前世でも縁があったのかと思うぐらいだ。ソウタをおいて他に嫁にもらってくれる適任者はいない。

 親として自信を持って送り出せる娘ではないが、よろしく頼んだよ。農作業に、お料理に、お裁縫に、身の回りのこと……一通りのお嫁入り修行はしてるが、今もきっとあれこれソウタの足を引っ張ってるだろう。前もって謝っておくよ。ふつつかな娘で申し訳ないが、どうかよろしく。

 余計なお世話かもしれないが、子供を作るタイミングには十分気をつけておけよ。ニコができたのはちょっと予想外のタイミングで、いろいろと差し障りがあったからな(笑)。



 平和な世の中ならちゃんと結婚式を挙げたいところだがな……大陸のあちこちで不穏な動きが起こってる。

 各地の親衛隊が、大陸政府の統制から外れて、好き勝手する事件が増えてる。裏で何者かが扇動している気配もある。

 政治家は、世襲を重ねるうちに腐りきって、私欲のために好き放題やってる。黙呪王の力が弱まってるという噂もある。それなのにレジスタンスは相変わらずバラバラで、組織間の連携もほとんどとれてない。嘆かわしいことだ。



 ただお前も手紙で教えてくれたが、ボナキャンプの事件から、黙呪兵についていろいろと分かって来たことがある。詳しくは書けないが、俺とナギも重要な情報をつかんだ。真偽を確認しようといろいろ動いているところだ。

 お前たちは十分気をつけて、早く安全な場所を見つけるんだぞ。黙呪王と戦おうとか、絶対に考えるなよ。お前の歌の力は、自分とニコと仲間を守るために使ってくれ。戦うのは俺たちオッサン、オバさんに任せろ。俺たちはもう老い先短いが、お前たちには未来がある。決して生き急ぐなよ。

 俺たちはこれから古都ニルに向かう。手紙はニルのレジスタンス組織あてに送ってくれ。

 ニコにはナギが手紙を書いてる。ハルにも書いてやりたいところだが移動中で時間がない。お前からよろしく言っといてくれ。それともちろん、ナラさん、アミちゃんにもよろしくな。落ち着いたらまたこっちからも手紙書くよ。じゃあな。



ジゴより
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