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第五幕 告白
間奏曲 ~ジゴさんへの手紙~
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ジゴさんへ
季節は春めいてきて、このボナ・キャンプの周囲でも梅の木が可愛い花を咲かせています。ジゴさん、ナギさん、お変わりないですか? 東への旅は順調ですか?
ヤマさんに歌術ではなく読み書きを特訓してもらい、何とかこうやって手紙を書くことができるようになりました。歌術以上に初心者ですので、言葉使いに変なところがあったらお許し下さい。
ええっと、まず、心配されていたガイさんの容態ですが、僕とハルさんでイノシシを狩りまくってレバーをたくさん食べてもらい、身体の方はもうすっかりお元気です。まだ杖が必要ですが、キャンプ内を普通に散歩できるようになってます。
ただやはり言葉が問題で、こちらの言うことはちゃんと理解できるのに、しゃべる方は単語が二つ三つぐらいしか出ません。
それでも僕の顔を見るたび「ゾラを……頼む……」と言われるので、よほど息子さんのことを心配されてるんだろうと思います。ところがそのゾラの方はその後も行方不明のままです。何か情報がありましたらこのボナ・キャンプまでお願いします。
ノボさんが新しいリーダーになり、ヤマさんともう一人若手の方がサブリーダーに就任し、キャンプの雰囲気は明らかに良くなりました。
ノボさんもヤマさんも「本来の姿に戻った」と言ってますが、若手もベテランも訓練生も一致団結して、黙呪王の支配を終わらせようという気概に満ちています。その分、僕にはすごいプレッシャーですが(汗)。
僕自身についてですが、正直、歌術はあんまり進歩がありません。ただ、ジゴさんが前の手紙に書いて下さったコツを意識してやったら、少しだけ風刃を撃てるようになりました。
それにしてもみんなが、風の歌術は『風使いのジゴ』が一番だと言います。そんな有名な人と一緒に暮らして、一緒に畑仕事してたんだとは今さらながら驚きです(笑)。ぜひまたお会いして、直接いろいろ教えてもらいたいです。
奏鳴剣の扱いにはだいぶ慣れてきました。ニコの笛は最初から上手だったので、これはひとえに僕に腕力がついたことによります。
新しい剣術の先生が、根性論ではなくちゃんとした理論に基づいて日々の練習方法を決めてくれるので、効率良く筋力をアップできているようです。
まだ震衣の後遺症で左腕はうまく動きませんが、歌術を放つぐらいはできるようになりましたので、そのうち右手で奏鳴剣、左手で震刃、なんてこともできそうです。
そう言えば、ハルさんがヒヒからもらった楽器なんですが、実は奏術に使うとすごい効果があることが分かりました。僕が来た元の世界に『ギター』という楽器があり、同じような弾き方で和音を演奏できます。僕は勝手に『ギタ郎』と呼んでます(笑)。
演奏中は両手がふさがってしまうので、自分の歌術に使うのは難しいですが、ニコが何か歌術を歌っているのにこの楽器で伴奏すると、ハンパなく効果が上がります。またニコが苦手な震の歌術もちゃんと発動するようになります。
ハルさんにこの楽器を演奏してもらって、僕たち二人が歌術でコンビネーションをやれば相当な攻撃力になります。ということで、ハルさんは今、ギタ郎の猛練習中です。
大事な話を忘れてました。その後もキャンプの敷地内で発芽しなかった黙呪兵の種? 卵? が見つかり、ヤマさんたちが中を詳しく調べました。
小指の先ほどの殻の中に、黙呪兵の胎児が入っていて、成長を止められている、これが何らかの歌術によって歯止めが解除されて爆発的に成長し、殻を破って成体が出てくる、ということのようです。
ヤマさんによるとこの胎児はゴブリン族にそっくりで、黙呪兵はゴブリン族の変種だという説の重要な証拠になるということでした。僕はまだゴブリン族を見たことがないのでチンプンカンプンの話ですが、ヤマさんが後日、ジゴさんに手紙を書くと言ってましたので、そちらを待っていて下さい。
最後に、ニコのことです。
彼女自身は全く気にしてないのですが、彼女の髪は本当に黒くなってきてます。昼間の光ではまだ茶色く見えますが、夜なんかは僕の髪と大して変わりません。
歌の力も増す一方で、もう僕の壁術では彼女の炎刃や凍刃は防げません。最近では雷の歌術まで使えるようになってきました。真剣勝負したら僕の方が負けるかもしれません。
ハルさんは、僕の存在が彼女に影響を与えているのではないかと言いますが、今後何か悪い影響が出てこないかが心配です。
大海峡を越えた大陸の南西部に、先代の歌い手と一緒に戦い黙呪王の城まで行った方が、隠遁生活を送られているそうです。その人に会えばいろいろ分るんじゃないかということで、次の僕たちの行き先は大海峡の向こう側に決まりました。
それと、ニコからの手紙でご存じとは思いますが……3ヶ月前の出来事から、僕と彼女は正式にお付き合いさせてもらってます。
彼女とのことについても、一度ジゴさんに会ってきちんと話をさせてもらいたいのですが、なかなかそうもいかないですよね。とにかく「ニコを頼んだぞ」と言われた言葉を忘れず、彼女を守り続けて行きます。
ずいぶん長い手紙になってしまいました。
ジゴさん、ナギさん、どうかご無事で、お元気で、旅を続けて下さい。僕たちももう間もなくこのキャンプを発ちますが、次の街についたらまたお手紙します。
それでは、失礼します。
ソウタより
季節は春めいてきて、このボナ・キャンプの周囲でも梅の木が可愛い花を咲かせています。ジゴさん、ナギさん、お変わりないですか? 東への旅は順調ですか?
ヤマさんに歌術ではなく読み書きを特訓してもらい、何とかこうやって手紙を書くことができるようになりました。歌術以上に初心者ですので、言葉使いに変なところがあったらお許し下さい。
ええっと、まず、心配されていたガイさんの容態ですが、僕とハルさんでイノシシを狩りまくってレバーをたくさん食べてもらい、身体の方はもうすっかりお元気です。まだ杖が必要ですが、キャンプ内を普通に散歩できるようになってます。
ただやはり言葉が問題で、こちらの言うことはちゃんと理解できるのに、しゃべる方は単語が二つ三つぐらいしか出ません。
それでも僕の顔を見るたび「ゾラを……頼む……」と言われるので、よほど息子さんのことを心配されてるんだろうと思います。ところがそのゾラの方はその後も行方不明のままです。何か情報がありましたらこのボナ・キャンプまでお願いします。
ノボさんが新しいリーダーになり、ヤマさんともう一人若手の方がサブリーダーに就任し、キャンプの雰囲気は明らかに良くなりました。
ノボさんもヤマさんも「本来の姿に戻った」と言ってますが、若手もベテランも訓練生も一致団結して、黙呪王の支配を終わらせようという気概に満ちています。その分、僕にはすごいプレッシャーですが(汗)。
僕自身についてですが、正直、歌術はあんまり進歩がありません。ただ、ジゴさんが前の手紙に書いて下さったコツを意識してやったら、少しだけ風刃を撃てるようになりました。
それにしてもみんなが、風の歌術は『風使いのジゴ』が一番だと言います。そんな有名な人と一緒に暮らして、一緒に畑仕事してたんだとは今さらながら驚きです(笑)。ぜひまたお会いして、直接いろいろ教えてもらいたいです。
奏鳴剣の扱いにはだいぶ慣れてきました。ニコの笛は最初から上手だったので、これはひとえに僕に腕力がついたことによります。
新しい剣術の先生が、根性論ではなくちゃんとした理論に基づいて日々の練習方法を決めてくれるので、効率良く筋力をアップできているようです。
まだ震衣の後遺症で左腕はうまく動きませんが、歌術を放つぐらいはできるようになりましたので、そのうち右手で奏鳴剣、左手で震刃、なんてこともできそうです。
そう言えば、ハルさんがヒヒからもらった楽器なんですが、実は奏術に使うとすごい効果があることが分かりました。僕が来た元の世界に『ギター』という楽器があり、同じような弾き方で和音を演奏できます。僕は勝手に『ギタ郎』と呼んでます(笑)。
演奏中は両手がふさがってしまうので、自分の歌術に使うのは難しいですが、ニコが何か歌術を歌っているのにこの楽器で伴奏すると、ハンパなく効果が上がります。またニコが苦手な震の歌術もちゃんと発動するようになります。
ハルさんにこの楽器を演奏してもらって、僕たち二人が歌術でコンビネーションをやれば相当な攻撃力になります。ということで、ハルさんは今、ギタ郎の猛練習中です。
大事な話を忘れてました。その後もキャンプの敷地内で発芽しなかった黙呪兵の種? 卵? が見つかり、ヤマさんたちが中を詳しく調べました。
小指の先ほどの殻の中に、黙呪兵の胎児が入っていて、成長を止められている、これが何らかの歌術によって歯止めが解除されて爆発的に成長し、殻を破って成体が出てくる、ということのようです。
ヤマさんによるとこの胎児はゴブリン族にそっくりで、黙呪兵はゴブリン族の変種だという説の重要な証拠になるということでした。僕はまだゴブリン族を見たことがないのでチンプンカンプンの話ですが、ヤマさんが後日、ジゴさんに手紙を書くと言ってましたので、そちらを待っていて下さい。
最後に、ニコのことです。
彼女自身は全く気にしてないのですが、彼女の髪は本当に黒くなってきてます。昼間の光ではまだ茶色く見えますが、夜なんかは僕の髪と大して変わりません。
歌の力も増す一方で、もう僕の壁術では彼女の炎刃や凍刃は防げません。最近では雷の歌術まで使えるようになってきました。真剣勝負したら僕の方が負けるかもしれません。
ハルさんは、僕の存在が彼女に影響を与えているのではないかと言いますが、今後何か悪い影響が出てこないかが心配です。
大海峡を越えた大陸の南西部に、先代の歌い手と一緒に戦い黙呪王の城まで行った方が、隠遁生活を送られているそうです。その人に会えばいろいろ分るんじゃないかということで、次の僕たちの行き先は大海峡の向こう側に決まりました。
それと、ニコからの手紙でご存じとは思いますが……3ヶ月前の出来事から、僕と彼女は正式にお付き合いさせてもらってます。
彼女とのことについても、一度ジゴさんに会ってきちんと話をさせてもらいたいのですが、なかなかそうもいかないですよね。とにかく「ニコを頼んだぞ」と言われた言葉を忘れず、彼女を守り続けて行きます。
ずいぶん長い手紙になってしまいました。
ジゴさん、ナギさん、どうかご無事で、お元気で、旅を続けて下さい。僕たちももう間もなくこのキャンプを発ちますが、次の街についたらまたお手紙します。
それでは、失礼します。
ソウタより
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