1 / 4
駅で
しおりを挟む
人身事故らしい。電車は来ない。夕方のラッシュにはまだ早い時刻なのに、プラットホームはごった返し、ベンチに座ってる私の周りも人だらけになった。
「また人身事故かよ」
「ホント迷惑」
「死ぬなら家で一人で死ねっつんだよ」
ノイキャンのイヤホンを貫いて耳に飛び込んでくる言葉は辛辣だ。みんな仕事や学校が終わってさあ帰ろうって所だから、まあ怒るのも無理はない。
でも私の胸によぎる思いは違っていた。
『やられた。先を越された』
もう当分ここをフルスピードで通過する電車はないだろう。今日はもう死ねない。何でもっと早く実行しなかったのか。苦い後悔と焦燥感がこみ上げてくる。
死のうと思ってここに来て数時間。ずっと座ったままで、結局動き出せなかった。私、何やってるんだろう。死ぬことすら満足にできない。迷ってるうち誰かに先を越される。どうしようもない馬鹿だな。
そう思ったら泣けてきた。一度涙が出始めると次から次へとこみ上げて来て、頬を伝い顎から滴り落ちる。
だめだ。嗚咽しそうになる。フードを深くかぶってるから顔は見えないはずだけど、ひっくひっくしてたら、周囲から不審者に思われちゃう。あ、まずい。嗚咽を堪えてたら今度は呼吸が荒れてきた。過呼吸になりそう。
しかし事態は恐れた通りに進行する。呼吸は浅く、速くなり、手先が痺れてきた。大きなマスクをしてるから、よけいに息が通らない。血の気が引く。冷や汗が出る。頭がくらくらしてくる。ゆっくり息をしようと思っても、胸だけ別人みたいに全力疾走しちゃう。
サイアクだ。死ねなかっただけじゃなく、こんな衆人環境で過呼吸になるなんて。倒れちゃったらどうしよう。大騒ぎになったらどうしよう。
早く帰ろう。慌てて立ち上がろうとするが、まるで根が生えたようにお尻が持ち上がらない。というか脚がぶるぶる震えて力が入らない。
まずい、まずい。これ、ダメなやつだ。本当に救急車だ。サイアクのさらに下を行ってる。何で? 何で私ってこんなにダメなの? どんどん涙があふれてくる。もう大号泣だ。嗚咽を抑えることもできない。
その時だった。
「もしもし、君、大丈夫?」
肩の辺りをポンポンと叩かれた。慌ててイヤホンを外そうとするのを手で制して、
「いいよ、イヤホン、着けときなよ。聞こえてるだろ?」
隣の席から話しかけて来たのは白髪混じりのオジさんだった。糸みたいに細い目で、マスクをしてても柔和な笑顔が透けてる。
「さっきから辛そうだけど、大丈夫?」
のぞき込まれる。大丈夫じゃないよ。見りゃ分るでしょ。恥ずかしくて情けなくて顔を隠したいけどそんな余裕もない。ハアハアしながら首を横に振る。
「駅の医務室に行くかい?」
そんなことができるならとっくにこの場から立ち去ってる。もう一度首を横に振る。するとオジさんは鞄から何か取り出した。
「じゃあ、マスク外してこれをのみな。軽い安定剤だ」
差し出されたのは小さい錠剤とペットボトルのお茶だった。いくら紳士そうとはいえ見知らぬ男に渡された錠剤を口にするなど危険極まりないことだが、その時の私の脳は1割も働いてなかった。
ペットボトルのお茶はまだ冷たかった。朝から何も食べてない空っぽの胃にしみ通る。しばらくすると薬が吸収されてきたのか、少し呼吸が落ち着いたような気が……いや、まだダメか。呼吸は浅い。身体の痺れが取れない。
その時、目の前に腕時計が突き出された。
「この秒針が見えるかい?」
辛うじてうなずく。
「じゃあこれを見ながら、5秒で息を吸って5秒で吐くようにやってみよう。はい、ゆっくり吸って……1、2、3、4……はい、ゆっくり吐いて……1、2、3、4……」
最初は胸が勝手にひくひくしたが、だんだん言われる通りに呼吸できるようになった。しばらくすると身体の痺れもマシになってくる。
落ち着くにつれて気になって来た。この人、何者なんだろう。通りがかりの会社員にしては妙に介抱慣れしてる。着てるのもスーツじゃなくって私服な感じだ。
「君、ひょっとして、そこの寮の予備校生さんかな?」
ぎくっとした。バレたか? 親に連絡される? 母親がヒステリックに騒ぐ様が脳裏に浮かぶ。しかしオジさんは、返事の出来ない私を見透かしたように
「ああ、いいよいいよ、無理に答えなくても」
笑みを浮かべた。助かった。
「あ、ありがとうございます。あの……あなたは?」
どうしても気になるから訊いてみた。
「私かい? 私は『死神』さ」
は?
予想外の答に戸惑う。これ、笑うところ?
「君が死にそうな顔してるから、ずっと隣に座ってたんだよ。いざとなったら止めようと思ってね。気付いてなかった?」
うそ……気付いてなかった。全然、気付いてなかった。
「今日のリストに君は載ってない。残念ながら今日、君は死ぬ予定になってない。そして明日もだ。君はまだまだ何十年も死なない。だからいくらここで特急とにらめっこしてても無駄だよ」
バレてた。全部バレてた。私がここで何時間も葛藤してたの、見られてたんだ。恥ずかしい。情けない。ただオジさんの言葉に説教臭さがないのだけが救いだ。
「何があったのかは訊かない。でも死神のリストに載ってないのに勝手に死んでもらっちゃ困るよ。いつかまたお迎えに来るから、それまで急いじゃダメだ。とにかく今日1日だけ、もう1日だけ生きようと思って、日を紡いでいくんだ」
「もう1日だけ……」
「そう、明日より先のことは考えない。朝起きたら、その日やることだけ考えて、それだけに専念するんだ。足元だけ見て歩くイメージだな。もう1日だけ、と思って、とりあえずその日だけ生きろ。今日のことだけ考えろ。明日以降のことは考えるな」
今日のことだけ考える……そんな話これまで聞いたことがない。1ヶ月後のことを考えろ、3ヶ月後のことを考えろ、半年後のことを考えろ、それどころじゃない、大人になってからのことを考えろ……これまでずっと、あるかどうかも分からないような未来を考えろ考えろと言われ続けて来た。
「……でも、それじゃ勉強が進まない」
言ってから自分でも矛盾に気がついた。
「ふふ、勉強が進むのは生きててこそのもんだ。ホームで特急とにらめっこしてる人が言うことじゃないだろ」
笑われた。おっしゃる通りです。死のうとしてる人間が勉強の進み具合気にしてどうする。それ以上の言葉をのみ込んだ。
「さ、もう大丈夫だろ。マスクして、寮に帰ろうか」
オジさんに促され立ち上がるが、思ったよりもふらつく。あ、ヤバい、と思った瞬間にさっと手が差し出された。
「……すいません、ありがとうございます」
「足元、気をつけな」
こんなでも一応女だ。助けたことと引き換えに個人情報をあれこれ訊かれるんじゃないか、何か変な要求をされるんじゃないか、そんなことも頭によぎったが、オジさんはあっさりしていた。
私を守るようにして人混みをかき分け、改札まで来ると
「毎日、その日1日のことだけ考えて、足元だけ見て歩くんだぞ。明日より先のことは考えるな。じゃあな」
もう一度言って、そっと私の背中を押した。
「あ、あの、あの、ありがとうございます。何とお礼を言ったら……」
突然の別れに私の方がうろたえた。しかしオジさんは手を少し上げただけで、雑踏の中に戻って行った。その姿にはむしろ後光が射して見えた。
その途端、お腹がぐーっと鳴った。現金なもので、死ぬ気を失った私は急に空腹を自覚した。この時間じゃ寮の夕食はまだだ。コンビニでからあげ買って帰ろう……
「また人身事故かよ」
「ホント迷惑」
「死ぬなら家で一人で死ねっつんだよ」
ノイキャンのイヤホンを貫いて耳に飛び込んでくる言葉は辛辣だ。みんな仕事や学校が終わってさあ帰ろうって所だから、まあ怒るのも無理はない。
でも私の胸によぎる思いは違っていた。
『やられた。先を越された』
もう当分ここをフルスピードで通過する電車はないだろう。今日はもう死ねない。何でもっと早く実行しなかったのか。苦い後悔と焦燥感がこみ上げてくる。
死のうと思ってここに来て数時間。ずっと座ったままで、結局動き出せなかった。私、何やってるんだろう。死ぬことすら満足にできない。迷ってるうち誰かに先を越される。どうしようもない馬鹿だな。
そう思ったら泣けてきた。一度涙が出始めると次から次へとこみ上げて来て、頬を伝い顎から滴り落ちる。
だめだ。嗚咽しそうになる。フードを深くかぶってるから顔は見えないはずだけど、ひっくひっくしてたら、周囲から不審者に思われちゃう。あ、まずい。嗚咽を堪えてたら今度は呼吸が荒れてきた。過呼吸になりそう。
しかし事態は恐れた通りに進行する。呼吸は浅く、速くなり、手先が痺れてきた。大きなマスクをしてるから、よけいに息が通らない。血の気が引く。冷や汗が出る。頭がくらくらしてくる。ゆっくり息をしようと思っても、胸だけ別人みたいに全力疾走しちゃう。
サイアクだ。死ねなかっただけじゃなく、こんな衆人環境で過呼吸になるなんて。倒れちゃったらどうしよう。大騒ぎになったらどうしよう。
早く帰ろう。慌てて立ち上がろうとするが、まるで根が生えたようにお尻が持ち上がらない。というか脚がぶるぶる震えて力が入らない。
まずい、まずい。これ、ダメなやつだ。本当に救急車だ。サイアクのさらに下を行ってる。何で? 何で私ってこんなにダメなの? どんどん涙があふれてくる。もう大号泣だ。嗚咽を抑えることもできない。
その時だった。
「もしもし、君、大丈夫?」
肩の辺りをポンポンと叩かれた。慌ててイヤホンを外そうとするのを手で制して、
「いいよ、イヤホン、着けときなよ。聞こえてるだろ?」
隣の席から話しかけて来たのは白髪混じりのオジさんだった。糸みたいに細い目で、マスクをしてても柔和な笑顔が透けてる。
「さっきから辛そうだけど、大丈夫?」
のぞき込まれる。大丈夫じゃないよ。見りゃ分るでしょ。恥ずかしくて情けなくて顔を隠したいけどそんな余裕もない。ハアハアしながら首を横に振る。
「駅の医務室に行くかい?」
そんなことができるならとっくにこの場から立ち去ってる。もう一度首を横に振る。するとオジさんは鞄から何か取り出した。
「じゃあ、マスク外してこれをのみな。軽い安定剤だ」
差し出されたのは小さい錠剤とペットボトルのお茶だった。いくら紳士そうとはいえ見知らぬ男に渡された錠剤を口にするなど危険極まりないことだが、その時の私の脳は1割も働いてなかった。
ペットボトルのお茶はまだ冷たかった。朝から何も食べてない空っぽの胃にしみ通る。しばらくすると薬が吸収されてきたのか、少し呼吸が落ち着いたような気が……いや、まだダメか。呼吸は浅い。身体の痺れが取れない。
その時、目の前に腕時計が突き出された。
「この秒針が見えるかい?」
辛うじてうなずく。
「じゃあこれを見ながら、5秒で息を吸って5秒で吐くようにやってみよう。はい、ゆっくり吸って……1、2、3、4……はい、ゆっくり吐いて……1、2、3、4……」
最初は胸が勝手にひくひくしたが、だんだん言われる通りに呼吸できるようになった。しばらくすると身体の痺れもマシになってくる。
落ち着くにつれて気になって来た。この人、何者なんだろう。通りがかりの会社員にしては妙に介抱慣れしてる。着てるのもスーツじゃなくって私服な感じだ。
「君、ひょっとして、そこの寮の予備校生さんかな?」
ぎくっとした。バレたか? 親に連絡される? 母親がヒステリックに騒ぐ様が脳裏に浮かぶ。しかしオジさんは、返事の出来ない私を見透かしたように
「ああ、いいよいいよ、無理に答えなくても」
笑みを浮かべた。助かった。
「あ、ありがとうございます。あの……あなたは?」
どうしても気になるから訊いてみた。
「私かい? 私は『死神』さ」
は?
予想外の答に戸惑う。これ、笑うところ?
「君が死にそうな顔してるから、ずっと隣に座ってたんだよ。いざとなったら止めようと思ってね。気付いてなかった?」
うそ……気付いてなかった。全然、気付いてなかった。
「今日のリストに君は載ってない。残念ながら今日、君は死ぬ予定になってない。そして明日もだ。君はまだまだ何十年も死なない。だからいくらここで特急とにらめっこしてても無駄だよ」
バレてた。全部バレてた。私がここで何時間も葛藤してたの、見られてたんだ。恥ずかしい。情けない。ただオジさんの言葉に説教臭さがないのだけが救いだ。
「何があったのかは訊かない。でも死神のリストに載ってないのに勝手に死んでもらっちゃ困るよ。いつかまたお迎えに来るから、それまで急いじゃダメだ。とにかく今日1日だけ、もう1日だけ生きようと思って、日を紡いでいくんだ」
「もう1日だけ……」
「そう、明日より先のことは考えない。朝起きたら、その日やることだけ考えて、それだけに専念するんだ。足元だけ見て歩くイメージだな。もう1日だけ、と思って、とりあえずその日だけ生きろ。今日のことだけ考えろ。明日以降のことは考えるな」
今日のことだけ考える……そんな話これまで聞いたことがない。1ヶ月後のことを考えろ、3ヶ月後のことを考えろ、半年後のことを考えろ、それどころじゃない、大人になってからのことを考えろ……これまでずっと、あるかどうかも分からないような未来を考えろ考えろと言われ続けて来た。
「……でも、それじゃ勉強が進まない」
言ってから自分でも矛盾に気がついた。
「ふふ、勉強が進むのは生きててこそのもんだ。ホームで特急とにらめっこしてる人が言うことじゃないだろ」
笑われた。おっしゃる通りです。死のうとしてる人間が勉強の進み具合気にしてどうする。それ以上の言葉をのみ込んだ。
「さ、もう大丈夫だろ。マスクして、寮に帰ろうか」
オジさんに促され立ち上がるが、思ったよりもふらつく。あ、ヤバい、と思った瞬間にさっと手が差し出された。
「……すいません、ありがとうございます」
「足元、気をつけな」
こんなでも一応女だ。助けたことと引き換えに個人情報をあれこれ訊かれるんじゃないか、何か変な要求をされるんじゃないか、そんなことも頭によぎったが、オジさんはあっさりしていた。
私を守るようにして人混みをかき分け、改札まで来ると
「毎日、その日1日のことだけ考えて、足元だけ見て歩くんだぞ。明日より先のことは考えるな。じゃあな」
もう一度言って、そっと私の背中を押した。
「あ、あの、あの、ありがとうございます。何とお礼を言ったら……」
突然の別れに私の方がうろたえた。しかしオジさんは手を少し上げただけで、雑踏の中に戻って行った。その姿にはむしろ後光が射して見えた。
その途端、お腹がぐーっと鳴った。現金なもので、死ぬ気を失った私は急に空腹を自覚した。この時間じゃ寮の夕食はまだだ。コンビニでからあげ買って帰ろう……
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
良心的AI搭載 人生ナビゲーションシステム
まんまるムーン
ライト文芸
人生の岐路に立たされた時、どん詰まり時、正しい方向へナビゲーションしてもらいたいと思ったことはありませんか? このナビゲーションは最新式AIシステムで、間違った選択をし続けているあなたを本来の道へと軌道修正してくれる夢のような商品となっております。多少手荒な指示もあろうかと思いますが、全てはあなたの未来の為、ご理解とご協力をお願い申し上げます。では、あなたの人生が素晴らしいドライブになりますように!
※本作はオムニバスとなっており、一章ごとに話が独立していて完結しています。どの章から読んでも大丈夫です!
※この作品は、小説家になろうでも連載しています。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
鎌倉讃歌
星空
ライト文芸
彼の遺した形見のバイクで、鎌倉へツーリングに出かけた夏月(なつき)。
彼のことを吹っ切るつもりが、ふたりの軌跡をたどれば思い出に翻弄されるばかり。海岸に佇む夏月に、バイクに興味を示した結人(ゆいと)が声をかける。
つばめ荘「おばちゃん亭」
如月つばさ
ライト文芸
海のある夕凪町の古民家に1人引っ越した、花村さち子。手芸が趣味の45歳独身。
何処からともなくふらりとやって来た女性、津田雅美。50歳。
田舎暮らしの下見の為にやって来て、そのまま居着いた、食べ歩き好きな八坂まり。49歳。
独身おばちゃん3人の、ちょっぴりおかしなスローライフ物語。
姉と薔薇の日々
ささゆき細雪
ライト文芸
何も残さず思いのままに生きてきた彼女の謎を、堅実な妹が恋人と紐解いていくおはなし。
※二十年以上前に書いた作品なので一部残酷表現、当時の風俗等現在とは異なる描写がございます。その辺りはご了承くださいませ。
猫の生命火
清水花
ライト文芸
猫アレルギー持ちの父さんをどう説得するか、それが君を家族に迎えるにあたって最初にぶつかった最大の問題だった。
とある雨の日の帰り道、電信柱の下で僕と君は出逢った。
僕はまるで黒猫に託されるようにして君を預かる事になった。
3日が経ち、すでに情が移ってしまった僕は君と離れるのが辛くなっていた。
だが、君を家族に迎えるにはどうしても避けては通れない問題があった。それは動物が大好きだけど猫アレルギー持ちの父さん。
結局は君の寝顔に一目惚れした父さんがアレルギー症状を我慢して君を家族に迎えることになった。もちろん君と父さんの相性の良さがあってこその判断だったのだけれど。
それに、先住犬の柴丸も快く君を迎えてくれた。
ものすごい早さで成長する君に戸惑いながらも、何だか僕は親になったような気がして毎日嬉しくもあった。
君を眺めていると、あっという間に時は流れいつの間にか1年が過ぎた。
君は立派な大人になった。
僕達は大喜びで毎日、君の成長ぶりを語り合った。
それから少しして、愛犬の柴丸が永眠した。
家族が塞ぎ込む中、君だけはいつもと変わらぬように振る舞っていた。
でも、柴丸のお気に入りのクッションの上から動かない君を見て、1番寂しいって思っているは君だって分かった。
君は柴丸のことを実の兄のように慕っていたのだから。
それから10年という時が過ぎた頃、君は僕達の前から姿を消した。
君と出逢った時のような雨の夜に、誰もいない公園で再び君と出逢った。
そして君は生命の火で温め護った黒い仔猫を僕に託すと、夜の闇の中へと消えていった。
あれから君は帰ってこないけど、君に託された仔猫と僕達の新たな生活が始まろうとしていた。
別れはいつも辛いけど、君達と過ごす幸せな毎日の時間が僕は本当に大切だと思う。
その出会いが僕と君の物語の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる