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短編的なの書こうかなの章
閑話6-3 女王タコネズミ
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南方手足もげもげタコネズミは、日中は手足がもげてタコの足の数が2本だけになるので弱体化する。
「いや、どんな生き物だよ」
島についてから、宿で話を聞く。
先ほど本物を見たが、なんで一日に何度も手足を生え替わらせるのか不明すぎる。
因みにアリエナは変身ネックレスでイケメンジジイになっている。
足がヒレのままでは都合が悪い。
ジジイの姿は前に登録したのが残ってたんだな。
イケメンジジイを見ながらイーナが少し嬉しそうだ。よほどタイプなのか。
「もしかしたらハーシュレイの失敗作なんじゃ無いかしら」
イケメンを見つつ、イーナがハーシュレイのへい説を唱える。
「確かにそれはありそうです。
ハーシュレイに生み出された怪物の中には口が無かったり、生きていくのに不可解な個体も数多くいますから」
強いのを作りたいのはスライム研究している時夫にも理解できるけど、もう少し丁寧に仕事して欲しいんだよなぁ。
流石アルマの姉妹といったところか。
どちらも適当すぎる。
目の前に光の文字が浮かび上がる。
――ここまで個体数が増えたのは女王のせい。
女王を倒せば後はどうにか出来るはず。
アリエナは金色のペンを空中にサッと走らせて文字を表示していく。
ペンの力を借りて、イーナよりもずっと早く大量の文字が生成されてゆく。
アリエナは人魚の国の王女らしい。
王女と言っても末っ子の第八王女で、城がタコネズミの女王に襲われた時に、他の姉妹達に庇われてなんとか逃げ延びたそうだ。
姉は少なくとも二人は殺されてしまったらしい。
今も生き残った王族でタコネズミの女王を倒そうと頑張っているはずだという。
俺たちはこれから海底の人魚の国に行き、一緒に戦う。
その際の呼吸については、アリエナ達人魚の持つ、固有魔法の『バブル』で包んでもらう。
空気の塊で人間を包んで海の中での活動を可能にしてくれる魔法らしい。
……固有魔法良いなぁ。
まずは『バブル』での活動をそこまで深く無いところで試す。
「おお!凄い!息ができるし服が濡れない!」
泳ぐように手足をかくと進んでいける。
しかしこれで戦えるかな?
お、歩いたり走ったりの動作をすると、それでも移動可能だ。
これならなんとかなりそうかな。
「動きに内部にいる人のイメージを反映してるんでしょうね。
不思議な魔法です」
とはルミィの談だ。
しかし、よくよく考えると、魔法の世界じゃ無いところから来た時夫的には魔法は全部が全部不思議と言えなくも無い。
「そうだ!スライムを海水に漬けたらマリンスライム!的なのが作れないかな?」
ものは試しだ!ポイッとな!
――ボチャン
「……………………どこ行ったか分かんないなこりゃ」
ダメだった。
塩味のスライムが作れるかなって思ったのに。
「トキオはいつでもスライムのことばっかりですねぇ」
ルミィが呆れたように言ってくる。
時夫としては使える手を増やしたいみたいな真面目な理由もあるのに、理解は得られていないようだ。
――早く家族を助けたい。
もう行こう。
アリエナが急かしてくる。
戦いに使うような物は最近は常に備えているから、準備も何も無い。
とにかく行って戦ってみよう。
のんびりしてアリエナの家族の被害が増えても可哀想だ。
「私も行きます」
アイド……もといメイドのレティシャが付いてくるらしい。
「平気か?危険だぞ?」
「ならば尚更お嬢様をお一人では行かせられません」
「いや、俺とイーナも行くし。あとアリエナも居るんだけどな……」
そして調理担当のトニーはお留守番らしい。
戦闘能力は皆無だそうだ。
「残念だな。トニーに海底の魚で食べられそうなやつ教えてもらいたかったのに」
「はは……勘弁してください」
冗談なのに、ちょっと後ずさられた。
トニーはこの世界で生きるには真面目すぎるなぁ。
そして『バブル』で包まれて、いつもの三人にプラスして、アリエナとレティシャの五人でいざ海底に。
澄んだ海の中に潜り、上を見上げると海面が陽の光でキラキラと輝いている。
魚が横を通り過ぎて行く。
時夫達の入ったバブルはゆっくりと沈んで行く。
巨大な岩場がある。
近づくと底の方が洞窟のようになっている。
――この先に移動ポータルがあるから着いてきて
光の文字はアリエナのものだ。
アリエナだけはバブル無しで泳いでいるが、長い髪がユラユラと海流と泳ぎに合わせて揺らめき、ヒレは力強く水をかき体を押し出す。
全員がポータルの光の中に入ったところで、アリエナが魔力を注ぐと、ポータルがさらに強い光を発した。
気がつけば、少し離れた場所に城らしいものが見える。
――行くわよ
アリエナに着いて全員が移動する。
途中で普通のタコネズミと遭遇する。
イーナが光線で攻撃するが、水のせいで屈折し、威力も低下するので戦いにくそうだった。
時夫やルミィの戦いもだいぶ制限されている。
水の中で戦うなんて想定した事はない。
意外と良い動きをしているのはレティシャで、水使いだからか海水もなんのその。
水圧を高めて刃に変えて難なく退治していた。
「伝説上の生き物のタコネズミがこんなにいるなんて。
誰かに話してもきっと信じてもらえません」
ルミィが感心したように言っているが、時夫からすると普通のモンスターなので、タコネズミのどこに心動かされるのかは理解不能だった。
ただキモい生き物なのに。
時夫は移動しつつ脳内で自分でも戦えそうな魔法を考える。
火は使えないので『ファイアボール』はまず外す。
『散水』も意味ないな。
……結構使えないのばかりだ。ショック!
そして辿り着いた白亜の城。
城門は解き放たれている。
城は近づくと、表面が白い貝殻で覆われているのがわかる。
ルミィはバブルの中の空気をなんとか利用しつつここまで数匹のタコネズミを倒しているし、イーナは自分に向かってきた足を剣で切り落としている。
時夫も何か頑張って手柄を立てなくては。
そして、進んで行った先の天井の高い広間。
色とりどりの魚が舞い泳ぐ。
赤い珊瑚の塊みたいなのはもしかすると玉座か?
しかし、竜宮城には例えられない。
人魚の千切れた死体が赤い血を海水と混ぜながらゆっくりと揺蕩う場所は極楽とは程遠い。
そして、そこには女王がいた。
タコネズミの女王。
他のタコネズミよりも何倍も大きい体躯。
そして沢山の触手。
触手には人魚が何人か捕まっていて、ゆっくりと大きな前歯に近づいていき……。
「『空間収納』」
人魚を掴んだ触手が動きを止める。
アイススライムを根元に大量に出したのだ。
しかし、長くは効果は続かないだろう。
水の中ではあっという間に冷凍機能が失われる。
「『ウィンドスラッシュ』」
ルミィがすかさず近づいて動きの鈍くなった触手を切り落とした。
人魚が慌てて逃げ出す。
残されたルミィに他の触手が近づくのに気がついて、アリエナが一旦ルミィの『バブル』の範囲を狭めてから、手を引いて触手から逃げ出した。
バブルがあっては人魚は上手く泳げないのだろう。
イーナが光線で触手を牽制する。
やはり威力が空中よりだいぶ落ちてしまっている。
レティシャが近づこうとする触手を切付けてこちらに近づかないように奮闘してくれている。
そして、アリエナがルミィを時夫のバブルの中に放り込んだ。
時夫はルミィを受け止める。
「ずぶ濡れだな」
『乾燥』を使ってルミィを乾かしてやる。
「周辺一帯乾燥させられません?」
ルミィが腹立たしそうに言った。
風使いは空気があってなんぼだ。
ここはあまりに不利な戦場だ。
アリエナは素早く移動しながら槍で触手と渡り合っている。
水の魔法が使えないと中々戦力になれなさそうだ。
「乾燥を周辺一帯かぁ……それは流石に無理だろ。あ、でも」
ルミィの言葉でピンと来た。
時夫もこれで戦えるかもしれない。
「『乾燥』」
範囲は狭く。
しかし魔力はしっかり込めて。
――パァン!
触手が弾け飛んだ。
「いけるな」
「何をしたのですか?」
ルミィが時夫を信じられないと言った表情で見つめる。
「至近距離で見つめられると照れるんだけど……。
ほら、『乾燥』は水を無理矢理に気化させる魔法だろ。
で、気化すると体積が一気に増えるわけだ。
それで爆発が起こるんだよ」
そう、よく液体の入った瓶を爆発させているのを、水だらけのここでも行ったのだ。
後は時夫の独壇場だった。
生きている人魚達を傷つけないように、小規模な爆発を女王タコネズミの表面で何度も何度も起こした。
そのうち勝てるだろう。
しかし、
「……回復しているのか?」
「その様ですね」
引きちぎられた触手が黒い液体になり、海水に溶けている。
どうやらタコネズミが瘴気に当てられて魔獣と化したのが女王のようだ。
イーナがススっと近づいてきた。
「時夫くん。この剣を使って。あいつを倒すのよ」
「え?イーナがやれば?」
「…………あなたならできるわ」
なんか無理矢理任された。
イーナは時夫が本当の勇者の孫だからとやたらと頑張らせようとする。
強くしたいらしい。
時夫はスローライフ希望なのに。
しかし、確かに幼女を死地に向かわせるのは良くない。
「よし!やるぜ!爺さんの名にかけて!」
時夫は自分の背後で水蒸気爆発を何度も起こして爆風で進む。
女王は時夫の速度に反応できない!
「うおーーー!!!」
とりあえず何か言おうと思ったけど思いつかないから適当に吠える。
そして、イーナから借り受けた宝剣で切り付けた。
瘴気を祓う勇者の剣。
それは絶大な力を振るった。
――ぎぃいいいいいいい!!!
タコネズミは斬られたところから黒い液体に変化し、海水と溶け合い完全に消滅した。
イーナが時夫に近づいてきた。
時夫はイーナに宝剣を返す。
「流石ね……やはりあなたのほうが私よりも勇者に相応しいわ。
山元さんが……あなたのお爺さんが勇者になれていたならきっと私よりずっと強かったのね。
そうじゃ無いかと思っていた。
確認できて良かった……」
イーナは今でも自分が勇者であることに葛藤がある様だった。
時夫は何も言わずに肩をすくめる。
こういう時に気の利いたことの一つも言えない男が勇者に相応しいとは思えない。
アリエナは生き残った家族と生存を喜びあい、そして失われた命を嘆いていた。
そして、アリエナが時夫達の元に来た。
――このペンは持って行って
「良いのか?そんな事したらまだ声が戻ってないのに困らないか?」
――約束だから。あと、人魚の涙が欲しいって言ってたでしょう?ストックがあるから好きなだけ持って行って
時夫達は人魚達に感謝されて、宴に招かれそうになったが、食事内容が一般人類とは違って……要するに火を通すという文化が海の中には当然として存在しなかったので、固辞した。
約束のペンと人魚の涙を手に入れて、島まで送ってもらった。
アリエナの声はまだ戻っていないが、仲の良い家族がいれば、そう遠くない内にきっとまた話せる時が来るだろう。
「このペンを使いこなせる様にならないとね」
イーナは新しい道具に夢中で、空中に様々な絵を描いて遊んでいる。
絵心があるのかかなり上手い。
思ったよりも予定が早く終わったので、島でのんびりと過ごすことになった。
釣りをしたり、砂浜でお城を作って遊んだり。
本当はレティシャがいなかったら、もうちょっとルミィと二人でデートもしたのにな。
あのメイドは時夫を誤解している様で、目を離したらルミィに不貞を働くと思ってる様だ。
なんと失礼な。
そして、明日には帰るわけだが、夜中にふと目が覚めた。
月明かりが強かったからかも知れない。
月が二つもあると満月じゃなくてもそこそこの明るさになるのだ。
時夫は寝返りを打ってまた寝ようとしたが、一度起きると中々寝付けなかった。
仕方なしに散策に出かける。
夜の砂浜を一人歩く。昼間は砂が暑くなっているが、夜はひんやりとして足裏が気持ちいい。
そして、歩いて行った先に人影を見つける。
遠目にも見間違うことは無い。ルミィだ。
「よお!眠れないのか」
片手を上げて声をかけた時夫に、ルミィも手を上げて答える。
「はい。なんだか起きてしまって。
明日にはもう帰りますから。
それに……もしかしたらあなたもここに来るんじゃ無いかと思ってたんです」
「なんだよそれ」
時夫は笑った。根拠もないのに当ててくるとはやるな。
「それお酒?弱いのによく飲むよな」
ルミィの手元にはお酒の瓶とグラス。
「あなたが来るかもしれないと思ったから、用意してきたんです」
「じゃあ……一杯だけ貰おうかな」
この世界の酒は何でも甘い。
その割にアルコール度数は高いので要注意だ。
普段はルミィも飲まないのに、国外へ出るとたまに呑むのは羽目を外したがってるのか、旅行の開放感がそうさせるのか。
酒を飲みながら砂の山を作ったり、タコネズミの調理方法を話し合ったり、どうでも良い時間を一緒に過ごした。
「もう遅いから寝よう」
「へへ……そうですね」
ルミィは既に酔っ払っている。
千鳥足だ。
前よりはマシかな。
肩を貸すほどではないが、手を繋いで砂浜を歩く。
ルミィは空の酒瓶をもって上機嫌だ。
手を繋いだまま時夫のお姫様を部屋の前までお連れした。
「じゃあ、おやすみ」
「はい」
ルミィがジッと時夫を見つめる。
手を離さない。
「……ルミィ?」
「はい」
「………………」
抱きしめて唇を重ねた。すぐに離す。
「……おやすみ」
「はいトキオ、おやすみなさい」
今度こそルミィはふらふらしながらも大人しく部屋に入って行った。
時夫も自分の部屋に戻る。
「これじゃあ、レティシャの見張りは必要だよなぁ」
呟きつつ時夫は部屋に置いてある酒を追加で飲んだ。
飲みやすいが、やはり度数は高かったらしくすんなり眠りにつけた。
翌朝、二日酔いの頭痛で目が覚めた。
どんよりとした顔の時夫をイーナは心配して、レティシャは軽蔑の眼差しを向けていた。
トニーは二日酔いに効くスープを作ってくれた。
ルミィは……今朝はあまり目が合わなかった。
ルミィは酔っ払っていたから昨日の夜のことは覚えていないのだ。
ルミィは酒に弱いからなぁ。
だから覚えていないんだよなぁ…………。
「………………………………」
うーん……そろそろこの理論に無理が生じていそうな気がする。
………………やっぱりレティシャの見張りがないとヤバいなぁ。
帰りの船の中、二日酔いと船酔いでぐったりし始めた時夫を睨みつけるレティシャに、心の中で感謝しておいた。
「いや、どんな生き物だよ」
島についてから、宿で話を聞く。
先ほど本物を見たが、なんで一日に何度も手足を生え替わらせるのか不明すぎる。
因みにアリエナは変身ネックレスでイケメンジジイになっている。
足がヒレのままでは都合が悪い。
ジジイの姿は前に登録したのが残ってたんだな。
イケメンジジイを見ながらイーナが少し嬉しそうだ。よほどタイプなのか。
「もしかしたらハーシュレイの失敗作なんじゃ無いかしら」
イケメンを見つつ、イーナがハーシュレイのへい説を唱える。
「確かにそれはありそうです。
ハーシュレイに生み出された怪物の中には口が無かったり、生きていくのに不可解な個体も数多くいますから」
強いのを作りたいのはスライム研究している時夫にも理解できるけど、もう少し丁寧に仕事して欲しいんだよなぁ。
流石アルマの姉妹といったところか。
どちらも適当すぎる。
目の前に光の文字が浮かび上がる。
――ここまで個体数が増えたのは女王のせい。
女王を倒せば後はどうにか出来るはず。
アリエナは金色のペンを空中にサッと走らせて文字を表示していく。
ペンの力を借りて、イーナよりもずっと早く大量の文字が生成されてゆく。
アリエナは人魚の国の王女らしい。
王女と言っても末っ子の第八王女で、城がタコネズミの女王に襲われた時に、他の姉妹達に庇われてなんとか逃げ延びたそうだ。
姉は少なくとも二人は殺されてしまったらしい。
今も生き残った王族でタコネズミの女王を倒そうと頑張っているはずだという。
俺たちはこれから海底の人魚の国に行き、一緒に戦う。
その際の呼吸については、アリエナ達人魚の持つ、固有魔法の『バブル』で包んでもらう。
空気の塊で人間を包んで海の中での活動を可能にしてくれる魔法らしい。
……固有魔法良いなぁ。
まずは『バブル』での活動をそこまで深く無いところで試す。
「おお!凄い!息ができるし服が濡れない!」
泳ぐように手足をかくと進んでいける。
しかしこれで戦えるかな?
お、歩いたり走ったりの動作をすると、それでも移動可能だ。
これならなんとかなりそうかな。
「動きに内部にいる人のイメージを反映してるんでしょうね。
不思議な魔法です」
とはルミィの談だ。
しかし、よくよく考えると、魔法の世界じゃ無いところから来た時夫的には魔法は全部が全部不思議と言えなくも無い。
「そうだ!スライムを海水に漬けたらマリンスライム!的なのが作れないかな?」
ものは試しだ!ポイッとな!
――ボチャン
「……………………どこ行ったか分かんないなこりゃ」
ダメだった。
塩味のスライムが作れるかなって思ったのに。
「トキオはいつでもスライムのことばっかりですねぇ」
ルミィが呆れたように言ってくる。
時夫としては使える手を増やしたいみたいな真面目な理由もあるのに、理解は得られていないようだ。
――早く家族を助けたい。
もう行こう。
アリエナが急かしてくる。
戦いに使うような物は最近は常に備えているから、準備も何も無い。
とにかく行って戦ってみよう。
のんびりしてアリエナの家族の被害が増えても可哀想だ。
「私も行きます」
アイド……もといメイドのレティシャが付いてくるらしい。
「平気か?危険だぞ?」
「ならば尚更お嬢様をお一人では行かせられません」
「いや、俺とイーナも行くし。あとアリエナも居るんだけどな……」
そして調理担当のトニーはお留守番らしい。
戦闘能力は皆無だそうだ。
「残念だな。トニーに海底の魚で食べられそうなやつ教えてもらいたかったのに」
「はは……勘弁してください」
冗談なのに、ちょっと後ずさられた。
トニーはこの世界で生きるには真面目すぎるなぁ。
そして『バブル』で包まれて、いつもの三人にプラスして、アリエナとレティシャの五人でいざ海底に。
澄んだ海の中に潜り、上を見上げると海面が陽の光でキラキラと輝いている。
魚が横を通り過ぎて行く。
時夫達の入ったバブルはゆっくりと沈んで行く。
巨大な岩場がある。
近づくと底の方が洞窟のようになっている。
――この先に移動ポータルがあるから着いてきて
光の文字はアリエナのものだ。
アリエナだけはバブル無しで泳いでいるが、長い髪がユラユラと海流と泳ぎに合わせて揺らめき、ヒレは力強く水をかき体を押し出す。
全員がポータルの光の中に入ったところで、アリエナが魔力を注ぐと、ポータルがさらに強い光を発した。
気がつけば、少し離れた場所に城らしいものが見える。
――行くわよ
アリエナに着いて全員が移動する。
途中で普通のタコネズミと遭遇する。
イーナが光線で攻撃するが、水のせいで屈折し、威力も低下するので戦いにくそうだった。
時夫やルミィの戦いもだいぶ制限されている。
水の中で戦うなんて想定した事はない。
意外と良い動きをしているのはレティシャで、水使いだからか海水もなんのその。
水圧を高めて刃に変えて難なく退治していた。
「伝説上の生き物のタコネズミがこんなにいるなんて。
誰かに話してもきっと信じてもらえません」
ルミィが感心したように言っているが、時夫からすると普通のモンスターなので、タコネズミのどこに心動かされるのかは理解不能だった。
ただキモい生き物なのに。
時夫は移動しつつ脳内で自分でも戦えそうな魔法を考える。
火は使えないので『ファイアボール』はまず外す。
『散水』も意味ないな。
……結構使えないのばかりだ。ショック!
そして辿り着いた白亜の城。
城門は解き放たれている。
城は近づくと、表面が白い貝殻で覆われているのがわかる。
ルミィはバブルの中の空気をなんとか利用しつつここまで数匹のタコネズミを倒しているし、イーナは自分に向かってきた足を剣で切り落としている。
時夫も何か頑張って手柄を立てなくては。
そして、進んで行った先の天井の高い広間。
色とりどりの魚が舞い泳ぐ。
赤い珊瑚の塊みたいなのはもしかすると玉座か?
しかし、竜宮城には例えられない。
人魚の千切れた死体が赤い血を海水と混ぜながらゆっくりと揺蕩う場所は極楽とは程遠い。
そして、そこには女王がいた。
タコネズミの女王。
他のタコネズミよりも何倍も大きい体躯。
そして沢山の触手。
触手には人魚が何人か捕まっていて、ゆっくりと大きな前歯に近づいていき……。
「『空間収納』」
人魚を掴んだ触手が動きを止める。
アイススライムを根元に大量に出したのだ。
しかし、長くは効果は続かないだろう。
水の中ではあっという間に冷凍機能が失われる。
「『ウィンドスラッシュ』」
ルミィがすかさず近づいて動きの鈍くなった触手を切り落とした。
人魚が慌てて逃げ出す。
残されたルミィに他の触手が近づくのに気がついて、アリエナが一旦ルミィの『バブル』の範囲を狭めてから、手を引いて触手から逃げ出した。
バブルがあっては人魚は上手く泳げないのだろう。
イーナが光線で触手を牽制する。
やはり威力が空中よりだいぶ落ちてしまっている。
レティシャが近づこうとする触手を切付けてこちらに近づかないように奮闘してくれている。
そして、アリエナがルミィを時夫のバブルの中に放り込んだ。
時夫はルミィを受け止める。
「ずぶ濡れだな」
『乾燥』を使ってルミィを乾かしてやる。
「周辺一帯乾燥させられません?」
ルミィが腹立たしそうに言った。
風使いは空気があってなんぼだ。
ここはあまりに不利な戦場だ。
アリエナは素早く移動しながら槍で触手と渡り合っている。
水の魔法が使えないと中々戦力になれなさそうだ。
「乾燥を周辺一帯かぁ……それは流石に無理だろ。あ、でも」
ルミィの言葉でピンと来た。
時夫もこれで戦えるかもしれない。
「『乾燥』」
範囲は狭く。
しかし魔力はしっかり込めて。
――パァン!
触手が弾け飛んだ。
「いけるな」
「何をしたのですか?」
ルミィが時夫を信じられないと言った表情で見つめる。
「至近距離で見つめられると照れるんだけど……。
ほら、『乾燥』は水を無理矢理に気化させる魔法だろ。
で、気化すると体積が一気に増えるわけだ。
それで爆発が起こるんだよ」
そう、よく液体の入った瓶を爆発させているのを、水だらけのここでも行ったのだ。
後は時夫の独壇場だった。
生きている人魚達を傷つけないように、小規模な爆発を女王タコネズミの表面で何度も何度も起こした。
そのうち勝てるだろう。
しかし、
「……回復しているのか?」
「その様ですね」
引きちぎられた触手が黒い液体になり、海水に溶けている。
どうやらタコネズミが瘴気に当てられて魔獣と化したのが女王のようだ。
イーナがススっと近づいてきた。
「時夫くん。この剣を使って。あいつを倒すのよ」
「え?イーナがやれば?」
「…………あなたならできるわ」
なんか無理矢理任された。
イーナは時夫が本当の勇者の孫だからとやたらと頑張らせようとする。
強くしたいらしい。
時夫はスローライフ希望なのに。
しかし、確かに幼女を死地に向かわせるのは良くない。
「よし!やるぜ!爺さんの名にかけて!」
時夫は自分の背後で水蒸気爆発を何度も起こして爆風で進む。
女王は時夫の速度に反応できない!
「うおーーー!!!」
とりあえず何か言おうと思ったけど思いつかないから適当に吠える。
そして、イーナから借り受けた宝剣で切り付けた。
瘴気を祓う勇者の剣。
それは絶大な力を振るった。
――ぎぃいいいいいいい!!!
タコネズミは斬られたところから黒い液体に変化し、海水と溶け合い完全に消滅した。
イーナが時夫に近づいてきた。
時夫はイーナに宝剣を返す。
「流石ね……やはりあなたのほうが私よりも勇者に相応しいわ。
山元さんが……あなたのお爺さんが勇者になれていたならきっと私よりずっと強かったのね。
そうじゃ無いかと思っていた。
確認できて良かった……」
イーナは今でも自分が勇者であることに葛藤がある様だった。
時夫は何も言わずに肩をすくめる。
こういう時に気の利いたことの一つも言えない男が勇者に相応しいとは思えない。
アリエナは生き残った家族と生存を喜びあい、そして失われた命を嘆いていた。
そして、アリエナが時夫達の元に来た。
――このペンは持って行って
「良いのか?そんな事したらまだ声が戻ってないのに困らないか?」
――約束だから。あと、人魚の涙が欲しいって言ってたでしょう?ストックがあるから好きなだけ持って行って
時夫達は人魚達に感謝されて、宴に招かれそうになったが、食事内容が一般人類とは違って……要するに火を通すという文化が海の中には当然として存在しなかったので、固辞した。
約束のペンと人魚の涙を手に入れて、島まで送ってもらった。
アリエナの声はまだ戻っていないが、仲の良い家族がいれば、そう遠くない内にきっとまた話せる時が来るだろう。
「このペンを使いこなせる様にならないとね」
イーナは新しい道具に夢中で、空中に様々な絵を描いて遊んでいる。
絵心があるのかかなり上手い。
思ったよりも予定が早く終わったので、島でのんびりと過ごすことになった。
釣りをしたり、砂浜でお城を作って遊んだり。
本当はレティシャがいなかったら、もうちょっとルミィと二人でデートもしたのにな。
あのメイドは時夫を誤解している様で、目を離したらルミィに不貞を働くと思ってる様だ。
なんと失礼な。
そして、明日には帰るわけだが、夜中にふと目が覚めた。
月明かりが強かったからかも知れない。
月が二つもあると満月じゃなくてもそこそこの明るさになるのだ。
時夫は寝返りを打ってまた寝ようとしたが、一度起きると中々寝付けなかった。
仕方なしに散策に出かける。
夜の砂浜を一人歩く。昼間は砂が暑くなっているが、夜はひんやりとして足裏が気持ちいい。
そして、歩いて行った先に人影を見つける。
遠目にも見間違うことは無い。ルミィだ。
「よお!眠れないのか」
片手を上げて声をかけた時夫に、ルミィも手を上げて答える。
「はい。なんだか起きてしまって。
明日にはもう帰りますから。
それに……もしかしたらあなたもここに来るんじゃ無いかと思ってたんです」
「なんだよそれ」
時夫は笑った。根拠もないのに当ててくるとはやるな。
「それお酒?弱いのによく飲むよな」
ルミィの手元にはお酒の瓶とグラス。
「あなたが来るかもしれないと思ったから、用意してきたんです」
「じゃあ……一杯だけ貰おうかな」
この世界の酒は何でも甘い。
その割にアルコール度数は高いので要注意だ。
普段はルミィも飲まないのに、国外へ出るとたまに呑むのは羽目を外したがってるのか、旅行の開放感がそうさせるのか。
酒を飲みながら砂の山を作ったり、タコネズミの調理方法を話し合ったり、どうでも良い時間を一緒に過ごした。
「もう遅いから寝よう」
「へへ……そうですね」
ルミィは既に酔っ払っている。
千鳥足だ。
前よりはマシかな。
肩を貸すほどではないが、手を繋いで砂浜を歩く。
ルミィは空の酒瓶をもって上機嫌だ。
手を繋いだまま時夫のお姫様を部屋の前までお連れした。
「じゃあ、おやすみ」
「はい」
ルミィがジッと時夫を見つめる。
手を離さない。
「……ルミィ?」
「はい」
「………………」
抱きしめて唇を重ねた。すぐに離す。
「……おやすみ」
「はいトキオ、おやすみなさい」
今度こそルミィはふらふらしながらも大人しく部屋に入って行った。
時夫も自分の部屋に戻る。
「これじゃあ、レティシャの見張りは必要だよなぁ」
呟きつつ時夫は部屋に置いてある酒を追加で飲んだ。
飲みやすいが、やはり度数は高かったらしくすんなり眠りにつけた。
翌朝、二日酔いの頭痛で目が覚めた。
どんよりとした顔の時夫をイーナは心配して、レティシャは軽蔑の眼差しを向けていた。
トニーは二日酔いに効くスープを作ってくれた。
ルミィは……今朝はあまり目が合わなかった。
ルミィは酔っ払っていたから昨日の夜のことは覚えていないのだ。
ルミィは酒に弱いからなぁ。
だから覚えていないんだよなぁ…………。
「………………………………」
うーん……そろそろこの理論に無理が生じていそうな気がする。
………………やっぱりレティシャの見張りがないとヤバいなぁ。
帰りの船の中、二日酔いと船酔いでぐったりし始めた時夫を睨みつけるレティシャに、心の中で感謝しておいた。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
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暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
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――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
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女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
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