上 下
77 / 129
花色の天使

第74話 呑気な船旅

しおりを挟む
 船旅は割と快適だった。

 船は風を帆に受けて進むのだが、何と言っても魔法の世界なので、自然の風では無く、風魔法を使える忍者軍団?の人達が頑張っていた。

 たまにルミィが手伝いに行っていたが、その度に「おぉ!」とか「凄い……」とか言ってて、こいつら大丈夫かと不安になった。

 が、正直に言って全員合わせてもルミィよりもしょぼかった。
 とは言え、数人で交代しながら休みなく頑張ってくれてるし、アルマに魔力量のボーナスを2回も受けているチートと比べるのは流石に可哀想か。
 
 急いでも無いので、のんびり海を眺めて楽しむ。

「トキオ、何をしているのですか?」

 少しラフなワンピース姿のルミィが、時夫を物珍しげに見てくる。

「見てわかんないか?釣りだよ釣り」

『空間収納』に色々入れて来たのだ。
 因みにゾフィーラ婆さんは部屋でせっせと編み物をしている。
 刺繍も洋裁も和裁も何でも出来るらしい。そういえ仕事をしていたとか。
 ボケた振りをしている時が不幸そうに見えたわけじゃ無いが、それでも、正体がバレてからの方が楽しそうで良かった。

「お!ヒット!引いてる引いてる!!」

 慎重に……慎重に……。

「うらぁ!」

 なかなか大きめの魚だ!
 食べられるのかな?

「なんて言う魚なんですかねぇ?」

「さあ?」

 そもそもあちらの世界の魚も詳しくなかった。
 ……こいつ毒とか無いよな?
 噛みついたりしないよな?

「調理担当に任せましょう!」

 ルミィがテクテク歩いて行く。
 長い金色の髪が海風にたなびいて輝いているのを、時夫はボンヤリ眺める。
 ……眺めるんならちゃんと正面から見れば良いのにな。俺ってば恥ずかしがり屋さん!

「………………」

 アルマに思考盗聴されてないよな?

 時夫は気を取り直して、また糸を垂らす。

「連れて来ました!」
「わあ!珍しいやつですよ!大丈夫!食べられます!」

 ルミィご戻って来て、コックの人の良さげなおっさんが喜んでるが、時夫はそれどころじゃない。

「くそ!めちゃくちゃデカいの連れちゃったんじゃ無いか!?」

 生活魔法のカリスマは諦めて、伝説の釣人《アングラー》でも目指すべきか!?

「トキオ!頑張って!」

 ルミィが応援してくれている!うおー!!!
 
 その時、船がグラリと大きく揺れる。
 時夫は堪らず竿を手放す。立っていられないほどにデッキが傾く。

「きゃっ!」

 よろめいて来たルミィを何とか片膝をついてしっかり抱き止める。
 良い匂い……じゃ無くて。
 調理担当は滑って行って、途中で引っかかって無事。

「『滑り止め』」

 極大の摩擦を船のデッキ全体に発生させた。
 これで、かなり斜めっても滑り落ちなくなる。

「これは……クラーケン?」

 でっかいイカを釣り上げてしまった。

「……食えるのかな?」

「そんな場合じゃないでしょう!」

 時夫は脳内でイカ刺しを思い描いたが、確かに醤油もないし、ルミィの言う通り諦めた方が良さそうだ。
 醤油……この世界に無いのかな?
 チート情報収集装置アルマの力で作ったらだいひっとで大金持ちとか……いや、金よりも普通に醤油をかけたイカ刺しが食えれば俺は……。

 時夫はでかいイカを鋭い目付きで睨みつけながら、時夫は必死にどうするべきか思考を巡らせていた。

 「あ、ちょっと……」

 必死に焼きイカ、イカリング、塩辛について考えてるところなのに、忍者軍団が勝手に攻撃を加えている!

 ルミィもブツブツ詠唱を唱えている。
 あ!スミを吐いた!いや、ルミィが風で防いだ。
 詠唱はやり直しだ。

「『エアーエッジ』!」

 風の刃が踊り狂いながらイカの足を切り落とす!

 そして、

「『ウィンドスラッシュ』!」

 ルミィが杖に風の刃を纏わせて、イカ本体を真っ二つにした。

「おおー!!!」「流石だ!」

 忍者軍団が拍手してる。
 なんか呑気な集団だな。

 お、イカの足が一本だけデッキに残ってるぞ。

 調理担当がようやく立ち上がって、こちらに近づいて来たので、聞いてみる。

「なあ、これ食える?」

 そんな訳で、時夫が思い描いたものとは違ったが、その日のディナーにはイカ料理が並ぶことになった。
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...