上 下
74 / 129
そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい

第71話 帰国、アルマからのボーナスと今後の予定

しおりを挟む
 そして、時夫たちはようやく帰国できた。

「ただいま~」

 真っ先に愛する我らが『トッキーのアイスクリームファクトリー』に帰って来た。

「お帰りなさい!」
「イオリさん!無事だったんですね!」

 狐獣人の二人が尻尾をフリフリ出迎えに来てくれた。

「こっちは大丈夫だった?」

「はい!たまにギルド長が心配してこっちを見に来てくれたりしてたんです!」

 コニーがクスクス思い出し笑いをする!
 店には女性客が随分と沢山来ている。
 なんとか客足が戻って良かったな。

 フィリーの死により契約から解放された北狐族の子供達は家に帰すことに。

『パーラーゴールダマイン』は、益々をもってなんか全体的に強そうになっていた。
 特殊な魔法で剥製にされた魔物たちが、店の隅に飾られている。
 それに、店長が仮にも飲食店で働いてる感じじゃ無くなってる。
 客層も女性は冒険者っぽいのしかもういない。

 しかし、残念ながらオーナーであるフィリーも死んでしまったし、このお店は閉店することになった。
 ギルド長に変身ネックレスをいい加減返して貰わないといけないし。

「そんな……せっかく固定客もついたのに……」

 ギルド長が打ちひしがれている。

「店員さんたちも仕事が無くなってしまう……」

 大きな体を縮こまらせつつ、何故かチラチラと時夫の方を見てくる。

「せっかく店員同士の絆も深まったところなのに……」

 チラッチラッ
 くそっ!ウザいけどお世話になったし、なにより冒険者ギルド長って、それなりに周囲に影響力があるからな……。

「………………店員さんはうちの店で引き受けましょう」

「ほ、本当か!?じゃあ、この剥製も!!」

「いや、剥製はギルドに置いてくださいよ!あんたの店のイメージじゃ女性客寄り付かないんだよ!!」

 つい口調が荒っぽくなってしまった。

 そんな訳で、アイスクリーム店は店員を大幅に増やして、ギルド長がギルドをサボって来まくる場所になった。

 店長はフォクシーだ。
 そして、コニーも店を通じて冒険者たちから認められるようになったので、ギルドの受付に戻った。

「2階の酒場でアイスクリーム出す様になったんですよ」

 コニーはそう言って笑う。看板娘を失うのは痛手だが、コニーはギルドの受付がやはりよく似合っている。

 時夫も冒険者としての活動を強化することにした。
 仕事をこなすうちに、また邪教徒の情報が入ってくるかも知れない。

 そうそう、邪教徒を倒したのでボーナスも貰わないといけない。
 今後のためにも貰えるものはしっかり貰っておかねば。

 内容は既にルミィと共に決めている。
 神殿に帰り、ルミィが祈りを捧げる。

 光が差して、瞳が金色になる。

「此度もご苦労だったわね」

 アルマが満足そうに微笑む。
 
「今回は情報が欲しいんだ。勇者召喚の時の生き残り、祖父江さんについて。
 生きているのか?生きてるならどこにいる?」

 時夫は決めたのだ。
 カズオ爺さんの形見、平さんの形見を手にした。
 祖父江さんが生きているなら、日本に連れて帰る……。もちろん本人が望めばだ。
 そして、もし高齢で亡くなってるなら、その遺品を可能ならば遺族に持って行くのが時夫の役割だ。

「変なことを聞く。お前たちは祖父江稲子とは半年も共に暮らしているのに」

 アルマは不思議そうな顔をする。

「は?一緒に?」

 意味のわからない言葉に時夫は首を捻る。

「だから……知らなかったのか?
 お前たちが一緒に暮らしてる老婆が、祖父江稲子だ。
 ゾフィーラなどと変な名前で呼ばれているが、奇妙な呪いを掛けられて哀れなものだ……」

「……ええええええ!!!????な、なんで!?なんでこんな所で!?」

 時夫は驚きでアルマに掴み掛かりつつ、キョロキョロと周囲を見回す。
 ゾフィーラ婆さんは今は外で散歩か!?

「じゃあ、ボーナスの話はまた後だ!」

 時夫はゾフィーラ婆さんを探しに飛び出す。

「あ、おい!デコピンしてから……」

 なんか言って来てるけど、アルマは放置だ。

 ゾフィーラ婆さんは、家庭菜園を虫から守っていた。
 婆さん用に木を植えて、下にベンチを置いてからは、よくそこで作業をしてくれている。
 今は木陰の中で、穏やかな顔をしている。
 
「祖父江……稲子さん」

 時夫の改まった声にニコリと笑って、ベンチを半分開けてくれた。

「トキオ君。どうぞ、座って」

 時夫が腰掛ける。

「どうしたの?どうして私の事を知ったの?」

 いつもの、ぼんやりした口調ではない。
 背筋も心無しか伸びている気がする。

「アルマに聞いたんだ。昔ここに来た日本人の……生き残りのこと知りたくて。
 ……これ、平さんの手帳。墓守のなんたらって奴は俺とルミィで倒したよ」

 それを聞いて、婆さんはニッコリと嬉しそうに笑った。

「そう……平さんの……。
 仲間たちの仇を取ってくれてありがとう」

 やり取りを経て確信する。
 この人はボケてなんていない。

「どうして勇者がこんなところにいるんだ?
 邪神や邪教徒と戦った国の英雄だろ?」

「私は失敗したのよ……」

 そして、婆さんはかつて何が起きたのかを語った。

「じゃあ婆さんをずっとやってるのか……」

 年寄りとして何十年も生きるのは、男でもキツイと思うが、女の人なら尚更キツそうだ。
 時夫も目が覚めていきなり爺さんになってたら絶望する。

「それって敵を倒してどうにか何ないかな?」

「ふふ……トキオ君は優しいのね。でも、もし若さをあの時奪われなくても、私は今は実年齢と見た目がようやく同じくらいになったから……」

「そっか……日本に帰りたい?」

「いいえ……帰る場所はもう無いから」

 ゾフィーラ婆さんは悲しくは無さそうだった。悔しくも無さそうだった。
 その段階は何十年も前に過ぎてしまったのだろう。
 カズオ爺さんと同じ、諦めるばかりの人生。

「……辛い話を聞かせてくれてありがとう。
 ボケてる振りもう良いよ。
 ルミィもちゃんと婆さんの秘密は守るから」

「そう……嬉しいわ」

 婆さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。
 時夫は腰を上げる。

「私はもう少し虫を殺してから戻るわね」

 そう言って、婆さんは杖を収納から取り出す。
 婆さんの杖は初めて見る。
 少し本気を見せてくれるらしい。数百の細い光線が家庭菜園を舐める様にハジからハジまで通過する。

「ありがとう。頼むよ」

 光魔法の使い手の勇者か。
 こんなに強くてもダメだったのか。
 ……なんとか少しずつ邪教徒を倒して、相手の力を削いでいくしか無いな。
 時間が掛かりそうだ。
 日本にはまだまだ戻れそうに無い。

 そして、長椅子で不貞腐れてるアルマに声をかける。

「おい、若さを奪う邪教徒について教えろ。
 そいつ倒したら若さ返して貰えるのか?」

「何?藪から棒に。若くなりたいの?」

 アルマが怪訝そうに聞いてくる。
 まあ、確かに十代くらいの元気一杯な感じになったらもっと楽しく……ではなく。

「ゾフィーラ婆さんが奪われた若さを返してやるんだよ」

 アルマはそれを聞いて意外そうな顔をした後、考え込む。

「でき……無くは無いかも知れない。
 その邪教徒の消滅時に私をその場に呼び出してくれれば……もしかすると……」

「出来るんだな?わかった。
 じゃあ、今回取り戻した力とやらはその時のために取っておいてくれ」

「そなた……お人好しなのね」

 アルマは揶揄う様に笑う。
 でも、そもそもコイツのやらかしで苦労してるんだから、もっとコイツも婆さんのために何か自発的にしろってんだ。

「まあ、そんな訳だから。お話はおしまい。帰れ」

 ばちん!

 そして、オデコを擦りながら目覚めに目をぱちくりさせているルミィに、事のあらましを伝えた。

「なるほど……邪教徒殲滅は決定事項ですが、それらしい邪教徒の話が無いか私も調査します」

 今後の予定が決まった。
 さて、婆さんがボケてないことも分かったんだし、夕飯何が良いか聞いてみるか。
 俺ら婆さんの好きな食べ物が何かすら知らないもんな。

 その日の夕飯は野菜たっぷりのクリームシチューになった。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。 不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。 しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。 「はぁ⋯⋯ん?」 溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。 「どういう事なんだ?」 すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。 「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」 'え?神様?マジで?' 「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」 ⋯⋯え? つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか? 「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」 ⋯⋯まじかよ。 これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。 語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

処理中です...