上 下
65 / 129
そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい

第63話 伊織の居場所へ

しおりを挟む
「うおー!ルミィ!いっけー!!」

「うおー!」

 時夫の雄叫びに応えて、ルミィも叫ぶ。

 ルミィの杖に乗って二人ひたすらに空を飛ぶ。
 ルミィの染めた薄紅の髪は月明かりに仄かに赤く輝き、ふわりと夜風になびく。

 時夫ギルド長バージョンは相変わらず杖に腕だけで捕まってマッスル。
 虐げられてマッスル。

 時夫の扱いは置いといて、空を飛ぶのは気持ちが良い。
 昼間も良いが、夜は夜でこの世界は空気が澄んでいるのもあるのか、

「方角はこっちで合ってますよね?」

「合ってマッスル」

「その語尾もう飽きました」

 ルミィは辛辣だった。
 杖で飛ぶのは大変らしく、飛んでる時はいつも少しだけノリが悪くなってしまう。
 
 でも、でも……でも!時夫はルミィと違ってやる事なくって暇なんだもん!
 構って欲しいのに……この世全てのおじさんは寂しがりなのに……。
 寂しいとおぢさんは死んぢゃうのに酷いよ……。

「ほら、そろそろ着きますよ」

 さっぱりクール系ルミィ様の言葉に、地表に視線を落とすと、立派な教会がそこにはあった。
 暗くて詳細は分からないが、中々のデカさだ。
 それに幾つかの施設が隣接されている。
 少し離れたところには、そこそこ栄えた街があるから、そこの人達が祈りを捧げる場所なのだろうか?

「俺らが住んでる神殿全体よりは小さいけど、かなり立派だな!」

 時夫はルミィを見上げて声を掛ける。
 ……もちろんスカートの中は見えないぞ!

「ここの地方の中心なんでしょう。
 ゴールダマインの親族と関わりが深い土地です。
 忍び込みますよ!」

 ルミィは杖をゆっくりと下降させて行く。
 教会から少し外れた場所に来たところで時夫は飛び降りる。
 片膝をつく形でストンと静かに綺麗に着地!
 ……できなかった!!

 つるりん!

「ぎゃばー!!」

 時夫は悲鳴を上げつつド派手にすっ転んだ。

「ちょっとトキオ!静かにして下さい!」

「ああ………………う、うわぁぁあああ!!!服がぁ!服が溶けてる!!!」

「もう!!」

 ルミィが怒りながら強めの風で時夫と服を溶かすヌルヌルの何かを分離してくれた。

 時夫はマントと下の服が僅かな時間でボロボロになっている。
 イヤン!何なの!?
 時夫はボロ切れを掻き合わせて身体の全面を隠す。

「うーん……トキオそのものでも見苦しいですけど、ギルド長の姿では見たくなかったですね……」

「え……見たの?」

 何を見られてしまったのか。もう時夫お婿にいけない……。
 時夫は何かに尻餅をついてしまい、ズボンのお尻部分も身も心もボロボロだ。

「見たって何をですか!?もう!良いからほら、予備のマントをあげますから!
 アレは最近あちこちで爆発的に増殖してるスライムです!
 服を溶かす固有魔法持ちなんです!
 こっちの国でも増えてたのは今知りました!
 触ると服や鎧だけ溶かすんです!」

「マジか……実在するんだ。そんなの」

 時夫は気味が悪そうに夜の闇に艶めくプルプルを見る。
 うわ……何故か時夫の方に近づいて来てない?
 しかも、一匹だけじゃなく、いつの間にか茂みの中から出て来て数が増えてるよ?

「防ぎ方は?すっごく丈夫な服なら防げる?」

 とは言っても、普通の服しか持って来てない。雨ガッパくらい持ち歩くべきだったかなぁ。

「服という概念を持つものを溶かす厄介な存在なんです。
 だから国でもギルドにお金出して色々対策してますよ。
 伝説級の装備すら溶かすんですから!
 ……たしか、他国で古の賢者のマントに穴が開いたとか、ミスリルアーマーを一部溶かしたとか……。
 国宝級の物品でも問答無用に溶かすので、とにかく早く発見して距離を取らないとダメなんです」

「じゃあ、雨ガッパとかもダメか……」

 水っぽいからそれで防げるかと思ったが、甘かったようだ。

「じゃあ、倒し方は?」
 
「水分を全部飛ばします。
 だから、トキオはスライムにとっては天敵です。
 
 ……でも、今王都の研究室が回収して欲しいって依頼を冒険者ギルドにかけてた気がしますね。
 割の良い依頼だから覚えていたのですが……」

 キラリーン!
 時夫の眼が光る!
 金は稼げる時に稼ぐべし!

「どうやって捕まえるんだ?」

「……スライムって生き物じゃないらしいんですよ。
 もちろん魔物とかでも無いらしいんです。
 よく固有魔法持ちの変異種が生まれる謎の存在なんです。
 何なのかは分からないんですし、生き物じゃ無いという理論は私には理解できません。
 ただ、多くの魔物研究の学者がそう言ってるんです」

 生き物じゃ無い……ルミィの言いたい事にピンと来た。

「生き物じゃ無いのかぁ。なら、収納出来るかな?」

 伊織捜索前にまさかのスライム狩りが始まった。
 時夫の『空間収納』はあっという間に近隣にいたひと抱え程の大きさのある数十のスライムを取り込んだ。

 ふふふ……臨時収入ゲットだぜ!!
 
風の魔法で捕まえるのをサポートしてくれていたルミィが、ホクホク顔の時夫にやるべき事を思い出させる。

「それで、これからどうしますか?」

「そうだな……ルミィにはどこからも伊織ちゃんを受け取れる様に上空で待機していて欲しい。
 杖に3人はやっぱり速度上げるの厳しいだろうし、伊織ちゃんはなるべく早く帰国させたいから」

 敵を倒すよりも伊織の安全を確保するのが今回の時夫の仕事だ。
 そして、二人は先に空で帰って、時夫は地面を走って追いかければ良い。

「分かりました。では、イオリを受け取って欲しい時には合図をお願いします」

「おう!特大のファイアボールを夜空に打ち上げるぜ!」

 時夫はウインクしつつ、サムズアップし、白い歯をニカっと見せた。
 鏡の前で練習をした動作と表情なので、良い感じにキマってるはずだ。

 ルミィは夜に溶ける黒いマントを深く被り、空にゆっくりと浮上していった。

 よし、伊織を迎えに行く。
 

 

 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

落ちこぼれ盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる ~エルフ♀と同居しました。安定収入も得たのでスローライフを満喫します~

テツみン
ファンタジー
アスタリア大陸では地球から一万人以上の若者が召喚され、召喚人(しょうかんびと)と呼ばれている。 彼らは冒険者や生産者となり、魔族や魔物と戦っていたのだ。 日本からの召喚人で、生産系志望だった虹川ヒロトは女神に勧められるがまま盾職人のスキルを授かった。 しかし、盾を売っても原価割れで、生活はどんどん苦しくなる。 そのうえ、同じ召喚人からも「出遅れ組」、「底辺職人」、「貧乏人」とバカにされる日々。 そんなとき、行き倒れになっていたエルフの女の子、アリシアを助け、自分の工房に泊めてあげる。 彼女は魔法研究所をクビにされ、住み場所もおカネもなかったのだ。 そして、彼女との会話からヒロトはあるアイデアを思いつくと―― これは、落ちこぼれ召喚人のふたりが協力し合い、異世界の成功者となっていく――そんな物語である。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

処理中です...