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そろそろ良い加減少しはスローライフをしたい

第49話 時夫の完璧な計画

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 狐獣人コニーは微妙にやさぐれていた。

 おいたわしや。よっぽど差別が辛かったのだろう。
 しかし、急な訪問にも関わらず、自宅はそれなりに片付いていた。

 通された部屋でお茶をご馳走になる。
 手土産の一つでも持ってくるべきだったか。
 日本での常識すら忘れて、いい大人なのにお恥ずかしい限りだ。
 
「コニーすまねぇな。お前を早く仕事に戻してやりたいんだが……」

 ギルド長が椅子に座って早々に太い眉を八の字にして謝る。
 コニーは手櫛で赤みの強い茶色の髪を多少は整えつつ、首を振る。

「ギルド長には感謝してます。働いてないのに給料まで頂いて……」

「え!?太っ腹だな!」

 時夫が驚きつつギルド長を褒めると、ギルド長は気まずげに頬を掻きながら、目線を逸らしてボソボソと言い訳がましい事を言う。

「いや、本人はやる気あるし、俺としても早く戻って来てもらいてぇんだ。
 それに満額払ってる訳じゃ無いからな。申し訳ないと思っている」

「よく二階の酒場の喧嘩とか仲裁してますけど、冒険者達はそんなに言うこと聞かないんですか?」

 ルミィが不思議そうに聞く。
 このギルド長は若い頃はクラス2まで行った名のある人らしい。
 ある程度強い人には従うのが冒険者の常だ。

「ギルド内での争いなら抑え込めるが……俺はコニーを四六時中見張ってるわけにもいかねぇからな。
 ギルドを離れた所で……なんてなったら嫌だからよ」

 なるほど。ギルド長に怒られたら、それはそれで見えない所でコニーに嫌がらせを……というのを恐れているらしい。
 特にコニーはなかなか可愛い顔してるし、荒くれ者どもの暴走の対象になったら大変だ。
 なにせ、獣人に対する差別は一度王室がお国をあげて取り組んでしまったのだ。

 聖女に見せる訳にいかない劣った存在だと……。

「トキタさん達の仕事のお誘いは嬉しいです。でも、私がいたらきっとお店に嫌がらせされてしまいます。
 私……昨日両親が来て、故郷に帰れって言いに来たのを無理やり追い返したんです。
 でも……やっぱりもうここには居られないのかも……知れないです」

 コニーは俯く。大きな狐耳とフサフサの尻尾も元気なく萎れる。
 そもそも何でパレードから獣人や他の弱者を排除しようとしたんだか……。
 伊織自身は日本人だし、そこら辺に別に差別意識は……。
 あ、そうだ!

「そうだ!美人看板娘にぴったりの人材がいたでは無いか!うちの看板娘は三人編成で行くぞ!」

 時夫が大きな声で言いながら立ち上がる。

「よし!コニー!また来るから!
 ルミィ行くぞ!」

「あ、ご武運を……」

 驚きながらもいつもの受付嬢としての挨拶を返すコニー。
 ポカンとしたルミィの手を取り、グイグイ引っ張ってコニーの家を出る。

「何なんですかぁ!アイスクリーム屋さんの話になってから頭おかしいですよ!」

 ルミィがぶーたれている。
 どうやらまだ俺様のすんばらしい計画を理解できていない様だ。
 やれやれ、そんな事じゃ俺の相棒は務まらないぞ。
 やる気のないルミィに合わせて少し歩調を緩める。

「……………………」
「……………………」

 …………そう言えば手を握っちゃってるな。
 いや、別に特に何もこんなの全然普通のアレですけど。
 これしきで恥ずかしいとかいうヤツのアレのそれは、ほら、別にいつも一緒に杖とかで空飛んだりすると結構体とか密着とか……。
 時夫の頭の中に様々な言葉が浮かんでは爆散して、文章にならない。
 密着……という頭に浮かんだ単語から、あの夜時夫を抱きしめたルミィの体温とか柔らかさとか良い匂いとかオデコに感じた感触とかがフラッシュバックする。
 クソッ!今日は暑いな!!こりゃ早くアイスクリーム売らないとだな!
 こんだけ暑けりゃ満員御礼間違いなしの売り切れごめんだな!

 時夫は顔が熱いし、何だか自分のおでこが気になって空いてる手で汗を拭うフリをしてゴシゴシ擦る。
 手をさり気無く離そうと力を弱めると、ルミィがきゅっとその手に力を入れる。
 時夫にはこの小さな手を振り解けない。

「ま……迷子にならない様にな!!」

 自分の中の何かを誤魔化そうと、とりあえず何でも良いから喋ったら、思いの外訳わからない内容になってしまった。

「そ、そうです!迷子です!迷子ですよ!」

 ルミィも負けず劣らず頭が変だった。
 ルミィはフードをいつの間にか深く被って俯いているので、どんな顔してるかわからない。
 時夫もフードを被った。
 ほら、男も紫外線とか気にしないといけないからフードはなるべく被らないとだからな。

 時夫は誰に対してだか、頭の中で懸命に言い訳をしながら、辻馬車を拾って目的地へと向かう。
 
 馬車の中では、外の景色を存分に楽しんだ。特にもう目新しさとか一つもないいつも通りの風景を凄く熱心に見まくった。
 隣に座るルミィがどこ見てるのかわからないが、とにかく時夫の眼球の水晶体はひたすらに外の景色を映していた。
 しかし、その景色は時夫の脳味噌にはあまり届いていなかった。
 
 脳味噌は左手の皮膚表面から伝わるルミィの右手に関わる情報を処理するので忙しかった。

 馬車を降りるのに、ルミィに手を貸してやる。ルミィはお嬢様育ちだから手を貸してやる。
 今までそんな事してこなかったけど、今日は何となくしてやる。
 ルミィが時夫の手を取り優雅に馬車を降りる、その時

「あ!トッキーさん!」

 澄んだ声が響いた。
 振り向くと、伊織が待っていてくれた。
 事前に使い捨て魔道具で、学園に行く事を伝えていたので、出迎えに来てくれたらしい。

「……トキオ、まさかですけど、彼女を?」

 いつの間にか二人の手は離れている。
 何故かルミィが微妙に不機嫌な気がしたが、時夫は臆せず、その計画を明かした。

「その通り!容姿端麗!知名度抜群!しかも女子高生は流行の最先端の代名詞!これで俺の店の成功は約束されたも同然だー!」

 ふははははははーーー!!!!

 仰け反り笑う時夫にルミィがアイスクリームよりも冷え冷えな視線を送り、伊織はキョトンと時夫を不思議そうに見やった。
 
 
 

 
 
 
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