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大森林の小さな家
ラスティエルと、アイセンレイトの温室④
しおりを挟む「や、嫌、ですっ。」
ラスティエルは離れようと必死で男の胸を押す。
けれど、男女の体格差は著しく、幾度押せども離れる気配すらない。
ましてや、ぐっと抱き込んで来るのである。
アイセンレイトに抱きすくめられても、押せば離れるのは、彼女の意志を尊重したアイセンレイトの気遣いなのだと、ラスティエルは此処に来て初めて知った。
当たり前の事を、当たり前と見て取る、それが愚かな事なのだと知ったラスティエルは、この有り様となって初めて涙を瞳に浮かべた。
『キミを苗床に出来るなんて夢みたいだ。あぁ、嬉しいよ。あの世界樹の裏を掛けるなんて。ふふふふ、彼を出し抜ける事がこんなにも楽しいとは…… 』
そう言う魔樹の言葉を半分も聞いていないラスティエルは、力の限り抵抗した。
「嫌です! 触らないでっ! やっ、アイセンレイトさま──っ!! 」
ラスティエルの叫びと同時に何かが飛来して魔樹の頭をスパンと跳ね飛ばした。
元々樹木なので赤い血が迸る事は無かったが、勢い良く飛んでいった首を見て、卒倒しなかったラスティエルの基準が今一解らない。
アイセンレイトに抱き締められただけで卒倒するラスティエルがだ。
倒れないとはコレ如何に? だ。
「僕の番に手を出そう等と、お前、良い度胸しているな……。絶滅危惧種だから保護してやったら恩を徒で返すのか? なぁ? 」
掛けられた声は何処までも冷たい。
冷気が漂って、まるで冬のように寒い。
今は春だと言うのに。
首が無くなった魔樹の統率が取れなくなって、わたわたと蠢く。
人間と寸分違わぬ姿をしていた彼は、幾重にもにも絡みつく木の枝の集合体となり果てて、アイセンレイトの醸し出す冷気に枝を凍り付かせた。
そして、ラスティエルの背後から絡みつく左腕と、ヒュンと言う風を切る音と共に粉々に壊れる枝々。
輪っか状の金属がラスティエルと魔樹の間を通過して、彼女は漸く自由となった。
ラスティエルの目前にはドーナツ状の乾坤圏と、輪の中に突き出されたアイセンレイトの右手がある。
アイセンレイトは器用に手首だけで乾坤圏を回すと異空間に武器を納めてしまった。
「ラス……。無事でよかった…… 」
ぎゅっと抱き締めるが必要以上に密着はしない。
ラスティエルが気絶する為に、あえて取ったアイセンレイトの気遣いだったが、今になって寂しいと感じたラスティエルは、我が儘なのだろうか。
彼女はそう思ってしまった。
「ラス……? 」
「ふっ…うっ……えっ…… 」
嗚咽混じりで啜り泣くラスティエルに、
「ごっ、ごめん。怖い思いをさせてごめんよ…… 」
慌てて謝るアイセンレイト。
決して彼のせいでは無いのだが、鳴り物入りでラスティエルLOVEなアイセンレイトには謝る意外の選択は無いのが現状だった。
惚れたもん負け。
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