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北の大森林の主

急患②

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アイセンレイトは、患者に掛かったシーツを剥ぐと意識を無くした彼を見た。

周りが痛ましげに目を逸らす中、じっと見止めるのはアイセンレイトのみ。

流石薬師と呼ばれるだけはある。

この程度では動じない。

彼は血に染まった包帯を解くと傷口を見回した。


「これだけの傷、よく止血出来ましたね。腕の良い医者だ。命に別状は無いですし、僕など出る幕は無いですよ」


そう言うアイセンレイトに、患者の女房役の副団長は尚も食い下がった。


「ですが意識が戻らないのです! お願いします! 貴方はくすし様でしょう!! 」


藁にもすがる。

そんな必死さが見受けられます。


「きっと意識が戻っても、痛みのせいで気を失い続けているのでしょうね。まぁ、そんな状態が続くと場合によっては狂う事もありますから取り敢えず、痛みを止めますか」


アイセンレイトはそう言うと、何処からか液体の入った小瓶を取り出した。


「誰か、彼に薬を飲ませてくれませんか?  気を失っていますから普通にしても飲めませんよ。口移しでもなければ…… 」


何事かの試練なのでしょうか?

騎士達一同が、ピシリと固まってしまった。

強面マッチョに薬を飲ませる為とは言え、口移しとは些か抵抗が有る。

美女と見紛う美形ならまだしも、このまさしく達磨さんに口移しは、勇気が要った。


「あの……」

「却下、駄目、問題外」


ラスティエルが見かねて声を上げたが、間髪入れずに拒否ったのは、アイセンレイト。

彼女を後ろから羽交い締め抱きしめて、身動きが取れなくしたのは大人の姿の彼だった。


「まだ何も言ってはいないのですが…… 」

「ラスの言おうとしている事くらい、想像が付く」


拗ねたような言い方のアイセンレイトに、肩をすくめたのは、今まで無言で様子見をしていたレイだった。


「坊、どうするのだ? このまま放置か? 」

「待って下さい、俺がっ……、だから、隊長を、助けて下さい! 」


レイの言葉に、意を決したのは副団長だった。


「団長は、同郷で、俺の幼なじみなんです! ですからっ!! 」

「副団長~っ!」

「俺も! 副団長にだけ押し付ける訳には行きません! 」


何というか、お約束ですよね。

団員達が次々と名乗りをあげました。

皆、団長より副団長を慕っているようだと苦笑したのはアイセンレイト。

騒がしくなる周囲に、彼は声を掛けた。


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